2014年04月19日

シンガポールの政治制度から中国政治を考える

中国の政治制度を考えるにあたって,参照になるのが中国以外の華人地域や国家の政治制度です。

香港は1997年にイギリスの植民地から中国に返還され,民意を繁栄させる独自の政治制度が模索されています。台湾は完全に民主化され選挙によって議員や総統が選ばれ,民意によって政治が行われるようになりました。

現在の中国のように政党主導型権威主義体制を採用しているのはシンガポールです。シンガポールは人民行動党(PAP)による事実上の一党支配体制(一般に選挙を通じているので独裁ではなく支配という言葉を用いる)です。野党政治家,労働組合,NGOの活動は監視され,マスメディアの報道は制限されています。つまり言論,集会の自由はありません。民主化の程度を示すPOLITY IVプロジェクトの数値(もっとも民主的な体制が10,もっとも独裁的なのが-10)は一貫して-2であり,東南アジア諸国の中ではもっとも民主化が遅れた地域です(中村編2012,p.19)。

共通点を見てみましょう。まず政党の成り立ちとして,第二次大戦以前から植民地あるいは半植民地状態にあった自国を独立させるという大義のもとで大衆を指導し,支持を受けてきたという点です。中国共産党は日本をはじめとする侵略国家から中国を守るというものでしたし,人民行動党も宗主国イギリスから独立するという点で国民の支持を得てきました。

相違点は,政治体制です。シンガポールは議院内閣制を採用し,議会(シンガポールは一院制)で多数をとった政党が,内閣を構成し,政治を行います。1987年まで人民行動党は選挙で議会の全議席を占めていましたので,結局は選挙という形で国民の信任を得て,一党独裁,あるいは一党優位を保っています。

中国では党国家体制を採用します。党の下に国務院(行政),人民代表大会(議会),人民法院(司法)があり,それぞれの権力が相互に牽制しあうことはなく,党が国家の体制を指導する立場をとります。

したがって,シンガポールが事実上の一党独裁であっても「選挙」という形で国民の信任を得ているために,中国ほど批判されることはありません。

でも人民行動党もなかなかえぐいことをやっています。議会の選挙で野党が議席をとったことをきっかけに,選挙制度を変更します。小選挙区制中心だったのですが,グループ代表選挙制というものを導入します。そもそも小選挙区は政党支持が少なくても議席を圧倒的に取りやすい,死票の発生する選挙ですが,それに加えてグループ代表制では,野党が強い選挙区で立候補者複数(グループ)に対して集めた票数が多いと,選挙区の全議席を総取りするという,得票数が少なくても議席数が伸ばせる制度です。

選挙という形を取りながらも与党が勝利する仕組みが与党によって作られています。

また当然中国と同じように憲法の改正はよく行われますし,最高裁判所による違憲審査はあまり行われません。

シンガポールのメリットは,「法の支配」が徹底しているということかもしれません。とくに経済関係,所有権,公平な手続きなどは国際的にも評価が高いです。中国で行われる「関係(グワンシ)」が働かないという点が,企業関係者にとって将来に対する予測が立てやすいということになります。法律がコロコロ変わる,解釈も政府によって変わる,人と人の関係が存在しないと事業が動かないということになると,企業は長期的な経営予測を立てにくくなります。この意味で恣意的な法の運用がなく,透明な法律によって経済活動が保護されているのはシンガポールの大きなメリットといえます。

こうして考えるとシンガポールは一応選挙を通じて,国民統治の正当性を持っていますが,中国にはそれがありません。習近平,李克強政権を国民が信託したという事実や手続きは存在していないのです。

しかしシンガポールも中国も一党支配というところは共通点です。経済発展という面では民主化よりも透明な法制度が存在することが重要なようです。

<参考文献>
中村正志編(2012)『東南アジアの比較政治学 (アジ研選書)』アジア経済研究所

posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 岡本式中国経済論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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