2016年08月30日

イギリスのEU脱退が教えてくれるもの

ドイツのメルケル首相が、イギリスのEU脱退にあたってはチェリーピックcherry pick(いいところだけのつまみ食い)はありえないと釘をさしました。

これは、イギリスのEU国民投票で離脱派が主張していた、移民をコントロールするけどもEUとの単一市場は可能だ、という主張を否定するものです。

つまり、EU市場と一体化であることと移民コントロールは不可分であり、EUを出ることは、人の管理は可能になるが、同時に市場も失うことだ、とメルケル首相は言っています。

財とサービスの貿易、人の移動について考えてみたいと思います。

1)自由貿易の進展―グローバル化

財とサービスの自由貿易、あるいは貿易ルールの統一化のメリットは、市場の拡大と比較優位による各国の経済発展の可能性が広がるという点です。もちろん比較劣位にある産業への打撃はありますが、国際経済学の分野では、自由貿易は経済成長をもたらすことが実証されています。

したがって多くの国が自由貿易交渉を行っているわけですし、財とサービスの取引を自由にする方向に世界は進んでいます。

2)人の移動

近年では、自由貿易協定の中で、人の移動もトピックとしてあがってきています。つまり自由に労働移動を認めようという方向です。日本でもインドネシア、フィリピン等から看護師を認める等の話題がでました。

この流れが自由貿易地域の形成です。地域内では、財、サービス、お金、人、すべてが自由に移動できるようにしようという考えです。EUはその典型であったといえるでしょう。

経済学では生産要素である労働と資本の移動を考えます。現実問題として、お金はすでに自由に移動しています。ところが労働は国を越えて移動することが難しいです。(ビザ、パスポートなどで管理されている。)

3)生産要素の自由な移動は、「地域」という場所を関係なくする

もし労働移動が自由になると、どこで生産に従事しようが、どこで暮らそうか、それは国民の自由になりますので、「場所」=領土を管理する国家の力が弱まります。

ついでに貿易黒字、赤字も関係なくなります。同じ地域「内」になるので、財を別地域から購入するための所得は、自分が住んでいる地域から得なくても、別地域で働いて得てもいいからです。例えば、ベルギーの人がフランス産ワインを購入するお金は、ベルギーで得る必要はなく、イギリスで働いてもいいわけです。

生産要素の移動が自由になった時、地域という「場所」、そして場所を管理する国家の概念は消えてしまいます。

4)移民の管理

しかし人の移動の自由を認めた結果、イギリスへの大量移民問題でした。英語圏であることから多くのEU後進国から人が流れ込んできます。

そこでやはり人の移動は管理しよう、そのためにEUから出よう、だけど市場としては財・サービスの取引はもらっておこうとなりました。それを許さないとしたのが、ドイツのメルケル首相の発言につながります。

5)「場所」の復活

人の移動を管理するということは、人を一定の場所に縛り付けておくことですので、国家権力を強く必要とします。それに加えて、領土と国民の概念を強く国家に結びつけます。

このように地域境界(Boarder)を設ける意味は、徴税管轄権と公共サービスの実施、つまり政府の登場を意味しています。

EU国民投票は結果として、国家主権を取り戻す(take back control!「離脱派の主張」)ことにつながりました。

6)世界経済の政治的トリレンマ

結局、イギリスのEU国民投票が教えてくれたのは、世界経済の政治的トリレンマかもしれません。

ハーバード大学の経済学者ダニ・ロドリックはグローバル化、国家主権、民主主義の3つのうち、2つしか選択できないとしました。

EUというグローバル化は国家主権を小さくしました。民主主義が尊重され、国民投票が実施されると、国家主権が大きくなって、グローバル化は後退します。

7)イギリスの将来

イギリスは、メルケル首相の態度が変わらなければ、グローバル化から退出せざるを得ません。そして、人の管理という国家主権を取り戻すことはできますが、経済的には繁栄が難しくなるかもしれません。
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育研究活動 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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