2016年08月02日

The State of Asian and Pacific Cities 2015 (簡単な要約)

昨年UNHABITATから発表された

The State of Asian and Pacific Cities 2015(無料PDF)

を簡単に紹介。来週紹介する予定のWorld Cities Report 2016のアジア版です。これらの報告書は10月にリオで開催されるUNHABITAT3のための報告書という位置づけです。UNHABITAT2が20年前に開催されたので、20年ぶりに新しい都市開発に関するアジェンダが発表されることとなります。

さて、大まかに内容を紹介しますが、主に各章の要約部分を訳出しています。(わかりにくいところ、間違いがあればお許しを)

第1章 人口と都市

1980年から2010年までの間に、この地域の都市は10億人増加し、2040年までにはさらに10億人が増える。地域の人口の半分が2018年までに都市に住み、農村地域は人口減少の時代に入る。

2050年までに中国とインドの都市だけで6億96百万人増加する(インド4.04億人、中国2.92億人)

地域はすでに、東京、デリー、上海の三大世界大都市を含む17のメガシティを擁し、2030年までに22メガシティになる見込みである。

メガシティは、都市、町、村や農村などを取り囲む、大きなメガ都市地域へ道を譲りつつある。そしてそれらの幾つかは計画、非計画的な都市回廊の形でもって国境をも超えている。

メガ都市地域は行政的に分割されていることがあり、その問題は行政的境界を超越している。この衝撃を管理するには新しく、多層的かつ強力的なガバナンスモーダリティーが必要である。

メガシティは地域の都市住民の10%をちょっと超える程度しか収容しておらず、それは全人口の7%に過ぎない。大部分の都市住民は中小都市に住み、地域の都市化移行の大部分がそこで行われている。しかし重要性が増しているにも関わらず、多くの賞都市は人的、資金的、組織的資源が足らない未来に直面している。

多くの都市が成長している中で、成長が停滞あるいは人口が減少している都市もある。理由は、高齢化から就業機会の喪失、脱工業化までさまざまである。

地域には正確なデータがなく、効果的な空間的、経済的、環境的、貧困減少政策が打ち出せない。「都市データ革命」が急務である。

第2章 都市経済

ここ数十年の間、多くのアジア太平洋諸国の政府は都市化を国の開発戦略とリンクしてきた。都市の経済的成功は、国家や地域のそれと完全に一緒になっている。

多くの都市は経済成長、富創出の重要なノードになっている。幾つかの都市経済はすでにアジア太平洋のいくつかの国のGDPを超えている。

多くの都市が「ワールドクラス」「地球的競争」になりたいと熱望しているが、小さな都市や町では、人的、金銭的、組織的資源が不足するという不利さを抱えており、世界的貿易につながる、あるいは利用することができていない。

国家の都市政策や都市計画は小都市・街の経済的機会を創出できるように考えられている。

競争的、低コスト生産は数百万人の人々を貧困から救い、多くの都市中産階級を生み出したが、多くの場合この移行は高い環境的社会的コストを支払っている。

生産の継続と低賃金労働は効果的な長期的発展戦略ではありえず、内包的でも持続的な都市発展にもなりえない。

地域の都市が「中所得国の罠」を乗り越えるには、新しいビジョンとパートナーシップが必要であり、他にも膨大な教育職業投資が必要である。質的成長に着目すべきだ。

都市の貧困と脆弱性は過小評価されたままだ。地域都市住民の三分の一は適切な避難場所、エネルギー、安全な飲み水と衛星にアクセスできていない。

女性と若者は就業と独立した生活障害に直面し続けている。それは正式な教育にアクセスできず、あるいは伝統的家族規範の結果による。

都市貧困が経済的競争への貢献にも関わらず、貧困対策の経済的社会的政策への反映は十分ではないままである。

第3章 移行期にある都市社会

都市社会はより多様に、複雑になってきており、政策担当者の新しい挑戦となってきている。

中産階級の成長は、消費形態、自宅所有、移動、サービスそして都市環境で変更をもたらしている。

しかし中産階級の成長は内包的なものではない。都市貧困層は近年の成長の縁に追いやられ、若者の失業率は高く、移民者はその権利において不利になっている。

都市居住コストの上昇により、貧困層は適切な住宅とサービスを受けることが難しくなってきている。拡大する格差は社会のまとまり、コンセンサスを脅かし、許容範囲はすでに多くの大都市で危機的ポイントに来ている。

よりバランスのとれた成長モデルが必要であり、貧困層、老人、障害を持って暮らす人々に恩恵をもたらすようにしなければならない。

繁栄と内包的な都市の未来へ向けた、競合する需要と格差への対応というバランスには、刷新された都市社会アジェンダ、そして社会政策に十分投資されたものが必要である。

地域の都市の大部分が安全な場所になりつつも、性別による暴力はいまだに大きな挑戦であり、女性の都市生活への完全な参加への障害となっている。

多様性を利用し、公共への関わりや参加への空間を作ること、そして生活の質への投資を行うことができる都市は将来への競争力、居住性という点でいい位置を占めることが可能となろう。

第4章 都市の環境と気候問題

この地域の都市経済は環境搾取的なモデルで成長してきた。その結果多くの都市で巨大な環境問題に直面し、ますます多くの都市が居住性の複数の危機に直面している。

幾つかの環境問題は新しく発生したものであるが(気候変動など)、その他は固定的なもの(大気汚染、衛生問題など)である。多くの都市が存在する新たな環境的なプレッシャーに同時に対応すべく戦っている。

地球温暖化の主要源として、アジア太平洋の都市は低炭素の経済、インフラ、交通を確立していくことが急務である。

新しい経済、都市発展のモデルは都市生態環境への投資、環境サービスが広く提供されるものでなければならない。

伝統的な都市廃棄物管理は耐えられるものではない。廃棄物から資源へというアプローチ、3Rの推進、循環経済という概念を通じて、都市はより効率的な資源利用と廃棄物処理を達成しなければならない。

地域の都市は災害や気候変動のインパクトに対して脆弱である。とくに貧困層と不利な共同体にとってはなおさらである。都市と住民がストレスやショックに対して生き残り、対応し、挑戦していく能力を強化していくことによって、都市の脆弱性を減らすことが可能である。

第5章 都市統治(ガバナンス)

