2017年08月15日

六甲フォーラムでの報告

8月8日に六甲フォーラムで「空間的都市化と制度的都市化」について報告。

内容的には、去年中国経済学会(UK/Europe)で発表したもののうち、都市化の概念をさらに整理し、それをなんとなく実証したいと思って、過去のシミュレーションをくっつけたというもの。実証分析については新しいデータを集めて、シミュレーションもブラッシュアップする必要はあるが、とりあえずペーパーを完成させて発表させてもらった。

今後のブラッシュアップのために、議論を備忘録として。

1)概念としては、制度的都市化と中国国内で議論される「人口都市化」の違いが明確でない。
2)都市化のコストとして社会保障や教育投資も考慮する必要があるだろうけど、教育投資は便益でもあるのでたてわけが必要。
3)制度的都市化が遅れていることの何が問題が明確でない。

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2017年08月08日

アジア経済研究所の夏期公開講座

更新が遅れたけど、7月24日に行われたジェトロ・アジア経済研究所の夏期公開講座に参加してきた。

今年のタイトルは「中国経済『新常態』の行方」だった。

講師陣とそのタイトル及び概要を備忘録として。

大西康雄「二期目の習政権と経済の『新常態』」

これまでの習政権の成果としては、一定の成長速度を維持し、構造改革を優先させ、行財政改革に取り組んだこと、新型都市化、貧困撲滅、一人っ子政策の緩和を打ち出したこと、対外経済としては、自由貿易試験区、人民元のSDR化、一帯一路、AIIBの設立などがある。

2015年12月の中央経済工作会議から言われるようになったサプライサイド改革はまだ目に見える成果はない。ただし民間の起業意欲と就業は順調。

見通しとしては、過剰生産能力の解消にはまだ時間がかかる、企業、政府財政は持ちこたえられそうであり、民間企業の起業意欲とイノベーションは持続する見込みである。


大橋英夫「対外経済政策の新展開」

これまでは外貨獲得・技術取得、輸出・直接投資を柱にした蛙飛び型の対外開放1.0であったが、近年産業調整、対外投資を中心として雁行形態的な対外開放2.0に移行している。

2013年に上海に自由貿易試験区が設置され、2017年には第三陣の自貿区が発足した。役割は外商投資に対するネガティブリスト、参入前の内国民待遇である。

2013年より「一帯一路」が提唱され、国境を越えた産業移転(国際産能合作)が進みつつある。


丁可「中国におけるイノベーションシステムの展開方向」

中国の起業意欲は高く、衆創空間(インキュベーター、アクセラレーター、メーカースペースなど各種起業支援組織)が爆発的に増加し、ユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業)もアメリカに追いつく勢い。

中国イノベーションの特徴は、@プラットフォーム企業とプラットフォームユーザーによってエコシステムが形成されている(人口が多いためネットワーク効果も大きい)、A十分な資金力(投資ファンドからタクシーアプリ普及のための補助金合戦)、B後発の利益(弱い抵抗勢力、不十分な法整備)、C産業連関効果、である。

問題点は、@インターネットの基づいたビジネスモデルのイノベーション、Aコア技術の先進国依存、などが指摘される。

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2017年07月25日

北京首都機能の移転

中国での都市化は、政府が主導して行われている。

典型的なのが特区、開発区、新区だ。

今年も首都北京の近郊に新都市を建設する国家計画が動き出している。北京の南西約100キロメートルにある河北省の農村に新都市「雄安新区」をつくる。

それだけでなく、北京の首都機能(政府機関)を東郊外の通州区に移すという。

1)過密化

移転の動機は北京の過密化だ。人口が2300万人を超え、地下鉄、バスなどの公共交通機関はほぼ限界にきている。

古都・北京の特徴的な建物や胡同(細い路地)は取り壊されて高速道路や商業施設、オフィスビル、国有銀行・企業に変わった。


2)人口対策

そもそも過密化とは人口増加現象だ。北京市と周辺の衛星都市にはほぼ2200万人が住む。1950年の人口は400万人、80年は900万人だった。現在の市長は建設用の土地利用を減らし、北京市の人口を2300万人に抑えるとしちえる。

再開発でも、農民工の移住を減らそうとしている。城中村の再開発もさることながら、北京市内では、移住労働者を雇用する町の商店や卸売市場を取り壊す動きが進んでいる。このような施策等により北京市への新規移住者数は15年に半減したという。


