2011年01月20日

都市の経済学

ジェーン・ジェイコブズの『都市の経済学』を読んだので備忘録にまとめておきたいと思います。

ジェイコブズは都市経済学,地域経済学のリーディングリストに必ずあげられる本です。経済学者ではないのですが,都市に関する分析をしたジャーナリストとして有名な人のようです。(2006年没らしい)

さて,本論。

ジェイコブズは,国の経済を空間的にとらえています。

大部分の国はまったく異なる諸経済の集合ないし寄せ集めであり、豊かな地域と貧しい地域がある。
都市は地理的遠隔地の経済を含めて他地域の経済のあり方を左右する力を持つ点でユニークな存在である。

国の中で都市システムを考えてみますと,首都のように圧倒的な人口をもつ都市,二番目の都市(日本では大阪)というように発展している地域と田舎という組み合わせで出来ています。そして都市は他地域に影響を与えるという意味でユニークな存在だと述べています。都市は人や財,企業を周辺の地域から吸収したり,吐き出したりして,周辺地域に影響を与えることになります。

その後,フランスのバルドーが芸術家の街として出来上がる過程を紹介しながら,その街の発展の牽引力は他の都市との関係であることを強調しています。街が自ら発展するというよりも他地域の都市の市場や仕事,生産などの影響を受けながら,相互依存で発展することが強調されます。

全体をつらぬく主張は,以下のようにまとめることができると思います。

都市は今まで他地域から移入(注)していた財を都市内で生産できるようになっていく移入代替の過程で形成される。都市の形成には,都市内部の市場、仕事(雇用機会)、生産技術、他地域からやってくる移植工場、蓄積された資本が相互にそして同時に一地域に働きかけて、都市となる。

(注)本文では輸入という訳が当てられていますが,地域経済学での他地域との財交易は移出入という言葉を使います。

都市はかつて移入していた財を自力でつくる財で代替することによって都市が成長し多様化する,ととらえます。都市の成長と多様化というダイナミズムは,移入代替というイノベーションによって発展する、と考えられています。

この移入代替をもたらす力として5つの要因,市場,仕事,技術,移植工場,資本の役割を強調しています。それらをみてみましょう。

(1)都市の中で,農村的財が需要され,他都市で生産される財が移入されています。その需要が増大していくと都市市場が拡大します。これが都市市場の拡大で,他地域の移出を刺激します。

(2)都市では移入代替を始めることによって今まで生産しなかった財を生産するので,仕事の量と職種が増大していきます。

(3)都市の中にあった企業が都市内部の過密化などの影響を受けて,近隣農村に押し出されていきます。

(4)周辺農村では,都市部で開発された生産技術が利用されるようになります。都市の内部でも生産技術がスピルオーバーされ他の企業に行き渡っていきます。

(5)都市の経済が成長するにつれて税収が集まるとともに住民の貯蓄も増えて,資本が成長していきます。

この5つの要因が都市をダイナミックに拡大させていく働きになるといえます。

その後,この本では都市発展の問題点について触れられていきます。

まず,供給地域が植民地経済的であることが指摘されます。供給地域とは,財の種類が限られており,生産が特化して,遠方の都市にその財を供給しているという形です。この場合,自地域が移入する財を代替する生産が始まらず,一次産品などのような特殊な財の生産に特化しているので植民地経済ともいえます。

二番目は,住民排除の問題です。これは農村で生産技術が向上した場合,今までの生産高を保つのにより少ない人数で生産可能になるということです。これにより農村では余剰労働力が顕在化します。農業生産から住民が排除されていくことになります。農村で人が滞留し失業したままになるか,都市への移動をはじめるかにつながっていきます。

三番目は,ある地域は住民に見捨てられるということです。自分の地域で移入代替が進まない場合,仕事は増えません。この場合,地域が見捨てられ,多くに人が仕事を求めて他地域に移住していきます。

四番目は,誘致した工場と地域との関連です。工場が他地域に移植しても必ずしもうまく工業化が進むわけではありません。都市が他地域に吐き出した企業は,他地域に移植されていきますが,今までいた都市の他の生産者や顧客とのつながりを保っているので,まったく関係ない地域に移植することはうまくいかないことが多いと指摘しています。ただし台湾の輸出加工区に進出してきた企業は,台湾人が経営や生産技術を真似することによって,台湾の企業になっていた過程が紹介されます。台湾では移植工場が自前の工場となり,輸入代替が進んで都市化,工業化が進んだ地域になりました。

五番目は,資本の問題です。例えば,ダムを離れた地域に建設しても建設需要で一時的に発展はしても,長期的にはうまくいかないことが多いです。市場と工場がないと都市化には進まないことが指摘されます。

以上,市場,技術,仕事,移植工場,資本の関連を地域の事例を引きながら説明しています。ポイントは経済活動の拡大はすべて都市との有機的なつながりに依存していること,都市とのつながりを絶って地域経済は発展しないことが強調されています。

地域の都市化と都市経済の衰退について,政府の所得移転政策についても考察がなされています。考えの共通点は都市の貯蓄や所得を農村に移転させても農村の都市化には繋がらないし,都市は衰退を始めるということが説明されます。

借款、地方交付金、補助金で遅れた地域の購買力を支えたとします。それらの資金で生産財や資本を購入することによって経済発展を目指し,都市化を行おうとしても失敗することが多いと指摘します。他地域から移入品を買うためには移出企業の生産拡大による所得増加が必要です。この獲得のためには地域内で生産の多様化とインプロビゼーション(住民の創意を活かす過程)が必要になりますが,補助金や借款ではそれができないとされています。経済発展は自前で(Do it Yourself)行うものであるにもかかわらず,都市からの補助金等ではうまくいかないと主張しています。

都市経済が衰退する原因として,@軍需生産,A貧困地域への補助金,B先進−後進経済間交易の重点的推進が挙げられています。@は再生産に回らず消費されるので経済発展にはつながりません。Aは補助金を出していくことによって都市内の蓄積が減少していきます。Bではとくに後進地域の移入のために銀行借款などが使われるので,結局は都市の貯金が後進地域の購買力を支えることになります。返済不能になったりすると(いわゆる不履行)都市の貯蓄を食いつぶしたということになってしまいます。

以上が,ジェーン・ジェイコブズの『都市の経済学』概要です。

この本を読んで,思い出したのが赤松要の「雁行形態論」やヴァーノンの「プロダクトサイクル理論」です。

ジェイコブズの

都市は移入代替の過程で生まれるものであり,都市形成には市場,雇用,技術,工場,資本という5つの要因が絡んでいる。

という主張(仮説)は「雁行形態論」や「プロダクトサイクル理論」の空間経済バージョンじゃないかということです。

雁行形態論では,経済発展の過程と生産量の関係を以下のように考えます。

最初は生産物の輸入が中心です。自前で生産を始めていくことによって自国内生産が増加し,輸入が減少していきます。

自国の生産が増加していって市場が成熟すると頭打ちになってくるとともに輸入はほぼなくなっていきます。

自国の生産品は市場を求めて他国へ販売されていきます。つまり輸出の増加につながっていきます。

他地域がその財を輸入しはじめます。その地域が自前で生産をしていくと,輸出していた企業の生産は減少していきます。

このようなサイクルが繰り返されることによって生産される財が高度化していく,あるいは他地域に伝播していく,ということを示しています。新製品のサイクルとしてみるとプロダクトサイクル理論ですし,国でみると開発経済学でいう雁行形態論です。

Flying Geese.jpg

雁行形態論とジェイコブズの都市形成論は非常に似通っているといえそうです。あえて違いを言えば,都市と周辺地域との空間的つながりが強調されているという点でしょうか。

開発経済学,国際経済学をやる人にとっても非常に示唆に富む内容になっています。

残念ながら,この本はすでに絶版になっています。訳が読みにくいので,私のお気に入りの翻訳家・山形浩生さんに翻訳してもらって再度復活してもらいたいと願う本の一冊です。

<参考文献>
ジェーン・ジェイコブズ(中村谷口訳)(1986)『都市の経済学―発展と衰退のダイナミクス』TBSブリタニカ
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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