2014年10月14日

『年収は「住むところ」で決まる』

都市経済学の入門としても,最新の成果を知りたい方にもいい本が出ました。



本書の主張は

イノベーション産業が地域経済を牽引し,その地域の賃金水準を上昇させる

というものです。副題にもあるように,労働経済学の空間バージョンとも言え(オリジナルタイトルが"The New Geography of Jobs"),雇用と賃金水準の違いが空間によってばらつきがあること,そしてそれがなぜかというのを明らかにする試みです。

ネタバレになるかもしれませんが,大枠を紹介しておきます。

筆者のモレッティは,アメリカを分析対象とし,海外生産の拡大や国内生産性の上昇によってアメリカ製造業の雇用は減少していることを示します。アメリカ国内の労働市場では高技能の労働者や肉体労働者の雇用は拡大するものの中技能の労働者はATMの進展など機械にとって変わられてきており,中技能労働者の雇用が減る空洞化が進んでいるとします。

経済はイノベーション産業など貿易部門の生産性向上が牽引しており,しかしそれによって非貿易部門の地域産業(ウェイター,配管工,インストラクターなど)の雇用を増やすといいます。具体的にはハイテク部門の雇用が1人増加すると地産地消型産業の雇用を5人増加させるそうです。

イノベーション産業が発展している地域ではそうでない地域よりも賃金水準が高いことを示しつつ,その理由を,@高技能労働者と肉体労働などは相互補完にあること,Aテクノロジー導入が促進され生産性が向上すること,B人的資本の外部性,人の生産性向上は他の人の生産性を向上させることを指摘しています。

じゃあどの地域がイノベーション産業を発展させることができるのでしょうか。IT企業を誘致して,大学が存在し,魅力ある街がイノベーションハブになり得るとします。もちろんことはそんなに簡単ではありませんが,ニューヨークのエンパワーメントプログラムの成功例を紹介しています。

最後に移民についても彼はいいます。高学歴の移民を受け入れることは特許や起業を増加させる地域になり,その地域の低学歴アメリカ人の生活も改善するであろう,と。

一方で,対象をアメリカ内の都市に限定せずに,世界の中の国としてみても同じことではないかと思いました。

例えば,日本の年収は単純労働であっても,途上国より高いですし,日本の製造業が海外に進出して空洞化しているといいながらも,サービス産業の雇用は増加しています(たしか戸堂(2011)はそのような実証研究を紹介していたはず)。

ですから,タイトルは当たり前といったら当たり前みたいなところがありますが,それでも空間経済学が都市でも国でも当てはまることを示しているという意味で,本書は他の地域を研究している人にも有益でしょう。

<参考文献>
戸堂康之(2011)『日本経済の底力 - 臥龍が目覚めるとき (中公新書)』中公新書
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(1) | 読書ノート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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