2017年07月04日

中国の都市伝説

留学生らと話していて,ふと気がついたことがある。それは彼らの中に

「中国の製品は三流である。例え中国製品(Made in China)を認めたとしても,一流品は海外に,二流品は北京,上海などの都市部に,三流品がその他国内に出回っている。」

という考えが染みついている。

これが本当かどうかはわからないし,ただの都市伝説といってしまえばそれまでだ。

でも,都市伝説といってはねつけてしまっても,このような「思いこみ」が彼らの消費行動に影響を与えているのは確かなようだ。

「爆買い」を支える一つの根拠にはなっている。

これを検証した論文があるのかどうかわからないけど,さまざまな中国製品(ただしブランドは海外ものだったりするが)が世界市場にあふれていることをみると,十分技術的には高く,いい物を生産しているように思う。

ちなみにググってみたらこんな記事があった。どうも中国人自身が中国市場での製品に信頼がないのかもしれない。

「日本は三流品を中国に輸出している?「いや、それはデマだ」=中国報道」
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2017年06月13日

移民と新型都市化

中国の新型都市化は人の都市化,つまり農民工の都市定住が大きなテーマとしてあげられている。

このテーマは国際的な移民問題と非常に似通っていると感じたので,『移民の経済学』からちょっと備忘録として記録しておく。


1)移民受入国(都市)への影響

 一般的に「移民が移民受入国での賃金と就業機会にどのような影響を与えているか」が問題になるが,実証的な研究によると,賃金を下げる効果は小さいかあるいはゼロ(あるいは一時的)、移民が受入国住民の雇用に及ぼす効果は小さい,という。

 中国でも大量の農民工の流入は賃金の下落,都市住民の就業機会の喪失が心配されるが,大量に流入している場合はどうなるどうか。想像するに,現時点では戸籍で区分されているので,労働市場が統一されておらず,都市住民の就業機会は守られているといえる。もし戸籍関係なく就業できるとしても,教育水準の違い等で大きな影響はないかもしれない。


2)移民送出国(農村)の影響

 一般的に,移民送出国からは優秀な人材がなくなると思われている(いわゆる頭脳流出)。ただ実証研究によると,頭脳流出は、移民送出国で人的資本の粗投資が増大(勉強して移民したいという欲求を満たすため)するために,移民にならない人たちにも便益がある。
 また,移民と送金は正の関係、移民受入国との貿易拡大につながるし,国外移住者の増大は送出国での制度改革(民主化等)を促進する(ティボーによる足の投票)傾向があるという。

 中国では,農村の教育水準は低いために,都市への出稼ぎ工への技術訓練などが行なわれる(四川などの現地調査)。これらの職業訓練を考えると,移民送出国と同じように農村の人的資本引き上げになるかも知れない。

 四川省,湖南省等は出稼ぎ送出省である。四川省の経済発展は,沿海各省とのつながりが大きいからという可能性もあろう。


3)財政

 一般的に,移民の受け入れは生活保護等などの支出が増えると考えられ,受入国への財政に悪影響を与えると考えられるが,実証的には(モデル、仮定にもよるが)移民の影響は小さいかほぼゼロに等しい、GDPの1%を超えるようなことはない,らしい。

 中国は農村の社会保障が充実しておらず,農民工を都市住民にするということは社会保障費の支出増大につながる可能性があるし,多くの論者がそれを指摘している。


4)同化

 移民がその国に同化するかどうかについては,例えば言語のレベルは以前の移民よりも高い水準、同化の時間は短くなっているという。また移民はアメリカの文化や政治的自由に賛同していることが多いので、アメリカ文化や制度にもたらす脅威は小さいらしい。

 農民が都市住民として同化することは,言語的な壁はないものの,都市住民の習慣に慣れるには時間がかかるであろう。それでも農村都市化が進めば同化のスピードも速まると考えられる。


5)ビザ政策

 結局,移民をどうコントロールするかである。一般に,

 需要主導システム、雇用主が労働者の書類を提出 (短期)
 供給主導システム、能力ベースのポイントベース (移民を受け入れているよと周知して、長期)

