2013年07月04日

エビデンスにもとづいた自己啓発本

自分を変えようとして失敗することはよくあります。語学の勉強を続けようとしても続かないとか,ダイエットを決意しても3日で終わるとか,部屋をキレイにすると決意しても3日も経てば汚くなっているとか,決意しても決意倒れすることはみなさん経験があると思います。

自分を変えるための本は,一般に自己啓発本と呼ばれます。自己啓発本は気合いを注入するもの,出来もしないけどなんかできるようになった気にならせるもの,さまざまです。

自己啓発も科学的なエビデンスにもとづいた時代になったな〜と思わせる本が

『スタンフォードの自分を変える教室』



です。この本は心理学や行動経済学などの実験結果にもとづいて,自分をどのようにコントロールするか,人間がもつ行動の癖を科学的に把握し,それを理解してコントロールしようとするものです。

人の意思決定は,本能で行うもの,意志力で行うものがあります。カーネマンの『ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?』でいうヒューマン(ファスト)とエコン(スロー)の二つです。

私たちは,何を決めて行動に移す時に,深く考えて判断する時と反射的に判断する時があります。一般に深く考えて行動する場合いい結果をもたらす(合理的な行動をもたらす)のですが,反射的に反応する場合は大体不合理な結果に陥ってしまいます。

しかし私たちはほとんどの行動を無意識で反射的に行なっているところがあります。

例えば,私たちは野菜を食べると体にいい感じがするので,その分肉を食べ過ぎてしまいます。ステーキ専門店でサラダが無料なのは,体にいいサラダを食べているのだから,今日は肉を一杯食べてもいいだろうと思わすためです。この判断は反射的・本能的に行なっているため,私たちは意識していません。

いいことをしたあと,多少悪いことしてもいいだろうと本能が考えることをモラル・ライセンシングといいます。このモラル・ライセンシングは私たちが何かを決めてやろうとした時に大きな障害になります。いいことを3日続けたらすぐにご褒美と称してダイエットを台無しにする行動(お菓子やケーキの食べ過ぎとか)をとるように仕向けられてしまうからです。

いいことをやっていなくても,想像するだけで人は次の悪いことを行う準備ができるようです。例えば,ボランティアをやっていないけど,参加する,と決めた時に人はすでに自分への褒美を考えてしまいます。つまり決意した瞬間からもうその決意を覆すための準備がされていることになります。

「偽りの希望シンドローム」というのがあるそうです。それは何かいいことをする,自分を変えるために何か新しい行動をとると決めると,それを想像して自分の気持ちが良くなります。でも実際に行動を始めるとつらくなってやめたくなります。先にいい気持ちになったために実際の行動の時にツライ気持ちが増幅されてしまい,続けることができないという結果に陥ります。

さて,ダイエットとか部屋掃除とか何かを決めてとりあえず続くようになったとしましょう。でもそれを妨げることが発生します。

それが「どうにでもなれ効果」というものです。一度ハメを外してしまうと,そのあと落ち込んでしまいます。でもその後まあいいかとなってしまいさらにハメを外してしまうということが人間にはあります。

この場合,自分を「許す」ということが重要だそうです。試験勉強をサボった学生への実験では,前回試験勉強にまじめに取り組まなかった学生の中で,そういう自分を受け入れた人とそうでない人では次の試験での取り組みが違うそうです。反省という自己嫌悪感に浸るのではなく,自分はさぼるときもあるんだなと受け入れることによって,次の試験は頑張れるという効果があるようです。

私たちの脳や心理は,決意が続かない,ように仕組まれているようです。ですので,反射的に行動するのではなく一呼吸おいてから行動することが重要なようです。

 
『やる気の科学』は,人の行動の問題を把握した上で,続ける工夫を紹介しています。



私たちはそもそも将来のことよりも現在の問題が大きく感じてしまいます。将来的な体重50kgよりも現在のケーキの方が重要に思えます。このように現在のことを将来のことよりも大事に思う心理を行動経済学では双極割引としてとらえます。現在の方が価値があるように感じ時間が未来になるにつれて価値を感じなくなってくる現象です。

将来の目標達成のために現在の行動をどのように管理するか,それを経済学用語ではコミットメントといいます。簡単に言うと,自分の現在の選択に制限をかけてしまうということです。インターネットを立ち上げるとすぐにネットサーフィンををはじめて時間を無駄にしてしまう場合,パソコンの立ち上げと同時に一定の時間インターネットに接続できないソフトを活用する方法があります。このように自分の選択を狭める工夫がコミットメントです。

(ちなみにインセンティブは値付けによって行動を誘導することです。インセンティブがアメだとするとコミットメントはムチの側面を持ちます。)

ダイエットしているというのを公言するのも,後に引けなくとなる(周囲から監視を受ける)という意味でコミットメントですし,毎週決まった時間に体重計に乗る(定期的にモニタリングする)というのもコミットメントです。このように自分の選択を縛ることで私たちは決めたことを続けることが可能になります。

でも,自分の選択を狭めて頑張っていると,先ほどみたように人は自分を甘やかそうとする誘惑が働きます。急に自制心を発揮しようとするとがんばっている自分に酔ってしまい,「どうにでもなれ」になりかねません。

エアーズは,自制心というリソース(資源)には制限があるといっています。私たちの自制心は制限された量しかないので,がんばって使いすぎると枯渇してしまい,自制心がなくなってしまいます。ですから頑張りすぎるのも考えものです。実験によると,好きなもの(クッキーや映画)を我慢した学生にある作業を行わせると効率は低下するようです。我慢したり自制心を発揮したりするのは必ずしもいい結果にはなりません。日本語的には「自我蕩尽(じがとうじん)」(自分を使い果たしてしまうこと)になってしまうのです。


以上の2冊もいい本でした。さらにその上を行くのが

『WILLPOWER 意志力の科学』です。



心理学で有名なマシュマロの実験で我慢ができた,できなかった5歳児を追跡調査した結果,我慢ができた自己コントロールの強い子供は大きくなっても成績がよかったり,高収入な職業についていることが判明したそうです。つまり成功の鍵は自分をコントロールする自己抑制力であり,意志力です。

実際に意志力は時間の関数的なところがあります。先にもみたように,現在をがまんして将来的に得する行動を今行うという性質があります。あるいは時間をかけて行動を完成させていく気持ちが意志力です。

この本でも意志力は消耗することが示されています。保釈申請をした囚人の保釈を認めるかどうかという判事の実験では,意志力が消耗している時(仕事で難しい判断をたくさんしたあと)は安易に保釈を認めない方向に判断しがちだそうです。

意志力を取り戻すにはグルコース(糖分)を補給する方がいいです。判事の実験でも昼食やおやつのあとは保釈の確率があがるそうです。だからといって糖分のとりすぎはダイエットにはよくないので,果物や野菜,GI値を急激にあげないものを口にするのがいいでしょう。

さて,意志力は将来的な目標を成し遂げる力です。そのためには現在やりたいことを我慢してやるべきことをやらないといけません。その時に効果があるのが「計画」です。児童や生徒を対象にした実験では,長期であっても短期であっても「計画」をたてると成績がよくなる結果があります。

計画のメリットは,頭の中に引っかかっていることを追い出すことです。ザイルガルニック効果というものがあります。やらなければならないことを漫然と頭に抱えていると,脳みそがそれを考えることに使われてしまいます。つまり何もやっていないのに意志力が消耗するわけです。それなら,計画にしてしまって紙に書いてしまえばそれが消えてしまうので,逆に効果があるようです。

また「書く」という点では,記録を残すのはいいようです。書くと自分を客観的に認識できるとともに,やったことを書くことによって自尊心が高まります。自己認識の重要性は,鏡で自分が写っている人と,写っていない人では,鏡に写っている人の方が誘惑に勝つ傾向があるという実験もあります。

とはいえ,私たちは今やらなければならないことを先延ばしにする傾向があります。ダイエットの時には,食べることを先延ばしにするのは効果があるのですが,勉強やトレーニングでは先延ばしはあまり良くありません。実際に,大学での実験では「先送り」する傾向のある学生は論文や試験の評価が低いそうです。(ただし先送りする学生は健康であるという結果も。)

対処方法は二つあります。一つは書き出した目標が対立しないように優先順位をつけてしまうこと,二つ目はやらなければならないことの代わりをしない,ということです。一つ目は今日やろうとしたTO DOリストの中で心が葛藤するリストがあったりすると,意志力は消耗してしまいます。この場合,今日やることを決めれば,その葛藤から逃れることができ,意志力も消耗しません。もう一つは,パソコンで原稿を書かないといけないのに,メールを返信してしまうという場合,原稿以外は書かないと決めることです。つまり代替行動を断ち切ります。人はやることがなくなると何かをやろうとするので,他の行動をシャットダウンすることにより目的の行動に向かわせることができます。

もっといろいろあるのですが,ぜひ手にとって見て下さい。この3冊はオススメです。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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