2016年10月26日

国民投票以降のイギリスの将来は?

今日は趣向を変えて、イギリスのEU脱退についてのトークに参加して来ました。

Prof Michael Dougan: What is the future for Britain in Europe after the Referendum?

ドーガン教授はリパプール大学でEU法、憲法など法律の専門家です。

スピーチは短めであとはディスカッションでしたが、話の要約を備忘録として。

・これからUKは内部的な挑戦(UK法の改定、スコットランド国民投票など)と外部的な挑戦(例えばアイルランド、フランスにおける国境の取り扱い(注))にある。
・EU条約、UKは加盟国としてずっと特別に扱われていた中で、UKは何が国家利益なのかそれを特定する必要がある。これからの交渉はUKが一国として再定義される過程である。
・脱退過程は、知られているように来年3月UKが通知して、EUが委員会を立ち上げ50条に基づき進められる。前例がないし、途中で気が変わったなんていうこともできない。もし再度EU加盟となるとすべての特例はなくなるだろう。300万人がUKで働いているし、逆もしかりなのでこの取り扱いは難しい。
・脱退が同意されると、移行期の取り扱いが重要となる。得るものがあるわけではない。損失を小さくしていく過程である。
・いい意味では、これまでEU法に縛られていたものがとれる。実際 スイス、ノルウェーは特別にされているが実際にはEUが上にあるので例えば一つのマーケットと言われれば聞き入れなければならない。
・北アイルランドは難しい問題。UKの中でもっともEUの農業補助金を受けているし、政府雇用も多い。

(注)話ではよくわからなかったが、移民管理の特別な措置が行われている模様。
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2016年10月18日

中国経済は脅威となるか

China’s Economy: Powerhouse, Menace or the Next Japan?
Mr. Arthur R. Kroeber (China Economic Quarterly)

今回のSOASのイベントはChina's Economyの本の著者であるクローバーさんの講演。



以下は講演メモ。


中国は成長、貿易、投資でも大きな存在になった。

この成長には以下3つの要因が考えられる。

一つは、他の東アジアと同じように東アジア国家モデルであった。農業における余剰労働力を活かしつつ、政府による政策、インフラ、金融が整えられ、製造業の輸出が大きく伸びた。ただ他の東アジアとは違うのは大量の外資導入と国有企業の存在である。

もう一つは移行経済で効率化したことである。計画経済から市場経済で資源が民間に配分されていく過程があり、一般に民間に資本が移行し高い収益率がもたらされた。国有企業でも民間企業が国有企業を囲み、競争環境を激しくしてきた。少なくとも、民営化よりも競争が国有企業の効率化をもたらした。

三つ目は、統治に特徴がある。中国は中央集権化されているが実際には分権化された状態である。投資については地方政府が決める部分も多い。中央が抑えながらもボトムから競争が発生する。

中国の経済的決断Economic Decisionには二つの制約がある。

一つは内部制約。共産党が中心であることを求めつつ、成長を最大化している。これは経済コントロールと規制緩和が衝突する。

もう一つは外部制約である。他のアジア諸国は米国の保障の下にあり米国の市場を利用できた。中国はアメリカと敵対していたために外国資本を入れることによって世界市場アクセスを改善した。米国に合わせながら中国ルールの確立に向かうのが一つの制約だろう。
 
問題は、資本産出比率が低い(1:1.5、先進国は3:1だという)。資本蓄積のスピードが速くなってしまい、過剰資本の問題を生んでいる。資本を必要なところに配分されるようにすることが中国の経済的挑戦だろう。

もう一つのは人口構造である。社会の高齢化が進み、2020には日本と同じで2人の労働人口が1人の高齢者を支えることになる(アメリカは3人)。日本のように低成長になる可能性がある。

中国はどうするか。楽観悲観が混在している。技術的な成長ができ、資本配分がうまくいけばまだ数10年は成長が可能かもしれない。あとは次の党大会で中央常務員会のメンバーがどうなるか。習近平は経済改革にかなりコミットしている さまざまな社会的要素に党の関与が増えるかもしれない。例えば、競争が激しくなって国有企業、地方の国有企業を退出させなければならないときにどうするか。シンガポールのように一党独裁でありながら経済的な成功する可能性はなくもない。悲観的には金融崩壊の可能性だ。負債が顕在化すれば日本のように経済は長期的に沈滞する可能性がある。

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2016年10月11日

個人の独立(Individualization)

今日SOAS恒例月曜セミナーは、中国の個人がどのように育つかという問題。

Educating the Chinese Individual: Political Ambitions and Processes of Individualization
Professor Mette Halskov Hansen (University of Oslo)

