2011年09月22日

行動経済学の基礎

前回,『実践行動経済学』を書評しました。本の内容を紹介するのが精一杯でしたので,他の本も参照しながら,行動経済学が発見している人の意思決定の不合理性を整理しておきたいと思います。(ある意味備忘録です。)

まず人の意思決定を行うシステムには二つあります。

一つは無意識的に感情や情緒で決定する自動システムと呼べるもの,ともう一つは,意識的にできるだけ論理的に合理性を考慮して決定しようとする熟慮システムと呼べるものです。人が判断するときには,前者は小脳や脳幹が,後者は前頭前野で脳が動いているそうです。とくに自動システムが働くと人の意思決定は慣れた道の運転のように,過去の経験に沿って惰性的になります。熟慮システムで意思決定すればいいかというとことはそんなに単純ではありません。熟慮をするときに参考にする情報に対して錯覚や誤解を生じることが多々あるからです。

人の意思決定は,論理的というよりも直感的であり,経験則であったりする「ヒューリスティクス」と呼ばれる方法で物事を決めていきます。熟慮のために脳のメモリを支配させないように,自動的に単純に考えてしまおうとします。つまり,ヒューリスヒューリスティクスとは,人が意思決定する時に、厳密な論理でアルゴリズム的に解を出すのではなく、直感で解を出すことをいいます。

ヒューリスティクスを左右させるものが,@アンカリング、A利用可能性、B代表性,というバイアスです。

@アンカリング効果:最初に印象に残った数字や物がアンカー(碇)となってその後の判断に影響を及ぼすことをいいます。

A利用可能性:ある事象がおきる確率や頻度を考える際に、最近の事例や特徴を思い出すことで、評価することをいいます。

B代表性:典型的と思われるものを判断の基準、答えとして転用することをいいます。

また価値関数で説明される,損失回避の原則があります。人は同額の利益から満足より、損失から受ける苦痛の方がはるかに大きいというものです。あるいは,あるものを失うときの惨めさは同じものを得るときの2倍以上であるというものです。したがってリスク回避的な行動をすることが多いということを意味します。

この原則は,意思決定において常に同じ判断を下すことにつながり,惰性的な決断になることが多いです。ここから波及されるものとして@保有効果,Aコンコルドの誤謬,B選考の逆転,というものが起きます。

@保有効果:自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる現象のことをいいます。

Aコンコルドの誤謬(サンクコストの過大視):先行投資額が巨大だと、損失回避の傾向から人は未来の予測をしばしば誤ることをいいます。コンコルドを開発するときに利益を生まないとわかったにもかかわらず,コンコルドの投資が巨大であったためプロジェクトがなかなか中止にできなかったことから来ています。

B選考の逆転:人の好みは変化します。行動ファイナンス理論では目先の利益に目がくらみ将来の大き利益に目がいかないことを選考の時間的な逆転といい、時間的非整合といいます。将来的には利得が得られるとわかっていても今できないといった現象を指します。英会話学校が続かなかったり,ダイエットが途中で挫折したりすることの説明にもつながります。

この損失回避の原則のために,人は毎回同じ決定を下すということになります。したがって現状維持を好む傾向があり,これを現状維持バイアスといいます。
損失回避の原則:

その他,行動経済学では各種実験からさまざまなことがわかってきています。代表的なものを少し紹介します。

フレーミング効果:意思決定において、質問や問題の提示のされ方によって選択・選好の結果が異なることがあります。メニューでも今日のオススメみたいなものがあるとそこに誘導されてしまったりします。

心の会計:頭の中で大雑把な会計処理をしている。出費に伴う心理的痛みは異なる。現金を使うかクレジットを使うかは人によって痛みが違ってきますし,娯楽で支払うお金の財布のひもはゆるいかもしれませんが,払わなければならない義務的な費用については節約したいと思ったりします。

楽観主義と自信過剰:人は常に自分は平均以上と思うことが多いですし,離婚率が高いと聞いていても,結婚時には自分たちのカップルには離婚可能性はないと考えるものです。

同調心理(群集心理):人の意思決定は,他人に左右されてしまいます。選挙でもそうですが,あの人が当選しそうだな,あの党が過半数を取りそうだなという群集心理があると,人はそこに投票してしまうようです。


後知恵:後から考えると結果の予測が可能だったかのように感じることをいいます。野球の試合の後に,あの回に攻撃をこうすることによって結果が変わる,などとコメントする野球解説者のようなものです。

ピーク・エンドの法則:あらゆる経験の快苦の記憶はほぼ完全にピーク時と終了時の快苦の度合いで決まります。カップルでデートに出かけてケンカしても,最後に「愛しているよ」とチューするだけで,いい思い出になったりします。


このように最近の経済学は意思決定のバイアスを心理学的側面から明らかにしています。この人の非合理性をうまく活用すれば,経済政策にも生かせるのではないかというわけです。

<参考文献>
リチャード・セイラー、キャス・サスティーン(遠藤真美)(2009)『実践行動経済学-健康、富、幸福への聡明な選択』日経BP社
マッテオ・モッテルリーニ(泉典子)(2008)『経済は感情で動く-はじめての行動経済学』紀伊國屋書店
川西諭(2010)『図解よくわかる行動経済学』秀和システム
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育研究活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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