2010年12月18日

農民の土地強制収用問題<岡本式中国経済論13>

中国では,急速な経済発展に伴い,都市化が進み,都市部近郊の農村開発が進んでいます。

以前は農村だったという土地も多いのですが,開発されて多くのマンションが立ち始めています。北京オリンピックのメーン会場である「鳥の巣」などは私が北京にいた1997年−2000年は農村でした。

都市化が進み,企業や住民が増加し始め,経営する場所や住む場所が必要になってきます。そこで発生するのが農民からの土地収用問題です。多くの土地収用が強引に行われているようで,最近また報道が増えてきました。

報道を見てみましょう。

MSNニュース

雲南で土地収用めぐり農民ら200人が抗議 警察隊と衝突し23人負傷、安徽省でも
2010.11.5 21:33
 5日付の中国紙、東方早報などによると、雲南省昭通市で2日、道路工事に伴う土地強制収用で補償に不満を抱いた農民ら約200人が道路を封鎖するなどの騒動となり、出動した警察隊と衝突した。この騒動で警官14人を含む23人が負傷し、車両など48台が大破した。
 香港からの情報によると安徽省池州市でも3日、立ち退きの補償に不満を持つ住民数千人が道路や橋をふさぎ、出動した武装警察部隊と衝突した。住民ら30人あまりが負傷し、警察車両2台が壊された。中国では10月以降、四川省都江堰市、広西チワン族自治区梧州市でも農民と地元当局などとの大規模な衝突が発生している。(上海 河崎真澄)

Record China

農民の抗議運動が相次ぐ背景とは=中国各地で農村の土地収用が拡大―中国紙
Record China 11月4日(木)7時11分配信

2010年11月2日、新京報は、全国20省・市以上で農村での土地収用が拡大していると報じた。

農村での土地収用が広がっている背景には、2004年に公布された国務院の通知「改革の深化に関する土地管理の決定」があるという。中国は食料確保のため、耕地18億ムー(約1億2000万ヘクタール)確保の目標を掲げている。そのため農地から住宅地、工業地、商業地への転換する面積は厳しく規制されてきた。

2004年の通知により、新規開拓農地面積を別の場所での農地転用面積に充当することが認められた。ある村の住宅地を農地に転用すれば、別の村の農地を商業地などに転用できるという寸法だ。

この規定は一部の認可された試行地域にのみ適用されるものだが、大々的な都市開発が可能になるとして乱用されるケースが目立つ。広がりを見える中国地方政府による「エンクロージャー(土地囲い込み運動)」。我が家を奪われる農民たちには反発が広がり、各地で抗議活動が相次いでいる。(翻訳・編集/KT)


(1)中国の土地制度

中国は社会主義国なので土地は私有制ではありません。所有権はあくまでも国家にあります。この国家の所有権というのは国有企業改革でもそうですが,実際には曖昧な概念です。誰が持っているかはっきりしないことが多く,実際上は政府の役人のものとして取り扱われることが多いです。

都市と農村で土地制度が違います。都市の土地所有権は国ですが、使用権を売買したり,使用権を担保にしてお金を借りたりすることが可能です。しかも使用権は70年認められるので,ほぼ所有権と同じように経済学的な取引が可能になっています。

農村では土地は集団所有になっています。農村の基層政府(県や郷鎮)が所有している形になっており,農民には農業をするための請負権が分配されています。請負期間は30年となっています。(1978年の改革開放時に請負制度が導入され,最初は15年でした。1993年に大部分の農村で請負期間が30年に変更されています。)

問題は,経済的に取引が不自由な点です。請負権は売買したり,お金を借りるときの抵当にすることはできません。ただし出稼ぎすることになって土地を使用しない場合,使用権は農業や農家の宅地に限定して移転は可能となっています。ただ実際の土地は不足しているので請負権を各農民に分配出来ていないのが現状のようです。土地は農地としての条件で他の農家や企業に貸出すことは可能となっていますが、公共目的のために政府が農村の土地を収容することも可能です。ただし農民の自主的な意思に基づくことを確認して、適正な額の補償金を払って収用することになっています。

基層政府が農村の土地を非農業用地として使用する場合,国有化の手続きを取らなければなりません。つまり建前は中央政府の国策以外での開発はないことになっています。地方の基層政府が勝手に開発できないのですが,実際は地方政府が農民から土地を取り上げて、住宅開発を行い,それを「小産権」物件として、安く販売していることが普遍的になってきています。

*「小産権」とは,非合法的に農民から土地を取り上げて,開発した物件。市価より2−3割安いとされる。

記事にもあるように,2004年の国務院『土地管理を深化、改革、厳格化するための決定』が地方での土地収用に拍車をかけたようです。この「決定」では,開発計画に符号するならば、村や鎮の所有する土地の使用権を移転して良い、ことになっており,事実上国有地への転換をすることなく,勝手に住宅地,工業地へ転換できることになりました。

また2006年の国土資源部『合法的に土地を管理、節約、集約し、社会主義新農村建設を指示するための通知』も地方の基層政府による土地収用を増やしました。社会主義新農村建設という建前で都市建設用地を増やし、集団の非農業用地の使用権移転の試行を行うことが可能となったのです。実際には試行が試行でなくなり,後戻りできないほどの本格実施になってしまいました。

(2)需要独占

土地収用の問題は,その村の基層政府のみが農民の土地の需要者であるという政府の需要独占になっていることです。となり村の基層政府が収用することはできませんし,中央政府が入ってくることはできません(普通,基層政府は中央から行政を請け負っている立場です。)。土地という生産要素は移動させることができないので,集団所有という制度である以上はその土地の集団に要素の利用権があることになります。

土地(請負権)供給者は農民です。多くの農民が土地(請負権:以下は普通に土地とします。)を自由に販売できるとなると,農民としては価格が上がれば土地をより供給しようとするので右上がりの供給曲線になります。一方,土地を買いたいという業者が完全競争的であるとすると,土地価格が高いときにはあまり需要せず,価格が下がるに連れて多くの土地を買おうという気になります。この意味で土地需要の曲線は右下がりになります。

このような土地供給者や土地需要者が多数存在し,完全競争的であるとするならば,需要と供給が均衡するところで価格が決定します。このときどちらも満足する状態です(いわゆるパレート最適状態)。

ところが中国農村では,その土地の基層政府のみが需要を独占する状態です。しかも農民よりも強い立場にありますので,価格とは関係なく需要量を決めます。(需要曲線が垂直になります。)図でも示されるように需要独占の需要曲線と供給曲線の均衡点は完全競争の均衡点よりも左下にあります。つまり価格は低く抑えられ,土地取引量は過少になります。


図 需要独占の状況
DemandMonopoly.jpg

しかも価格(土地の補償額)を低くして取り上げることによって基層政府は独占利潤を得ることになります。完全競争と比べて明らかに非効率な状態となっています。

(3)今後の土地収用問題

今後中国が経済発展を続けていく上で開発用地の取得は大きな課題です。土地に対する需要は潜在的に大きいです。一方で社会保障制度の恵まれていない農民にとっても土地は食べていくための重要な生産手段であり,生活手段でもあります。土地から得られる収穫物はもちろんのこととして土地自体にも自由な処分をする権利を農民に与える必要があります。

コースの定理というのがあります。その定理によれば,所有権を設定することによって自由に販売でき,土地などの要素が市場メカニズムによって最適に分配されることを保証しています。

上の分析でも明らかなように,問題点は(1)土地を需要できるのがその土地の政府しかないこと,(2)農民には請負権しかなく土地の最終処分権が曖昧なこと,にあります。土地という生産要素の取引市場を設定することが,農民の利益を守ることになるといえるでしょう。その意味で土地の市場経済化という改革が今後の中国の大きな課題になってくるように思われます。

とはいえ,農業というのは食糧供給の大元ですので,国家の安全保障にもかかわる部分です。農民に自由に土地を売らせるようにすると農業生産高の急激な低下を招くことにもなりかねません。安定的な農業生産を確保しながら,農地の自由取引をどこまで認めるか,市場経済国も含めて現代経済社会の大きな課題でもあります。



<参考文献リスト>
阿古智子(2009)『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』新潮社
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 岡本式中国経済論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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