アジア太平洋の都市は、急速な成長、経済転換、社会の複雑性、分裂性の増加、環境インパクトに対してどのように管理するか取り組んでいる。

都市移行を管理するにあたって、各レベルの政府は統治を提供しているという基本的な責任感を取り戻さなければならない。しかし複雑性、都市地域の成長から考えて、政府はすべてのことをしようとするべきではない。むしろ他のステークホルダーとのパートナーシップを結ぶことについて戦略的な役割を果たすべきである。

多くの大都市が都市スプロールと分裂という様相を呈している。都市成長はますます公共と私人、公式と非公式、国家と市民社会という垣根を超える、あるいは曖昧になってきている。都市発展の必要性に対処するためには、国の都市政策に支えられた新しい協力的なcollaborativeガバナンスが必要である。

中央集権的あるいは完全な分権、どちらも効果的な都市ガバナンスの万能薬にはなりえない。具体的な都市、国のコンテキストの中で機能する制度的な配置について注目されるべきである。

公共の政策決定過程を透明にすること、制度的なアカウンタビリティーを確保することは重要な目的となりうる。より責任をもち効率的な地方の制度は効率的なパートナーシップの創出や都市住民の支援と参加を促す上で重要である。

このような挑戦に向かう上で、国家と地方の政府は変化を生み出し管理する重要な責任を有する。これらは統一のとれた国家のガイダンスや政策に支えられて初めて可能である。多くのアジア太平洋の都市は法的、規範的なフレームワーク、制度的な配置を通じて運営されているが、それらは遅れている。

地方と中央政府の権力シェアのギャップに対応する必要がある。地方政府の予算と投資に関する金融的なギャップ、戦略的未来志向の都市計画を推進する上での地方政府の能力のギャップなどである。

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2016年07月05日

主権

イギリスのEU国民投票は、主権の範囲というか、国家による支配権という意味の国家主権というものについて考えさせられました。

究極的な理想だけでいえば、人類は一つ、みんな協力して世界政府(議会、裁判所)をつくる、というのが世界の国家間の争いをなくす一つの方法のような気がします。

EUは、各国が憎しみ、いがみ合い、殺し合いした歴史を乗り越えて、各国が統合していく、経済的統合はもちろんのこと、政治的にも統合していく壮大な実験でした。モノや人の移動が自由になり、どこに住んでも経済的活動をしてもEUの一員であり、政治的にもブリュッセルの欧州委員会(議会や裁判所)に統合していく流れでした。

イギリスのEU国民投票によってイギリス国民はEU統合へ反旗を翻しました。大きな理由は、EUのコントロール(法律的)が強い、移民が多く流れ込んできており国内の社会資源(医療、教育)の負担になっているといった点です。イギリスはEUと交渉しながらEUからかなりの優遇を引き出しながらも、国民はそれに満足しない、EUからの支配から抜けるべきだと主張したわけです。

イギリス国内でも割れています。北アイルランドやスコットランドではEU残留を望む声が大きかったので、とくにスコットランドはEUと独立して交渉したい、同時にイギリス(連合王国)から独立する(独立を問う国民投票を行う)準備まで始まっています。

経済的には、主権をもつ政府がその地域の租税と公共サービスを提供します。その地域の住民はその地域内で自由な経済取引が行われます。政治的には、その地域の住民がその地域の政治的代表者を決定し、その代表者たちが政治を行います。

主権の範囲、とくに空間的範囲(人口規模)はどれくらいがいいのでしょう。おそらくそれは公共サービス(負担と支出)の制約のもとで、規模の経済、住民厚生の最大化が図られるところで決まるべきでしょう。

でも政治的な空間的範囲を決めるのは難しいです。基本は民族自決なので一民族一国家なのでしょうが、イギリスのように4つの国が一つの国を構成しているケース、中国のように多くの少数民族を抱える地域もあります。どのように範囲が決められてきたかといえば、それは政治力(軍事力)で決まってきたわけです。

イギリスを例にすると、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各主権が抑えられ、連合王国に主権が委譲されてきたために、連合王国内の経済と政治的安定がもたらされてきました。

EUもそれと同じで政治経済の主権を各国がEUに譲り渡すことによって、EU内の経済統合と政治的安定、とくに平和が維持されてきたと言えます。

イギリスのEU離脱交渉はまだ先ですが、本当にイギリスがEUから離脱することになれば、EUの求心力は下がらざるを得ず、おなじように他国が主権回復を望む可能性もあるでしょう。そのとき、どのように国家主権を超えた地域主権を維持するのか、そして各主権間のバランスはどうするべきか、が問われるように思います。


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2016年06月28日

イギリスのEU国民投票

6月23日にEU加盟の是非を問う国民投票が行われました。結果はみなさんご存知のように、国民の意思はEUからの離脱です。

争点

大きな争点は、経済的利益VS主権であったと言えます。

キャメロン首相(保守党)をはじめ、労働党党首のジェレミー・コービン、イングランド銀行、そして国内エコノミスト、海外ではOECD, IMFなどがEU離脱はイギリスの経済に暗雲をもたらすと主張しました。

一方で、元ロンドン市長のボリス・ジョンソンが国民投票キャンペーンに離脱派として4月ごろから旗幟を鮮明にします。離脱派の主張は、増えすぎるEUからの移民の管理、その他EUからの規制の独立を訴えます。

離脱派の勝因

6月23日の投票の結果、離脱派が勝利します。

離脱派あるいは離脱に投票した人たちでさえ、離脱派が勝つことはあまり想像していなかったようです。各種インタビューをBBCで見ていると、ある意味、保守党のエスタブリッシュメントに対する反感、ワーキングクラスの代表であるはずの労働党が一般庶民の不満を汲み取っていない、という点にも離脱に投票したことがうかがえます。

とくにイングランドの労働者階級、そして高齢者が今回の離脱の原動力になりました。「Take Back Control」という耳に響きやすいフレーズで、イギリスの主権回復!といった気持ちに火をつけたようにも思えます。

移民の増加、NHS(国民保険制度)の破綻危機、失業率、物価の上昇、これらへの庶民の不満を現在の政治が汲取っていないというやりきれない思いが離脱という結果を導いたといえるでしょう。


今後の流れ

離脱とはいえ、すぐに離脱できるわけではありません。これからイギリスは約2年かけてブリュッセル(EU)と離脱交渉を始めていきます。

また残留派が多数を占めたスコットランドは2回目の独立国民投票をやる方向に向かいます。連合王国が離脱を決定したとはいえ、スコットランドの国民は残留を求めているので、その意思を尊重する、という形です。

