2013年09月26日

『現代中国経済』

「いやぁ,さすがですわ,丸川さん。」これが初読の感想です。



丸川さんよりご恵投いただきました。丸川さんの産業研究を基礎にした新しい中国経済の教科書です。

本書の特徴は,中国経済を「工業化」という側面に焦点をあてていること,移り変わりの激しい中国経済を2020年の段階でも必要と思われるもののみを盛り込んでいるということ,です。

感想を一言でいうと,今までのご自分の産業研究と中国経済の発展を調和させているなあ,と思いました。私も『中国―奇跡的発展の「原則」 (アジアを見る眼)』で中国経済の教科書を書きましたが,私の研究成果は一部しか取り込んでいません。研究成果というある意味特化したところと教科書という全体像のバランスは難しいように思いますが,この本はそれをうまく乗り越えているというのが印象です。また随所にご自分の主張が展開されており,単調になりがちな「ただの」教科書に終わらないようにも工夫されています。

全体の流れをみてみましょう。本書は大きく分けて,工業化をもたらした制度,労働,資本,技術に焦点をあてている部分,そしてその環境の中で工業化を推進した経済主体である国有企業,外資系企業,民間企業に焦点をあわせます。最後に中国経済の「罠」として@需要不足,A格差の存在,B環境問題,C対外不均衡の問題を指摘しています。

まず前半です。中国の経済成長を生産要素別に分解し,1980年代以降TFPが2.3-6.9%と他と比較して高いこと,資本の貢献も10%あることが示されます。このような成長を支えた背景には計画経済から市場経済へ転換した制度的変革があったとします。とくに市場経済への変遷では,商品経済から土地,労働,資金,知的財産権などさまざまな権利が取引対象になってきたことを示しています。

労働市場では,歴史的な変遷をおうとともに失業の局地化,労働供給が不足するというルイスの転換点,大学生の就職難などにも触れています。資本については工業化,とくに企業の資金調達という側面から財政金融制度の変遷を分析しています。政府投資から銀行融資に変わり,そして株式や自己資本調達など企業の資金調達が多様化していくさまを描き出します。技術については,外資導入や自主イノベーションの状況からキャッチアップを論じるとともに,丸川さんの研究成果からゲリラ携帯や電動自転車などを事例に「キャッチダウン」に関する議論を展開しています。

後半は企業の分析です。マクロ的な工業化を論じるのではなく,工業化を推進した経済主体である企業に焦点をあて,具体的な事例を示しながら論じているところに,まさに本書の特徴があります。

国有企業改革は優良資産を株式化するとともに,産業政策や国家戦略を背負う存在であることから,「大家さん」的な存在(子会社の株配当を受ける)であることが示されます。外資系企業については委託加工や技術移転の役割を果たしたことを描き,民間企業は『チャイニーズドリーム』(私の書評はここ)の成果から「大衆資本主義」である様子を分析しています。

先にも述べたように本書の特徴は教科書でありながら丸川さんの研究成果が豊富に利用されており,新しい中国の産業研究の成果を学びながら,中国の工業化を理解することができるスグレモノだと思います。



posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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