2013年02月12日

『人はお金だけでは動かない』

今日紹介するのは『人はお金だけでは動かない』です。



本書は,最近の経済学,とくに行動経済学の成果をわかりやすくまとめています。

原著タイトルは Economics 2.0 ですので,新しい経済学の動向を示すといってもいいでしょう。2.0としているのは,最近の経済学が仮説を設定し,統計データを集め,実証的に検証されてわかったもの,という流れになっていることを意味しています。

現実を理解するのに便利な成果が紹介されていますが,最後には,統計データをマイニングすることによって得られた発見が一人歩きすることに警鐘もならしています。


本書の中身で,記憶に残ったものを少し紹介。

(1)インセンティブの設定は難しい

この話はよく行動経済学の本にでるものですが、イスラエルの保育所の話。

保育所が子どもの迎えに遅れてくる保護者に、遅れて来ないように罰金を課しました。合理的な人間であれば費用を考えて迎えに遅れることはなくなるでしょう。ところが結果は反対でした。保護者の側に時間を守ろうという気持ちが生まれるはずなのですが、遅刻に値段がつくことによって子守はサービスとなり、それを買うという概念に変わってしまったようです。遅刻は減るどころか増える結果となりました(ウリ・ニージーとアルド・ルスティキーニの研究)。

(2)人は本当に利己的か?

人は本当に自分のことだけでを考えて意思決定をしているのでしょうか。いわゆる「利己的」なのでしょうか。

最後通牒ゲームによる実験によると、そうでないという結果が出ています。(最後通牒ゲームの内容については,前のエントリ

人間行動の黄金律は、人は似ていて、人に似たように報いるそうです。大半の人は互恵性にもとづいて行動します。自分が損することになっても、公正な行動には報酬を与え、不公正な行動には罰を与えるようです。

とある実験があります。模擬の企業内労働市場を作り、雇用主と労働者に分かれます。雇用主が労働者を管理するときに厳しさを変えるというものです。

結果は厳しい管理をしなかった雇用主の方が平均して三分の一高い業績をあげました。厳しく管理せず従業員を信頼する方が業績をあがるようです。

具体的には
25%の従業員は雇用主の期待を裏切る。
20%は信頼、被害信頼にかかわらず熱心に働く。
その他55%は信頼によって自発的に一日誠実に働いた。
となったそうです(アルミン・ファルクと、ミヒャエル・コスフェルトの研究)。


(3)最低賃金は雇用機会を減らす悪法か?

教科書では、最低賃金は雇用機会を減らすというのが定説です。しかし最近は雇用が減るとは限らないという成果が出ているようです。

その理由の可能性として、企業は新しい最低賃金を無視しており、企業はそれまで不相応に利益を得ていたので、最低賃金の上昇に耐えられる、だから低賃金の業種で慢性的な労働力不足が改善するというものです。

ただ弊害もあります。実験によれば、最低賃金は留保賃金(それ以下では職に着きたくないという最低の賃金水準)を引き上げます。一度導入されるとその効果は永続的になりますので、賃金は硬直化します。

雇用は一企業あたり14%増加したといいます。これは企業の雇用の限界費用にかかわっています。最低賃金がないときはこの水準でも良いという人しか働いていないので、雇用を拡大するためには賃金を上昇させないといけません。すでに雇用されている人の賃金も引き上げないといけなくなりますが、最低賃金があると新しい従業員を雇う限界費用は多くの場合最低賃金そのままですむというメリットもあります。


(4)企業と政治は癒着している?

現代の民主国家でも、企業の政治献金とその企業の商業的成功との間には密接な関係があるようです。

マイケル・クーパー、フセイン・ギュレン、アレクセイ・オフチンニコフのアメリカのデータにもとづいた研究によれば、「政党献金は高い収益率をもたらす」ようです。

トマス・ファーガソンとハンス=ヨアヒム・ヴォスはドイツのナチ党と親密な関係を保っていた企業が、ヒトラーの政権奪還のあと明らかに株価が高くなり、他の企業に比べて有利なポジションになった、といいます。

マラ・ファッシオらは、政界に関係の強い企業は、業績不振になった時に公的資金が受けやすいことを示しました。政界に強力なコネがあって政府に救済された企業は往々にしてお粗末な事業経営を行い、「コネをもつ企業への緊急援助は、普通の援助よりも無駄になる」というのが彼らの意見です。

中国の国有企業と政府についても同じような研究がないか興味を持ちました。

posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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