 があるという。

 中国の場合,社会保障への貢献,居住年数などが関係してくるので,供給主導システムであるといえるかもしれない。


6)結論

 経済学では比較優位の原則が示すように,移民は受入国の経済便益をもたらす,と考えられている。クレメンスは,移民制限を完全に撤廃すると世界のGDPは現在の水準の50%から150%増加するという(ベンジャミン・パウエル2016,16、299)。富を増加させるなら比較優位の原則に逆らうことは難しく、労働移動を妨げる政策的障壁は取り除けという政策的提言になる。

 中国の大都市の人口コントロール(農民工の受け入れ抑制)は,移民の研究から考えると,成長機会などの経済便益を失っている可能性さえあることになる。

 以上,仮説を考える上でとても勉強になった。

<参考文献>
ベンジャミン・パウエル(藪下史郎監訳)(2016)『移民の経済学』東洋経済新報社


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2017年05月30日

中国人留学生の発言

メリーランド大学での一留学生のスピーチが波紋をよんでいる。



流れはこうだ。

彼女がアメリカに来て新鮮な空気を感じた、表現の自由は素晴らしいなどと発言。この発言について、中国国内、アメリカの中国人留学生から叩かれるととともに、中国政府も各個人は発言に気をつけてもらいたいと注文をつけた。

スピーチした本人は、祖国を貶める意図はなかったと謝罪。しかし国内、国外からの彼女への非難は続きそうだ。

スピーチ自体は一学生の感想に過ぎないと思うのだが、感じたことは二つ。

一つは、中国政府の発言の自由に対するコントロールは「国境を超えている」。これはインターネットの発展という要因もあるけど、海外に出て行っても中国人の発言は中国政府の耳に入ることになる。政府と違う意見を持っても、やはりそれは尊重されるべきだろう。でもこの一件で海外にいる中国人は政府と違う見解を持ちにくくなるかもしれない。

そもそも多くの中国人は在外大使館の意向を気にしているふしもある。当該国でデモを行う際にも、当該国の当局に申請するのはもちろんだが、大使館にも連絡しているようだ。とくに大学が招へいする台湾、チベットの要人に対しての反対抗議活動などは大使館が後押ししているようにも見える。

もう一つは、社会の同調圧力はアジアの共通点だ。個人の気持ちよりも社会の考えが優先されることがある。とくに愛国はそれに使われやすい。アジアは列強から支配された経験があり、どうしても西洋列強諸国に対してコンプレックスがある。中国も日本も西洋人が自国文化を褒め称えることがあると、ことさらそれを強調して報道することがあるし、日本でも日本人が海外で自国を貶めるような発言をしたら、同じように日本好きな人たち(愛国者)からなじられることになるだろう。愛国は同調に使われやすい。

それに加えて中国にとって「愛国」というのは政府支持を示す政治的にも重要な態度だ。この記事にもあるように中国国内国外の中国人コミュニティはまるで文化大革命時の「紅衛兵」にも見える。大陸出身の中国人はつねに中国人社会において政治的忠誠心を互いに監視することになっているようにも思える。つまり政治的忠誠心は社会同調圧力の主要な原動力になっている。

個人の自由な感想を持つことを、政府ではなく社会が許さないのである。政府だけでなく社会まで個人の発言を監視するようになったら、これは生きづらいと思う。

The new Red Guards: China's angry student patriots
http://www.bbc.com/news/world-asia-39996940
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2017年05月18日

一帯一路サミット

北京で「一帯一路」サミットが終了して,どのような成果があったのか,South China Morning Postの報道が簡潔にまとめてくれていたので,簡単に紹介。

1.次回の一帯一路サミットを2019年に開催する。次回の開催までに協議委員会と連絡事務所を準備していくという。

2.国際貿易推進として,国際輸入博覧会を来年開催し,海外製品の中国市場参入を促進する。北京は一帯一路国から次の5年間で1000億USドル分の輸入をするという。

3.習近平は新シルクロードのための基金に100億元追加すると発表。中国開発銀行や輸出入銀行も250億元,130億元の貸出枠を設定する。また中国は次の3年間沿線各国の貧困削減に60億元を拠出するという。