3)環境対策

過密化で大きな問題は、環境問題である。北京の大気汚染は有名だが、北京市の拡大に伴って地下帯水層の枯渇が危険域に達しているともみられている。

また同時に再開発時には、新たに建物はつくらず、緑地や公共スペースにするともいう。

つまり都市開発を通じて、人口抑制と環境保全を同時に目指そうとしており、すべてが公共事業につながるという意味で、中国らしい過密化対策ともいえる。

<参考>
「FT北京市、人口抑制で都市機能を一部移転へ」『日経新聞』2017年2月8日
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO12665990Y7A200C1000000/
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2017年07月04日

中国の都市伝説

留学生らと話していて,ふと気がついたことがある。それは彼らの中に

「中国の製品は三流である。例え中国製品(Made in China)を認めたとしても,一流品は海外に,二流品は北京,上海などの都市部に,三流品がその他国内に出回っている。」

という考えが染みついている。

これが本当かどうかはわからないし,ただの都市伝説といってしまえばそれまでだ。

でも,都市伝説といってはねつけてしまっても,このような「思いこみ」が彼らの消費行動に影響を与えているのは確かなようだ。

「爆買い」を支える一つの根拠にはなっている。

これを検証した論文があるのかどうかわからないけど,さまざまな中国製品(ただしブランドは海外ものだったりするが)が世界市場にあふれていることをみると,十分技術的には高く,いい物を生産しているように思う。

ちなみにググってみたらこんな記事があった。どうも中国人自身が中国市場での製品に信頼がないのかもしれない。

「日本は三流品を中国に輸出している?「いや、それはデマだ」=中国報道」
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2017年06月13日

移民と新型都市化

中国の新型都市化は人の都市化,つまり農民工の都市定住が大きなテーマとしてあげられている。

このテーマは国際的な移民問題と非常に似通っていると感じたので,『移民の経済学』からちょっと備忘録として記録しておく。


1)移民受入国(都市)への影響

 一般的に「移民が移民受入国での賃金と就業機会にどのような影響を与えているか」が問題になるが,実証的な研究によると,賃金を下げる効果は小さいかあるいはゼロ(あるいは一時的)、移民が受入国住民の雇用に及ぼす効果は小さい,という。

 中国でも大量の農民工の流入は賃金の下落,都市住民の就業機会の喪失が心配されるが,大量に流入している場合はどうなるどうか。想像するに,現時点では戸籍で区分されているので,労働市場が統一されておらず,都市住民の就業機会は守られているといえる。もし戸籍関係なく就業できるとしても,教育水準の違い等で大きな影響はないかもしれない。


2)移民送出国(農村)の影響

 一般的に,移民送出国からは優秀な人材がなくなると思われている(いわゆる頭脳流出)。ただ実証研究によると,頭脳流出は、移民送出国で人的資本の粗投資が増大(勉強して移民したいという欲求を満たすため)するために,移民にならない人たちにも便益がある。
 また,移民と送金は正の関係、移民受入国との貿易拡大につながるし,国外移住者の増大は送出国での制度改革(民主化等)を促進する(ティボーによる足の投票)傾向があるという。

 中国では,農村の教育水準は低いために,都市への出稼ぎ工への技術訓練などが行なわれる(四川などの現地調査)。これらの職業訓練を考えると,移民送出国と同じように農村の人的資本引き上げになるかも知れない。

 四川省,湖南省等は出稼ぎ送出省である。四川省の経済発展は,沿海各省とのつながりが大きいからという可能性もあろう。


3)財政

 一般的に,移民の受け入れは生活保護等などの支出が増えると考えられ,受入国への財政に悪影響を与えると考えられるが,実証的には(モデル、仮定にもよるが)移民の影響は小さいかほぼゼロに等しい、GDPの1%を超えるようなことはない,らしい。

 中国は農村の社会保障が充実しておらず,農民工を都市住民にするということは社会保障費の支出増大につながる可能性があるし,多くの論者がそれを指摘している。


4)同化

 移民がその国に同化するかどうかについては,例えば言語のレベルは以前の移民よりも高い水準、同化の時間は短くなっているという。また移民はアメリカの文化や政治的自由に賛同していることが多いので、アメリカ文化や制度にもたらす脅威は小さいらしい。

 農民が都市住民として同化することは,言語的な壁はないものの,都市住民の習慣に慣れるには時間がかかるであろう。それでも農村都市化が進めば同化のスピードも速まると考えられる。


