2013年05月30日

中国都市化の問題

新政権発足以降,都市化が注目されています。

都市化は経済成長の空間的支柱であり,GDPの拡大,環境保護などにも有益ととらえられています(グレイザー2012)。

ただし,中国の都市化は簡単ではありません。それは,計画経済から市場経済へ移行する中でもっとも難しい問題を数多く含んでいるからです。市場経済下では,意思決定の自由な農民が就業機会を求めて都市部に移住し,政府は増加した人口に対して都市の公共サービスを提供するというのが都市化の流れです。

中国では,計画経済時代に農民は農業生産,都市部は工業生産の役割を期待され,就業形態の固定化,移住を阻止する戸籍によって二元化され,土地も農村集団所有(農村の土地)と国有(都市部の土地)に分けられました。これにより農村ー都市の二元化構造ができあがります。

1978年以降の改革開放政策下で,農民の都市への出稼ぎは増加しました。農民工が中国の輸出や工業生産を支えました。市場化の流れで人が移動する一方で,都市化の阻害要因となったのが,就業,戸籍,土地の問題でした(易小光等2013)。

これを詳しく見てみましょう。

農民工の就業は,いわゆる都市住民が行わない3K職場です。賃金,雇用,保障は不安定であるとともに教育水準の低さなどから安定した就業が得られません。農民工の第二世代は教育もよく受けられていないために,職業による差別が世代継承されやすいです。

戸籍については一部地域で戸籍の一本化が行われてはいるものの,基本管理する方向は変わっていません。都市が受け入れる農民の条件は就業が安定しており,専門的な職をもっていたりする,いわゆる勝ち組農民のみが対象です。それ以外の都市部への流れ込みは管理されています。

たとえ,普通の農民工が戸籍改革によって居民戸籍(農業戸籍と非農業戸籍の一本化した戸籍)をもらったとしても,就業差別はそのままですし,都市で年金保険,失業保険がもらえません。そのため農民にとって都市は一時的に滞在する場所になってしまいます。また社会保障がなければ土地が唯一の社会保障となってしまい,農村で請け負っている土地の請負権を手放すわけにはいきません。

一方で農民工増加による都市化の進展は,住居や雇用場所(企業や工場)のための土地が必要になってきます。一方的な土地の没収は農民の反感を買うとともに,農地は農業生産の維持目的があるため,農地を都市開発のために接収するにも限界があります。また都市化の土地は国有地であることが必要で,農村集団所有の農地を国有地に変えるということも必要になってきます。

以上の状況から,中国の都市化には以下の制度改革が行われています。

(1)就業支援。農民工のための職業訓練や創業支援など。
(2)戸籍の一本化。それとともに条件を緩めながら大都市の戸籍取得を可能にする。
(3)農民工への社会保障制度の充実。農村と都市の社会保障を一体化する。
(4)都市化用地の獲得。耕作放棄地の農地と都市周辺部の土地を交換するなど,農地を一定に保ちつつ都市化の土地を取得する。

制度改革の肝心は,現在農民を都市にどのように定着させるか,です。就業機会がないと都市にはこないし,都市に来ても社会保障や教育などの公共サービスが平等に受けられなければ,都市に定住はできません。戸籍は安定した仕事と定住地がなければ一本化しても形式だけになってしまいます。移住条件を開放あるいは緩めても,都市に定住する農民工を受け入れる「容量」(公共サービスの提供容量)があるかどうか,都市政府の財政に依存します。都市化に必要な土地も二元化した土地管理システムのもと,農民に不安を与えることなく,農地を一定に保ちながら収用していかなければならりません。

このように就業,戸籍,土地という3つの制度要因が相互に絡み合っています。絡み合った糸をほぐすかのように,就業,戸籍,土地の同時解決が中国都市化にとって必要です。でも以上のようにこれは簡単ではないのが現状です。

習近平,李克強が都市化を打ち出したとしても,前途は多難です。ただ現在,具体的な実験として,2007年に全国統筹城郷総合配套改革試験区に批准された成都と重慶で,改革が進められています。重慶市長は重慶の改革が全国に推し進められるべきと主張しています(還球時報)。薄熙来が失脚しても重慶は,都市化の実験場としてこれからも注目を集めそうです。

