2013年11月28日

『日中対立』

天児先生のアツい本です。改めて日中関係について考えさせられました。



後半の尖閣紛争の想定は議論のわかれるところでしょうが,前半の中国分析は面白いです。

日中関係が中国の大国意識とともに変化してきたという分析について紹介。

日中関係は日本がイニシアチブをとっていた時代から中国がイニシアチブをとる時代に変化しているといいます。以前は日本が中国の改革開放をODAで支援するという側面がありましたが,2010年には中国のGDPは日本を超え,国防費も2011年に1000億ドルを超えるなど大国意識が育ってきました。

ターニングポイントは2009年-2010年であるとしています。まず海洋権益を主張する論文が増加したこと,核心的利益は台湾,チベット,新疆の範囲であったのが南シナ海が含まれるようになったこと,ケ小平からの韜光養晦路線に積極的有所作為(なすべきことはなす)という点が強調されるようになったこと,があげられます。

中国を理解する上で,3つのジレンマが紹介されています。

1つは中国国内の格差問題。とくに一般大衆と官僚・党員などとの乖離です。

2つめは外交路線です。台頭する対外強硬路線と今までの対外協調路線の間のジレンマです。

3つめはイデオロギーです。中国は中国モデルに代表されるように中国の「特色」を全面に出しますが,それと自由や民主といった世界的な普遍主義的イデオロギーとどのように折り合いをつけるかという点です。

わかっていたようでこの指摘はその通りだなと思いました。中国が国内,国外で発生する摩擦はまさにこのジレンマが引き起こしているといえるでしょう。

他にも本書では,尖閣問題について中国側の主張を客観的に分析していますし,また尖閣で紛争が発生するとどうなるか,シミュレーションも行っています。この辺りは立場によって読み方が異なると思いますので,日中関係に興味がある方にはぜひ手にとってもらいたい一冊です。

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2013年11月26日

卒論の問題設定の仕方

この時期,卒論指導も大詰めです。うちの学部は12月中旬が提出締め切りのため,あと1ヶ月を切りました。

卒論指導で難しいのは「問題設定」です。問題をどのように設定するか,この良し悪しで卒論の出来が左右されると言っても過言ではありません。

愚痴にならないようにしたいのですが(笑),悩ましいのは学生から「何をテーマにしたらいいのかわかりません」「とくに興味がないので何をやろうか悩んでます」といった相談を受け,「う〜ん」と唸ってしまいます。

中国経済を中心にしている岡本ゼミでは,中国に関することでテーマ設定を勧めます。でも中国という国に対して知識が少ない学生にとって「問い」を立てることは簡単ではありません。ある程度の知識がないと,外国を対象とする分野の場合,問題意識を持ちにくいです。そのために外国に行く,あるいは読書で知識を広げる必要があります。

とはいえ,とくに中国に関わることもなく受け身でやってきた学生が4年になって主体的に卒論のテーマを立てることは難しいです。こんな時,私は以下のような問いを立てることを薦めています。

「◯◯とは何か?」→「△△である」

例えば,「中国の戸籍制度とは何か?」という問いを立てて,とりあえずの答え(仮説)として「農村戸籍と都市戸籍の二つがあるもの」という答えを学生自身で用意させます。実際にそうなのかどうか,戸籍制度の資料を収集させて考えさせます。

この作業を通じて,新たな疑問が起きれば,それをテーマに調べさせていきます。結局,「何?」というテーマについて自分なりの答えを用意して調査をする,そのプロセスの中で疑問を作成していこうということです。

でも,卒論は時間制約があります。「何?」という問題意識で調査した結果は,一般に論文というよりも調査レポートのようなものになってしまいます。中国の戸籍制度調べました!的なものは,読んだあと「だから何?So what?」ということになりがちです。

やはり問題設定の王道は「なぜ〜なのか?」だと思います。良い問いが立てられると,みな「知りたい」と思うので興味もわきますし,読み手からも期待されることとなります。良い論文とは「?」で始まり「!」で終わるものです(鹿島2003)。

普段から日常生活で「なぜ?」という問いを持つように学生に言ったりしますが,自分もできていないので(汗),この指導はあまり意味ありません。今のところ上記で述べたように,「何?」という疑問から調査していって考えるという方法がうちのゼミでのやり方です。


ちなみに,どのような問いをたてるのか,問題設定の仕方で参考になったのは,以下の本です。問題設定を考えるヒントがつまっていました。オススメです。

鹿島茂(2003)『勝つための論文の書き方』文春新書

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2013年11月21日

ミニッツペーパーは役に立つのか?

授業改善の方法として,出席カードやちょっとした紙を配って,授業の感想,学んだこと,疑問点,理解度を授業終了時に記入してもらうミニッツペーパーというのがあります。(あるいはリフレクションペーパーというのもありますが,やっているのは同じことです。)

大学に移って間もない頃,このミニッツペーパーというのを一時期導入したことがあります。

わかりやすかった,理解が進んだ,などの肯定的評価が大部分なのですが,○○が難しかったとか,○○はどういう意味ですか?など疑問を書いてくれるものもありました。

一般にミニッツペーパーは,学生の理解度を確認して,当該授業の中身の構成や内容,そして説明の仕方をふりかえって改善するのに使われます。

場合によっては,難しかった回について次回の授業で補足説明をするということになります。

ただこのミニッツペーパー,私の場合二つの問題に直面しました。

1)授業内容に改善を反映するのは次回(つまり通年であれば1年後,半期であれば半年後)になります。講義用ノートに問題点をメモしても,意外に思い出せないということがありました。もちろん私のメモの書き方の問題ですが,LIVE授業の問題点を反映させてLIVEで再現させるというのは難しいということです。(何かいい方法あるのかな??)

2)内容理解が進んでいない,という回答では,中には基礎知識が足らないということもあります。学生も千差万別なので,高校社会のみならず社会的出来事に敏感な人もいればそうでない人もいます。往々にして知識の足らない学生がいるからといって,全体の授業の中でそこだけ知識補充するのは難しいです。(こんなことも知らないのかでスルーするのではなく。)

つまり,ミニッツペーパーを使った授業改善がうまく回らなかったというのが実情です。そのため1年ほどやってみてやめてしまいました。

もしかしたら,当時の科目では履修者数が少なかったので,個別の対応になるので,ミニッツペーパーという授業全体を振りかえることにならなかったのかもしれません。少人数の場合は,学生一人一人の表情もみえるので大体理解度は雰囲気で伝わるものです。

ミニッツペーパーをうまく授業改善に活用している人の意見を聞きたいものです。私にとって,ミニッツペーパーは結局学生自身の学びのふりかえり程度にしか使えないのではと思っています。
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2013年11月19日

『服従の心理』と中国

心理学ではあまりにも有名な本ですが,山形さんによる訳ということで読んでみました。



いわずもがなのミルグラムによる衝撃的な実験です。実験内容は,実験者が被験者に対して,学習に関する実験と称して,学習者が答えを間違えたら電気ショックを与える役をお願いし,間違いが増えるにしたがって電気ショックを強くしていく指示を与えます。その時に被験者は学習者が苦しむ姿をみてどのような反応をするのかという実験です(学習者は役者さん)。

実験結果は,人は権威に服従する,というものです。

学習者が問題への回答を間違え,電気ショックを受けます。学習者は大げさに苦しむ様子をみせます。被験者は苦しむ姿をみてこの実験をやめたいと思いながらも,権威者(実験者)のいう電流を強くするという指示にしたがって学習者に電気ショックを与えていきます。この実験は,やりたくなくても権威者の命令には従ってしまうという人の心理形態を明らかにしました。

実験を踏まえて,ミルグラムは解説しています。

人の社会システムはヒエラルキーになっています。社会組織がヒエラルキー化することによって組織は力を発揮し,外部の敵からその集団を守ってきました。命令に従うことによって社会組織は発展してきたので,人は命令をきくことになっているとします。

ヒエラルキー社会では,人は個人の方向性を制御します。つまり自律的な個人から命令に従うエージェントへと変化します。エージェントになるには条件があります。家族という組織で親に従うことを習います。社会制度において人の指示に従うことを学びます。そして社会では報酬を与える人に従います。社会的な学びの過程で人はエージェント状態になってきます。また,その他にも権威を認識する必要があります。どの人が権威者かわかっていないと権威は発生しませんし,その権威システムに自らが参加するという形をとる必要があります。その権威はイデオロギーによって正当化されます。

