2013年11月19日

『服従の心理』と中国

心理学ではあまりにも有名な本ですが,山形さんによる訳ということで読んでみました。



いわずもがなのミルグラムによる衝撃的な実験です。実験内容は,実験者が被験者に対して,学習に関する実験と称して,学習者が答えを間違えたら電気ショックを与える役をお願いし,間違いが増えるにしたがって電気ショックを強くしていく指示を与えます。その時に被験者は学習者が苦しむ姿をみてどのような反応をするのかという実験です(学習者は役者さん)。

実験結果は,人は権威に服従する,というものです。

学習者が問題への回答を間違え,電気ショックを受けます。学習者は大げさに苦しむ様子をみせます。被験者は苦しむ姿をみてこの実験をやめたいと思いながらも,権威者(実験者)のいう電流を強くするという指示にしたがって学習者に電気ショックを与えていきます。この実験は,やりたくなくても権威者の命令には従ってしまうという人の心理形態を明らかにしました。

実験を踏まえて,ミルグラムは解説しています。

人の社会システムはヒエラルキーになっています。社会組織がヒエラルキー化することによって組織は力を発揮し,外部の敵からその集団を守ってきました。命令に従うことによって社会組織は発展してきたので,人は命令をきくことになっているとします。

ヒエラルキー社会では,人は個人の方向性を制御します。つまり自律的な個人から命令に従うエージェントへと変化します。エージェントになるには条件があります。家族という組織で親に従うことを習います。社会制度において人の指示に従うことを学びます。そして社会では報酬を与える人に従います。社会的な学びの過程で人はエージェント状態になってきます。また,その他にも権威を認識する必要があります。どの人が権威者かわかっていないと権威は発生しませんし,その権威システムに自らが参加するという形をとる必要があります。その権威はイデオロギーによって正当化されます。

一方,エージェント状態になった個人は悩みます。道徳と非道徳の間で心理的な緊張状態に入ります。そのために以下のような心理的変化を経験します。

一つはチューニングです。自分の認識を調整するということです。学習者が苦しんでいる姿から目を避けることによって,自分の認識を調整します。

もう1つは解釈を変えます。権威の命令に従っているだけだ,私は従順ないい人だと解釈を変えていきます。

次は喪失です。学習者が苦しんでいるのは,自分のせいではない,責任は私にはない,とします。

最後は自己イメージの変化です。学習者に電気ショックを与えるときに実は電流をあまりあげないようにしていた,学習者に答えがわかるようにイントネーションを変えていた,など自分の正当性を強調するようになります。

この実験は人は権威に刃向かうのではなく,権威に従いやすいことを示しています。

中国をみてみると,私たち日本あるいは西側諸国の人々は,民主化について声をあげる中国国内の知識人に対して期待をしたりします。でもこの心理実験から考えると中国で民主化運動が起こることは相当難しいといわざるを得ないでしょう。権威に従う事例として,悲惨な文化大革命があげられます。当時の権威,毛沢東によって指示された紅衛兵たちは革命という旗印のもと多くの人々に暴力を振るっていきました。おかしいと思ってもなかなかそれに対する声はあげられなかったのです。

また党員になるということで権威システムに自らが参加しています。しかも党員は8000万人を超えています。

反日デモでも政府の管理のもとで行われています。多少の暴徒化があったとしても,あるいは矛先が地方政府に向いたとしても,中央政府への信頼は高いです。また政府管理のデモに参加すること自体が権威への服従,あるいは権威へのコミットメントになっていますので,権威を認識する自己強化が行わているとみるべきかもしれません。

権威に対抗して新しい権威を打ち立てるのはそう簡単ではないということを,この本から改めて感じさせられました。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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