4.全部で68の国と国際機関が一帯一路に関する契約に調印したという。270以上の協力プロジェクトや契約がこのサミット期間に調印されたという。ただし詳細は習近平のスピーチでは触れられていない。

5.中国は異なる国に対してただよう疑念を払拭する必要がある。アメリカ,日本は一帯一路構想に疑問を投げかけており,インドは中国パキスタンの経済回廊に関する紛争のため代表団の派遣を見送った。またフランスやドイツ,イギリスは貿易に関する宣言に調印していない。これらの国々はこの構想が政府調達や社会・環境基準がどうなっているか不透明だとしている。

<参考>
South China Morning Post, Five things to watch as China’s belt and road plan unfolds, 17 May 2017

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2017年05月09日

現代中国経営者列伝

著者の高口さんよりいただきもの。




中国の本屋では日本人経営者も含めて企業経営者の自伝(本書でいう励志書籍)が大量に並ぶ。起業意識が高いという国民性もあるからだろう。

本書はこの経営者立志伝から中国経済史をも述べてしまおうというなかなか「大胆な試み」だ。

私として面白かったのは、学校購買部を経営権請負という形で始まった娃哈哈、青島電動機廠という小さな町工場の工場長から始まった張瑞敏(ハイアール)など、当時の民営化の流れが具体的にわかるところがよかった。

また、地上げ屋の大連万達が国有企業だったために社員研修旅行が規律違反の警告を受けるという話は政府と国有企業の関係を具体的に理解できる事例だった。

立志伝は「思い出補正」(良い思い出ばかりが残ること)バイアスが働いて書かれるので、どうしても「苦労がんばって克服したよ!」といういいことしかない。その意味では、客観性がかけるような気がするが、それでも、中国の改革開放の流れで経営者が時代にそってどう企業を切り盛りしてきたかが生き生きと書かれているので、読み物として楽しめた。

日本では中国経営者の情報が少ない、あるいは経営者視点からみた中国市場情報は少ないので、楽しく読めて中国経済がわかるという意味ではお得である。

(しかし、今思うと昔活躍した企業が結構消えていることに気づいた。中国の変化は激しい。)
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2017年05月02日

東アジアにおける中国のプレゼンス

最近、北朝鮮問題で東アジアの安全保障が揺らいでいる。

北朝鮮の瀬戸際外交にアメリカの堪忍の緒が切れようとしている。これまではアメリカは北朝鮮に対し静観あるいは無視という方策だった(ブッシュ政権時に「悪の枢軸国」として指摘した以外は)。

トランプ政権に代わってから、シリアへの介入をはじめ、アメリカの態度も変わりつつある。このため、今がおそらく第二次大戦後の時期で、もっとも東アジアの安全保障が不安定になっている時期だろう。

よくも悪くも現在の北朝鮮、米国の緊張を和らげるのは中国しかない。安保理の北朝鮮決議に賛成も示し、エネルギー(石炭)の支援も切り始めた。中国もアメリカと歩調を合わせているかのようにも見える。中国が、圧力と対話で、北朝鮮とアメリカの緊張緩和ができれば中国のアジアにおける安全保障プレゼンスは上昇する。

しかし、基本的に中国の対韓半島への政策は冷戦時代と変わらない。米国支援の統一韓半島よりは核開発で暴れる北朝鮮の方が中国にとっては都合がよい。しかし、一方で経済関係は米国、韓国は欠かせなくなっており、その上北朝鮮の軍事エスカレートは日本の右傾化可能性もあるので、このままの北朝鮮政策を見直す必要に迫られているのは確かだろう。

北朝鮮への圧力はその変化の兆しだろうと思う。

一方で対話も強調しているので、もし中国がこの緊張緩和に成功したら、東アジア安全保障面で中国のプレゼンスは非常に高まる(これが日米が望んでいるかどうかは別にしても)。

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2017年04月25日

恵投御礼

執筆者の方々から昨年度以下の本をご恵投いただきました。



本書の特徴は,中国の勃興を追いつつ,「アジア・コンセンサス」というものを提示しようと試みているところです。



本書は,近年指摘されるようになった中国の二重の罠(中所得国の罠と体制移行の罠)の枠組から中国の今後を考えるものです。

執筆者の方々に感謝申し上げます。
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2017年04月11日