ちなみに,重慶の地票制度については, kinbricksnowさんがつぶやきをまとめたもの(重慶市の地票制度について梶谷懐さんが優しく解説してくれた件)か梶谷さんのブログ(コース先生もびっくり!−ポスト薄の重慶と「地票制度」の実験−)がわかりやすいです。


<参考文献>
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である』NTT出版
易小光等(2013)『統筹城郷発展的就業,戸籍与土地利用制度聯動研究』中国経済出版社
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2013年05月28日

大学の新設と「共有地の悲劇」

大学の新設,学部の新設が続いています。

おかしいです。学生の数が減少して,私立大学の半数が定員割れしていると言われるにもかかわらず,大学業界に参入(新設)あるいは新商品の展開(学部学科の新設)が盛んです。

なぜ大学を増やすのか,多くの人は疑問に思います。例えば

「なぜ、日本で 今でも大学を新設しているのか、本当に不思議だ。経済の基本的原則を考えれば、大学に入学する学生の数が減っていく日本で、(大学が)生き残れないのは明らかだ」と、東京の桜美林大学大学院の諸星裕教授は語る。(現代ビジネスの記事

です。

多くの方が経済学を誤解されています。経済学から考えるからこそ,18歳人口の減少がさらなる大学新設,学部新設を促しているのです。

この理由を正しい経済学で説明します。

あなたが大学の経営者になってみましょう。売上(収入)は学生の授業料がメインであると仮定すると,どのように行動するでしょうか?

合理的な行動は,入学学生数を増加させることです。そのために学部を増設する,短大を4年制にするという戦略がもっとも効率的といえるでしょう。キャパシティを増やしてより多くの学生を集めたいからです。

専門学校,短大が4年生大学になるのは簡単です。学部を増設する,短大を4年制にするには既存の施設を使うあるいは拡充するだけですので,費用は抑えられます。

大学は固定費用の大きい産業ですので,今ある施設を活用する方が費用が低く押さえられます(限界費用は小さい)。

一方で,限界便益は期待収入です。私立大学の学費を100万円とすると1人の入学で400万円の収入が期待できます。人数が拡大した分だけ収入が拡大します。

大学の経営者としては,衣替え(短大や専門学校を大学にする)やリニューアル商品(学部改組),新商品(学部新設)の提供がもっとも合理的な選択となります。(小売店や飲食店が店舗拡大に走るのと似ている。)


「共有地の悲劇」(ギャレット・ハーディン)というのがあります。これは共有資源が乱獲されて資源が枯渇するという現象です。

例えば,牧草地を考えてみましょう。あなたは牛を放牧して牧草地のいい草を食べさせていい肉牛に育てたいと思います。みなが同じ事を考えると,多くの人が牛を牧草地に放牧し,最後には牧草地の草がなくなってしまうということになります。

この「共有地の悲劇」は,個人の合理的行動が社会的ジレンマを招く事例,です。

18歳人口の減少と大学の増加は,1大学の経営拡大という合理的な意思決定を生み,学生という共有資源が乱獲されるという「共有地の悲劇」をもたらしています。大学や学部の新設は経済学的には合理的なのです。でも社会的にはジレンマ状態になっているといえます。

社会的ジレンマの発生により大学の意味がさらに問われるようになりました。

学力のない学生を入れている,勉強させないまま卒業させている,と批判されるのが大学です。大学が学生を乱獲し,将来への重要な資源を枯渇させている可能性があります。

学生という将来の日本を背負って立つ人材をどのように育てるのか,どのような教育を提供できるのか,大学間の本当の競争が迫られているといえるでしょう。
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2013年05月21日

選択の自由と勉強

生きていく上で,選択ができるというのは幸せなことです。

生き方を強制されるよりは,自分で生き方を決めれる方がいいのは誰もが納得できる幸福の条件ということがいえるでしょう。

自分で進学先を決める,仕事を選ぶ,配偶者を選ぶ,などなど自分で選択できるのは,幸福の必要条件です(十分条件ではないけど)。シーナ・アイエンガー(2010)も心理学の実験等から選択ができるということは人生の幸福感にとって重要であることを強調しています。

さて,なぜ勉強するのか?という問いがあったときに,最近私は「選択の自由」を手に入れるためだと言っています。勉強することは自分の知識を拡大し,能力をアップさせることです。これは生きていく上で「選択」という幸福の手段を手に入れていく過程です。

