後半の尖閣紛争の想定は議論のわかれるところでしょうが,前半の中国分析は面白いです。
日中関係が中国の大国意識とともに変化してきたという分析について紹介。
日中関係は日本がイニシアチブをとっていた時代から中国がイニシアチブをとる時代に変化しているといいます。以前は日本が中国の改革開放をODAで支援するという側面がありましたが,2010年には中国のGDPは日本を超え,国防費も2011年に1000億ドルを超えるなど大国意識が育ってきました。
ターニングポイントは2009年-2010年であるとしています。まず海洋権益を主張する論文が増加したこと,核心的利益は台湾,チベット,新疆の範囲であったのが南シナ海が含まれるようになったこと,ケ小平からの韜光養晦路線に積極的有所作為(なすべきことはなす)という点が強調されるようになったこと,があげられます。
中国を理解する上で,3つのジレンマが紹介されています。
1つは中国国内の格差問題。とくに一般大衆と官僚・党員などとの乖離です。
2つめは外交路線です。台頭する対外強硬路線と今までの対外協調路線の間のジレンマです。
3つめはイデオロギーです。中国は中国モデルに代表されるように中国の「特色」を全面に出しますが,それと自由や民主といった世界的な普遍主義的イデオロギーとどのように折り合いをつけるかという点です。
わかっていたようでこの指摘はその通りだなと思いました。中国が国内,国外で発生する摩擦はまさにこのジレンマが引き起こしているといえるでしょう。
他にも本書では,尖閣問題について中国側の主張を客観的に分析していますし,また尖閣で紛争が発生するとどうなるか,シミュレーションも行っています。この辺りは立場によって読み方が異なると思いますので,日中関係に興味がある方にはぜひ手にとってもらいたい一冊です。
【関連する記事】