一方,エージェント状態になった個人は悩みます。道徳と非道徳の間で心理的な緊張状態に入ります。そのために以下のような心理的変化を経験します。

一つはチューニングです。自分の認識を調整するということです。学習者が苦しんでいる姿から目を避けることによって,自分の認識を調整します。

もう1つは解釈を変えます。権威の命令に従っているだけだ,私は従順ないい人だと解釈を変えていきます。

次は喪失です。学習者が苦しんでいるのは,自分のせいではない,責任は私にはない,とします。

最後は自己イメージの変化です。学習者に電気ショックを与えるときに実は電流をあまりあげないようにしていた,学習者に答えがわかるようにイントネーションを変えていた,など自分の正当性を強調するようになります。

この実験は人は権威に刃向かうのではなく,権威に従いやすいことを示しています。

中国をみてみると,私たち日本あるいは西側諸国の人々は,民主化について声をあげる中国国内の知識人に対して期待をしたりします。でもこの心理実験から考えると中国で民主化運動が起こることは相当難しいといわざるを得ないでしょう。権威に従う事例として,悲惨な文化大革命があげられます。当時の権威,毛沢東によって指示された紅衛兵たちは革命という旗印のもと多くの人々に暴力を振るっていきました。おかしいと思ってもなかなかそれに対する声はあげられなかったのです。

また党員になるということで権威システムに自らが参加しています。しかも党員は8000万人を超えています。

反日デモでも政府の管理のもとで行われています。多少の暴徒化があったとしても,あるいは矛先が地方政府に向いたとしても,中央政府への信頼は高いです。また政府管理のデモに参加すること自体が権威への服従,あるいは権威へのコミットメントになっていますので,権威を認識する自己強化が行わているとみるべきかもしれません。

権威に対抗して新しい権威を打ち立てるのはそう簡単ではないということを,この本から改めて感じさせられました。
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2013年11月16日

中国の都市化 Revisited

中国の都市化で起きていることをわかりやすくまとめてみようと思います(関連エントリ「中国の都市化の問題」)。とくにここでは都市化で起こる実物的変化と貨幣的変化の両面を合わせて考えることを主眼とします。

2012年12月に開催された中央経済工作会議で,李克強は「新型都市化」を打ち出しました。都市化を強調した背景には中国経済の構造変化の必要性があります。投資主導で成長している中国経済を消費主導型に変更するには,都市化が有効と考えられるからです。都市化によって消費主体である都市住民を増加させることが可能だからです。

その他にも都市化は持続的経済成長に有益です。都市経済学の文献で(例えばグレイザー2012,書評はこちら)も,都市化はGDPの成長,技術の革新,エネルギー資源の節約,環境保護に有益であることを指摘しています。

(1)実物面

都市に対抗する概念は農村です。都市化ということは農村でなくなること,すなわち第二次産業,第三次産業中心の地域経済をつくるということです。農業をしなくなるため,人々はビルに住み,工場やオフィスに働きにいくようになります。職住接近する方が便利であるため,人は集まり都市を形成していきます。

中国は農村工業化という方法で経済発展してきたために他国と違って都市化が遅れました。農村工業化は農村の郷鎮企業が第二次産業,第三次産業の主体となって農民の雇用を吸収し,都市に人が流れないようにするというものでした。したがって中国は「都市化なき経済成長」をしてきました。

それでも,深センや広州などの珠江デルタ地帯,上海や南京などの長江デルタ地帯には仕事を求めて人が流入してきましたし,経済特区や開発区では急速に都市化が行われてきました。つまり,多くの企業と労働者を受け入れるために“街”がつくられてきました。

街をつくるためには農村地帯の土地を買い上げ,住宅や工業団地(開発区)を造成していく必要があります。そこで政府は,農村から土地を買い上げ急ピッチで街をつくっていきました。