Hansen教授はSOASの卒業生で、そのため現地調査による参与観察によって中国の個人がどのように個人として独立していくか(いわゆるIndividualizationの過程)を分析しています。

そもそもIndividualismというのは個人主義と言われ、西洋社会の中で注目されてきた概念です。アジアは比較的個人の概念が弱く、「空気を読む」という言葉で知られるように、個人が前面に出るよりは社会を立てる傾向があります。

西洋では、所属組織(家族、階級、性別、制度(教会)など)からの独立が進み、福祉でも伝統的な家族で面倒を見るというものから、社会で福祉を補うようになって、個人が独立してきました。

一方、中国は皮肉なことに政府、あるいは著名な知識人によって封建主義からの脱却というスローガンの下、個人の独立が行われてきました。つまり国家主導による個人の独立過程です。改革開放以降は経済の自由化、制度の変化により、市場での私有化の概念がすすみ、個人が独立した存在として成長してきています。

Hansenは中国浙江省の農村地域にある公立学校を事例にその個人の独立化を考えようとしました。

例えば
Case1 新社会主義における個人の教育では、良い共産主義者としていまだに雷峰同志に学べとしてあるべき個人像が学ばれている。しかし学生も教員もカリキュラムとして学び教えており、形骸化が見られる。

Case2 生徒会での経験
 学校側から生徒会の立ち上げが提案され、生徒側から会長選挙を選ぶ際には先生からの介入が強い。生徒は学校を良くするとかの方針を述べることを許されず、自分は何者かを示すよう求められる。

Case3 学校集会
 学校の精神などを学ぶときに学校集会が開かれ、そして熱狂の中で個人が自己を吐露することがある。

彼女の結論としては、西洋的な個人は社会や政府への反抗で生まれてきたけども、中国のように個人は社会や制度の中でも生まれるのではないかとしています。

この議論はやや悩ましいと思いました。一つは学校を社会のミニチュア版としてみることの妥当性、もう一つは参与観察だけなので、個人が独立してきているのかどうかはなんともいえないでしょう。

むしろ経済学的には市場経済の中における「関係」の存在がどれだけ減ってきたかによって個人が独立しているというのを見ることが可能ではと思いました。

興味がある人はこちらで本が買えます。
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2016年10月04日

留守児童をみる祖父母の役割

さて、滞在先の大学では、先週新入学の学生登録、今週から学生の授業が始まりました。そして研究セミナーも毎週何かしら開催されるようになり、ロンドンではまさに学問の秋という感じです。

さっそく面白そうなセミナーがあったので、参加してみました。

今日はその備忘録。

Grandparents and Grandchildren in Rural China
Professor Merril D Silverstein (Syracuse University)

高齢化と一人っ子政策で少子化が進む中国人口で、人口構成の変化をミクロ面から探りつつマクロ的な解釈を加えるという面白い研究でした。

内容を簡単にまとめておくと、

1)高齢者人口の伸びは若者の出稼ぎによって農村の方が早いとみられており、将来的な労働力人口の減少、そして政治的には軍隊編成にも影響が出る可能性がある。

2)家族構成の基本は、祖父母4人、親2人、孫1人になってきている。この結果、農村では祖父母が孫の世話をすることになる。農村から出稼ぎに出ることによって6000万人の留守児童がいるという。

3)祖父母が孫をみるという現象について、協力家族corporate family(経済体としての家族、家長が家族資源を配分し家族の幸福を最大化する)?相互援助?保険政策?文化義務?投資戦略?などの仮説がある。

4)農村での調査の結果、孫の世話に対して親世代が祖父母世代に送金するという行為が非常に大きく、その送金によって総父母の健康、長寿が支えられ、さらに世話ができるという。そのためフルタイムで世話をするケースが増えてきている。パートタイムで世話をする家族に比べて、長寿であるという結果もある。

5)情の近接性はやはり高く、祖母の方が祖父より強い。結果、孫が祖父母の面倒をみるケースも調査結果から16.3%という結果もある。

6)結論として、祖父母の存在は出稼ぎに出る家族の物質的な生活の満足にはかかせず、孫の存在は祖父母の面倒をみるという点でも重要な存在である。


ディスカッションを通して、留守児童問題を好意的に捉えているのが印象的でした。確かに中国全体でもみても、農村の労働力を沿海に配分し、農村の祖父母が農村労働力の支えになっているとみれば、十五区全体の人口の年齢別資源配分は有益に配分され、中国全体としての利益(経済成長)は最大化されたといえるのかもしれません。

面白い報告でした。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 岡本式中国経済論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする