2014年01月28日

予測・シミュレーションは科学か?

計量経済学は一般に最も科学的な手法と思われています。仮説をたてて,それが正しいかどうか検証するときには計量経済学の手法が用いられます。計量分析の結果が有効であれば仮説は支持されることになります。この意味で計量経済学は経済学の進展にとってもっとも重要な柱の一つとなっています。(実際,大学の経済学部では,ミクロ,マクロ,計量は3本柱です。)

でも,計量経済学の分野でも仮説検証(帰納的実証)に使われるのではなく,演繹的に利用されることがあります。その典型が,経済予測や経済シミュレーションの分野です。

経済予測やシミュレーションに使われる手法は,マクロ計量モデル,CGEモデル,IO(産業連関)モデルなどです。存在するデータベースを用いて,経済学的に確立されたモデルで,今後のことを予測,シミュレートします。


なかでもIOモデルはイベントや行事の経済に与える影響を計測するのに用いられます。例えば,東京都は2020年にオリンピック・パラリンピックを開催した場合,経済波及効果は約3兆円,雇用誘発効果は約15万人と推計しています(東京都報道発表資料2012年6月)。

経済予測の問題は,「予測が正しいかどうか」検証されることがほとんどない,という点にあります。毎年多くの民間機関がGDPの成長率を予測しますが,予測を外した場合,仮定が問題だったのか,それともモデルに問題があったのか,用いたデータが問題だったのか,詳しく検証されることはありません。この意味では,経済予測というのは言ったもん勝ちみたいなところがあります。(でも人々の期待形成には役立っていて,自己期待実現的に大体近いところに落ち着く傾向はあるように思いますが。)

IOモデルを用いた災害の被害予測も似た問題を抱えています。被害額のシミュレーションですので,オリンピック・パラリンピックの経済波及効果と同じく,正しいかどうか検証は難しいです。


経済の予測やシミュレーションは「科学」なのでしょうか?

検証してモデルが改善され,データ推計が基準化されていくと,当然予測やシミュレーションの精度は上昇していきます。この意味でモデルという仮説的構築物に一層磨きがかかりますので,予測やシミュレーションも「科学」といえるでしょう。

でも,検証しないシミュレーションが多いのも事実です。各民間機関で発表されたGDP成長率が合っているかどうか,外れていたらどこが問題だったのか,検証結果が公表されることはありません。そうすると予測やシミュレーションは科学足りうるかというと,なんとも言えないです。

ただ検証しない予測やシミュレーションでも,政策志向型のメニューを提示することが可能です。科学的手法を用いていますので,比較的信頼に足りうる判断材料を政策担当者に提供することは可能といえましょう。

例えば,災害予測は,災害前と災害後を予測することによって予防をする方がいいのか,それとも被害を復興するのがいいのか,費用便益を計算することが可能になり,政府の政策立案に資することとなります。(でも実際は人命が関わっているので,予防することに越したことはありません。ただ,どの分野,どの地域に重点に予防するかということについて,災害モデルは多くを語ってくれます。)

また公平性と効率性という経済学が悩ませるトレードオフ問題についても知見を提供します。都市部や農村部での被害,経済効果の違いを計算して,成長を求めるのか,所得再分配を行うのか,政策のメニューを提供することが可能です。

このように,予測やシミュレーションは,科学というよりも政策志向の科学的判断材料として扱うべきものなのかもしれません。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育研究活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする