2013年09月24日

『中国の産業はどのように発展してきたか』

アジ研の渡邉さんを中心にして,多くのアジ研研究者を組織した産業研究の集大成が出版されました。本書の骨格についてはすでにアジ研の夏期公開講座(内容については前のエントリココを参照)で公開されていましたが,研究会の成果の全体像が本書で明らかになりました。(ご恵投ありがとうございました。)



本書の主張は

中国産業の特徴は「旺盛な参入と低い価格」である

というものです。もちろん詳細な分析がされているのですが,主張はシンプルなので非常に読者に伝わりやすいです。

まず,中国はインドと比べて産業内の企業数が多く,企業シェアが小さいです。中国は日本と較べても上位企業の市場集中度は低いですし,ブランドシェアも低いという事実があります。

中国政府はこのような状況を「規模の経済が発揮できない」と批判的に見ていましたが,編者はこれを「旺盛な参入と低価格」として積極的に評価しています。

それではなぜ旺盛な参入と低価格になるのか?この理由を本書は,参入費用が低いということ,とくに中国では部品調達において技術や取引の「プラットフォーム」があるからだとしています。

本書は3部に分かれています。

第1部は産業です。丸川さんは自動車産業,太陽電池産業を事例に主導産業がサプライヤーから基幹部品を調達する「支持的バリューチェーン」が存在するために,旺盛な参入が起きていることを指摘しています。

渡邉さんはテレビとエアコンという成熟産業を事例に旺盛な参入の結果,プロダクト・イノベーションが起きていることを示しています。

丁さんは携帯電話と専業市場の分析から技術と取引プラットフォームの存在を指摘し,企業の参入費用が低いことを例証しています。

堀井さんも風力発電という政府規制が大きい産業であっても旺盛な参入が起きていたことを示しています。

第2部は需要と技術です。大原さんは国内市場が階層化されており,そのため下位企業であっても参入の余地があること,キャッチアップ的な苗床になっているとしています。

木村さんは中国では技術が公共財的であったと指摘しています。

第3部は低い価格です。寶劒さんは食糧を,明日山・山口さんは労働を,堀井さんはエネルギーを中国産業のコスト面として整理し,低い価格を説明しながらも今後の上昇可能性を指摘しています。

多くの専門家が関わった本にも関わらず,「旺盛な参入と低い価格」という言葉でくくることが可能なために,比較的まとまっている本だと思います。

でも読了後なんかモワッとした感じが残りました。それが何か最初わからなかったのですが,何回か目を通してはっきりしてきたのは,

結局,「旺盛な参入と低い価格」という中国産業の特徴は中国の経済発展に寄与したのかどうか

という点がわからなかったということです。

もし,この中国産業の特徴が発展に有利ということであれば(あるいは経済発展に効率的であるするならば),途上国にとって発展の制度設計に役立つことができます。企業に旺盛な参入意欲をもたせるためのインセンティブ設計,安い価格を実現するための政府主導での技術導入や取引場所の設立などの政策提言が得られることになります。

本書では@産業の分析,A結果から得られる特徴がまとめられていますが,そこからB政策提言にまで展開されていなかったので,何かもやっとしたものが残りました。

この辺はまだ今後の課題かもしれませんし,安易な政策提言は研究者にとって「政策ありき」の分析に陥ってしまうので,編者はその辺を戒められているのかもしれません。

とはいえ,各章の水準は高く,それぞれから学ぶものも多いです。本書は中国産業研究のマストアイテムになることは間違いないでしょう。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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