今月の一冊は沼上幹の『組織戦略の考え方』です。人が集団になって組織を作るのは,便益が費用を上回るわけですが(ブキャナン・タロック1979),その組織の問題点をわかりやすく説明しています。経済学的というのではなく,組織を考えるヒントを与えてくれました。
組織で起こるのがフリーライダー。つまり自分は働かなくとも組織が結果をだし,その分け前を楽に得ようとする誘因の問題です。以前は,自分はコアだと信じる大量の学卒採用者システムがありました。自分は出世するとみなが思っていたわけですから,フリーライダーが少なかったわけです。しかし,これからは働き方が多様化してきていますので,自分はコアだと信ずる人も,出世しようとする人もいません。この場合,少数のエリートが周りの社員にフリーライドされても平気でいられるくらいの高い給料を支払うことによって解決できます。しかし日本では賃金格差は難しいので賃金と昇進以外のインセンティブを与えないといけないという難しさがあります。
組織が腐っていくのは、ルールが複雑怪奇化し成熟事業が暇になってくるということが原因です。古いルールに新しいルールが付け加えられていくわけで,組織内で発言権を持つのは,ルールが分かっている宦官タイプであり,その分利益を外で稼いでくる武将が減ってきます。宦官が増え組織内政治家が出てきて,企業業績を高める武闘派が弾劾される可能性も出てきます。
主力事業が成熟すると従業員がヒマになり内向きの仕事を増やしてきます。この主力事業部というのはその組織の本流であったりするので人材を減らすことは難しいし、当該事業部もそれを臨みません。結果,主力事業部はプレゼンの資料の完成度が上がったりするだけの内向きパフォーマンスばかりが向上することになります。
組織に所属する人には一読をすすめます。
<経済学>
八代尚宏(2011)『新自由主義の復権』中公新書 賢人思想と共同体重視の思想と対立し市場を活用し効率的資源配分、公平な仕組みを生かす新市場主義。高速道路などの公共財、環境保全、景気対策、所得再分配、福祉という保険には負の所得税、介護や保育にも適正なサービス価格の設定を。
ブキャナン、タロック(宇田川璋仁監訳)(1979)『公共選択の理論-合意の経済論理』東洋経済新報社 個人が共同行為を選択する意思決定を分析する公共選択。集団を組織化、共同決定することを選択するのは,個人に課される費用と同意を得ようとする意思決定の費用が最小化するときである。
<中国>
佐々木智弘編(2011)『中国「調和社会」構築の現段階 (アジ研選書―現代中国分析シリーズ)
梶谷懐(2011)『「壁と卵」の現代中国論: リスク社会化する超大国とどう向き合うか
城山英巳(2009)『中国共産党「天皇工作」秘録 (文春新書)
<自己啓発>
飯間浩明(2008)『非論理的な人のための 論理的な文章の書き方入門 (ディスカヴァー携書)
山田ズーニー(2001)『伝わる・揺さぶる!文章を書く (PHP新書)
山田ズーニー(2006)『あなたの話はなぜ「通じない」のか』ちくま文庫 自分の聞いてもらいたいことが聞いてもらえるというメディア力。説得は意見と根拠、相手の立場に立ち、なぜを共有する共感、時間と社会とのつながりを意識した自己紹介で信頼を得よう。
出口汪(2006)『論理的なコトバの使い方&文章術』フォレスト出版 論理的に書くための6つのルール、主語述語、言葉のつながり、文と文のつながり、因果関係、イコール関係、対立関係を見る、を使って論理的に文を書こう。要約で文章ストックを増やすとさらに良と。
<社会問題>
細川昌彦(2008)『メガ・リージョンの攻防』東洋経済新報社 企業の人材は活動する場所を選んで国境を越えて移動する。国ではなく地域という単位での競争が熾烈になってきている。グレーターナゴヤ、北部九州圏、京阪神、東京のプロモーションや企業人材を呼び込むアイデア豊富。
戸堂康之(2011)『日本経済の底力 - 臥龍が目覚めるとき (中公新書)
リチャード・フロリダ(井口典夫)(2007)『クリエイティブ・クラスの世紀-新時代の国、都市、人材の条件』ダイヤモンド社 開放性や寛容性や自己表現が経済成長の源泉。アメリカは移民、才能を受け入れてきたが鎖国的になり才能は母国に帰国し人材不足の可能性も。
リチャード・フロリダ(井口典夫)(2008)『クリエイティブ資本論-新たな経済階級の台頭』ダイヤモンド社 何かを創り出すことによって報酬を得るクリエイティブクラスが米国経済の3割を占めるようになった。新しい産業の創造は人間の力、クリエイティブ資本による。