5)ビザ政策

 結局,移民をどうコントロールするかである。一般に,

 需要主導システム、雇用主が労働者の書類を提出 (短期)
 供給主導システム、能力ベースのポイントベース (移民を受け入れているよと周知して、長期)

 があるという。

 中国の場合,社会保障への貢献,居住年数などが関係してくるので,供給主導システムであるといえるかもしれない。


6)結論

 経済学では比較優位の原則が示すように,移民は受入国の経済便益をもたらす,と考えられている。クレメンスは,移民制限を完全に撤廃すると世界のGDPは現在の水準の50%から150%増加するという(ベンジャミン・パウエル2016,16、299)。富を増加させるなら比較優位の原則に逆らうことは難しく、労働移動を妨げる政策的障壁は取り除けという政策的提言になる。

 中国の大都市の人口コントロール(農民工の受け入れ抑制)は,移民の研究から考えると,成長機会などの経済便益を失っている可能性さえあることになる。

 以上,仮説を考える上でとても勉強になった。

<参考文献>
ベンジャミン・パウエル(藪下史郎監訳)(2016)『移民の経済学』東洋経済新報社


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2017年05月30日

中国人留学生の発言

メリーランド大学での一留学生のスピーチが波紋をよんでいる。



流れはこうだ。

彼女がアメリカに来て新鮮な空気を感じた、表現の自由は素晴らしいなどと発言。この発言について、中国国内、アメリカの中国人留学生から叩かれるととともに、中国政府も各個人は発言に気をつけてもらいたいと注文をつけた。

スピーチした本人は、祖国を貶める意図はなかったと謝罪。しかし国内、国外からの彼女への非難は続きそうだ。

スピーチ自体は一学生の感想に過ぎないと思うのだが、感じたことは二つ。

一つは、中国政府の発言の自由に対するコントロールは「国境を超えている」。これはインターネットの発展という要因もあるけど、海外に出て行っても中国人の発言は中国政府の耳に入ることになる。政府と違う意見を持っても、やはりそれは尊重されるべきだろう。でもこの一件で海外にいる中国人は政府と違う見解を持ちにくくなるかもしれない。

そもそも多くの中国人は在外大使館の意向を気にしているふしもある。当該国でデモを行う際にも、当該国の当局に申請するのはもちろんだが、大使館にも連絡しているようだ。とくに大学が招へいする台湾、チベットの要人に対しての反対抗議活動などは大使館が後押ししているようにも見える。

もう一つは、社会の同調圧力はアジアの共通点だ。個人の気持ちよりも社会の考えが優先されることがある。とくに愛国はそれに使われやすい。アジアは列強から支配された経験があり、どうしても西洋列強諸国に対してコンプレックスがある。中国も日本も西洋人が自国文化を褒め称えることがあると、ことさらそれを強調して報道することがあるし、日本でも日本人が海外で自国を貶めるような発言をしたら、同じように日本好きな人たち(愛国者)からなじられることになるだろう。愛国は同調に使われやすい。

それに加えて中国にとって「愛国」というのは政府支持を示す政治的にも重要な態度だ。この記事にもあるように中国国内国外の中国人コミュニティはまるで文化大革命時の「紅衛兵」にも見える。大陸出身の中国人はつねに中国人社会において政治的忠誠心を互いに監視することになっているようにも思える。つまり政治的忠誠心は社会同調圧力の主要な原動力になっている。

個人の自由な感想を持つことを、政府ではなく社会が許さないのである。政府だけでなく社会まで個人の発言を監視するようになったら、これは生きづらいと思う。

The new Red Guards: China's angry student patriots
http://www.bbc.com/news/world-asia-39996940
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2017年05月18日

一帯一路サミット

北京で「一帯一路」サミットが終了して,どのような成果があったのか,South China Morning Postの報道が簡潔にまとめてくれていたので,簡単に紹介。

1.次回の一帯一路サミットを2019年に開催する。次回の開催までに協議委員会と連絡事務所を準備していくという。

2.国際貿易推進として,国際輸入博覧会を来年開催し,海外製品の中国市場参入を促進する。北京は一帯一路国から次の5年間で1000億USドル分の輸入をするという。

3.習近平は新シルクロードのための基金に100億元追加すると発表。中国開発銀行や輸出入銀行も250億元,130億元の貸出枠を設定する。また中国は次の3年間沿線各国の貧困削減に60億元を拠出するという。

4.全部で68の国と国際機関が一帯一路に関する契約に調印したという。270以上の協力プロジェクトや契約がこのサミット期間に調印されたという。ただし詳細は習近平のスピーチでは触れられていない。

5.中国は異なる国に対してただよう疑念を払拭する必要がある。アメリカ,日本は一帯一路構想に疑問を投げかけており,インドは中国パキスタンの経済回廊に関する紛争のため代表団の派遣を見送った。またフランスやドイツ,イギリスは貿易に関する宣言に調印していない。これらの国々はこの構想が政府調達や社会・環境基準がどうなっているか不透明だとしている。

<参考>
South China Morning Post, Five things to watch as China’s belt and road plan unfolds, 17 May 2017

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2017年05月09日

現代中国経営者列伝

著者の高口さんよりいただきもの。




中国の本屋では日本人経営者も含めて企業経営者の自伝(本書でいう励志書籍)が大量に並ぶ。起業意識が高いという国民性もあるからだろう。

本書はこの経営者立志伝から中国経済史をも述べてしまおうというなかなか「大胆な試み」だ。

私として面白かったのは、学校購買部を経営権請負という形で始まった娃哈哈、青島電動機廠という小さな町工場の工場長から始まった張瑞敏(ハイアール)など、当時の民営化の流れが具体的にわかるところがよかった。

また、地上げ屋の大連万達が国有企業だったために社員研修旅行が規律違反の警告を受けるという話は政府と国有企業の関係を具体的に理解できる事例だった。

立志伝は「思い出補正」(良い思い出ばかりが残ること)バイアスが働いて書かれるので、どうしても「苦労がんばって克服したよ!」といういいことしかない。その意味では、客観性がかけるような気がするが、それでも、中国の改革開放の流れで経営者が時代にそってどう企業を切り盛りしてきたかが生き生きと書かれているので、読み物として楽しめた。

日本では中国経営者の情報が少ない、あるいは経営者視点からみた中国市場情報は少ないので、楽しく読めて中国経済がわかるという意味ではお得である。

(しかし、今思うと昔活躍した企業が結構消えていることに気づいた。中国の変化は激しい。)
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2017年05月02日

東アジアにおける中国のプレゼンス

最近、北朝鮮問題で東アジアの安全保障が揺らいでいる。

北朝鮮の瀬戸際外交にアメリカの堪忍の緒が切れようとしている。これまではアメリカは北朝鮮に対し静観あるいは無視という方策だった(ブッシュ政権時に「悪の枢軸国」として指摘した以外は)。

トランプ政権に代わってから、シリアへの介入をはじめ、アメリカの態度も変わりつつある。このため、今がおそらく第二次大戦後の時期で、もっとも東アジアの安全保障が不安定になっている時期だろう。

よくも悪くも現在の北朝鮮、米国の緊張を和らげるのは中国しかない。安保理の北朝鮮決議に賛成も示し、エネルギー(石炭)の支援も切り始めた。中国もアメリカと歩調を合わせているかのようにも見える。中国が、圧力と対話で、北朝鮮とアメリカの緊張緩和ができれば中国のアジアにおける安全保障プレゼンスは上昇する。

しかし、基本的に中国の対韓半島への政策は冷戦時代と変わらない。米国支援の統一韓半島よりは核開発で暴れる北朝鮮の方が中国にとっては都合がよい。しかし、一方で経済関係は米国、韓国は欠かせなくなっており、その上北朝鮮の軍事エスカレートは日本の右傾化可能性もあるので、このままの北朝鮮政策を見直す必要に迫られているのは確かだろう。

北朝鮮への圧力はその変化の兆しだろうと思う。

一方で対話も強調しているので、もし中国がこの緊張緩和に成功したら、東アジア安全保障面で中国のプレゼンスは非常に高まる(これが日米が望んでいるかどうかは別にしても)。

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2017年04月25日

恵投御礼

執筆者の方々から昨年度以下の本をご恵投いただきました。



本書の特徴は,中国の勃興を追いつつ,「アジア・コンセンサス」というものを提示しようと試みているところです。



本書は,近年指摘されるようになった中国の二重の罠(中所得国の罠と体制移行の罠)の枠組から中国の今後を考えるものです。

執筆者の方々に感謝申し上げます。
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