EU自体も求心力を失うでしょう。EU加盟国でもドイツ、フランス、イギリスが拠出金についても重要な柱でしたが、イギリスが抜けることは政治的にも経済的にもダメージです。フランスでもFrexit(フランス離脱)という言葉も出始めているので、EUという壮大な政治経済統合という取り組みは失敗に終わるかもしれません。


中国への示唆

中国について考えてみると、北京上海の大都市が農民移住をコントロールする問題は、まさにイギリスがEUからの移民をコントロールする問題と同じです。イギリスでは教育、医療が無料のため、そして英語であること、給与が高いことから、EU内、とくに東欧の発展の遅れている国からの移民が増加しつづけました。これがイギリス国内の教室不足、医療不足を招くとともに、財政負担になっているとされます。

また民主化についても中国には衝撃が大きいでしょう。国民投票によって、国の意見が分裂するのをみると、香港、内モンゴル、チベット、新疆などを抱える中国には脅威に映っていると思います。共産党にとってますます国民による投票という行為は受け入れがたいでしょう。
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2016年06月14日

「ジェイン・ジェイコブズの世界」藤原書店

藤原書店の別冊『環』企画、「ジェイン・ジェイコブズの世界」に寄稿しました。

「ジェイン・ジェイコブズの世界」では多彩な顔触れで、都市思想家であるジェイコブズを語っているので、都市や地域を考えるのにオススメ特集です。(藤原書店のウェブサイトで目次が見られます。)

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私は、ジェイン・ジェイコブズの思想から中国の都市化にアプローチしてみました。ジェイン・ジェイコブズの考えを自分なりに咀嚼して、ジェイン・ジェイコブズから中国の都市をみたらどうなるかという感じで書いたので、私にとっても楽しい仕事でした。

アダム・スミスが経済に関する偉大な思想家であるとともに、ジェイコブズは都市に関するアマチュア思想家です。彼女が与えた影響は非常に大きく、経済学でもJacobs外部性としてモデルにも取り込まれています。もちろん思想ですので、スミスと同じく、読み返すと「?」という部分もありますが、読むたびに新たな刺激を受け、都市を考える上で示唆的です。

ジェイコブズの貢献は二つあると思います。

一つは都市の盛衰メカニズムを明らかにしようとしたこと、もう一つは政府と個人の関係を明らかにしようとしたことです。「ジェイン・ジェイコブズの世界」の寄稿では、前者を「都市動態メカニズム仮説」として整理し、中国の都市化を診断してみました。

後者については、私は都市を「政府の管理と個人の自由がせめぎ合う場所」として定義し、中国の新型都市化について一考してみました。これについては、政府がどのように都市化を推進し、個人や企業が市場でどのような反応を起こすのかという観察・作業がまだまだ必要です。

中国の都市化はこれからも続きます。中国の都市化が何を生み出すのか、分析を続けて、将来的に都市に関する見方や思想面でも貢献したいものです。
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2016年06月07日

地方税はどうあるべきか?―カウンシルタックスから考える

先月、居住地の区役所からカウンシルタックス(Council Tax)の請求書が届きました。

カウンシルタックスとは自分が住む区に納める税金で、ほんの一部はロンドン市にも納められる日本で言う市町村税(地方税)です。

この税金は、住居と住人(大人)にかかる地方税の位置づけであり、所得とは関係ありません。賃貸、持ち家に関わらず基本は住まいの広さとそこに住む住人の数によって決定されます。私の場合、60平米程度の2ベットルームの住居、大人2人で1333ポンド(1年)になりました。日本円にして、大人1人1カ月1万円程度になります。

公共サービスは所得に関係なく多くの人が受けるものなので地方税は一律に、国税は所得再分配機能を持たせて所得に比例させるというのが税の理想です。これは、応益性と応分性という概念に集約されます。

応益性とは、住んでいる人が受けるサービスの費用をみんなで平等に負担するという考えです。上下水道、道路工事や維持、公園の清掃管理、ごみ収集、教育などなど住んでいる地域の政府が行う公共サービスの範囲は広いです。この公共サービスは住んでいる住民全員に行き渡ります。したがって、これに関わる費用をみんなで均等に分けて、負担しようじゃないかと考えるのが応益性です。

一方、応分性とは、住んでいる人の所得が高い人はその分多く費用を負担しようじゃないかと考えるのが応分性です。この根拠は、その人の機会コストです。所得が高い人が仕事を休んで、公共サービスを提供する側に回った場合、彼に支払うべき機会費用は、所得が低い人に比べて高くなります。つまり生産性の高い人は生産性の高い公共サービスを提供するはずにもかかわらず、それが実際にはかなわないので、その分費用を負担してもらうという考え方です。

日本の地方税は所得で決まるので応分性が強く、イギリスの地方税はその存在にかかるので応益性によって決まっているといえるでしょう。

どちらがいいか、というのは税制として考えるのか、経済政策として考えるかによって変わってくると思います。公共性という点では、おそらく応益性で地方税を徴収する方がいいと思いますが、所得再分配を行うという点については応分性を考慮した税制の方がいいでしょう。

私も、イギリスの公共サービスを受けているので、カウンシルタックスは喜んで支払いました(笑)

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2016年05月28日

EU加入の是非に関する国民投票(イギリス)

6月、イギリスでは国の将来を大きく決める国民投票が行われます。それは、EUにこのまま加入すべきか、それとも離脱するべきかです。

世論の状況ではどちらも5分5分で、どうなるか予断を許しません。

EUはヨーロッパ各国が加盟する経済統合体です。加盟の程度によって、かなり主権が制限されます。イギリスはポンドを使っていますが、他の国ではユーロを使っています。ユーロを使う国は通貨発行権という国家の主権をEUに引き渡していることを意味します。EUには議会もありますし、政府のような委員会も、そして最高裁判所のようなものまで作られ、かなり政治的にも統合が進んでいます。

イギリスのEU離脱派は、この主権の喪失がイギリスを苦しめているとします。EU第3位の資金拠出国であるにも関わらずEU改革への影響が与えられない、EUからの移民がイギリスの社会保障制度を圧迫している、などがその例です。

一方、EU残留派は、経済統合によるメリットを主張します。経済統合によって、イギリスは経済成長を可能にしている、EUから離れれば失業が増え、輸出入にも影響を与え、私たちの経済生活が脅かされると、中央銀行、IMF高官の発言、経済学者のシミュレーション結果を用いて、主張しています。

これらの議論は、アジアの経済統合を考える上で参考になります。また移民コントロールの話は中国の戸籍制度改革(農民を都市に移住させない)を考える際にも、参考になります。