ここで,選択の自由について,自由には二つの内容を含んでいます。

一つは選択の幅を広げるということです。

学ぶ,勉強するということは知識が広がります。本を読む,授業で知らないことを学ぶ,という行為は今の世の中で起きていることを知るということです。小説であっても人の生き方について学ぶことが多いですし,自分の体験できないことを活字で体験することが可能です。

これにより自分の社会貢献のフィールドが広がります。

資格試験の勉強もそうです。資格を得ることによって社会で働く知識を得て,自分の職種を広げることが可能になります。

もう一つは選択の能力をアップするということです。

学ぶということは学ぶ方法を身につけるということにつながります。社会で働くと自分の知識が足らないことに気づかされます。そして知らないことを学ぶことによって,選択の能力をつけることが可能になります。

わからないことを調べる,多くの情報を手に入れることによって,自分の眼前にある選択肢を増やすことが可能となり,よりよい選択ができます。

この二つの意味で,学ぶということは「選択の自由」を手に入れることができるわけです。


<参考文献>
シーナ・アイエンガー(櫻井祐子)(2010)『選択の科学』文藝春秋
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2013年05月16日

中国の経済課題は政権が変わっても同じ

中国経済の課題は,政権が変わっても変わらないという当たり前のことを確認しようと思います。

先日(5月11日),中央大学経済研究所の公開研究会に参加し,関志雄氏の講演を聴いて,とくにそう感じましたので,彼の報告内容を中心にまとめておきたいと思います。

ちなみに関さんの新作はこちら(まだ未読あせあせ(飛び散る汗)



中国の長期的発展は二つの過程,途上国から先進国へという経済発展,計画経済国から市場経済国へという移行経済,を含むことはよく知られています。これまで発展と移行がかなりの程度進み,発展では世界第二位のGDP,移行では計画価格の廃止,大部分の国有企業の民営化を成し遂げました。

ここで関さんは指摘します。発展においては「中進国の罠」が,移行経済においては「体制移行の罠」が待ち受けていると。これをどう克服するかが中国経済の課題です。

「中進国の罠」は世界銀行が提唱したものです。1人当たりGDPが3000ドルから1万ドルの中進国では,低賃金労働が枯渇し,労働集約型産業の輸出がたちいかなくなるとともに,新たな技術開発(イノベーション)が行われないと先進国にはなりえない,というものです。

「体制移行の罠」は清華大学の学者が提唱したものです(関)。国有企業改革の遅れや政府の役割転換が果たされないと体制移行は中途半端に終わり,成長に影をなげかけるといいます。

二つの罠のうち,経済発展で考慮しなければならない問題は以下の通りです。

(1)農村余剰労働力が減少しルイス転換点が訪れた可能性があること(2006年からの「民工荒」現象や近年の都市部求人倍率の上昇がその傍証だと関さんはいいます)。

(2)人口高齢化により生産人口が減少するため,労働生産性を向上させなければならない。

(3)既存の工業から新技術産業,サービス産業への転換がなされないと新たな成長が促されない。

ここで,関さんは胡錦濤政権時の科学的発展観を紹介します。科学的発展観は「五つの調和」と「経済発展パターンの転換」から成り立つとします。

五つの調和
ー都市と農村の発展の調和
ー地域発展の調和
ー経済と社会(社会保障,医療,教育などの公共サービス)の発展の調和
ー人と自然の調和の取れた発展
ー国内の発展と対外開放の調和

経済発展パターンの転換
ー需要構造:投資と輸出から消費へ
ー産業構造:工業からサービスへ
ー生産様式:投入量の拡大から生産性の向上へ

(上記は関志雄報告資料より)

次に二つの罠のうち,移行経済では政府がどうふるまうかが注目されます。胡錦濤政権下において中国は「政府の退出」ではなく,政府の経済への再関与の傾向が見られます(岡本2013第8章)。つまり

(1)国進民退に言われるように,国有企業の役割が強くなった。

(2)中国政府がマクロ・コントロールの名目で企業活動に干渉する。

(3)公共サービス,とくに社会保障が充実していない。(ついでに国有企業の労働分配率も低いので消費が伸びることは難しい。)

です。このような課題を関さんは政府機能の「越位」(政府が介入すべきでないところまで介入していること)として,以下を指摘します。

ー土地等の重要な資源のコントロール
ー基幹産業の国有企業による独占
ー権限を持つ官僚による自由裁量の余地が大きく,企業の経済活動に頻繁に干渉
ー審判員であるべき政府が選手も兼ねてしまうため,公平な試合はできない

反対に,政府機能の「缺位」(本来果たさなければならない役割を十分に果たしていないこと)が存在するとします。例えば以下が指摘されます。

ー環境保護や,社会保障,医療,教育といった公共サービスの不足
ー経済関係の法律がまだ十分に整備されておらず,その運用も不透明
ー信用と取引秩序の基盤の不備と政府のマクロ・コントロール能力の不足

(上記は関志雄報告資料より)

結局,中国経済の大きな課題は,構造転換(産業の高度化,投資から消費主体への転換),政府の役割がどうあるべきか,に収斂されます。

習近平総書記は「中国夢」を繰り返し強調するようになってきています。「夢」というのは聞こえはいいのですが,足元の経済問題は前政権から何も変わっておらず,李克強とともに難しい舵取りが必要になりそうです。

<参考文献>
岡本信広(2013)『中国 奇跡的発展の原則』アジア経済研究所
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2013年05月14日

東松山市きらめき市民大学

5月8日に,今年も東松山市きらめき市民大学にて,中国経済について一コマ担当してきました(昨年はこちら)。

今年も中国経済の概要を申し上げながら,一党独裁下における経済運営(いわゆる中国モデル)をお話をしました。

質疑応答を通じて,環境や知財の問題を中国政府がなぜ解決できないのか?という点に集中しました。一党独裁にあるにもかかわらず統治がうまくいっていないのか,そういう点にも話が及びました。

学生と違ってスルドイ質問が出てくるので,こちらも勉強になります。

ちなみに,5月11日土曜日から埼玉県県民活動総合センターでも5回にわたる講座(けんかつオープンカレッジ 「中国で何が起きているのか 」大東文化大学)を開催しています(こちら)。
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2013年05月09日

『不平等について』

発展が不平等であることを正面から論じているものは少ないことに気がつきました。今日紹介したいのは以下の本です。



本書は、格差から正面向かって取組みます。

格差は効率と正義の観点から注目されることが多いです。格差が正当化されるのは効率という点でしょう。経済発展から考えると、富裕層の貯蓄が投資に向かうことはいいことですし、あの人のように豊かになりたいというのは発展のインセンティブにもなります。

しかし、格差は正義に反することにもなります。富裕層の地位が維持されること、不平等が再生産されることは正義という観点からも問題ですし、効率からも貧困層にいる潜在的人的資本が活用できないという点で看過することはできません。

本書によれば、格差について理論化に取り組んだのは二人しかいないとします。一人はパレート、もう一人はクズネッツです。

クズネッツは経済発展とともに格差は拡大し、その後縮小すると主張します。

一方でパレートは格差は存在し固定化しているものとみます。2:8の法則で有名なように2割の富裕層が8割の所得を持っていることに着目しています。そしてその富裕層に着目してもその中で2割が本当の富裕層です。そしてその本当の富裕層の2割が本当で本当の富裕層になります(本文ではこの言い方はしていませんが)。顕微鏡で拡大するように格差をみていくとやはり格差が存在するということになります(複雑系でいうフラクタル性)。

グローバル化も格差に影響を与えました。グローバル化では、投資が先進国から後進国へ流れ、成熟技術は後進国に移転し、進んだ制度は模倣されることが期待されました。現実には、資本は先進国に集まり(ルーカス・パラドックス)、技術はライセンスで保護され、資本と労働は先進国に集積する結果になっています。

ちなみに共産主義化は格差を縮小させるそうです。一般に共産主義はジニ係数を6-7ポイント引き下げます。しかし共産主義化の教訓は、経済が均一化し衰退するということです。

格差の問題に取り組もうとする人には最初の1冊としてオススメです。
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2013年05月07日

2013年4月読書ノート

2013年4月読書ノート

今月の1冊は以下の本です。



行動経済学及び実験経済学で行動を明らかにしようとしています。

例えば、マイクロクレジットは女性のエンパワーメントを引き上げているという言説については証拠がないとします。むしろ貯蓄に関しては、女性へお知らせメールを入れるだけで貯蓄率が上がること、貯蓄額の目標を設定しそれまで引き出すことができない誓約書を書く(コミットメントを示す)と貯蓄率が上昇するということが明らかになったそうです。

最近の行動経済学や実験経済学による貧困原因の解明は新しい分野であり、おもしろいです。

追加で紹介すると、バナジー&デュフロの本と一緒に読むことをオススメします。



余談ですが、みすず書房さんはいつもいい翻訳本を出しています。

<経済学>

竹中平蔵(2010)『経済古典は役に立つ』光文社新書 スミスは資本主義の持続的拡張は可能と考えたが、マルサス、マルクスは悲観的であった。ケインズは有効需要の管理で資本主義を擁護したが、ハイエクは政府の拡大を嫌い、フリードマンは自由を主張した。

日本経済新聞社(2012)『経済学の巨人 危機と闘う 達人が読み解く先人の知恵』日経ビジネス人文庫 日経連載の再構成。マーシャルは良い市場は利他的であることを示した(矢野)、リカードとマルサスの物々交換と貨幣経済論争をミルが整理、デフレ下では貨幣供給を増やす(若田部)など。

ケント・グリーンフィールド(高橋洋)(2012)『〈選択〉の神話――自由の国アメリカの不自由』紀伊國屋書店 ジャンクフードの購入、性取引は選択の結果か強制の結果か線引は難しい。ビキニ効果などの行動要因、文化要因、服従の心理が働く。公共政策として選択の余地を制限することも必要。

J・モーダック、S・ラザフォード、D・コリンズ、O・ラトフェン(大川修二訳)(2011)『最底辺のポートフォリオ-1日2ドルで暮らすということ』みすず書房 貧困とは収入が少なく、不定期で金融ツールが不足していること。家計やリスクに対処するために、貧困層に合う金融サービスを主張。

D・カーラン、J・アペル(清川幸美訳)(2013)『善意で貧困はなくせるのか?―― 貧乏人の行動経済学』みすず書房 ランダム化比較試験(RCT)によりわかったこと。貯蓄が女性の地位を上昇させ、お知らせメールと目標まで引き出せない貯蓄が有効。肥料の支払いは収穫時期のお金があるときが有効。

ブランコ・ミラノヴィッチ(村上彩)(2012)『不平等について―― 経済学と統計が語る26の話』みすず書房 階級間での分配から個人間の分配がテーマになってきた。不平等は逆U字(クズネッツ)で変化するのか,社会が変われどエリートは循環するだけなのか(パレート)。不平等を徹底的に論じる。

ロバート・C・アレン(グローバル経済史研究会)(2012)『なぜ豊かな国と貧しい国が生まれたのか』NTT出版 所得格差の要因は工業化の差。差を説明する背景は制度、文化、地理。直接的原因は技術変化、グローバル化と経済政策。西洋と埋めるべき格差は教育、資本、生産性である。

ブルーノ・S・フライ(白石小百合)(2012)『幸福度をはかる経済学』NTT出版 個人の所得と幸福度には相関関係があるが、先進国は所得上昇に比べ幸福度は増していないか減少している(幸福のパラドックス)。民主主義制度が充実している国とその住民の幸福度は高い、など。

ゲルト・ギーゲレンツァー(吉田利子)(2010)『リスク・リテラシーが身につく統計的思考法―初歩からベイズ推定まで (ハヤカワ文庫 NF 363 〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)』ハヤカワ・ノンフィクション文庫 死と税金のほかには確実なものは何もないというフランクリンの法則(世の中は不確実)を理解し、母集団を明確にした頻度でリスクを説明する。

ジェフリー・S・ローゼンタール(2010)『運は数学にまかせなさい――確率・統計に学ぶ処世術 ((ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ))』ハヤカワ・ノンフィクション文庫 人生の出来事はランダム(無作為)だ。長期的にはランダム性は帳消しになる(大数の法則)。まぐれで起こる確率が20回に1回以下ならば「統計的に有意」だ。

栗原伸一(2011)『入門統計学-検定から多変量解析・実験計画方まで』オーム社 分散分析の欠点、どの群間と差があるのか、それをするのが多重比較法。分散分析の前に必要な実験計画法。ノンパラ手法をカテゴリデータ、順位データから。多変量解析を重回帰、主成分、因子、クラスターまで。

涌井 良幸, 涌井 貞美(2010)『史上最強 図解 これならわかる!統計学』ナツメ社 基本の度数分布から確率変数へ、サイコロの一様分布、二者択一のベルヌーイ分布、10回中何回かという二項分布、正規分布を説明。点推定と区間推定、分散分析、回帰分析や適合度を図、式、Excelから。

涌井良幸・涌井貞美(2003)『Excelで学ぶ統計解析―統計学理論をExcelでシミュレーションすれば、視覚的に理解できる』ナツメ社 正規分布を表すNORMDIST、NORMINV、t分布のTDIST、TINVなど(CHI、F)の関数を活用し、推定区間の計算、検定に応用。分析ツールを使って、回帰分析や分散分析を。


<中国>

茅原郁生・美根慶樹(2012)『21世紀の中国 軍事外交篇 軍事大国化する中国の現状と戦略』朝日新聞出版 自国の体制が対米、対台湾関係にも影響、海洋権益の主張、宇宙開発の実情。体制維持のための武装警察、人民解放軍の現状と問題。機械化か情報化迫られる国防。内政干渉とPKOの派遣。

毛里和子・加藤千洋・美根慶樹(2012)『21世紀の中国 政治・社会篇: 共産党独裁を揺るがす格差と矛盾の構造 (朝日選書)』朝日新聞出版 党国家軍の三位一体システムで統治は安定。チベットなどの少数民族問題、エリート化する党と格差が広がる庶民、世論誘導の限界、一党独裁の鬼子である腐敗について。

加藤弘之・渡邉真理子・大橋英夫(2013)『21世紀の中国 経済篇 国家資本主義の光と影 (朝日選書)』朝日新聞出版 「中国の経済システムに独自性があるとすれば、それは、時に矛盾するように見える個別の特徴を巧みに統合し、大きな矛盾なくそれを運営して高度成長を持続させている点にある。」p33

塩沢英一(2012)『中国人民解放軍の実力 (ちくま新書)』ちくま新書 ウクライナから購入された空母ワリャーグは改修されて「遼寧」として就役、広元のプルトニウム製造施設821工場、蘭州の濃縮ウラン工場などの核開発、宇宙支配権の制天権を目指す、実際の軍事予算は1.5倍、対米を意識した軍建設、など。

富坂聰(2012)『中国人民解放軍の内幕』文春新書 党軍事委員会が解放軍を指揮、それ以外の党中央は接触できないが、党中央弁公庁は機密にアクセス。米国を意識し、ミサイルと核兵器を扱う第二砲兵、 弱者が強者に優位に立てるのがサイバー武装(総参二部)と宇宙開発(二砲)。軍内腐敗も深刻。

安田峰俊(2012)『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川書店単行本)』角川書店 金銭を求めて中国で風俗嬢になるヒカルさん、上海の日本人社会のもめ事を解決する義龍老人、雲南の農村に住むヒロアキさん、中国に渡る日本人たち。中国は日本人の自己認識を刺激し、より「日本人」となる。

福島香織(2011)『潜入ルポ 中国の女』文藝春秋 売血でエイズが蔓延した村、それでも子供をつくる。売春をしないと暮らして行けない貧困、経済活動、人権活動、民族活動に力をいれる強い女性。女性へのインタビューから中国に迫る。

福島香織(2012)『中国「反日デモ」の深層』扶桑社新書 江沢民、胡錦濤、薄熙来などによる政治暗闘や、温家宝、周永康などのスキャンダルが海外メディアにも漏れ伝わるようになっている。一つは中央が一枚岩ではなくなったこと、もう一つはそのために汚職や疑惑が表に出てくる。


<社会>

アレクシス・ド・トクヴィル(小山勉)(1998)『旧体制と改革』ちくま学芸文庫 貴族階級が特権化し、著述家の思想が民衆に影響を与え、民衆の平等と自由を求める強い感情がフランス革命を自発的に発生させた。民衆は労苦に順応し不幸を耐え忍ぶという質実剛健な性質が民衆を危険な支配者にした。

アーニー・ガンダーセン(岡崎玲子)(2012)『福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)』集英社新書 健康被害リスクや長期の放射性廃棄物の管理というコストを考えると、原発は安価なエネルギーではない。四号機は今でもギリギリの状態。核燃料を取り出す技術がない以上廃炉に数十年はかかる。

石川幸一・馬田啓一・木村福成・渡邊頼純編(2013)『TPPと日本の決断-「決められない政治からの脱却』文眞堂 日本のFTA交渉目標は農産物を例外に(馬田)、TPPは成長をもたらす(戸堂)、自由貿易から排除される選択はない(山下)、TPPは日本農業の改革のきっかけ(本間)など。

リチャード・ブラント(井口耕二)(2012)『ワン・クリック』日経BP社 Amazon創業者ベゾスは、顧客が使いやすいウェブを作ることを心がけ、ワンクリックを開発。苦情対応はメールで。より良いサービスのために物流センターを作り、他の商品を扱い、電子書籍、Kindleを展開。

クリス・アンダーソン(関美和)(2012)『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』NHK出版 モノ作りがデジタルに移行。アイデアやデザインはデジタルのファイルにされ、製造サービスサイトで制作し、ウェブで世界に販売できる。製造業が個人に開放されつつある。

入山章栄(2012)『世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア』英治出版 世界の経営学者はドラッカーを読まない。科学的であろうとし、仮説を統計的に検証し経営理論を組み立てる。企業間競争の激化、組織の経験学習、イノベーションの中身など知見の蓄積が進む。ただし検証されていない理論も多い。


<その他>

百田直樹(2010)『輝く夜』講談社文庫 ガンでなくなるはずだった杉本真理子は好きになった担当医とは一緒になれなかったが幸せな人生を歩む、沖縄で出会った人にスチュワーデスと偽った和美、両親、恋人を亡くし恋人の子を身ごもった和子もクリスマスイブは…

岩田靖夫(2003)『ヨーロッパ思想入門』岩波ジュニア新書 ヨーロッパ哲学の源流はギリシア思想とヘブライ信仰。ギリシア思想の本質は、人間の自由と平等、物事の法則や秩序に迫る理性主義。ヘブライ信仰は神が天地万物の創造主、神は弱者の味方であり、他者を愛せ、である。
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2013年05月02日

経済学でいう「効率」という概念

経済学の「効率」という概念を少し説明したいと思います。

わかりすいイメージとしては「目的地に最短距離で行くというもの」です。目的地は、存在するすべての人の満足度(効用)がもっとも大きくなっている状態、です。具体的には経済が発展して富が増えていくという状態といってもいいと思います。その目的地にどう着くか、それを示すのが「効率」という概念です。

ミクロ経済学は、皆が満足しているという目的地に到着するために、大きく分けて2つの条件を課しています。一つは、存在する人が「合理的に」行動すること、もう一つは、市場メカニズムを活用することです。この2つの条件を満たすと「効率」よく目的地に到着できるとします。

「合理的な」意思決定では、人は便益と費用を考えて損をしないように、そして得がもっとも大きくなるように行動しましょう、と教えています。具体的には自分の欲求に素直になって自分の満足を満たしましょう、人の意見やどう見られるかとか気にしないで、自分の効用や利得の最大を目指しましょう、とします。いわゆる利己的な人間になりましょうと教えています。そうすると市場がみなの満足を調整するし、経済成長も可能です、となります。

もし、経済の状態が、みなが満足できていない、経済成長ができていない場合、経済学は何を教えてくれるのでしょうか?

その状態は「効率」的ではないということです。つまり2つの条件(合理的な人間の存在と市場メカニズムの活用)が満たされていないのではということになります。

経済学は、「効率」から離れているのは、「みなさん「合理的」になりきれていないでしょ、また市場メカニズムが動いていないんじゃないですか」と答えます。実際調べてみると、人は非合理的な意思決定をするし、市場も失敗している、だから非効率なんですよ、となります。

つまり経済学の「効率」は、理想の経済状態がもっとも効率的であるとする規範を示しています。現実の経済は効率的ではないので、効率と非効率の間を考え、そしてその隙間を埋めるように発展してきました。合理的人間でなければどのような意思決定を行なっているのかを研究します(例:行動経済学など)。市場が動いていないときは、人はどのように相互依存しあっているかを研究しています(例:ゲーム理論、実験経済学、開発経済学など)。

「効率」は理想と現実の経済状況を判断する基準です。道徳的な善悪基準ではありません。

ただ私たちは「効率」ばかり強調されると、「なんだかな〜せちがらいな〜」となります。これも経済学おもしろくない学問としてイヤになる原因かもしれません。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育研究活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする