2014年07月29日

中国の集団指導体制

中国でも有名な経済学者,胡鞍鋼が書いたということで,読んでみました。



中国の独特な政治制度,集団指導制について紹介しています。

本書の主張は,中国の中央政治局常務委員会(チャイナセブン)による集団指導制は素晴らしい,という点に要約されます。

そして集団指導制の特徴を以下の5点に集約します。

(1)分担協働制
 政治局常務委員が党,国家機構などを分担して責任を持って遂行している。もちろん問題については相互に協議している。

(2)交代チーム制
 一度に全員が交代するのではなく,前期と次期の候補たちが混じり合うようになっており,とくに省書記や中央書記処で経験を積むのは重要。

(3)集団学習制
 シンクタンクなどの一線の学者から現状分析を学習し,常に新しい情報を指導部は持っている。

(4)調査研究制
 指導部が現場に入って視察する体制がある。これにより現場の意見をくみ上げる。

(5)集団政策決定
 政治局常務委員は一人一票で責任を負って政策を決定している。情報を交流させる中で民主的な決定が行われているので,独善的な決定や昔のような路線闘争が避けられる。

以上,5点を強調しているのですが,結局,民主集中制の良さがあまり伝わってきませんし,政権賛美のニオイがプンプンします。(あえて言えば,毛沢東時代よりは「規範化」されたよね,という感じ。)

良さが伝わってこないのは日本語訳の問題というよりも中国語の抽象性がそうさせているといえるかもしれません。具体的な事例が少なく,抽象的な言葉で集団指導制の良さを説明されてもおそらく国外の人には伝わりにくいと思いました。

理論的にはまだ「?」というがありますが,第1章の現在の集団指導体制ができあがるまでを毛沢東時代からふりかえっている部分,本書の出版にあたって挿入された第9章は,現政権への交代を事例に集団指導制を具体的に論じているという点は勉強になります。
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2014年07月22日

中国のフィリップス曲線

中国のフィリップス曲線を作ってみました。フィリップス曲線とは,物価上昇率と失業率の短期的なトレードオフの関係を示します。

1407ChinaPhilippsCurve.jpg

フィリップス曲線が意味するのは,総需要拡大政策(財政・金融)は物価の上昇をもたらし,失業を改善するということです。ただし,長期でみると物価の上昇をもたらすだけで失業率は改善しないとみられています(フリードマンらの主張)。

中国で財政金融政策が可能になった1990年代後半からみてみると,中国の物価上昇と失業率にはほとんど関係がありません。(ちなみにこの18年間の相関係数は-0.27)18年というと長期なので,いろいろ期間を区切ってみましたが,短期のトレードオフを示すフィリップス曲線が描けたのは,1995年から1999年だけでした。皮肉なことに財政金融政策が可能になった1990年代後半は物価上昇は招きながらも財政金融政策が失業対策には有効だったといえそうです。

1407ChinaPhilippsCurve2.jpg

1997年から朱鎔基の国有企業の戦略的改組がはじまり,多くの一時的帰休者が発生しました。朱鎔基は当時の既得権益層から猛反発を受けていたわけですが,まがりなりにも大量の国有企業の民営化が進んだのは,マクロ経済政策がうまくいったからかもしれません。

ここ10年失業率は4%から4.3%の間に収まっているにもかかわらず物価上昇率は大きく変動しています。つまり近年は物価上昇率と失業率の間になんの関係もないことになります。これをどう解釈するべきでしょうか。

一つは,中国のマクロ経済政策は失業率低下には寄与しないということです。例えば2008年から発動された3兆元の総需要拡大政策は失業対策にはならなかった可能性があります。

二つ目は,長期的に中国の失業率はすでに自然失業率になっていてこれ以上減らそうとしても減らないある意味ほぼ全員が雇用された状態になっているということです。とくに金融政策はマネーサプライを増加させてインフレを招くだけで,実体経済に何も影響を及ぼさないことになります。実際近年のバブルぶりはそれを象徴しているようにもみえます。

三つ目は,失業率統計が不完全であるということです。おそらく多くの人はこの点に注目すると思います。実際大学生の就職難や農村から都市部に出てきた農民工の数などを考えると,この失業率は低すぎるようみえるかもしれません。

人口統計によると経済活動人口は約7億6000万人います。4億ほどが農村経済活動人口になっています。都市部での3億7000万人が労働人口とみていいでしょう。失業統計では労働保障部門に登記している求職者数だけですから,統計で把握されているのは都市登記失業者数の900万人です。大学生の新卒数が700万人ほどいるわけで,それと比べてもあまりにも低い数値といわざるをえません。

統計数値が不備なのか,はたまた地元政府が失業率を低くするように操作しているのか,なんともいえませんが,その結果,フィリップス曲線が観察されないというのは,経済政策を実施する政策当局にとって政策は無効だと暗示しているようなところもあります。


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2014年07月15日

長江流域のウォーター・フットプリント

Economic Systems Researchに論文が掲載されました。(こちら

Tomohiro Okadera, Nobuhiro Okamoto, Masataka Watanabe & Jaruwan Chontanawat (2014) Regional Water Footprints of the Yangze River: An Interregional Input-Output Approach, Economic Systems Research, Published online: 10 Jul 2014

論文要旨
 近年,他地域間産業連関モデル(MRIO)を用いてウォーター・フットプリントを計測する研究が増加している。本稿では,輸入の取り扱いの違う長江流域他地域間モデルMRIOを利用してウォーター・フットプリントの推計値の違いを確認した。輸入を含んだ他地域間モデルでは11%ほどウォーター・フットプリントを過大推計してしまう。この過大推計値は水豊富地域の社会的公平性の議論にも影響する。
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2014年07月08日

2014年6月読書ノート

2014年6月読書ノート



新自由主義が注目されるようになって,ハイエクとフリードマンはその代表として論じられることが多いです。市場メカニズムに絶対の信頼をおくという面では,ウィーンもシカゴも同じなのですが,本書は経済学という分野では違うということを整理して示しています。

方法論やマクロ経済学については大きく違うということを改めて認識できました。


<経済>

玉村千治・桑森啓(2014)『国際産業連関分析論―理論と応用 (研究双書)』日本貿易振興機構アジア経済研究所 アジア表を理論的に位置づけ、歴史と特徴を俯瞰。国際産業連関分析の基本として生産波及を紹介。乗数の分解、家計の内生化、垂直分業、価格モデルを応用例として。

大垣昌夫・田中沙織(2014)『行動経済学 -- 伝統的経済学との統合による新しい経済学を目指して』有斐閣 人々が利他的な社会選好を持っていても市場競争下で不平等を変えることができない時はあたかも利己的に行動する。利他的行動は自己内部だけでなく所属集団の規範や価値観も影響。

川越敏司(2013)『現代経済学のエッセンス: 初歩から最新理論まで (河出ブックス)』河出書房新社 市場の分析こそ現代経済学の中心テーマ。一国ないし世界の貧困を撲滅し経済を成長させるには。市場、交換と貨幣、失業とインフレ、情報格差と不確実性下での意思決定、外部性、交渉、経済成長、宗教と経済成長。

マーク・スカウソン(田総恵子)(2013)『自由と市場の経済学: ウィーンとシカゴの物語』春秋社 自由放任の流れを汲むウオーストリア学派とシカゴ派。シカゴは実証を重視しウィーンは定性的、市場の失敗についてウィーンは一貫して自由をシカゴは立場が変化。貨幣,マクロ経済学は対立。


<中国>

小林善文(2014)『中国の環境政策〈南水北調〉-水危機を克服できるのか』昭和堂 黄河の断流こそが南水北調の原点。黄河の水資源管理、河西回廊、新疆、中国西南の怒江、瀾滄江、金沙江、淮河、長江中下流域の湖沼、用水権取引の事例、環境教育、鄱陽湖生態経済特区南水北調の課題と展望など。

齊藤哲郎(2014)『チャイナ・イデオロギー』彩流社 中国共産党のイデオロギーは公式(顕教)としてマルクス・レーニン主義、毛沢東思想があり、その他は密教と位置付けられる。90年代の新左派・自由主義派論争は密教内部の葛藤。思想の抑圧が反体制イデオロギーを生み、これも密教として存在。

林良嗣・黒田由彦・高野雅夫編(2014)『中国都市化の診断と処方-開発・成長のパラダイム転換』明石書店 経済的利益を志向する近代都市化の問題を診断し処方箋を書く環境臨床学。南京市、長春市郊外、農村のゴミ問題、上海田子坊開発、日本の由布院温泉の開発などシンポ報告集。

南亮進・牧野文夫・郝仁平編『中国経済の転換点』東洋経済新報社 日本は60、台湾は65-67、韓国は66-73に転換点を通過。中国は2000代中頃の労働不足が言われながらも転換点は未通過。分断された労働市場、土地制度が妨げる。転換点は格差を縮小させるが中国はそれも来ていない。

張剛(永井麻生子王蓉美王彩麗)(2010)『アリババ帝国』東洋経済新報社 英語教師から対外経済貿易合作部での公式HP開発からB2Bのアリババを立ち上げる。孫正義からの出資、ebayとの戦い、タオパオやアリペイシステムの構築、香港での上場まで。

<社会>

木内信蔵・山鹿誠次・清水馨八郎・稲永幸男(1964)『日本の都市化』古今書院 60年代の3大都市圏への人口集中、大都市の都市化、農民離村、出稼ぎ型流出は低賃金労働の源泉、若年労働力の流出、大企業による吸収、郊外の都市化など。

伊藤善一編(1980)『経済の変動』朝倉書店 55~75までに三大都市圏に三千万から五千万に、地方圏六千万で推移。都市化で公共投資は鉄道、電力、通信などから住宅、ゴミ処理、街路、公園へ変化、GNP比9%にまで上昇。情報の集積と交流のために地方大学の整備を。

青木栄一・白坂蕃・永野征男・福原正弘編(1979)『現代日本の都市化』古今書院 46年に特別都市計画法で被災都市の復旧、55年住宅公団法、59年首都高公団法が成立。62年の全総開発計画で大都市化の抑制へ。68年都市計画法が全面改定、土地の合理的利用の方法を定める。

平野克己(2009)『アフリカ問題―開発と援助の世界史』日本評論社 サブサハラアフリカは多くの農民が農業に従事。土地の生産性が向上せず、穀物輸入になる低投入低収量の農業。経済成長率が低いがゆえに資本装備率が高くなり、低投入低収量がもたらす食糧価格の高さが低雇用高賃金に。

塩田光喜(2006)『石斧と十字架―パプアニューギニア・インボング年代記』彩流社 村同士のもめ事による数々の毒殺の陰謀、白人統治は復讐と陰謀の連鎖を抑えたが、土着儀式消滅の危機に。白人がいなくなると、戦争の怨みはマガリで、新たに発生したトラブルは賠償で芽を摘むようになった。

古松紀子(2013)『教育の経済学』日本評論社 子の教育選好が異なる親によって子の人的資本の格差を導く。この時公的教育を行い私的教育を補助することは望ましい。個人の教育選択が資源配分の非効率を生み出す場合高等教育への補助金も正当化されうる。

濱中淳子(2013)『検証・学歴の効用』勁草書房 大学学歴の効用は増大、大学時代の学習習慣や読書が経済的効用を左右、女子の大学進学は正規非正規、結婚ともに効用をもたらす、専門学校は要資格職のみ効用がある、院卒の効用はかなり低い。しかし社会では効用低下が言われる。

釘原直樹(2013)『人はなぜ集団になると怠けるのか - 「社会的手抜き」の心理学 (中公新書)』中公新書 社会的手抜きとは集団で仕事をする時の方が1人でする時よりも1人当たりの業績が低下する現象。個人評価がない時や努力する必要がない時、他者同調などが影響。罰と報酬、評価方法、集団目標の明確化などが必要。


<その他>

野口悠紀雄(2002)『「超」文章法』中公新書 論述文が成功するかどうかは適切なメッセージがあるかどうか。適切とは一言でいえるもの、書きたくてたまらないもの。序論本論結論で書き、書き出しとおわりは重要。比喩、具体例、引用は自説を補強。

倉島保美(2012)『論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)』講談社ブルーバックス 総論から書く、一つのトピックだけ、要約文で始める、補足情報で補強、パラグラフを接続、パラグラフを揃える、既知から未知への流れで、という7つのルールがパラグラフの基本。

伊丹敬之(2001)『創造的論文の書き方』有斐閣 「創造的論文とは、仮説の発想と仮説の論証の二つの創造性が豊かにある論文」この二つの創造性に加えて研究の創造性が伝わるように説得的でわかりやすく書かれたものが創造的論文。

石原武政(2007)『「論理的思考のすすめ-感覚に導かれる論理』有斐閣 複雑怪奇な現実の本質から理論を考える。しかし理論は理論のルールで決められており、理論的には、というと人は萎縮する。論理的に考えているはずなのに言葉にしようとしてできないことがある。論理とは何か?

ちきりん(2011)『ゆるく考えよう-人生を100倍ラクにする思考法』イースト・プレス 経済力、社会的規範、自分のプライドや保身が自由に生きることを妨げる。自由に生きないことと引き替えにそれなりの人生を手に入れた。目標は高くし過ぎない方がラクに生きられる。

ちきりん(2011)『自分のアタマで考えよう-「知識」にだまされない「思考」の技術』ダイヤモンド社 知識は過去の事実の積み重ね、思考とは未来に通用する論理の到達点。なぜ、だから何?と問い、視覚化で思考を踏まえ、自分独自のフィルターを見つけること。

向後千春・富永敦子(2007)『統計学がわかる-ハンバーガーショップで無理なく学ぶ、やさしく楽しい統計学』技術評論社 ハンバーガー店のデータで,平均と分散、データの分布を確認、カイ二乗検定、t検定、分散分析から「違いを調べる」。3つ目の店が出来たら分散分析で。

向後千春・富永敦子(2009)『統計学がわかる 【回帰分析・因子分析編】』技術評論社 アイスクリームと最高気温に関係はあるのか、相関係数、回帰分析。より正確に相関関係を把握する偏相関、複雑なアンケートを相関行列で相関を明らかにし、因子分析を。

宮下裕介(2005)『海外経験ゼロ それでもTOEIC900点』扶桑社 1000時間投資すれば900点は可能、トレーニング日数と時間を記録、リスニングは正しい発音、シャドウイングができれは書き取り、意味理解が可能だしリーディングも伸びる、重要な文書と単語は書く、など。

近藤雅昭(2012)『最短でTOEICテスト900点を超える方法』ベレ出版 できるものできないものの仕分けが肝心。900点を超えても自信があるとは言えないが、実際その状況に置かれれば間違いなく短期間で対応可能なレベルにはなる。出張やプレゼン、旅行で得をすることは間違いない。

鳥飼玖美子(2002)『TOEFL・TOEICと日本人の英語力-資格主義から実力主義へ』講談社現代新書 資格試験は英語を学ぶ目的として成果を測定するもの。しかし数値で表しにくいものがある。所詮スキルじゃないかというのは歪んだ言語観、文化に敬意を払い正当な評価で持って学ぶこと。

小島寛之(2014)『数学は世界をこう見る-数と空間への現代的アプローチ』PHP新書 整数を倍数(イデアル)集合として見ることにより、素数や分数が有限個の要素からなる加減乗除に閉じた代数に。有限の空間は図形を理解しやすくし、群の代数概念へ。図形を素数と同じように扱える。

北条かや(2014)『キャバ嬢の社会学 (星海社新書)』星海社新書 「カオとカネの交換システム」の一形態、キャバクラ。客であること・キャバ嬢であることの前提の上で恋人や友人のような関係が演出される。素人でありながら玄人の技術が必要。客を人として大切にしながら客として割り切る。
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2014年07月03日

『東亜』COMPASSへの連載第3回目


霞山会の月刊誌『東亜』1月号から,3ヶ月に1回のペースで時評を担当しています。

第3回は
「『国家新型都市化計画』を労働,土地,資本から読み解く」
です。

リードより。

 本年三月に中共中央および国務院から《国家新型都市化計画二〇一四年−二〇二〇年》が発表された。日本ではあまり注目されていないが,本稿はこの国家新型都市化計画を生産要素である労働,土地,資本という観点から読み取り,中国の新型都市化政策は農民工の都市定住数に大きく依存した形であることを示す。
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