6月はこの国民投票でイギリス中の報道が過熱しそうなので、私も注視しつつ、中国経済の参考にしてみたいと思っています。
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2016年04月15日

在外研究に出ています。

4月1日よりイギリスのSOAS(東洋アフリカ学院,ロンドン大学)で研究することになりました。任期は来年の3月末までです。

Department of Economics
Faculty of Law and Social Sciences
SOAS, University of London

大学の海外研究員制度を利用して,一年間在外研究に取り組みます。研究テーマは日本で続けてきた中国の都市化です。SOASの各種セミナーに出席しつつ,また中国からくる専門家とも交流しながら,イギリスを中心とした英語圏における中国研究の状況を理解したいと思っています。
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2016年03月29日

中大経済研究所の研究合宿

3月19日〜20日と湯河原で中大経済研究所の研究合宿が開かれました。温泉を味わいつつ,集中的に研究会のテーマ(アジア経済圏)について議論するというものです。

今回もいろいろTPPについていろいろ勉強になりました。とくに石川幸一先生のTPPの解説と中国への影響が面白かったので備忘録として。

今回合意されたTPPの概要は以下の通り。

1)高い自由化率ー関税撤廃が100%、日本は95%(聖域5品目があるため)

2)新しいルールとして、@国有企業(非商業的援助の禁止)、A電子商取引(データセンターの設置、ソースの開示などの条件を設けない)、B知的財産(著作権保護期間70年)、C労働環境の保護(タイが不利)、D原産地規準(完全累積、ヤーンフォーワード)などがもうけられた。

TPPに加盟していない中国への影響としては,以下の通り。

1)完全累積基準により中国の輸出が減少する可能性。TPP域内国で生産された財の付加価値が50%以上になるように生産した方がTPPの恩恵を受けることができるため。

2)対中投資が減少する可能性。とくにヤーンフォーワードによって繊維製品の糸から製品までの生産チェーンは域内で行なわれることが前提になるので,繊維製品の生産拠点は中国からTPP域内国へ移転する可能性があるという。

3)もし,中国がTPPに加盟を求めるようになったとしても,国有企業改革など中国にとってはハードルの高いルールになった。

現在TPPは合意各国の批准手続きを待って発行されます。不安材料は,アメリカ大統領選の行方によって,アメリカ議会がTPPを批准しない可能性もあるという点でしょうか。

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2016年03月22日

中国の都市化の現状と課題

3月16日から19日まで、国家信息中心経済予測部と貴安新区発展研究中心の専門家が日本に来ました。3月16日にはERINA(環日本海経済研究所)でアジ研と一緒にワークショップを開催,また3月18日にはアジ研で日本の都市化について議論しました。

中国は工業化に比べて都市化が遅れてきました。実際、中国の都市は開発区に見られるように「生産拠点」であり「消費拠点」ではありませんでした。途上国の平均都市化率は約60%、中国の都市化率は14年で56%、戸籍人口では40%しかありません。16%の農民工(2億前後)が都市で生産活動に勤しむ形になっています。

現在行われている新型都市化は、まさに都市に住む人口の16%の農民を都市住民にしてて消費主体へと育てる政策です。社会保障を与えて定住させ、貯蓄から消費へ向かわせようとしています。

ただ問題はお金と制度改革の困難さです。

彼らの推計によると,1人の農民が都市に入ると10万元のインフラ投資が必要になるけども,彼らが消費住民になっても1万元の消費しか伸びない,といいます。この意味で都市化の財政的負担は大きいものとなります。

また都市,農村の二元化構造が改革を難しくしています。戸籍制度,土地制度の分断は労働と土地取引が分断されているということを示し,そのため政府のコストを引き上げています。

そして都市規模によって改革の程度が違います。北京,上海は相変わらず厳しく戸籍制度を実施していますが,中小都市では自由化が進んでいます。でも人は大都市に移動したがるため,都市管理の問題が発生してしまいます。

この制度改革が他の国にない都市化の難しさです。

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2016年03月15日

中国経済研究

中国経済経営学会の学術誌『中国経済研究』に論文を発表しました。

岡本信広(2015)「中国の地域間分業と地域の「位置」」『中国経済研究』第12巻第2号、pp.1-17

「おわりに」より

 「本稿では,地域間産業連関モデルを用い,基本的な産業連関分析と平均波及世代数(APL)を利用して,地域間分業を明らかにし,二つの作業仮説,「内陸地域は沿海地域の原材料供給 地域である」「都市化・サービス化が進む地域は地域間分業の上流に位置する」を検証した。
 最初の仮説,「内陸地域は沿海地域の原材料 供給地域である」という点については,ほぼ支持されうるであろう。逆の言い方をすると,沿 海地域の発展は原材料等の需要を生み出し内陸の発展をけん引する。ただし西部大開発で工業化の進む内陸地域,例えば重慶,四川や甘粛な どは下流に位置し,沿海と同じく成長の極として周りの地域をけん引する存在である。
 二つ目の仮説,「都市化・サービス化が進む 地域は地域間分業の上流に位置する」という点については,支持されそうにない。都市化が進 む省市は地域間分業,サプライ・チェーンの下流に位置するのが一般的であり,もっとも都市化率の高い上海や北京も下流である。これは国 際分業の分析結果(Inomata and Fathi, 203) と相違する。想像されうる解釈としては,中国 の都市化は新しいビジネスサービスを生み出したり,研究開発などが進んで新しい付加価値を生み出したりはせず,むしろ,現状では都市化 は中国特有の「都市建設」(都市インフラ建設などのハード整備)であることを示唆している。 インフラ建設のために必要なセメントや鉄筋など原材料を内陸などから必要とする形になって いる。 もう一つの解釈は,都市化が進む地域は北京, 上海,広東,江蘇,浙江などの沿海地域であり, 国際サプライ・チェーンの中で輸出を通して付加価値を海外に提供している可能性もある。国 内サプライ・チェーンの中では下流に位置しつつも,このような地域は国際サプライ・チェー ンでみると上流に位置する可能性もあろう。これに関する検証は今後の課題である。」

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2016年03月08日

2016年2月読書ノート

2016年2月の読書ノート

久しぶりに読書ノートの一覧をアップ。



オススメはこれ。同業者にも院生にもあてはまるけど、どうすれば論文が生産できるかがよくわかる本。私も心がけていることとがこの本と一致したので、非常に納得。生産性をあげるにはとにかく毎日決まった時間に取り組むこと。

<経済>
柴田章久・宇南山卓(2013)『マクロ経済学の第一歩』有斐閣ストゥディア GDP、成長、消費、投資、労働、再分配、政府支出、財政と開放経済まで。消費を考えるには恒常所得仮説、賃金が硬直化している時には政府支出増加による失業対策の可能性、高齢化、社会保障費こそが財政の赤字負担。

ルイジ・ジンガレス(若田部昌澄・栗原百代)(2013)『人々のための資本主義-市場と自由を取り戻す』NTT出版 アメリカの自由市場が企業と政府の馴れ合いのクローニー資本主義に堕してしまう。ロビー活動を禁止するためにピグー税は有用。競争と市場を高めることが大事。

アンガス・ディートン(松本裕)(2014)『大脱出-健康、お金、格差の起源』みすず書房 人々は貧困、欠乏、病気から脱出してきた。相関はないが豊かになり、健康になったが富裕国では格差は拡大。脱出できていない貧困層も多く,援助は役に立っていない。成長は貧困から脱出するための原動力。


<自己啓発>
ポール・J・シルビア(高橋さきの)(2015)『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか (KS科学一般書)』講談社 文章をたくさん書くための唯一の方法が、書く気の有無にかかわらず決まった時間に書くこと。まとまった時間に執筆する人、独創的アイデアが降りた時に執筆する人は、量、アイデア回数ともに低い。

山口真由(2014)『東大主席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』PHP研究所 繰り返して読みながら全体、内容、細部に意識を向けて鮮明にしていく。気分転換も罪悪感を感じたりするので、とにかく続ける、場所を変える、教科を変える、使う器官を変えるなど。

<社会>
井上達夫(2015)『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください--井上達夫の法哲学入門』毎日新聞出版 啓蒙は理性の独断化、絶対化を招く可能性、寛容は抑圧的体制とまで妥協する弛緩性を持つ。リベラリズムの核心は正義である。正義は反転可能性テストに合格しなければならない。

施光恒(2015)『英語化は愚民化-日本の国力が地に落ちる』集英社新書 土着から普遍へというグローバル史観、英語化史観の妥当性は疑問。翻訳と土着化のプロセスがなくなれば多くの人々が社会から取り残され、知的成長の機会を奪われ、愚民化してしまう。
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2016年03月01日

六甲フォーラム

2月15日に開催された神戸大学大学院経済学研究科の六甲フォーラムで貴州省の都市化について報告しました。

これは昨年11月に実施された現地調査の報告を主体とするものです。

1)貴州省の都市化の特徴は、山型の都市化である
2)貴安新区での急ピッチの都市化と観光農村化による農村都市化
3)これらは投資主導型であるために、持続可能性に疑問

であることを報告。

伊藤亜聖(東大)さんより

1)内陸での産業誘致を内陸工業化論との関係を論じる必要がある。
2)都市化はどうファイナンスされているのか。比較として重慶モデルをあげるといいのではないか。
3)「下からの都市化」を感じさせる動きはあるのか。

というコメントをいただくとともに、城鎮化とは事実上「都市化+農村振興」という側面があることを指摘してくれました。

今後の改訂に役立てるとともに、この成果はアジ研研究会の一年目の報告書として公開される予定です。
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2016年01月26日

地方創生のためには「どこでもドア」をつくること

地方の発展のためには、地方が東京とが「つながること」、財やサービス、人とお金(資本)、そして情報が自由に行き来できるようにすることが大事です。

つまり、地方と東京の間にドラえもんの「どこでもドア」を設置するということです。地方にいても「どこでもドア」を開けたらすぐ東京になるようにするわけです。

頭の中で行う思考実験をしてみましょう。

「どこでもドア」があったらどうなるか。地方と東京の「境界」、つまり距離とか場所とかが関係なくなります。どの地方もすべての地域が東京と同じ経済圏になります。どの地方に住んでも、いつでも必要であれば東京で仕事を探すこと、働くことが可能です。東京で疲れたらいつでも地方の自然でリフレッシュすることが可能です。仕事の賃金、所得、消費はすべて同じ水準になるでしょう。

現実は地方よりも東京が発展しています。東京が発展するのは、多くに人が集まっているからです。企業からすれば、東京に本社を置く方が人を雇いやすいです。実際、大学生の40%強が首都圏の大学にいます。また、多くの企業があるので、必要な原材料や情報が手に入りやすいです。多くの企業が東京に集まって、首都圏そして日本の経済発展の中心となっています。

この発展の恩恵を受け取るためには、地方は「どこでもドア」を手に入れるべきです。地方創生には、首都圏あるいは大阪とか名古屋など都市とどのようにできるだけ便利につながるかという観点をとりいれるべきなのです。

実際に、日本は地方と都市との格差は非常に小さいです、これは日本の地方が首都圏とつながったためです。

時間距離で見ると東京から各地方まで遠いところでもほぼ6−7時間で行けてしまうのが現在です。

「東京駅から全国各地への所要時間を可視化した映像。これはタメになる!」


実際には、金銭的距離や心理的距離があったりしますが、東京に一極集中しながらも地方が恩恵を受けてきたのは、地方と東京がつながったためなのです。
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2016年01月19日

都市とは何か?

私たちが普段暮らしている家にそんなに興味も話す内容もないのと同じように,普段の生活の場所として暮らしている都市にもあまり興味をもたないのが一般的です。

でも,都市に興味を持つ人たちもいます。時にはオタクのように,建築物の特徴や町の歴史,地下鉄のネットワークなどに詳しい人たちもいます。

都市の面白さを感じてもらうために,「都市とは何なのか」,ちょっと考えてみたいと思います。


1.ムラとマチの違い

ジェイコブズ(『都市の原理』)は最初に街や都市ができたと考えていますが,一般的にムラからマチに移行したと考えられています。ムラは農業が中心の場所です。土地を使うために,集落は分散しがちです。マチは商業が中心です。モノの売買が行われるので,人が集まって住むようになります。

ムラとマチの違いは,まさに人の集まり具合が違うこと,営む経済活動が違うところにあります。

もう一つの違いは,ムラでは血縁者が多いこと,あるいはよく知った関係者で成り立っており,よそ者に敏感な閉鎖的な場所になっています(田中2004)。農業にはその方が都合がよいからです。

マチは,知らない人が集まっています。どこの出身だとか,今まで何をしてきた人とかわかりません。そのために誰がやってきても誰が去っていてもいいという開放的な場所になります。

2.都市の生成

マチを都市として考えていきましょう。

都市は異質な人が集まり,交流を始めます。自分の持っていない者が欲しい,自分の持っているものを売ろう,これにより無数の知らない人同士が町に集まり,情報を交換し交流をします。都市は新しいモノや情報が集まり,それに興味を持つ人々が集まります。そしてそれらが交換されます

都市は,新しいモノ,新しいことを生み出す創造的意欲をかきたてる場所となります(田中2004)。

このような都市は自然発生的に出来た都市といえます。自由な個人が自分の意志で町に集まり経済活動を行います。好きな場所に家を建て,好きな場所で商売をします。その結果として都市の景観が出来上がっていきます。地中海貿易が盛んなころの諸都市はそのような都市だったのかもしれません。

3.権威とルール

さて,村と都市の違いのもう一つは,その地域(国)の権力者は村に住まず,都市に住みます。その理由は利便性にあります。軍隊を持つ,必要な物資を調達する,等権力を維持するために必要なものはすべて都市にあるからです。

権力者は,知らない人,異質な人が集まる都市で安全な取引を保証しなければなりません。そうしないと,みなが出ていくからです。つまり,私有権や市場の取引ルールが制定されるようになります。

これは都市に集まった個人にとっても便利です。ルールがあるからこそ,安心して取引が可能になるからです(ヒックス『経済学史の理論』)。


4.都市づくり

都市ができる過程には,個人が自由勝手に集まってできた場所なのか権力者が街づくりを行ったかに分けられます。

日本の平城京,平安京などは中国の都づくりに影響を受けた権力者によるまちづくりです。軍事を含めて権力者が運営しやすい仕組みであったと思われます。知らない人が入らないように監視できること,街の中では安心して暮らせるようにすることなどです。城や門や広場などを町の中心に配置するのは世界の都市づくりの共通点です。権力者の権威を示すとともに,軍事的な目的を達成しやすいように町がつくられ,運営されます。ベルサイユやパリなどもその典型でしょう。

首都でないところは自由に街づくりができる傾向があります。ワシントンは区画が整理され,人工的な町の雰囲気を醸し出していますが,ニューヨークは雑多な人たちが集まり,心地よいカオス感を出しています。


5.都市は管理と自由がせめぎ合う場所

都市は,権力者によって管理しようとする力と個人が自由に集まって取引しようとする力がせめぎ合った場所です。市場経済の良さは,匿名の不特定多数が自由に取引でき,そしてそれが住む人々の満足度をあげるところにあります。

しかし都市の市場経済は,混雑や廃棄物や犯罪なども生んでしまいます(市場の失敗)。このために政府は都市に住む人々の自由を管理,コントロールしようとします。あまりコントロールが強いと都市の経済は栄えません。もっと自由な場所を求めて移動するでしょう。とくに資本はすぐに移動してしまいます。

都市の繁栄には,適度な管理と自由な経済取引がないと難しいです。都市では常に個人の自由が発揮されつつも権力者による管理とが生まれています。

このように都市とは,「管理と自由がせめぎ合う場所」だということができます。

<参考>
田村明(2004)「都市をいかにデザインするか」 pp.250-256
学芸総合誌・季刊『環』【特集】都市とは何か Vol.17 藤原書店
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2015年12月29日

ERINA REPORTに寄稿

ERINA REPORTに寄稿しました。

岡本信広(2015)「一帯一路は内陸部を発展させられるか?-重慶を事例に」『ERINA REPORT』環日本海経済研究所,No.127, pp.46-52 (リンク先からPDFでみられます。)

結論として,「「一帯一路」による物流業の発展は中国国内の都市化の推進,さらなる経済発展をも期待できる。重慶はまさに「一帯一路」を活用しつつ,産業集積と物流業の発展が期待できる都市である。シルクロード経済帯にある渝新欧鉄道は重慶の経済発展をもたらす可能性を持っている。通関制度の共通化,運行時刻の改善や便数の増加,そしてコストの低下が進めば,内陸部であるにもかかわらず重慶は中国のさらなる物流拠点,産業集積拠点として発展が見込めるかも知れない。」としています。

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2015年12月22日

地方が消滅してもいい!?

アゴラから

地方創生を考えるには,地方消滅も考慮しないといけないだろうということで,ややあおり(笑)を入れて議論してみました。

さて,前回のエントリーで地方創生のためには、「地方と都市がつながること」と主張しました。

地方を創生するためにやるべきことは何か? --- 岡本 信広

今日は、地方の消滅について考えてみます。結論として、日本という一国全体でみると、地方消滅(その反義としての東京の一極集中)は、感情的には寂しいことですがメリットがあります。


1.地方は都市に吸い込まれる?

地方が東京圏とつながると,地方は恩恵を受けて豊かになりますが,たしかに消滅する可能性もあります。

都市経済圏との一体化は、地方を消滅させる、あるいは地方と都市の格差を拡大する(あるいは固定化しうる)という見方も経済学者にはあります。代表的なものでは,ウォーラーステインの世界システム論,ミュルダールの累積的因果関係,ハーシュマンの分極効果などです。

簡単にまとめると,

1)地方は産業基盤が弱いので常に都市からの財やサービスを購入しつづける。
2)地方の優秀な人材が都市の大学に進学する,就職して帰ってこない。
3)人が移動する→産業が衰退する→町に活気がない→さらに人が来ないという因果関係が累積的に繰り返される。

ということがあげられます。具体的には,東京湾にアクアラインができて木更津がさびれた,つくばエクスプレスができて秋葉原ばかりが得をした,という現象です。「ストロー効果」といわれたりします。


2.長期的にはメリットがある

都市と地方がつながるメリットは以下のメカニズムで働きます。

1)都市部の住民が地方の特産品や農業製品を購入する。
2)都市部の人たちが地方に観光にいく,あるいは混雑をきらって地方に移住する。
3)都市では競争が激しく利益が得られないので,地方に企業が投資をする。

などです。具体的には,木更津に有名アウトレットパークができたとか,つくば市の人口が増えているとか,です。

都市と地方が「つながる」ことによって地方は得をします。中国の事例ですが,私の研究でも地方都市化間の格差を固定化する効果よりも都市の恩恵が地方にいく効果の方が大きいと出ています(岡本2012)。


3.地方が消滅することは悪いことか?

すべての地方が都市とつながったとして、すべての地方にメリットがあるとは考えにくいのは確かです。日本の人口が減少傾向にあるために、地方に行くのが便利になった、都市の混雑がいやで地方に住みたいという需要が出てきますが、すべての地方を潤すほどの労働者と消費者がいるわけではありません。

となると、やはり一部地方には、消滅するリスクが存在します。

しかし、ミクロ的な個人の感情を除いて、マクロ的な経済全体としては地方消滅にはメリットがあります。

都市化は災害、環境、エネルギー、そして経済の生産性向上に力を発揮します(グレイザー2012)。

都市の方が災害の被害が少なく、環境にもやさしく、エネルギーを節約することが可能です。

自宅で各部屋に家族が散らばってエアコンを各部屋ガンガンかけるよりも、リビングに集まっているほうが、環境とエネルギーに優しいのと同じです。

それに加えて、多くの多様な人々が都市に集まるため、新しいアイデアが生み出され、生産性が向上する可能性も増します。生産性が向上すれば、その都市が経済発展を牽引します。この意味でも都市は「人類最大の発明」であるのです。(この意味では、東京はさておき大阪は頑張ってほしい。)

ただ、個人的あるいはミクロ的には、地方消滅には物悲しいものがあることは否定できません。自分の育った村が、朽ち果てていくのをみるのはつらいことでしょう。

しかし、それでも郷愁という感情を我慢すれば,自然淘汰としての地方消滅、そしてその反対の現象としての東京一極集中は、国全体としては便益の方が大きいのです。

<参考>
岡本信広(2012)『中国の地域経済: 空間構造と相互依存』日本評論社
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である』NTT出版
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2015年12月15日

地方を発展させるためには

アゴラでの元ネタ

地方創生VS地方消滅という面白い議論が展開されていたので,遅ればせながら参戦(笑)

まあ何事も結論から単刀直入に言う方が人に伝わりやすいので,結論を先に行っておきますね。

経済活動は一部地域に集積するけど,距離とか移動の妨げがなくなって経済圏が一体化すると,消費と所得は平準化するというのが経済学の知見です。その法則(仮説)からすると,地方創生のためには都市とつながろう,というのが私の意見。


1.経済学の知見

世界銀行は『世界開発報告2009-変わりつつある世界経済地理』を発表しました。(日本語の概要版がこちらでダウンロード可能になっています。)

これは,地域,都市経済学(あるいは空間経済学)のこれまでの研究成果にもとづいてまとめられたものです。ざっくりこの本の主張をまとめると「経済活動は一部地域に集積するけど,距離とか移動の妨げがなくなって経済圏が一体化すると,消費と所得は平準化する」といいます。これが現在の経済学のスタンダードな見方です。これにもとづいて考えていきたいと思います。


2.都市化は進行する

まず,日本でみても,世界でみても都市化は上昇の傾向にあり,それがひっくりかえることはないです。

それは長坂さんのデータが示すとおり。

東京のみなさん、まだイケダハヤトで消耗してるの?


世界の都市化率についても同じことがいえます(UN-HABITATの統計もそれを示している)。

つまり,一部地域、都市に人々が集まり経済活動が行われるという集積の傾向は変わりません。なぜそうなるかは一言で言ってしまうと,企業はコストが減少し,消費者は便益が増すからです。市場経済が発達し,人々の意思決定が自由であるならば,都市の方が地方よりも経済活動は行いやすいのです。


3.都市ががんばれば地方も豊かに

経済活動が一部都市に集積すると地方はどうなるんだと思われるでしょう。でも、安心してください。都市の発展は都市以外の地域、過疎地域も含めて所得を引き上げます。

高知県が貧しいということはなく,人口の集積具合に比べれば,東京都と許せないぐらいの格差があるわけではないです。

平成24年度の統計(人口と1人当たり県民総生産)をみてみましょう。東京の人口は1324万人です。日本の総人口10%以上の人が東京に集まっています。一方高知県は75万人,日本総人口の0.6%です。圧倒的に東京という大都市に人が集まっています。(近隣の神奈川,埼玉,千葉を入れると3000万人を越える!)

1人当たり県民総生産では,1位の東京が442万円であり,2位愛知344万円,3位静岡320万円と続いていきます。高知県は225万円(45位),沖縄県204万円(47位)です。東京が圧倒的に経済活動が集積しているので当然としても,3位の静岡は高知県の1.5倍程度です。

つまり経済活動の集積具合に比べて,所得の差は小さいです。また,お隣中国の上海と貴州の差が約4倍あることを考えれば,所得水準は平準化しているといえるでしょう。(ちなみに10年前は10倍開いていた。)

世界的にみても、先進国は都市化が進んでもそれ以外の地域は貧しくなったかというとそんなことはなく、やっぱり豊かになっています。

経済活動はなくなってきて、地方は閑散としてきたという実感があったとしても,高知県の人の所得と消費が東京に劣っているということはあまり感じられません。

つまり集積して東京が発展すると,地方にもかならず恩恵があります。これが経済の波及効果といわれます(経済学者ハーシュマンは浸透効果と名付けた)。

東京が発展すると,フィリピンの辺鄙な島にはなんの効果はありませんが、高知県、はては沖縄県にも恩恵は波及しているのです。この違いはつながりです。東京と高知,沖縄はつながっていますが,東京とフィリピンのつながりは薄いです。

経済は相互につながっています。一部地域の都市化のみ,あるいはその反対に一部地域の過疎化に焦点をあてても,本質を見落とします。


4.地方は何をすべきか

地方は何をすべきでしょうか。水谷さんが,地方の観光化とかゆるキャラ戦略に金を使うなと,提案されましたが,まさしくこの通りだと思います。これは得策ではなく,確かに無駄な可能性が高いです。以上でも述べたように,人は都市に集まっていくからです。

では何をすべきか?

東京,愛知(名古屋),大阪といった都市圏と「つながる」ことです。高速道路,鉄道,空港,物流センターなどなど,都市とつながることです。情報でいえば,インターネットを普及させることです。財・サービス,人,お金,情報が常に都市とつながっている状態にすることを考えるべきです。

財・サービス,人の移動に関わるコストを下げる方が有益です。

もし,公共事業がきらいなら,iPadのようなガジェットを県民に配り,使い方の講習を行うべきです。そうすれば地方は都市という経済活動の恩恵を受けることが可能です。

イケダさんが高知県に住むことを可能にしているのはまさに現在の日本の各地方が都市との強い「つながり」を確保しているからだといえます。東京への移動に1週間もかかるとか,ネットがないとかになれば,高知県はもっと貧しくなっていたかもしれず,そうすると東京の人がそこに住むという選択肢もなくなります。

世界をみると先進国と途上国に分かれています。途上国の特徴は,先進国との垣根が高い,国境による封鎖度(手続きが煩瑣だとかVISAが発給されにくいとか),世界市場へのアクセス悪い(内陸部だとか,空港がないとか)といった問題があります(世界銀行の報告書)。

中国も地方と都市部(上海,北京,天津など)との格差は開いていましたが,高速道路,高速鉄道,空港の整備などによって一国の時間距離は大幅に改善しました。また戸籍など人の移動を妨げる制度もありましたが徐々に改善し,地方と都市部とのアクセスは改善してきています。これが近年の中国国内の格差縮小,地方発展につながっています。

日本も地方創生を考えるのであれば,都市とのアクセスをさらによくすることです。それにより,都市の発展の恩恵を地方に分配することが可能になるでしょう。
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2015年12月08日

物流や交通インフラ

中国でも日本でも国内市場の統一には物流センターや道路、鉄道、港湾の整備がなされます。物や人の集散地を設けることにより、効率的に物や人が市場の隅々にまで行き渡ることが可能になります。

問題はどこに物流・交通インフラを設置するかです。これは市場が決定するというよりも政府が決定します。

まず大都市間で物流・交通ネットワークを構築することが考えられます。大都市は財・サービスや労働を必要とするために、そこへのネットワークを構築することは利便性を高めることになります。

次は中都市を巻き込んだネットワーク、そして小都市を巻き込んだネットワークでしょう。これにより市場の隅々にまでネットワークが張り巡らされ、財・サービス、労働の取引が可能になります。

問題はこの次です。物流・交通インフラの整備が終わり、ネットワークの改善が行われたとします(鉄道の高速化、道路の拡張、港湾、空港の整備、物流センターの効率化など)。

そうすると各都市に作られた物流・交通インフラは競争を始めます。空港を例に挙げてみると、日本でも各地に空港が建設され、県によっては2つの空港が建設されます。路線によっては採算の度合いが違ってくるでしょうし、場合によっては行き先の乗り換えが便利という、ハブになる空港が出てきます。空港が競争淘汰の段階に入ります。

物流センターも同じで各地でコンテナ輸送の乗り換えや集散が行われます。そうすると、空港も物流センターも多層化します。つまり一部の物流・交通インフラは大広域を範囲とするハブとして、そして一部は中広域を範囲とする地域性のハブとして、そして残りは小地域を対象とするセンターになっていく、というように、カバーする範囲の違う役割を持ったインフラになります。

この競争によって、もしかしたらネットワークの中に必要のない物流・交通インフラが出てくるかもしれません。いわゆる無駄な交通インフラがあぶり出される可能性がでてきます。

国鉄がJRに変換した時に、不採算路線の閉鎖などが話題になりましたが、まさに物流でも交通でも使われなくなったインフラをどうするかという問題が発生します。

公共財として政府が補助金を出し続け維持していくのか、それとも市場淘汰に任せるのか、対象地域の持続的成長にもかかわる大きな選択が、政府と地域住民に迫られることになります。
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2015年11月10日

浙江工商大学学報に

昨年神戸大学で開催された都市化に関する会議でコメントした内容が発展して,以下の成果になりました。

冈本信广(2015)「城乡一体化的艰难前行」『浙江工商大学学报』(2015 年9 月)第4 期(总第134 期),pp.112-117(招待論文)DOI:10.14134/j.cnki.cn33-1337/c.2015.05.014

都市農村一体化の難しい点は,都市農村二元制度と農民の利益調整であることを主張しています。

浙江工商大学学報.jpg
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2015年11月03日

産業連関分析手法の動向

10月10日には日本地域学会第52回年次大会(岡山大学)で,10月31日には環太平洋産業連関学会(通称PAPAIOS)第26回大会(明治大学)で,討論者として参加しました。どちらも産業連関分析に関するものです。

藤岡明房 「産業連関表の単位構造分析 についての一考察 」 へのコメント
陳・申・山田 「中部地域における生産構造の経年変化に関する一考察」 へのコメント

です。上記は単位構造(故尾崎厳先生)について,後者はAPL(平均世代波及数,平均波及長)の分析手法を使っています。

1)産業連関分析の動向

産業連関分析には時代的な波があります。レオンチェフが産業連関分析を発明後、その経済予測の正確性から経済モデルとして世界的に普及、統計的にはSNAの発展につながるとともに、経済の実証分析としてはレオンチェフ・パラドックスなどで貢献しました。

これらの貢献でレオンチェフは1973年にノーベル経済学賞を受賞。この辺りが産業連関分析のピークとなります。しかし,その線形性,作表の困難さ,モデルの柔軟性のなさ,などから,1980年代、1990年代に衰退します。

復活のきっかけは,空間経済学の勃興です。空間分析のツールとして1990年代後半より実証用データとして使われるようになりました。最近ではサプライチェーンの広がりによって付加価値貿易の分析など、新たな活用が広がり、Koopmanらの論文がAERに採用されるなど、経済学的に大きく貢献しています。また環境、資源、道路計画など工学分野でも活用されています。

2)単位構造は復活可能か

慶応大学の故尾崎先生が提唱した単位構造分析(Unit Structure Analysis)というのがあります。これは最終需要一単位を生産するのに必要な中間財投入構造(すなわち単位構造)を明らかにするというものでした。そしれ彼の実証結果は,単位構造は時系列的に見ても安定しているというものです。

これは産業連関表の前提である投入構造の安定性を示しているともいえます。分析手法がシンプル,導かれるファインディングスも結構頑健性のあるものであるため,最近では誰もつかっていないのが現状です。

もしこれを復活させるとするならば,やはり空間的な使い方が必要でしょう。つまり非競争型(輸入と国産財は別ものとして扱う)の表での単位構造の位置づけができる,あるいは国産率(藤川先生,長谷部先生)に関連した展開があれば,何かしらの使い方は可能かもしれません。でも単位構造は安定しているという尾崎仮説を覆す発見ができるか,できたとして,その理由は何かを考える必要がでてきます。

3)APL(Average Propagation Length)

最近の注目手法はAPLです。産業連関が前方連関,後方連関の強さを表わすというところから,産業間のつながりの「長さ」を分析することに成功した手法です(Ditzenbacherなど2005)。猪俣(アジ研)はこれらを図解する方法を考え出し,見方によっては新たな産業連関の発見につながってきたといえます。

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