2017年度の成果

<論文>

岡本信広(2017)「中国の都市化と経済成長へのインパクト」長谷川聰哲編『アジア太平洋地域のメガ市場の統合』(中央大学経済研究所研究叢書69)中央大学出版部
(クリックすると大学出版部協会の本の案内ページが出ます。)


<報告(査読なし)>

岡本信広(2016)「内陸部の都市化−貴州省を事例に」岡本信広編『中国の「新型都市化」:政策と現状』アジア経済研究所調査研究報告書、pp.20-37


岡本信広(2016)「ジェイン・ジェイコブズと中国の都市化」『別冊『環』22「ジェイン・ジェイコブズの世界」』藤原書店pp.304-312


<書評>
天児 慧・任 哲編『中国の都市化:拡張、不安定と管理メカニズム』(岡本信広)
『中国経済研究』第13巻第1号(通巻23号、2016年3月)pp.96-98
(クリックするとPDFが開きます。)

<学会報告>
Okamoto, Nobuhiro. (2016)"What matters in urbanisation of China?", Draft Paper Presented at the Chinese Economic Association Annual Conference 2016, University of Duisburg-Essen, Germany. 2/Sep/2016
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2017年03月21日

アジア太平洋地域のメガ市場統合

中央大学経済研究所の成果として以下の本が出版。




私は

「第7章  中国の都市化と経済成長へのインパクト」

に寄稿しました。
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2017年03月14日

高福祉国(北欧型)になる条件とは?

デンマーク(コペンハーゲン)、スウェーデン(エルムフルト、ストックホルム)を駆け足で出張して来た。

仕事以外でちょっと感じたことを備忘録として。

北欧は高福祉国として有名だけど、それが成り立つ条件というのがありそうだ。

1)高税金負担
高福祉の財源として、税金、社会保障費の徴収が必要。税金支払いに対して不快感を持たず、高税率に不満を持たない。(なお社会保障は企業負担)

2)国民総背番号制
徴収率を上げて福祉を効率的に分配するためには国民全員の所得等を透明にする必要がある。

3)政府への信頼
税金が無駄なく使われているという安心感、そしてそれが自分に跳ね返ってくるという期待が存在する。それに加えて政治家は清廉であり、少ない給与でも人のために働いていることに喜びを感じている人が選ばれているという信頼。

4)愛国心
徴兵制も含めて国を良くするためには自分も社会に貢献するというボランティア精神が強く、それが高福祉にもかかわらず社会貢献としての勤労意欲につながる。

5)個人と社会の絶妙な関係
働き方が多様であり、個人の都合(嗜好や事情など)を優先しつつ、それを職場や社会と共有する。職場も社会もそれに強く関与せずそれを認める。

感想として日本(もちろん他国も)では難しい。

1)政府に対する信頼はそう簡単に醸成されない。
2)子どもの入学式で休んだ教員が非難される社会で、安心して自分のプライバシーを社会と共有できない。
3)同様に職歴、収入、福祉などを社会に透明にさらすなどは日本にはできない。(北欧では情報がさらされるから高福祉に甘んじて働かないという選択ができないという事情もある。)

高福祉国、つまりある種社会民主主義って個人と社会が情報を強く共有しないと無理なんじゃないかなと思う。いやらしく言うと、相互監視しつつ、個人に干渉しないという絶妙なバランスが必要。卑近な例で言うと、町内の人は各世帯の状況を共有していて、町内会長は清廉な人なので安心してプライバシーを晒し、大好きな町内のためには一生懸命働きつつ、困ったことがあったら助けてもらえるという感じだろうか。

このような社会制度ができるには経済学的には初期条件が大きく効いているような気がする。

北欧という人口が少なく自然環境が厳しい中で、助け合いが必要だったというのもあるかもしれない。例えば、協同組合という考えはイギリスで生まれたけど、デンマークでは早くから農協が発達したらしい。こういうところから相互扶助(逆に言えば相互監視)が発達したのかもしれない。

このような条件がない他の資本主義国で、高税金高福祉をやると企業にとっても消費者にとってもやりにくいと思う。
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