リチャード・フロリダ(井口典夫)(2009)『クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める
リチャード・フロリダ(小長谷一之)(2010)『クリエイティブ都市経済論―地域活性化の条件
吉見俊哉(2011)『大学とは何か』岩波新書 大学を支えていた国民国家がグローバル化で退潮し始め、インターネットという知的空間が広がっている状況は都市が国家に代わり,知識が印刷技術に代替されていった中世の大学危機と相似。大学は自由な空間であり,知の編集とプラットフォームを創出。
木村誠(2011)『消える大学生き残る大学』朝日新書 理系の研究費用が減った国立大学法人化、統合効果が見えない公立大学、国から軽視される私立大学、医薬学部の低迷、法科大学院の失敗、実態4割と言われる就職内定率。問題を抱える日本の大学教育の現場。
三品和広(2006)『経営戦略を問いなおす』ちくま新書 戦略の目的は長期利益の最大化。戦略には汎用性はなく、客観性と普遍性もない。立地、構えと均整が戦略を構成する。戦略は人に宿るものである。経営はサイエンスではなくアートに近いのである。
吉田耕作(2005)『ジョイ・オブ・ワーク-組織再生のマネジメント』日経BP社 組織の問題を自発的なグルーブによって解決に取り組む。仕事の喜びや働きがいを基本とし、話し合いと数値管理によって到達感を明確にする。相互に学び合う組織が競争力向上に。大学でも問題解決型教育を。
沼上幹(2003)『組織戦略の考え方―企業経営の健全性のために (ちくま新書)
清水勝彦(2007)『戦略の原点』日経BP社 戦略とは強みを生かすこと。事業の目的とは顧客を創造すること。何が同じで、何が違うか、何を変えずに何を変えるか。意思決定においてもリーダーは自分の強み弱みを知った上で意思決定する。
<その他>
古川敦(1997)『創価教育学体系概論』レグルス文庫 明確な目的に沿って最小費用で最大の効果を求める牧口教育論。自分自身で価値が創造できるよう、教師は学習方法を側面から指導。教育方法に長けた教師の教育技師論も提唱するとともに、人材確保のために年功序列を廃し、評価導入も主張する。
田中康雄(2009)『支援から共生への道-発達障害の臨床から日常の連携へ』慶應義塾大学出版会 「発達とは予見不可能ななかで、次に続くという果て無き矛盾を宿命として持っている。だからこそ僕たちは希望を持って明日を信じることができる。」診断の後ろにある患者さんの生き様に共感する。
ジョージ・デュポール、ゲーリー・ストーナー(田中康雄森田由美)(2005)『学校のなかのADHD-アセスメント・介入方法の理論と実践』明石書店 不注意、衝動、過活動の特徴を持つADHD。授業参加、学習習慣、課題のやり遂げ、宿題の実行に困難。学校関係者、地域関係者との連携も。
クリストファー・ギルバーグ(田中康雄森田由美)(2003)『アスペルガー症候群がわかる本-理解と対応のためのガイドブック』明石書店 人と関わる能力や意欲に欠け、無目的で固定的な固執、表情が乏しいなどのアスペルガー症候群。早期診断、社会生活技能訓練、相談の場所が必要。
キーナン、カー、ディレンバーガー(2005)『自閉症児の親を療育者にする教育-応用行動分析学による英国の実践と成果』二瓶社 子に学習させたい内容を特定し、行動の頻度と持続時間、ABC分析を行い、介入と強化子付与を行う。嫌悪的な罰手続きはなるべく避ける。行動原理を療育に活用へ。
内山登紀夫(2006)『本当のTEACCH-自分が自分であるために』学研 自閉症の特性を理解し評価して、(構造化された指導法、行動療法、認知理論を活用した)個別化した支援を専門家、保護者、地域のリソースも考慮して全体的な観点から行うのがTEACHHである。
山口薫(2010)『発達の気がかりな子どもの上手なほめ方しかり方-応用行動分析学で学ぶ子育てのコツ』学研 罰の効果は一時的でありほめることが望ましい行為をもたらす。正の強化子(ものによるほうびから社会的承認へ)を用いて、子どもと接する事例集。消去には無視とタイムアウトが有効。
吉田友子(2011)『自閉症・アスペルガー症候群「自分のこと」のおしえ方 (ヒューマンケアブックス)
末吉景子(2009)『えっくんと自閉症-ABAアメリカ早期療育の記録』グラフ社 アメリカ人とのハーフで生まれたえっくんは3歳前に自閉症と診断。絶対によくするとの思いで出会ったABAとつみきの会。日本で馴染みがない中自分で試行錯誤,渡米し、ABA療育を受ける。えっくんの療育史。