中国の街をつくるという都市化における問題はよく指摘されるように以下の点があります。

@土地制度の問題(関連エントリ「農民の土地強制収容問題」「中国の土地問題」)

農村の土地は集団所有(基層政府管理),都市の土地は国有となっています。都市化のために農地を接収しマンションや開発区を整備する場合は一旦国有地に変えてから開発を行います。手続きが煩雑になっているのは,中国全土の農地を減らさないようにするためです。耕地18億ムーを維持するという最低ラインがあるので農村の乱開発を防いでいるとともに,この土地制度の二元化によって都市化が抑えられていたということがあります。

A土地買収の問題

土地買収とマンションや工業団地建設・販売は地方政府にとって金を生む打出の小槌となりました。都市化は財政難に苦しむ地方政府にとって財源確保の手段ともなります。これにより農民から土地を強制収容することも発生し,烏坎事件のように農民と基層政府との軋轢を生むことになります(関連エントリ「中国の一般民衆(人民)は共産党・政府を信頼している」)。


(2)貨幣面

現在のところ中国の都市化は街をつくるというインフラ面での整備が中心です。この意味で経済構造を消費主導型に転換したいという意図がありながらもまだ投資主導型の都市化が行われていることになります。

インフラ建設の投資資金はどこから流れてくるのでしょうか。

上でも述べたように補償を少なくして土地を収容し,不動産物件にして販売するというキャピタルゲイン的な手法によってインフラ建設資金を調達する方法があります。もう一方で,民間資金を活用して開発区が生み出すキャッシュ・フローを証券化する方法もあります。

中国では正規の金融システムが規制によってがんじがらめになっています。銀行の利子は低く抑えられているために家計は銀行にお金を預けません。また銀行は国有銀行が主体であり,貸出も国有企業に向かいます。そこで地方政府は融資平台(プラットフォーム)と呼ばれる地方政府主体の国有開発事業体を立ち上げます。地方政府の信用をもとに国有銀行融資を受けてその資金でインフラ建設を行います(関連エントリ「地方政府とは?」)。土地を担保にした融資の拡大を引き起こし,「土弊」(土地が貨幣化し信用バブルを生む現象)を各地に生み出しました。

融資平台を経由した地方政府への債務が増加してくると,中央政府から融資の制限がかかります。今度は融資平台はマンション,地下鉄などの都市インフラ,開発区等の開発において社債を発行します。都市インフラが生み出すキャッシュ・フローを返済原資として証券化が行われることとなります。これが信託銀行による「理財商品」の開発につながります。銀行よりも利子率が高いため,家計資金が理財商品に流入し,地方のインフラ建設を支えるようになりました。すなわち民間資金を活用したインフラ建設です(関連エントリ「中国はインフラ建設での「民間資金活用」先進国!?」)。

都市化にともなう貨幣面での問題は以下のようになります。

@不動産バブルの問題

都市化という開発期待は土地需要を高めます。土地を開発すればお金になる,という期待は土地バブルを発生しやすいです。土地が開発されマンション群が立ち並び,多くの人が投資目的で購入することがあったとしても,実際に人はほとんど住んでいない「鬼城」(ゴーストタウン)になってしまう現象も発生しています。不動産価格が上昇していても実需が追いついておらず,もし何かのきっかけで融資をした銀行が債権回収に動けば,不動産の投げ売りが始まり,バブルが崩壊する危険さえあります。

A地方債務の問題

インフラ建設のための資金調達は国民からの先借りという性質を持ちます。銀行融資によって融資平台の債務が増加する,あるいは理財商品を通じて家計が都市インフラの証券を保有する,どちらにおいてもインフラ建設が一旦ストップする,あるいは過剰供給になって開発区に誰も入居しないというようなことが発生すると,キャッシュ・フローが止まります。もしそうなると,銀行の債権,個人が所有した証券の価値がなくなることになります。銀行は不良債権を抱えることとなり,家計は大きな損失を抱えます。銀行は最終的には公的資金の注入で救われる可能性がありますが,それも家計の税金負担によって賄われます。どちらにせよ,インフラ建設に必要な資金は家計が負担しており,都市化の失敗のツケは家計に回されることになってしまいます。


(3)まとめ

現在の都市化はインフラ建設という供給面に偏っています。そもそも中国経済の成長が投資が主体となっています。この経済成長は「需要の先食い」であり,需要が追いつかないことが判明すると経済成長は急落する可能性さえあります。

中国政府もこの問題を十分に認識しており,したがって,都市化による経済構造の転換を狙っているわけです。都市化によって都市の雇用場所が増加し都市住民が増えます。都市住民の購買力が向上し,財を購入するのみならずレジャーなどの都市型サービスの消費が伸びることが期待されます。これにより国内消費主導型経済への転換を図ることが可能になります。

しかし問題もあります。農民が都市住民になれないといういわゆる戸籍問題です。戸籍制度により都市で働く農民の雇用機会が限定されている,都市では農民の子どもの教育機会がない,失業保険,医療保険や年金などの社会保障がない,などの制度的差別は,農民を消費を牽引する経済主体へと転換することを不可能にしています。インフラ建設ではなく,「本当の都市住民をどのようにつくるのか」つまり「以人為本」の都市づくりが中国都市化の本当の課題だといえます。


<参考文献リスト>
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である』NTT出版 (書評のエントリはこちら
日本経済新聞社編(2013)『習近平に中国は変えられるか』日本経済新聞出版社(とくに第二章)
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2013年11月14日

文系学問はOS

文系学問の役割は,教養としてのOS(オペレーティング・システム)だと思っています。

社会で生きていく上では,新しいものを認知し,理解するための基礎力が必要です。問題や課題を解決するためのスキルをもつことも必要です。

理解の基礎力は,人文や社会科学などを幅広く勉強することによって,多くの知識を得て,その知識によって,新しい出来事を理解する類推力をつけることに役立ちます。

典型的なものは歴史です。歴史についての知識を持つと,現在起きている出来事を過去にさかのぼって判断する材料を探し出すことが可能です。

問題解決スキルは,未知の問題に対してそれを乗り越える手法を得ることになります。文系では,仮説ー検証ー結論というフレームワークが徹底的に鍛えられます。起きている問題に対して,何が問題か,何を解決すればよいのか,という問題設定,その問題を解決するための手がかりを仮説として,実際にやってみて,違ったら再度別の方法を試してみるという検証,これら一連のスキルが社会で生きていく上での基盤となります。

大学での勉強は,理解の基礎力をつけることのみならず,課題解決のスキルを磨くものでなければならないと思います。理解の基礎力では幅広い読書によって知識を得るとともに,そこから一歩進んで,何が問題か,課題を見つけることが必要です。でも実際にはなかなかこの課題解決スキルを身につけるのが難しいのが現状です。

理解の基礎力と課題解決スキルの両輪を自分のオペレーティングシステムとして身につければ,さまざまなアプリ(社会で戦う武器)を積むことが可能です。OSの脆弱性をなくせばなくすほど,多くのアプリを積むことができます。社会に出た時に,どれだけアプリを積むことができるか,大学時代の勉強にかかっています。
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2013年11月12日

国際学術シンポジウム

国際関係学部,アジア地域研究科,現代アジア研究所の三者主催で,国際シンポジウムが開催されました(学部HPの紹介はこちら)。

私は「中国の都市化とその課題」と題して報告しました。

中国は農村と都市が二元化されていること,成都と重慶の事例を示して,土地,戸籍,就業の問題が解決されるように取り組みがなされていることを示しました。

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2013年11月07日

綏芬河,北京,西安への出張

10月27日から11月5日までアジ研の出張で牡丹江(綏芬河),北京,西安を回ってきました。今回の出張はアジ研の「2005年日中韓地域間アジア国際産業連関表の作成と応用(II)」研究会事業の一環です。

綏芬河(すいふんが)は黒竜江省の牡丹江の県級市です。ロシアと接しており,国境貿易が盛んなところです。鉄道,道路の税関があり,今回は税関を見学するととももに国境貿易の現場を見学しました。

ロシアからの商人も多く,衣類の買付けなどが盛んでした。ロシアからは主に原木や鉄鉱石などを輸入し,中国は衣類や家具類などを輸出しています。家具類などは加工貿易が行われており,日本の割り箸来料加工工場も見学しました。典型的な来料加工で,日本側がロシアで原木を買付け,それを綏芬河の工場におくり,できた割り箸はすべて日本側が買い取るというものです。綏芬河の工場はあくまで加工賃を受け取るものでした。(たしか100本の割り箸で数毛だったような)

<ロシア料理店,ロシア街,税関>
写真 (1).JPG写真 (2).JPG写真 (3).JPG


北京では,国家信息中心とアジ研の共同ワークショップが開催されました。今盛んなグローバル・バリュー・チェーンに関するものです。

同じく西安では,西安交通大学,商務部,アジ研共催のグローバル・バリュー・チェーンの国際会議(中日全球価値鏈研討会)が開催されました。私は

「The Regional Economy in China - Core, Periphery and Overseas」

と題して報告。地域間の空間相互依存において周辺から中核に価値が移転しているがその額は小さくなっていることなどを報告しました。

研究会の原稿のネタがたくさん手に入りました。出張を手配してくれたアジ研,現地の各受入機関に感謝です。

<北京での会議>
写真 (4).JPG

<西安での発表>
写真 (5).JPG
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2013年11月05日

2013年10月読書ノート

2013年10月読書ノート



今月の一冊は『影響力の武器』です。私が読んだのは第1版ですが,非常に勉強になりました。

経済学では合理的な人間を前提としています。合理的な人間は人の意見や周りの環境に左右されることなく,損得を考えて意志決定をしていると考えます。

でも私たちは他人の影響を何かしら受けています。むしろ周りの状況に依存して常に意思決定しているといっても過言ではありません。どのようにして私たちは意思決定しているのか,わたしたちはどのように周囲から影響を受けているのか,本書はそれが整理されてよくわかる一冊です。


<経済>

スタンレー・ミルグラム(山形浩生)(2008)『服従の心理 (河出文庫)』河出書房新社 実験者に指示されると道徳的矛盾を感じながらも多くの人が残虐な行為をとる。権威に服従してしまうのは人がヒエラルキーの中で機能しているから。自律的な判断よりも調和のためにヒエラルキーの命令を守る方がよい。

ロバート・B・チャルディーニ(社会行動研究会)(1991)『影響力の武器[第二版]―なぜ、人は動かされるのか』誠信書房 承諾を誘導する信頼性の高い方法は、コミットメント、返報性の原理、類似した他者への承諾反応、好意あるいは友愛の感情、権威からの命令、希少性に関する情報である。

A.M.オーカン(新開陽一)(1976)『平等か効率か』日経新書 社会の権利は原理の上で平等を重視。市場経済は効率が優先され大きな不平等が許容されている。所得の再分配にはバケツの漏れ(誘因の低下など)があるが、所得階層の下の5分の1に援助を与え、豊かな社会の主流に入らせるべき。

ヨハイ・ベンクラー(山形浩生)(2013)『協力がつくる社会―ペンギンとリヴァイアサン』NTT出版 ピラミッド型組織、利己的利益に基づく市場。ともに人は協力しないものととらえるが、人は協力したがるもの。コミュニケーション、仲間意識、規範・道徳、公平性、評判、処罰・報酬などが重要。

シルヴィア・ナサー(徳川家広)(2013)『大いなる探求(上)-経済学を創造した天才たち』新潮社 社会の仕組みを分析する装置や道具を探していた経済学者たち。労働賃金は上昇しないとしたマルクス、企業競争が賃金を上げると考えたマーシャル、ナショナル・ミニマムを主張したウェッブなど。

シルヴィア・ナサー(徳川家広)(2013)『大いなる探求(下)-人類は経済を制御できるか』新潮社 「全体に関する経済学」を考えはじめたケインズ。フィッシャー、ケインズ、ハイエクは経済を制御する道具立ては存在すると信じた。戦時経済はケインズ主義の有効性を証明。


<中国>

園田茂人編(2013)『はじめて出会う中国 (有斐閣アルマ)』有斐閣アルマ 中国がどのように統治され、市場経済化でどのように変化し、中国は世界から尊敬される国になるか、という問いから中国の社会と政治を解説。共産党、地方政府、少数民族、戸籍、格差、学歴社会、華僑、ナショナリズム、外交、日中関係。

富坂聰(2013)『習近平と中国の終焉』角川SSC新書 薄煕来が残した人民の平等への支持という爆弾を抱えながら、上層部のストレスの少ない人物として選ばれた習近平。格差と民主化という課題に向かう習近平政権は胡耀邦からの歴史の影響を受けている。

加藤隆則・竹内誠一郎(2013)『習近平の密約』文春新書 ソ連の経験から毛沢東批判を抑え、軍は党の支配下におき、中国独自の民主を求める習近平。急進的改革を求めていない庶民、南方週末事件は言論封鎖というより体制内の紛争。安定のために,より集権化していく。

<自己啓発>

長谷部誠(2011)『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』幻冬舎 就寝前に心を鎮める30分間を持つ、負の言葉は現状をとらえる力を鈍らせる、恨みを貯金せずボールを蹴るなど建設的に、1人温泉でリフレッシュ、苦しい練習が自信になる、監督の行間を読む、などサッカー日本代表長谷部のこだわり。

甲斐祐樹(2013)『スマホ&タブレット“二刀流”仕事術』インプレスジャパン スマホをシンプルな作業に、多少複雑な作業にタブレットを活用。メール、カレンダー、連絡先はGoogleで同期、データはEvernoteとDropboxをメインに利用。テキスト入力とエディタを工夫。


<その他>

丸山里美(2013)『女性ホームレスとして生きる-貧困と排除の社会学』世界思想社 女性ホームレスが見えにくいのは労働市場や社会保障政策が近代家族をモデルにしているので、あてはまらない女性世帯が形成されにくいから。女性野宿生活者の意思はパートナーや回りとの関係と切り離せない。

天野郁雄(2013)『大学改革を問い直す』慶應義塾大学出版会 大学はエリートから、マス化、ユニバーサル化(トロウ)の段階に。80年代から多様化、個性化が叫ばれ、一般教養が廃止、新名称学部の設置、入学試験の多様化へ。近年は機能別分化。私大は「幅広い職業人育成」の意識を持つ。

田中智志・橋本美保(2012)『プロジェクト活動-知と生を結ぶ学び』東京大学出版会 教育は自己創出への支援であり、子どもを意図的に操作することではない。プロジェクト活動は有用性だけでは語り得ない。現代社会の機能的分化は有用性志向をもち、プロジェクト活動を構造的に阻んでいる。

ケン・ベイン(2008)『ベストプロフェッサー』玉川大学出版部 最優秀教師は、担当教科を深く理解し、学生の学習目標を明確にし、学生へ多くを期待、深く信頼。自然で批判的な学習環境を提供し、常にティーチングを自己評価する。最優秀教師でも失敗することはあるが、学生を非難することはない。

今野浩(2011)『工学部ヒラノ教授』新潮社 筑波、東工大、中大と歩んできた工学部の教授が語る工学部風土。工学部の教え7ヶ条は、納期を守り、信頼を勝ち取る、専門以外は口出ししない、仲間の頼みは引き受ける、他人の話は最後まで聞く、学生や仲間をけなさない、拙速を旨とする、である。

今野浩(2012)『工学部ヒラノ教授と4人の秘書たち』技術評論社 ORの「秘書選び問題」は1人目の候補はパスするに限る、である。ミセスKは口が堅く、正義感が強い。学群主任業務、シンポや学会運営に力を発揮。ヒラノ教授の中大転出に伴い一旦は「離縁」するも数年後退職まで仕事を支える。

今野浩(2013)『工学部ヒラノ教授と七人の天才』青土社 哲学・論理学、物理学・数学もこなす文理両道の吉田教授、30年近くの助手生活から学長にまで登りつめた藤川教授、巡回セールスマン問題に取り組んだ冨田教授など、個性的な東工大の教授陣。

今野浩(2013)『工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行』新潮社 修士修了で研究所勤務になったヒラノ青年に降ってきた幸運はスタンフォード大への留学。一日14時間勉強してPhD取得。しかしウィスコンシンで敗者の辛さを実感。パデュー大学での客員時代に講義を経験し、論文の量産法を学ぶ。

上山隆大(2010)『アカデミック・キャピタリズムを超えて-アメリカの大学と科学研究の現在』NTT出版 大学が生産する知識の性格がパテント化や私企業からの資金提供によって、公的なものから私的なものへと変貌。知の市場取引化は社会に必要な知識の進歩,質の保証になるが,知の性格とは?

伊豆見元(2013)『北朝鮮で何が起きているのか-金正恩体制の実相』ちくま新書 金正日の死後半年でトップになった金正恩。国内権威の確立と米国を交渉のテーブルにつかせるため強硬路線に。2012年の衛生打ち上げは金正日の遺訓、13年2月の核実験で米国に「懲罰」など。

平岩俊司(2013)『北朝鮮――変貌を続ける独裁国家 (中公新書)』中公新書 中国、ソ連(ロシア)、アメリカの中で北朝鮮の「主体」を確立するために自らの外交空間を確保する。92年中韓国交正常化、98年金正日体制が始めたミサイル発射問題。南北融和、六者協議の不調。金正恩は「遺訓政治」を行う。

オープロジェクト(2008)『軍艦島全景』三才ブックス 長崎の沖にある端島。明治23年に三菱に買収され本格的炭鉱施設として発展。昭和30年代は五千人以上の人が住み、昭和49年の閉山まで、国内初の鉄筋コンクリートアパート、海底水道、屋上庭園などが設けられ近未来都市の様相を持つ。

松下明弘(2013)『ロジカルな田んぼ』日経新聞出版社 青年海外協力隊でエチオピアに。手をかけなくても植物は強く育つ農業を知る。帰国後専業農家に。そこから実験の日々。有機肥料は可能か、どれだけまくか、どう耕すか、農業では人間の欲を押しつけず、どれだけ自分を抑制できるかが重要。

パオロ・マッツァリーノ(2013)『ザ・世の中力-そのうち身になる読書案内』春秋社 地球温暖化はホント、住宅賃貸は老人相手に、お金持ちはオーナー社長、おいしくない公務員、統計でスカウトする米球団、文書書くのに演劇入門を、科学者かどう人をだますか、など会話形式の書評。

田岡大介(2013)『「空き巣」なう-プロの空き巣がこの道半世紀を語る』第三書館 空き巣の心構えは人様に危害を加えないこと。得た金額を服役した日数で割ると稼ぎは少ない。それでも空き巣をするのは誰にも発見されることなく屋内に侵入した時の陶酔感である。実際の空き巣体験を語る。

レイチェル・シュタイア(黒川由美)(2012)『万引きの文化史』太田出版 万引きは歴史上なくなったことはなく、罰則など社会の取り組みは文化を反映。万引きの理由は精神的な障害、育ち、性、人種などが議論。小売業の万引き防止対策が高額化し価格に反映、客は万引き容疑者として扱われている

金子雅臣(2006)『壊れる男たち―セクハラはなぜ繰り返されるのか (岩波新書)』岩波新書 セクハラは男性問題。女性に「なぜその気にさせた」と説明を求めるのではなく、なぜ行為をしたのかを男性側が説明するべき。セクハラをする人しない人の違いは男の性はだらしないものと受け入れられるかどうか。

永井孝尚(2011)『100円のコーラを1000円で売る方法』中経出版 製品志向ではなく市場・顧客志向で。顧客の期待より大きい部分が価値であり、顧客が望み他者が提供できず自社が提供できるものを。プロダクトを売るのではなくバリューを売るから価格勝負にならない。

永井孝尚(2012)『100円のコーラを1000円で売る方法2』中経出版 全部の問題を考える網羅思考をやめ、仮説・論点思考にする、すべてやるのではなくやらないことを決断、成功体験にとらわれない多様な集団で。企業経営に関わるメソッドを簡単に。

恒川光太郎(2005)『夜市 (角川ホラー文庫)』角川書店 子供の頃に弟と迷い込んだ不思議な夜市。何かを買わなければ夜市から出られない。弟を売って野球の能力を買った裕司は10年後弟を買い戻すために夜市に戻る。弟はどうなっているのか。第12回日本ホラー小説大賞作品。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする