2011年03月05日

計画経済と不足<岡本式中国経済論19>

中国のインフレが注目されています。物価変動が国民生活に影響を与えています。

このようなニュースがありました。中国人民銀行総裁がインタビューに応えてこのように言っています。

通貨政策「適度に締め、適度に緩める」 周小川・中国人民銀行総裁に聞く
フジサンケイ ビジネスアイ 2月1日(火)8時16分配信
 中国の通貨政策責任者である、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は、中国国営新華社通信のインタビューに答え、インフレ局面にある中国の通貨政策が向かうべき方向などについて言及した。周総裁の主な発言は次の通り。

 ◆軟着陸の局面

 −−金融危機以後に通貨供給量を増やした結果、供給過剰となった。現状をどう考えるか

 「かつての計画経済の時代には、大きな物価変動はなかった。しかし、市場経済となった今は、生産量と価格は流動的となり、通貨供給量の過剰という概念が生まれてきた。(以下,略)」



実は中国では,いろいろなところで「計画経済」であったことが触れられます。中国は計画経済から市場経済へ移行した国なのです。今日は,今の中国ではなく,計画経済だった中国を考えるとともになぜ市場経済国になろうとしたのかを考えたいと思います。

1.計画経済の特徴

上の記事にも少し触れられています。計画経済時代は物価変動はありませんでした。それは生産や物価は政府がコントロールしていたからです。

計画経済の特徴をまとめると

生産量と価格は政府が決める
作られた製品は政府が分配する


です。

その状況を『人民日報日文版』からみてみましょう。


 文化大革命が始まると、老舗の看板は破壊され、屋号も「東方紅」「向陽」「工農兵」などに変えられた。商品の絵看板には毛沢東の肖像画と語録が描かれた。飲食店では、客が「階級の敵」かどうか判断しにくいとあって、セルフサービス方式に切り替えた。客は自分で窓口に来て料理を受取り、空いたテーブルを見つけて食べ、食器まで自分で洗った。わずかに残っていた個人経営者たちもすべて「資本主義のしっぽ」として切り捨てられた結果、商品の流通チャンネルは完全に単一化し、経営も役人風になった。60年代初期に復活していた定期市や商業施設が撤去され、サービス種目は減少し、名物料理などが消え、商品が不足したため、庶民はさまざまな困難を強いられた。配給制度はますます多方面に広がった。主食に食糧切符が必要なのはもちろんのこと、副食品には副食購買証、日常雑貨には工業券、布や衣類には布券や綿花券、また自転車や家具にもそのための切符が必要だった。

ここでのポイントは「配給制度」です。各家庭に配給券が配られ,配給券の量だけの需要に沿った生産が計画され,供給されることになります。経済全体で配給券で需要量がコントロールされます。配給券の数でどれだけ生産すればいいかわかります。政府はこの配給制度で経済に存在する財やサービスの生産と販売をコントロールしていたのです。

配給制度のメリットは,公平です。経済全体に存在する財やサービスは希少です。一部の人に多く行き渡り,ある一部の人に行き渡らないということになると格差が広がります。社会主義思想は,財やお金が集中して持っている資本家からお金はないけど労働だけ提供できる労働者に配分を増やそうという目標があります。政府は労働者全員に同じもの同じ量を配り公平な社会を実現しようとしたのです。

経済に関する「意思決定」は企業や家計になるのではなく政府にあるというのが大きな特徴です。


2.不足の経済

その頃の生活について,同じ『人民日報日文版』に以下のような証言がありました。


配給券の思い出

五九年から六一年まで三年続いた困難の時期のことは、今でも忘れられない。何でもものすごく欠乏していたので、すべてに配給券が必要だった。食糧を買うには食糧券が要り、配給量は人によって違っていた。女子中学生だった私の場合は月に十五 だった。大学に行っていた兄もいつも腹ペコ。と言って余分の食糧券があるわけがないので、週末に家で油炒麺(小麦粉を炒って油やゴマなどを混ぜたもの)を作って寄宿舎に持っていった。豚肉は月二百五十 の配給。大みそかには「補助肉」といって、少しばかり特配があった。あのころは脂身が欲しかった。それも脂肪たっぷりのを。食用油も配給だったので、脂身を融かして油の代わりにしたのよ。家具には職場からの配給券も必要だったが、その割当が数枚ずつしかない。私は、七一年の結婚直前にやっと順番が来て、たんすの券をもらった。ちょうど同じころ姉も勤め先で券をもらったので、一家大喜び。翌日の朝二人で西四の家具店に行ったが、たんすはもう売り切れだった。売るのは一日十棹だけという規則があったの。三日目は朝七時に行ったけど、まただめ。四日目、朝四時から店の前に行列して、ついに念願がかなった。七五年、私が勤めていた学校にミシンの券が来た。みんな欲しいと言う。どうしようか? くじだ。そして私がその幸運を引き当てた。同僚たちはみな羨ましがった。譲ってくれないか、とこっそり言ってきた先生もいた。長年の仲間だから悪いと思ったが、私自身も欲しくてたまらなかったので、思い切って断った。(于玉珍 出版社編集者 五十三歳)

「二十世紀写真と証言でたどる中国の百年」『人民日報日文版』(原掲載は『人民中国』))


(ちなみに当時の中国の配給券の写真はこのブログで見ることができます。)


社会主義計画経済の問題は,「不足」ということです。北朝鮮でも食糧危機がよく言われ,援助を国際機関や中国に申し出るのも計画経済では財やサービスが不足しやすいという問題があるからです。

なぜ財やサービスが不足するのでしょうか。

コルナイ(1984)は,社会主義の特徴として「ソフトな予算制約」という状況を指摘しています。

私たちの生活では物を購入するに当たっては常に予算と相談してから決めるという予算制約が存在します。フトコロはいつも温かいというわけではなく今日は小遣いが少ないからちょっと買い物を控えようという状況はよくあることです。

予算制約がソフトということは,予算の制約があまりない,あるいはゆるいということです。企業にとってみれば経営がうまくいこうがいかまいが赤字になっても政府が援助してくれる,銀行がいつでもお金を貸してくれるという状態です。資金繰りには全然困らないというのがソフトな予算制約です。

家計にとってみれば,買い物の制約がないということです。配給制度の中では,自分の所得の中で買い物しようということにはならず,所得と無関係になってしまいます。これが家計のソフトな予算制約です。

つまり,

財布がゆるい→何でも買える→投資需要と消費需要の増加

につながります。

生産企業は計画達成に余裕をもたせるために,原材料や中間財を多めに工場に貯めておこうとします。

家計(消費者)は,いつも決められた量だけなので,今日はパァーっとやりたい(宴会など)気持ちなるかもしれないので,いつ何が必要になるかわかりません。その時に備えて余分にもっておこうとします。

これが需要が供給を上回る超過需要を生み出し「不足の経済」となります。

話はズレますが,中国人は並ばないとよく言われます。並ばない理由は「不足」への不安です。バスや地下鉄に乗るときに「われさきに」とドアに集中していきます。チケットの販売などでは窓口で並ばずに横から割り込んだりします。文化が低いとか,民族の問題ではなく,長年の計画経済で不足の不安を味わってきたために,このバスを逃すといつ来るかわからない,今日チケット買えなかったらいつ買えるかわからないという不安が無意識に働いているからです。

「不足の経済」は「余剰の経済」と同じになります。生産企業は計画達成を余裕でできるように,常に労働者を多めに抱える,原材料を余分にとっておく,生産設備を過剰にもっておく,生産要素や原材料,中間財を「貯めこむ」状態になります。

家計(消費者)は,足らない時に備えて使うかどうかはさておき消費財を多めに確保する状態になります。

これが需要増加につながるとともに「貯めこむ」という余剰の経済にもなっています。

このような経済では資源が無駄になっている,あるいは資源が効率的に使われていないという状況になります。社会にとって大きな損失になるわけです。


3.市場経済は資源を効率に配分する

計画経済が抱える「不足の経済」「余剰の経済」がもたらす社会資源の無駄使いは,経済が混乱しやすいです。工場では仕事があまりない労働者がいます。使わない生産設備があります。家計には使わないものがあふれます。資源が効率的に使われず,超過需要が発生し,さつばつと物を奪い合う社会になってきます。

その他にも計画経済にはさまざまな問題があります。社会で必要な財がどこにどれだけ必要かをわかることはできないために完全な計画をたてることはできない,新たな製品をつくろうするインセンティブがわかない,平等主義なのでまじめに働こうとするインセンティブもない,などの問題があります。

中でも大きな問題が資源が無駄になるという点です。社会では物が不足し,使われないモノが存在する。需要と供給のバランスが崩れているのです。

このような状態を解決するのが市場経済です。市場経済は,価格が重要なシグナルになります。モノが不足しているという状況は超過需要が発生しているので,価格が上昇していきます。予算の制約がはっきりしている場合は,買えない人が出てきます。社会全体で需要が減少します。つまり不足しているモノは価格が上がることによって供給を増やし,需要を減らしてバランスをとるわけです。

モノが余っている場合は超過供給です。価格が下がることによってモノを購入しようと思う人が増えます。供給が減少し需要が増加することによって資源が過不足なく取引されることになります。

つまり市場経済は資源を効率に(無駄なく)配分することができるわけです。市場経済は「効率的な経済」を実現します。

市場経済の特徴は

企業や家計が意思決定する
財やサービスは価格で需給を調整する


です。

市場経済化への移行とは

価格を自由化し
政府の意思決定をなくしていく過程


です。人民公社をなくし,国有企業を改革して政府が生産や販売などの意思決定に関与する度合いは急激に減ってきました。物価は自由に決まることができるようになりました。30年間の改革の結果中国は以下のようになったのです。

「かつて物不足のために列をなし、配給商品を買い求める光景は、中国の国民の日常生活の一部だった。改革開放が行われたこの30年、急速な発展で中国の商品やサービスの供給は、すでに不足からやや需要を上回る状況になっている。」(「改革開放30年 中国経済発展の目覚しい成果を反映する10のデータ(4)主要製品の生産量が世界前列に 不足していた商品やサービスが安定供給」『人民中国』「チャイナネット」 2008年10月31日)


今,中国ではモノ不足の状況に出逢うことはなくなりました。ただ計画経済の名残としては政府が積極的に経済に関与することがあるということです。最近の住宅価格対策である「国八条」は,国家発展改革委員会(元国家計画委員会)による物価統制という側面があるからです。

<参考文献リスト>
コルナイ・ヤーノシュ(盛田常夫訳)(1984)『「不足」の政治経済学 (1984年) (岩波現代選書〈90〉)』岩波書店
盛田常夫(1995)『体制転換の経済学 (新経済学ライブラリ (20))』新世社
「二十世紀写真と証言でたどる中国の百年」『人民日報日文版』(原掲載は『人民中国』らしいが元をたどれず)
http://j.peopledaily.com.cn/serial/100/26.htm,2011年2月17日アクセス)
「改革開放30年 中国経済発展の目覚しい成果を反映する10のデータ(4)主要製品の生産量が世界前列に 不足していた商品やサービスが安定供給」『人民中国』「チャイナネット」 2008年10月31日
http://www.peoplechina.com.cn/xinwen/txt/2008-11/03/content_160726.htm,2011年2月18日アクセス)
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2011年02月19日

農民の土地請負制度とインセンティブ<岡本式中国経済論18>

中国は広大な農村を抱えている農村国家です。13億の人口のうち半分の7億が農村に暮らしています。

農村に住む農民の生活をどのように向上させるか,中国という国家の将来を左右する重要課題です。

中国共産党もそれを認識しています。とくに2003年から2010年まで党中央が重視していることを示す「中央一号文件」は農村・農業・農民の三農問題に対するものでした。

MSN産経ニュース

農民収入の増加が過去最高 中国
2011.1.30 19:59
 中国共産党で農村対策を担当する中央農村工作指導グループの陳錫文主任は30日記者会見し、昨年の農民1人当たりの収入が前年比で766元(約9560円)増とこれまでで最大の増加となり、5919元に達したと明らかにした。物価要因を除いた実質で10・9%の伸びという。

 陳主任は「農村改革の推進で明らかな成果があった」と強調。一方で水利施設の立ち遅れが農業の安定的な発展の妨げになっているとの認識を示し、今年の最重点課題をまとめた29日公表の「中央1号文件」が、水資源対策に力を入れる方針を打ち出した意義を訴えた。(共同)


中国の経済発展史の基礎には,食糧問題の解決という問題が横たわっています。この問題は改革開放政策後ほぼ解決しましたが,人口大国中国にとって依然重要視すべき問題です。これが農業問題です。

『人民中国』の記事はその状況を簡潔にまとめています。

1949年、全国の食糧総生産は1億1300万トンで、1人当たり209キロの食糧しかなく、多くの人々は飢餓にあえいでいた。食の問題解決が新中国成立後の最重要課題だった。中国は1955年食糧配給券制度をやむを得ず導入し、食糧不足時代の歴史の印を刻んだ。1978年、生産責任制が全国で始まり、農作物の生産に対する農民の積極性を刺激した。1982年から1991年の10年間、中国の食糧生産量は毎年8%のペースで増加し、一気に世界最大の食糧生産国に伸し上り、世界の10%に満たない耕地で世界の22%の人口を養うという軌跡を起こした。特にここ数年は農業税の取り消しなど一連の農業優遇政策により、6年連続で豊作となった。中国の食糧貯蓄は世界の平均水準に達した。(「60年で貧困からややゆとりのある生活へ」)


農業・農民・農村の三農問題の中でも,農民のやる気と農業生産の関係を土地の請負制という角度から考えてみたいと思います。

1.土地改革と人民公社化

1949年に中国共産党が新中国を成立させました。その前後から国民党から占拠した地域の農村に対して,共産党は土地改革を行っています。それは土地を地主から取り上げ,農民に配分するというものでした。

『人民中国』の記事によれば,

「楡林村の土地改革は、村民一人平均である2ムーの土地を超す地主の土地が没収され、無償で土地のない、あるいは土地の少ない農民に分配された。当時、馮儀さんと李栄祥さんは人民政府の発給した「土地証書」を受け取ったとき、その喜びと感動は言葉では言い表せないほどだったという。」

だったそうです。

これにより農民は勤勉に働くようになり,農民の生活は豊かになり,国としての食糧も豊富になったといいます。

1950年代に中国は重工業化を推し進めます。労働者が増加し,都市は拡張されて都市の食料需要が増加しました。国が食糧を農村から買い上げて都市に供給することを保障するために以下の改革が進められます。

(1)農民の集団化‐人民公社化
農民を集団組織して,全員に一律の作業を課すという方法が取られました。これが農民の集団化です。このメリットは,灌漑設備や農薬散布,種まきや収穫まで,全員でやったほうが効率がいいということにあります。

この集団化は「合作社」から規模数万人の「人民公社」にまで膨れ上がりました。土地は人民公社が所有する集団所有となったのです。

また社会主義の理想(分配の公平)を掲げる人民公社では,いつでも公社で食事ができ,誰でも平等に賃金の配分を受けることができるとされました。

(2)食糧の調達
全国の食糧、食用油、木綿など国家の重要物資について「統一買付け・統一販売」の制度が導入されました。これは人民公社という政府の代理機構が農村の収穫物を政府公定価格で買い付け,それを統一的に都市に販売するという制度です。農民は自分が生産した農産物に対しても土地と同様,自由に処分することができなくなりました。

2.請負制度の導入

土地は集団のもので,収穫した物に対しても自由にできない,そしてもらえるものは固定されて決まっている,このような状態がもたらしたのは農民のやる気のなさでした。つまり働くというインセンティブがまったくなくなったのです。

そこで中国では一部の地域が人民公社にはこっそり内緒で土地を請け負って生産するという取り組みがなされました。これが効を奏し,全国的に広がっていくのです。その時の状況を『人民中国』は以下のように記述しています。

「小崗村は安徽省鳳陽県にある小さな村である。村は20戸の農家しかなく、水稲や小麦を作って暮らしをたてていた。しかし、1978年以前は、毎年、村民一人当たりの食糧は20キロ余りしかなかった。国からの給付金と毎月配給される食糧に頼る以外は、ほとんどの農家は汽車にタダ乗りして上海、江蘇、浙江などへ物乞いをしに行っていた。

1978年の夏、この地は大干害に見舞われた。小崗村では夏の収穫が終わったあと、村民は一人当たり3.5キロの小麦しか分配されなかった。当時の農村は、行政、生産、社会の基層組織である人民公社に組織されていた。

この年の秋、悩み抜いた数人のお年寄りが、人民公社の基礎組織である生産隊幹部の厳俊昌さんと厳宏昌さんのところへ相談に行った。「大釜の飯を食わず、働きに応じて分配することはできないだろうか」というのである。

何回も協議を重ね、ぎりぎりの線で生きて行くために、18人の村民は、11月24日の夜、生産隊の土地を個々の農家に分け、自主的に耕作させ、国への上納分と人民公社の留保分を除いて、残りをすべて自分のものとすることを密かに決定した。

当時は、土地を各戸に分ける「分田到戸」や各戸が生産を請け負う「包産到戸」は違法行為と見なされていたので、危険は大きかった。そのため、18人の村民は、一家の財産と生命を担保と見なす「労働請負契約」に拇印を押した。いま、この「生死をかけた契約」の文書は、中国農村改革の証拠として、国家歴史博物館に収蔵されている。」


そして多くの農民がやる気をだし,生産は拡大していきます。

「1979年、小崗村は「分田到戸」が始まった。どの農家も一生懸命働いたうえ、気候が順調だったため、この年は大豊作になった。関友江さんは一家6人で、水稲4000キロ、落花生1000キロ、サツマイモ1000キロを収穫した。この年、小崗村全村が収穫した食糧は、1955年から1970年までの生産総額に等しかった。」

と『人民中国』は報道しています。

これをきっかけに農家請負経営が全国的に普及します。1984年には党の中央一号文件に明記され,請負期間が15年であるとされます。そして農家請負経営における農家の権利が土地請負経営権として法律上明記され,法的保護を受けるようになるのは 1987 年に施行された民法通則および土地管理法によってからとなります。その後,15年の請負期間が満了する1993 年に制定された農業法で土地請負経営権の規定に関する一定の充実が図られ,さらに 1998 年に制定された土地管理法では土地請負期間が 30 年間であることが明記されました。2002年には農村土地請負法が制定され,土地請負経営権に関する一応の法的整備がなされることとなります(河原2006)。



3.請負制とインセンティブ

人民公社のような集団化では農民のインセンティブがなくなるということを,ゲーム論から明らかにしてみましょう。

見張りのゲームというのがあります(松井2010)。それは軍隊が夜襲に備えて,見張りを一人つけた場合と複数つけた場合とを比較するものです。見張りが自分だけのときには,敵に夜襲されて自分も含めて全滅するのは困るので一生懸命に見張りをします。ところが見張り番が自分のほかにもう一人増えると,自分が居眠りをしてしまって見張りを頑張らなくても大丈夫なんじゃないかという気持ちになります。

集団化された農業で,自分がまじめに労働するコストを1,自分がまじめに労働するのをさぼって全体の収穫が下がることを2と考えます。そうすると以下のような簡単な利得表ができます。

             みんな
          労働しない 労働する
自分 労働しない   −2     0
   労働する    −1    −1

集団化されていない,個人農業の場合,だれも助けてはくれないので,収穫なし(労働しない)よりは労働した方がよいので,労働をします。ところが集団化されて他の農民がいるなと思うと,相手が労働してくれると収穫はあるので,自分が労働をしなくても住むという利点がでてきます(自分が労働しない,みんなが労働するところの利得が一番良くなる。)。

みんなが労働しない確率をpとすると,自分が労働しないことによるコストは−2pとなります。労働するコストは−1pです。自分が労働するかどうかの境目は,

−2p=−1p
p=1/2

となります。みんなが労働しない確率は2分の1であり,自分も労働しない確率は2分の1となります。この集団化で二人の労働者が労働しない確率は4分の1となってしまい,一人の時にはさぼることななかったのに,すくなくとも二人の集団化でサボる確率がプラスになってしまいます。人数が増えるとサボる確率は上昇していきます。

つまり農民にとって,人民公社の集団化が進めば進むほど,誰かががんばるだろう的になり,みなが怠ける結果になります。

もう一つ,得られる分配が働いても働くなくても同じという問題があります。

       農民の利得
働く     W−2
働かない   W

働いて働かなくても利得は同じWとします。働く方はその分遊びに行けないので費用が2とします。つまり機会費用です。働かない方は体力を温存でき,何もしなくても分配を得ることができるので,Wとなります。

明らかに

W-2<W

ですので,農民のインセンティブは働かない方に動きます。働くようなインセンティブを農民に持たせるにはどうしたらいいでしょうか。それは働いたら働いた分だけ報酬が得られるようなインセンティブ契約を人民公社と結ぶことです。これが請負制度でした。

農民が働くようになるためには

       農民の利得
働く     W+a−2
働かない   W

aというインセンティブ報酬をつけることが必要です。そのインセンティブ報酬はいくらがいいのかというと

W+a−2>W
a>2

となります。つまり農民が働くことによってかかる機会費用よりも大きいだけの便益があれば農民は働くことになります。これが請負制度のメリットであったといえるでしょう。



4.その後の改革は所有権へ

請負制はもちろん農民のやる気を引き出し,国の農業生産を増加させました。しかし,改革はさらに一層のやる気を出すために所有権に近いところまで来ています。

つまり究極的な農民のやる気は所有権をはっきりさせることです。自分で農産物を生産する手段(土地)をどのように使うか,その手段(土地)から得た収穫物をどのように処分するか,自分で決める権利をもつということです。そうすることによって農民は一層のやる気がでます。これをコースの定理といいます。


2008年9月30日、胡錦濤総書記は生産責任制を最初に始めた安徽省小崗村を訪問し,土地請負経営権の流通について触れました。その後2008年の10月12日、中国共産党第17期三中全会は『農村の改革・発展促進の若干の大きな問題に関する党中央の決定』を採択しました。

これにより農民は請け負った土地に対して占有,使用,収益などの権利を保証し,下請けや賃貸,交換や譲渡,株式合作などの形で土地請負経営権を流通させることができるようになりました。

最後に関(2001)の評価を紹介します。

「請負制では、農民が名義上の土地の所有者である政府と契約を結び、定額の上納金(賃料または税金にあたる)さえ払えば、残りの産出を自分で処分することができる。その後、契約の期間が長くなり(一般的には50年間)、租借権の転売も認められるようになるにつれて、農業部門における請負制は、使用、利潤の帰属、譲渡の権利の整った私有財産に近いものになりつつある。国家が土地の所有権を支配することで社会主義的なイデオロギーが維持されると同時に、土地の事実上の私有化が農民たちの意欲を刺激し、農業における高効率をもたらした。これは「社会主義」の看板を掲げながら、「資本主義」の要素を積極的に導入するというケ小平の「中国特色社会主義論」の運用の好例である。」


<参考文献リスト>

河原昌一郎(2006)「中国の土地請負経営権の法的内容と適用法理』農林水産政策研究所 レビュー No.18
http://www.maff.go.jp/primaff/koho/seika/review/pdf/primaffreview2006-18-5.pdf,2011年1月28日アクセス)
関志雄(2001)「中国制度学派のパイオニア張五常」(http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/010903gakusya.htm#pagetop,2011年2月2日アクセス)
60年で貧困からややゆとりのある生活へ」『人民中国』2009年9月10日
http://www.peoplechina.com.cn/zhuanti/2009-09/11/content_218312.htm,2011年2月18日アクセス)
三回の土地改革が農村を変えた (1)楡林村の変遷」人民中国 2009年2月16日
http://www.peopleschina.com/jingji/2009-02/16/content_178272.htm,2011年2月1日アクセス)
三回の土地改革が農村を変えた (2)史上最大の土地改革」人民中国 2009年2月16日
http://www.peopleschina.com/jingji/2009-02/16/content_178277.htm,2011年2月1日アクセス)
三回の土地改革が農村を変えた (3)請負制の始まり」人民中国 2009年2月16日
http://www.peopleschina.com/jingji/2009-02/16/content_178278.htm,2011年2月1日アクセス)
三回の土地改革が農村を変えた (4)第三の土地改革」人民中国 2009年2月16日
http://www.peopleschina.com/jingji/2009-02/16/content_178279.htm,2011年2月1日アクセス)
松井彰彦(2010)『高校生からのゲーム理論 (ちくまプリマー新書)』ちくまプリマー新書
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2011年02月05日

公務員とインセンティブ<岡本式中国経済論17>

もうずいぶん前ですが,ウィリアム・イースタリー(小浜織井冨田訳)(2003)『エコノミスト 南の貧困と戦う』東洋経済新報社という本を読みました。

途上国問題や開発を考える上で「インセンティブ」の重要性に気付かされたとってもいい一冊です。

中国の経済開発で考える上で,政府の役割がどこまで経済パフォーマンスに影響するか,という重要テーマがあります。政府で働くお役人とかの振る舞いが,企業や家計の経済主体にどんな影響をあたえるのかが気になるわけです。

この問題は非常に難しいのですが,政府の役人とインセンティブについて少し考えておこうと思います。

日本も中央政府,地方政府ともに財政赤字です。常に増税や無駄遣いをなくすことが議論されますが,中国でも財政の無駄使いが指摘されています。

政府の財政浪費を小さなニュースから。


中国の行政事業単位(機関)の公用経費は毎年9000億元に
毎年の公用車に1500億元から2000億元に
2010-01-06 南方週末 

(原文中国語のため概要を要約)
国家統計局などの数字によると,2005年以来国家の財政行政事業機関の公用経費の支出が毎年1000億元増加しており,現在9000億元になろうとしている。そのなかで公用車の消費支出が比較的高い。

現在のところ党政府機関及び行政事業機関の公用車両は200万両を超えており,その消費支出は1500億元から2000億元になっている。

公用車は部長(大臣),副大臣(副部長),省長,副省長クラスで持てるのが原則にも関わらず多くの機関の幹部が公用車とは呼ばないながらももっている。これらの維持費用が一車両につき8万元から10万元にもなるという。

国家発展改革委員会や広東省などの試算によれば,党政府機関の公用車は毎1万キロの運行で普通の社会営業車両のコストの5~6倍にもなるという。

国家発展改革委員会の調査研究報告書によれば,公用車の利用は3つの3分の1と言われている。つまり公用が1/3,幹部や家族の私用が1/3,運転手の使用が1/3であるという。


(以上,ニュース記事の要約)

また,国家機関の公用車改革が進まないことにいらだつ議論がこのニュースにもあります。ご参考まで。)



1.問題の整理

上記の問題は公務員のモラルとして取り上げられる問題です。中国だけの問題ではないのですが,公務員の“公”たらしめるインセンティブをどのように形成するかは大きな経済学的トピックでもあります。

公務員が公僕として国民や市民に仕えることが求められるのですが,国によって若干差があるようです。一般に先進国であればモラルが高く,途上国であればモラルが低いとなります。

中国の公務員のモラルが低いと言ってしまうとそれで話が終わってしまいます。問題を整理してみましょう。

公務員の給与は一般家計や企業から集められたお金(税金)によって支払われます。公務員は政府の立場として企業や家計に対して経済活動をスムースに行えるように公的サービスを提供する立場にあります。

この関係をエージェンシー関係(あるいは「委託と代理」(Principal-Agent)関係)といいます。

公的サービスを得たいと考える家計や企業が,政府に公的サービスを委託しています。家計や企業は「委託人」という立場になります。

政府は家計や企業の「代理人」として家計や企業に公的サービスを提供します。


つまり

家計や企業(委託人)ーー政府(代理人)

取引される財  税金ー公的サービス

という関係が存在します。この取引では市場の力がなかなか発揮できません。一つは公的サービスの価格付けが難しいということです。公的サービスは誰かのためにやるというよりもみんなのためにやるので,あの人に与えてこの人に与えないという排除ができません。そのため公的サービスに見合った価格がいくらかということが決められにくいという問題があります。

もうひとつの問題は,情報が非対称だということです。政府は公的サービスの費用がいくらかわかりますが,家計や企業はそれがいくらなのかわかりません。情報が非対称であるために公的サービスのやりとりがうまくいかないということになってしまいます。

ちなみに委託ー代理の関係が経済取引で生じるのは,専門性の原理ということがあるからです。公的サービスを提供するにはある程度しっかりした人にやってもらわないといけないわけで,日本でも普通に公務員試験をやって公務員としての専門性をもった人を採用するようにしているわけです。


2.情報の非対称性

この問題の要(かなめ)は,公務員が税金に見合った働きをしろ(公的サービスを提供しろ)ということです。

この情報の非対称は以下の問題を引き起こします。

エージェンシー関係が成立した後、委託人が代理人の行動を完全に観察・判断できないため、代理人が経済取引で果たすべき行為をせず背信行為を行い、私的利益を優先して行動し、その行為を隠すというケースである。この種の「行動隠蔽(隠された行動)」の問題は、モラル・ハザード(moral hazard)と呼ばれます(任2004)。

ちなみに,もう一つのケースとして、委託人が代理人と経済取引する前に、代理人が提供する商品やサービスの質を偽り、あるいは自身の能力水準や選好タイプを歪曲したりして、自分にとって最も有利な条件を付けて、取引を成立させようとするケースがあります。この種の「情報隠蔽(隠された情報)」の行為は、逆選択(adverse selection)と呼ばれます(任2004)。なぜ「逆選択」と呼ぶかというと、その情報を隠すことによって委託人は質の悪いものを掴まされ,いい質のものを手に入れる選択ができなくなるからです。

つまり良いものが市場から退出してしまい、社会にとって非効率なものばかりが逆に選択されてしまう、ということで逆選択と呼ばれます。(これは食の安全問題<岡本式中国経済論7>で論じたレモン原理のことです。)

話を元に戻すと,一般の家計や企業(公的サービスを期待する委託人)は公務員(公的サービスを家計や企業の代わりに行う代理人)の行動に関する情報が得られないという問題があります。

情報が非対称であるがゆえに,公務員と家計や企業などの委託ー代理の間に効用の差異が生じることになります。

                     公務員  家計や企業
まじめに公的サービスを提供する。  効用 100    100+α
公的サービスをさぼって働く。    効用 100+α  100

この問題を解決するには,公的サービス(α)を価格で評価できると市場メカニズムで効率的に取引できるようになるのですが,公的サービスを評価するのが難しいわけです。

こんなニュースも最近出ました。(MSN産経ニュース)

「腐敗取り締まり徹底」中国政治局会議
2010.12.28 22:11
このニュースのトピックス:中国
 新華社電によると、中国共産党は28日、政治局会議を開き、来年7月の党創立90年へ向けて党員の腐敗取り締まりや綱紀粛正を徹底することを決めた。
 党と政府に権力が集中する中国では、党や政府の幹部による職権乱用や汚職が深刻で、庶民の反発を買っている。
 会議は大型プロジェクトに絡む不正や役所の裏金庫、公用車の流用など庶民の関心の強い分野での取り締まりを重点にすることを強調した。(共同)


3.官僚の力を発揮させるために

政府官僚の腐敗や堕落を引き起こす原因はモラルというよりも,国民と政府の間の情報が非対称であるということにあります。政府の労働者(官僚)の働き意欲や努力の程度が経済への重要な役割を果たすことになるわけですが,国民は官僚の能力を完全に知ることができず、また官僚の働きぶりを常に監視することはできません。政府側は情報をもっているけども,国民側には情報がないということになります。

これを解消するために,一つは公務員の労働契約をインセンティブ契約にする,という方法です。

つまり,きちんと仕事をやった場合にはやった分だけのインセンティブ報酬を支払うということです。野球選手の契約更改で話題になる「出来高払い」と同じです。

きっちり仕事をやったら,+α分の報酬を与える,そうすることによってサボろうとか汚職がなくなると考えられます。

ただ野球と違って公務員の仕事は複雑で評価がしにくいという問題があります。公務員の仕事は多種多様です。書類を作ったり,国民に対応したり,別の会議にいって打ち合わせしたり,とさまざまな仕事をしているのでそれを数量化,評価するのは非常に難しくなりますし,それができたとしても非常に煩雑になり,行政組織の効率悪化にもつながりかねません。

ですので,公務員にインセンティブ契約を採用するということは難しいということになります。

次の方法は,モニター(監視人)をつける,ということが考えられます。いわゆるモニタリングです。モニタリングの仕方としては,(1)委託者が自らモニターになる,(2)法律で代理人をモニターする,(3)第三者に代理人をモニターする,です。

(1)は公務員がもっている隠れている情報を得るために、国民(委託者)が自ら一定の情報生産活動に従事する方法です。日本でも行われている市民オンブズマンというものです。(官僚組織に入っているわけではありませんが。)

(2)法律で情報を公開させるという手法で,いわゆる情報公開法のように公務員の仕事を公開させるというものです。ただ日本のケースでは,情報公開法で逆に公務員が書類を作らないようになったり,書類自体の存在を否定して,実質公務員の仕事のインセンティブを曲げてしまっているということもあります(清水堀内2003)。

(3)は,国民(委託者)が公務員(代理人)のほかにもう1人のエージェント(監督者)を雇い、公務員(代理人)を監督させる方法です。

これにより,委託者ー監督者ー代理人の三階層の関係になります。多くの組織管理でこの方法が採用されています。例えば,株主ー監査法人ー経営者、国民ー官庁ー規制企業などが挙げられるでしょう。

中国の公務員監督として党には中央規律検査委員会がありますし,政府の中にも監察省があります。

ただこれも完璧とはいえません。中国は一党独裁なので,本当に党を管理する第三者機関というのが機能しにくいという問題があります。また日本でも問題になりましたが,警察や政府を取り締まることのできる検察が腐敗したら,やっかいです。

結局,監督者が情報を持っていて,国民(委託者)が情報をもっていないとなると情報の非対称という同じ問題が発生します。


汚職などで12万人を処分 見つかった裏金1600億円 中国共産党
2011.1.7 12:38
このニュースのトピックス:中国
 7日付の中国紙、京華時報によると、中国共産党中央規律検査委員会と監察省は6日、昨年1年間で党員11万9527人が汚職などの規律違反で処分を受けたと明らかにした。
 また、2009年4月から昨年12月までに、党機関などで2万5738件、計約127億元(約1600億円)に上る裏金が見つかったという。(共同)



最後の情報の非対称が引き起こすモラルハザードの解決方法として,高賃金にする,という方法があります。

高賃金にすると能力(やモラル)の高い労働者がよりよい雇用機会を求めて、多く応募するため、採用した労働者の平均的能力(やモラル)は高く、より一層熱心に働こうとすると思われます。高賃金が単に労働者の労働者意欲を高めるだけではなく、もしサボっていたり、不正を働いていることが発覚すると、解雇される可能性が高くなります。高賃金であればあるほど所得喪失の機会費用が高くなりますので、仕事を失うまいと努力し、モラル高く仕事をすることが期待されます。

私が香港に留学していたころ,香港警察の給与は,銀行の2倍ありました。高い給与をもらうことによって汚職に手を染める機会費用が高くなり,まじめに働くことが期待されるわけです。

ちなみに中国の公務員の所得は高いです。基本給は低いのですが福利が充実しています。(例えば,ここ

多くの優秀な人が公務員になっていますが,それでも腐敗をまったくなくすのは難しいようです。

結論。相手と自分が経済的取引関係にあるときに、自分が相手より情報を多く持っていると、怠けたり(行動隠匿)、サービスの質を下げたり(逆選択)するインセンティブが働きます。そこでできるだけ双方の情報の非対称性を解消する必要があります。


<参考文献リスト>
任雲(2004)「インセンティブの経済学」『産研通信』No.59(2004・3・31)(http://www2.obirin.ac.jp/unv/research/sanken/nin59.pdf,2011年1月8日アクセス)
清水克俊・堀内昭義(2003)『インセンティブの経済学』有斐閣
藪下史郎(2002)『非対称情報の経済学―スティグリッツと新しい経済学 (光文社新書)』光文社新書
田中信彦(2006)「大卒2年目、上海市女性公務員の年収は120万円」『なぜ中国人は会社を辞めるのか』http://www.actiblog.com/tanaka/11760,2011年1月21日アクセス)
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2011年01月22日

中国の貿易と為替<岡本式中国経済論16>

中国の貿易と為替レート

世界の貿易総額は,アメリカ,EU,日本,中国で大部分を占めてしまいます。世界の輸出第2位,輸入第3位の中国の貿易とその影響(とくに為替レート)について考えたいと思います。

MSN産経ニュースから

日中貿易、上期は過去最高更新、中国の内需拡大取り込む
2010.8.17 17:54


 日本貿易振興機構(ジェトロ)は17日、2010年上期(1〜6月)の日中貿易動向を発表した。輸出と輸入を合わせた貿易総額は前年同期比34.5%増の1383億7395万ドル(約11兆7617億円)で、半期ベースで過去最高を更新した。中国の内需を取り込む形で輸出が牽引した。中国は日本の貿易総額の約20.2%を占める最大輸出国。
 下期は中国経済の成長率がやや鈍化し、ジェトロでは「上期に比べると伸び率は縮小するが、引き続き堅調な中国経済に支えられ、10年の貿易総額は通年でも過去最高を更新する可能性が高い」(真家陽一・中国北アジア課長)と分析する。
 上期の対中輸出は47.1%増の684億2967万ドルと急増した。中でも、自動車取得減税の効果で市場が拡大した自動車輸出は2.5倍増だった。
 4兆元(約50兆円)の内需刺激策による公共事業に支えられ、建設機械は2.2倍と好調に推移した。デジカメやビデオカメラなどの映像機器も44.8%増と好調で、上海万博効果が押し上げた。このほか、半導体などの電子部品や鉄鋼、プラスチック、自動車部品などが大幅に伸びた。
輸入もプラスに転じたが、24.2%増の699億4428万ドルと、輸出に比べると伸び率は低く、日本国内の内需の低迷が影響している。
 昨年上期の日中貿易は2008年秋の金融危機の影響で、輸出入ともに大幅に落ち込んだが、今年上期は中国の内需刺激策が奏功した。ただ、4〜6月の実質国内総生産(GDP)は、粗鋼生産の調整の影響で、10.3%増と、1〜3月の11.9%に比べて伸び率は鈍化した。不動産市場も政府の引き締め政策で警戒感もくすぶるが、ジェトロでは「GDP成長率は引き続き9%以上と堅調に推移する」とみている。
 世界最大の自動車市場も前月比では伸び率がマイナスだが、前年同月では2けた成長で「日本からの輸出は高級車やSUVの人気は続く」と自動車輸出は好調に推移するとみている。



1.なぜ中国との貿易が増加するのか。

(1)輸出は需要が牽引する。

一国のGDPは以下の関係があります。

GDP=C(消費)+I(投資)+(政府支出)+X(輸出)−M(輸入)

ここでXは相手国のGDPの大きさによって決まってきます。つまり輸出は相手国の需要に大きく依存します。相手国が経済成長し国民の消費が拡大したり,企業の投資意欲が増大すると消費財や生産財に対する需要が大きく増加します。この需要を国内で満たしきれない場合,多くを輸入するようになります。

中国の平均経済成長率はここ10年10%を越えています。日本は1%程度です。日本の対中輸出が拡大するのは中国の国内需要が旺盛であるためです。

また中国の輸出市場はアメリカです。アメリカの景気によって中国の輸出が牽引されてきました。

(2)相互補完関係にある。

貿易のメリットは得意なものを生産輸出し,不得意なものを輸入することです。普段の私たちの生活もそうですが,交換することによって経済的厚生(満足度など)は上昇します。

貿易が発生する理由は比較優位原則で説明されます。

私とヨメがいます。家事には掃除と食事の二種類があると考えましょう。どちらもヨメが私より得意です。家事についてヨメは私に対して「絶対優位」の立場にいます。でもあえて言わせてもらうと,私は自分の中では相対的に意って掃除よりも食事が得意です。私の中では食事が「比較優位」の立場にある家事です。

家の中で家事をヨメと私が分担すれば,ヨメも自分の時間ができて厚生(満足度)が増します。私も家のお手伝いができたということで家での発言力(厚生)が増します(笑)これが貿易のメリットです。

そこで私は比較優位にある食事を作り,ヨメは空いた時間で掃除をする,このことによって家の掃除ははやく終わりますし,食事も待っているとでてきます。ヨメにとって家事は私に対して絶対優位なのですが,分担することによってメリットも発生しているといえます。

日中間でもこれが発生します。

中国の重要な輸出品は衣類と電気電子製品(完成品)です。日本は,高級鋼板,自動車や電気電子製品(部品)です。中国は労働力が豊富なため,労働を集約的に使用する労働集約産業の衣類や電気電子製品の組み立てに比較優位があります。日本は資本や技術が豊富なため資本集約・技術集約な高級な鋼板や高級自動車,ハイテクな電子部品などの生産に比較優位を持ちます。

つまり双方ともに比較的優位な立場にある製品を輸出しあい,貿易することによってメリットを得ているということになります。

(中国が世界でも衣類輸出に優位を占めている事例はこの三菱UFJリサーチ&コンサルティングのレポートからもわかります。)



2.なぜ中国の貿易が黒字なのか。

中国の貿易は三角貿易と呼ばれています。日本から部品を購入し,アメリカに完成品を輸出します。中国の貿易は対日赤字,対米黒字になります。(三角貿易については2005年の通商白書をどうぞ。ここ

このような三角貿易になる理由は中国の加工貿易体質(部品を輸入し,完成品を輸出する)にあると言われます。また為替レートが人為的に低く抑えられているという理由もあると諸外国(特にアメリカ)が主張します。

(1)為替レートは貿易を自動的に調整する。

為替レートは外国為替(通貨)への需要と供給で決まります。中国でアメリカドルが欲しいという人が増加すればドル高元安になりますし,アメリカドルを売りたいという人がいればドル安元高になります。

中国側から対米貿易を見てみると,中国が多くの製品をアメリカに売ると多くのドルが中国国内に入り込みます(アメリカ人はドルで支払うので)。中国国内の企業はドルを人民元に交換したいと思うので,銀行にドルを売りに行きます。もじ自由にドルと元が交換されると,外国為替市場ではドル売りと元買いが続きます。ドルが安くなり,元が高くなります。

元高は中国国内で生産する製品の価格を上昇させます。中国での価格は元で表示され,元がドルに対して高くなるということは中国製品がアメリカに対して高く表示されるようになります。

となるとアメリカ人は中国製品の購入を控えようということになります。つまり中国の対米輸出が減少する結果になります。

今の過程を簡単に図式化すると

対米輸出増加→中国国内でのドル増加→ドル売り元買い→ドル安元高→中国製品の価格上昇→対米輸出減少

となります。過度の輸出増加が為替レートによって調整され,中国の対米黒字は解消するように向かうことになります。つまり外国為替の市場メカニズムによって中国とアメリカの貿易不均衡の解消が期待されるわけです。

(なお,為替レートは貿易による外国為替決済だけで決まるわけではありませんが,ここでは議論を簡単にするために貿易が為替レートを決めるとしています。つまり資本取引が小さいと仮定。)

(2)中国の人民元は人為的に低い?

ここで,外国為替市場の市場メカニズムを働かないようする,上記図式でいえば

ドル売り元買い→ドル安元高 

が機能しない,政府が固定相場を採用するとします。ドル高元安のままだとしますと,中国製品はドルを使用する国にとって相対的に安い価格で生産されることになります。

アメリカをはじめ多くの諸外国が中国に対して貿易赤字です。それは中国の人民元が人為的に低く設定されており,中国製品が不当に安く海外で販売されていると考えられています。

これが中国に対する人民元切り上げ圧力です。

MSN産経ニュース

人民元の切り上げ圧力再燃も 中国輸出がV字回復
2010.6.10 21:03
【上海=河崎真澄】中国税関総署が10日発表した5月の貿易統計で、輸出が前年同月比48・5%増の1317億6千万ドル(約12兆円)と大幅に伸びた。6カ月連続のプラスで、4月の30・5%増と比べて伸び率が拡大。この結果、5月の貿易収支は195億3千万ドルの黒字となり、4月の16億8千万ドルを大幅に上回った。輸出のV字回復が鮮明になったことで、安すぎる為替レートが指摘される人民元に対し、海外からの切り上げ圧力が再び高まりそうな情勢だ。



3.中国のインフレにも影響

現在中国の為替制度は固定相場でなく通貨バスケット制です。各国通貨の為替レートを参考にしながら決めるというものですが,どの通貨にどれだけ反応するか,通貨別の比重があきらかにされていません。ある意味中央銀行(中国人民銀行)の裁量が働く可能性があります。

中国が為替レートを低く抑えるために,ドル売りに対して中国人民銀行が積極的にドル買い人民元売りを行います。人民元が高くならならないように外国為替市場にたっぷり人民元を供給し続けます。

多くの人が銀行を通じて外国為替市場でドルを売りに行っても,潤沢に人民元があるわけですから,人民元はほとんど変化しません。(とくに人民元取引は中国国内でしか行えないので,中国人民銀行の影響力が強いわけです。日本円とかアメリカドルは国外でも取引されるので,中央銀行の介入だけでは限度があります。)

人民元をたっぷり供給することによって,中国国内では人民元が大量に出回ります。つまりマネーサプライ(貨幣供給)が増加しているため,国内物価を押し上げます。(マネーサプライと物価の関係は前のエントリ→中国のインフレ

つまり貿易黒字と為替制度の固定化は中国のインフレの遠因になっているというわけです。

中国が人民元の為替市場を自由化しないのは国内経済への影響です。中国経済が輸出を基調として経済成長をしている以上,人民元の急速な切り上げは国内産業への壊滅的ダメージ→失業者の増加→社会不安を招くという恐れがあるので,外国為替市場の改革はなかなか進みません。

とはいっても中国の人民元は以下の記事のように徐々に切り上がっており,各国との国際政治関係を反映しながら長期的には市場の実勢に基づいた為替レートの決定が行われていくと思われます。

MSN産経ニュース

【上海摩天楼】世界の常識裏切り続け、人民元ショックから5年
2010.8.2 20:35


 中国人民銀行(中央銀行)が1994年1月から続けた人民元の対ドル連動に幕を引き、「通貨バスケットを参考とする管理フロート(変動相場)制」の導入と、約2・1%の切り上げを同時に実施して世界を驚かせた2005年7月の「人民元ショック」から5年が経過した。

3回の調整局面
 5年の間に人民元相場をめぐる政策で3回の調整局面があった。直近ではカナダでの20カ国・地域(G20)首脳会合を控えた6月19日、人民銀行による「人民元相場の弾力化」の声明で元高容認ともとれる姿勢を示したことだ。

 最初の調整局面は、2007年7月の相場許容変動幅の拡大だ。「管理フロート制」は、人民銀行がその日の相場の中間値(基準値)を定め、その上下の一定の範囲内だけの相場変動を認めるものだが、この範囲を上下0・3%から0・5%に広げた。

 05年7月以降の緩やかな元高傾向は許容幅拡大でいくぶん急な上昇カーブを描いたが、08年夏までの3年間に対ドルで20%ほどしか上昇しなかった。1ドル=240円ほどだった円が、プラザ合意後の1年で152円まで40%近く急騰したことを考えれば、このときの元の上昇幅は小幅だ。

08年夏には、米国発の金融危機を理由に、人民元を対ドルに連動させる事実上の固定相場に逆戻りさせてしまった。これが2回目の調整局面だが、国内対応に振り回されていた米国はこのとき、中国に圧力をかける余力もなかったようだ。

 各国が金融危機対応の政策を元に戻す「出口戦略」を模索する中で高まった元高圧力を受けて、今年6月には3度目の調整局面となる「弾力化」を高らかに宣伝した。だが、その後の相場上昇もわずか1%ほど。輸出の先行き不透明感や、海外からの投機資金流入への警戒感などが背景だ。
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2011年01月08日

中国の戸籍制度<岡本式中国経済論15>

中国の戸籍制度は他国に比べても非常に特徴的です。農村で生まれた人は農村戸籍(農業戸籍),都市で生まれた人は都市戸籍(非農業戸籍)を取得します。

この戸籍の二元化は現在さまざまな問題を生んでいます。

MSN産経ニュース

上海市、農民工子女の授業料無償化 経済発展の陰で「戸籍差別」解消遠く 
2010.9.5 18:25

公立校に受け入れを拒まれている農民工の子女のための私営学校で9月2日、新学期の授業が始まった。財政支援を受けられないため設備はボロボロのままだ=中国・上海市郊外(河崎真澄撮影)
 農民工の子女から月額280元(約3500円)の授業料(給食代なども含む)を徴収し、学校に住み込みで働く教員約30人には1500元(約1万8750円)ほどの月給を支払う。「行政が授業料を無償化すれば農民工の親は助かるだろう。でも、教師の派遣や施設整備などへの援助はなく、学校の貧しさは何も変わらない」と張校長はため息をつく。私営学校は中学まで。高校以上へは農村に戻らなければ、入学の機会すらない。
 中国の農村出身者は出身地以外では原則として子供の教育が受けられず、病気になっても健康保険の適用すら受けられないなど、明らかな差別待遇に甘んじている。



このように農民は農村にいることが前提であったため,都市部に出稼ぎにきた農民(農民工と呼ばれる)は,都市部で公的サービス(病院,教育,年金など)を受けることができず,二等国民としての扱いを受けることになっています。


1.背景

農村で集団化が進んでいた1958年に「戸籍管理条例」が施行されました。これは,常住、暫時居住、出生、死亡、転出、転入、変更などの人口登録制度が含まれており,基本的に戸籍地からの移動を制限しました。

これにより農民は戸籍のある農村に固定されるようになりました。私たちの概念では,戸籍があっても移動すればいいじゃないか,と思いがちですが,当時は計画経済期であり,農村は人民公社に,都市は国有企業に所属するようになりました。この結果,移動しても職がなく衣食住は配給制であったため戸籍地以外でもらうことも出来ませんでした。したがって実質移動も不可能だったわけです。

この戸籍制度の目的は大きく分けて二つあります。一つは治安です。共産党政権下において人を管理することは重大なテーマでした。この戸籍条例自体が公安部から発しられていることからもそれが伺えます。もう一つは国の食糧供給を安定的に確保するためです。農民が都市に移動してくると農業生産が減少します。当時の貧しい中国では経済建設の主要な目標が食料生産でした。

当時同時進行していた人民公社化も農民の農村固定化に大きな役割を果たしました。

このような政策はどのように評価されるでしょう。

治安目的は当然として,経済的に以下の二つで評価できると思います。

一つは,都市−農村の関係を固定化することによって,農業生産を確保しながらの経済発展が可能になったということです。ただし現実には1950年代終わりから始まった大躍進政策,3年の調整期を経て,文化大革命へと政治運動が中心になってしまったため,経済政策としての評価はしにくいのですが,都市−農村を安定的にしたとはいえるかもしれません。丸川(2002)によれば,一時期に都市建設のため農村から人を移動させたときに,「三つの突破」(都市の食糧,企業の賃金総額などが計画より超過)という問題が起き,再度農民を農村に帰村させていることからも,中国の経済発展に農民を農村に固定化することは経済計画上必要であったことが伺えます。

もう一つの重要な評価は,都市のスラム化を防いだということです。発展途上国では多くの農民が都市に流入し,仕事がないことから都市周辺部にスラム街を形成します。これが都市機能を損なうとともに治安の悪化につながるのですが,中国では「スラムなき」経済発展を目指すことができました。


2.人口の移動

改革開放以降,農村では生産請負制が導入され,農民のやる気が促され,生産性が上昇しました。これにより農村では余剰労働力が顕在化します。つまり農業の生産は一部の人で間に合っており,いてもいなくてもいい人というのが表面化してきました。

そうすると農業の生産高はそのままで,移動する労働力が現れます。都市部でも配給制がなくなってきたので衣食に関しては市場から調達可能になってきました。開放政策は都市建設をもたらし建設現場の労働力を必要としましたし,輸出企業は安い労働力を必要としました。この需要と供給がマッチする形で農村から都市部への人口移動が起こり始めます。

このような現象は,80年代後半は盲流と呼ばれ,90年代には民工潮と呼ばれました。呼称からも想像できるように,最初は人口移動を否定的にとらえていたのですが,そのうち肯定的にとらえられるようになってきています。ただし戸籍制度が廃止されたわけではなく,実態として人が移動しはじめたというのが現状です。

農民たちはなぜ移動し始めたのでしょうか?それはよりよい生活を求めて,高賃金の都市部での就職を目指したからです。この高い賃金を求めて人が移動するということは,経済学的には地域間の格差を縮小すると言われています。

発展地域(高賃金)←貧しい地域(低賃金)

このような移動が起こると,発展地域の企業は,多くの農民がやって来て雇用が楽になるので賃金を下げても人が雇えると考えるかもしれません。つまり発展地域では賃金下落の圧力がかかります。一方で遅れた地域の企業は,人が減ったために人を雇うのが難しくなる可能性がでてきます。これにより賃金を高めに設定して人を雇おうと考える可能性が出てきます。つまり低賃金地域では賃金上昇圧力がかかるわけです。

現実の世界では賃金下落ということはまず起こりえませんので,上記メカニズムは

発展地域

農民が集まる=>賃金安定

貧しい地域

農民が減る=>賃金上昇


となります。貧しい地域から発展している地域に農村で余った労働力が移動することによって,地域間や農村都市間の格差は縮小に向かうと考えられます。

理論的にはこの移動は農民と都市住民の賃金格差が縮小するはずですが,実際には前の記事(中国農民工の問題)でも述べたように,都市部において農民工は差別されています。つまり二等国民として扱われ,低賃金で働かされているのが現状です。

とある生産性の低い都市住民(例えば国有企業を解雇されやる気を失った人)と生産性の高い農民工の二人を雇っていても,農民工の賃金が恣意的に(差別から)低く抑えられているという現象が普遍的に存在します。また農民工と都市住民の労働市場が分断されていることもその原因の一つです(厳2005)

この差別の根本が戸籍です。就職するとき,子供の教育を受けさせる時,医療を受けるとき戸籍の提示を求めることが一般ですが,戸籍をみることによって就職や賃金,教育や医療などさまざまな生活待遇面で差が出てしまうのです。(ある意味日本の被差別部落問題に通じるところがあるかもしれません。)


3.今後の改革

このような現状を変えようという動きが中国で出ています。今年になって重慶と成都で戸籍制度改革が進んでいます。具体的に見てみましょう。


「人民網日本語版」2010年3月12日のニュースから。

重慶、農民1千万人が10年後に都市戸籍取得
 全国人民代表大会(全人代)代表を務める重慶市の黄奇帆市長はこのほど、中国中央電視台(CCTV)の番組にゲスト出演した。

 以下は黄市長の発言内容。

 農民工(農村から都市部への出稼ぎ労働者)問題の解決方法については、2020年までに、1千万人の農民が都市に出て働き、都市戸籍を取得する見通しだ。現在、同市で都市戸籍を持つ人は1200万人、農村戸籍を持つ人は2万人いる。

 今後1、2年の準備段階として、まず、過去10年間に都市に流入した農民工300万人に都市戸籍を与える。最初に対象となるのは、過去10年間、農村から重慶に出てきて働き続けた60数万人で、その妻子を含めると約150万人となる。次に、1990年代の土地収用策によって農村から重慶に出てきた農民工100万人で、すでに都市に住んでいるが都市戸籍を持っていない人々が対象となる。これら100万人に対しては、都市戸籍を与えるべきだ。倉庫地域やダム建設地からの移住者で、もともと農業戸籍ではない人が50万人おり、彼らについても、都市戸籍を与える必要がある。



サーチナニュース

2012年に農村戸籍廃止へ、農地放棄も不要―成都市
Y! 【社会ニュース】 2010/11/18(木) 20:03

  成都市政府は、「成都市都市・農村戸籍統一と市民の自由移転実現に関する意見」について16日午後記者会見を開き、2012年をめどに農村戸籍を廃止する意向を明らかにした。地元紙・四川新聞網が伝えた。

  農村戸籍が廃止され戸籍が成都市全域で統一されれば、教育、住宅購入、社会保険などで都市部出身者、農村部出身者は同等の待遇を受けられるようになる。また、「意見」では農民が都市に移住しても「農村宅地使用権」「土地承保経営権」「林地承包経営権」などの利益は放棄しなくてもよいと明記している。(編集担当:鈴木朋子)



重慶の場合は,農民が都市戸籍に転換することを認めることであり,その選択は農民にまかしています。成都では農村戸籍自体を廃止するということになっています。

ただ不安の声も上っています。それは土地収用との関係で農民の農村戸籍を取り上げることにより土地処分をしやすくするのではないかという見方があります。前の記事(農民の土地強制収用問題)でも述べましたが都市と農村では土地の使用権と請負権という違いがあります。農村に住んでいる農民が都市戸籍になると,土地を取り上げる格好の口実になります。社会保障のない農民にとって土地は年金代わりであり,何があっても食べてはいけるための重要な生産手段です。したがってこの戸籍制度の一元化は,低賃金問題のみならず教育,社会保障,土地や都市化にまで波及する壮大な改革実験といえます。

現時点では一部都市での実験ですが,農民工の待遇問題が解決するか注目していく必要があると思います。

もしこの戸籍制度の二元化が解消して,労働市場や教育市場,土地や医療,年金市場などにおいて,競争参加者である都市住民と農民工の競争環境が公平化すれば,賃金や教育などの違いはその本人の生産性(=稼げる所得)に依存することになります。競争環境の公平化によって健全な市場経済になれば,都市住民との差別はなくなり農民工の待遇問題が大きく改善するように思います。


<参考文献リスト>
「成都が2012年までに都市・農村戸籍を統一」『中国通信社』2010年11月18日(http://www.china-news.co.jp/node/58666
厳善平(2005)『中国の人口移動と民工―マクロ・ミクロ・データに基づく計量分析』勁草書房
丸川知雄(2002)『労働市場の地殻変動 (シリーズ現代中国経済)』名古屋大学出版会
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2010年12月25日

中国のインフレ<岡本式中国経済論14>

中国ではインフレが懸念されています。インフレとは物価が継続的に上昇することを指します。インフレは見かけ的には利益が伸びるように見えるので企業の投資を促すとも言われますが,家計が持っている貨幣の価値が下落するので購買力を下げる効果もあると言われます。

中国にとってインフレが問題なのは,経済的というよりも一般庶民の生活に不満足になり,政治的に矛先が向くのではという恐れがあるので,敏感に反応するというのがあります。

その典型が以下のニュースです。(MSN産経ニュースより)

学食値上げで生徒暴れる 中国貴州省、千人
2010.11.25 23:05
このニュースのトピックス:中国
 中国貴州省六盤水市の中学校で22日、食堂のメニューの値上げに反対する生徒ら約千人が食堂で暴れ、窓ガラスや机、いすを破壊する騒ぎがあった。中国紙、貴州都市報(電子版)などが25日伝えた。
 中国では消費者物価の上昇が続き、10月は前年同月比で4・4%の上昇と2年1カ月ぶりの高い伸びになった。特に食品価格は同10%近く上昇し、低所得者層の不満が高まっている。
 同紙などによると、食堂では22日から一つのメニューにつき、0・2元(約2・5円)〜0・5元の幅で値上げを開始。同日午後10時すぎ、生徒が次々と食堂に入り、値上げ反対を叫んで食堂内の物品を壊し始めた。警察が駆け付け、その日のうちに騒ぎは収拾した。
 学校側はこれまで民間に委託していた食堂の経営権を引き取り、今後価格の引き上げを抑える措置を取るという。(共同)


さて,インフレについてどんなことが中国で起きているか,ニュースを見てみましょう。

MSN産経ニュースから。

中国インフレ懸念、国務院が物価安定で方針決定、不動産バブル抑制も、第4四半期の経済運営
2010.10.28 21:53
このニュースのトピックス:中国経済
 【上海=河崎真澄】28日付の中国紙、上海証券報などによると、温家宝首相が主宰する中国の国務院常務会議(閣議に相当)が27日開かれ、「引き続き物価安定策を講じて、不動産市場の安定をめざす」などとした今年第4四半期(10〜12月)の経済政策運営方針を決定した。インフレの進行や、バブル化した不動産相場に強い警戒感を示した。
 今年は各地で天候不順による干魃(かんばつ)や水害が多発。食品価格の上昇に対する不満が高まっている。9月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比3・6%上昇と、1年11カ月ぶりの高い伸びを示して、政府年間目標の3%を3カ月連続で上回った。
 インフレ懸念から今月20日には、2年10カ月ぶりに利上げに踏み切ったが、その効果はまだ見えてこない。
 27日の会議では「秋季穀物の収穫や、秋冬季の作付けに全力を尽くす」「不動産市場の平穏で健全な発展を促し、一部都市の不動産価格の過度の上昇を抑える」とする方針もあわせて決められた。


中国、価格監視を強化 デマや買い占めに当局
2010.5.25 14:34
 中国で食品を中心に物価が上昇していることを受け、中国当局は悪質なデマを流して価格をつり上げたり、買い占めたりする行為に対し、取り締まりを強化する方針を決めた。25日付の中国各紙が伝えた。
 北京で22日に各地の物価局長を集めた会議が開かれ、取り締まり強化の方針を確認した。
 中国国家統計局によると、4月の消費者物価指数は前年同月比で2・8%上昇。このうち食品は5・9%上昇した。今年に入り、中国南西部での干ばつなどが原因で、農産品価格は上昇傾向にあり、悪質な業者がさらに価格をつり上げるケースがあるという。(共同)


中国の環境対策が裏目 電力供給制限で自家発電が急増 軽油不足深刻に  (1/2ページ)
2010.11.8 09:56
このニュースのトピックス:中国
 【北京=矢板明夫】中国各地のガソリンスタンドが深刻な軽油不足に陥っている。ただしガソリンは十分にある。どうしてこんな現象が起きたのか。各地方政府が環境保護に向け電力供給を制限した結果、企業が軽油を燃料とする自家用発電機を使用するようになったためのようだ。
 中国紙、京華時報によると、江蘇省南京市や浙江省杭州市などでは、給油を待つトラックの長蛇の列が数キロにもおよび、1回の給油は100元(約1200円)まで、と制限するスタンドも現れた。
 中国商業連合石油流通委員会のまとめによると、11月6日までに中国南部では、2千以上のガソリンスタンドが軽油の販売を停止した。北京、大連など北部でも深刻な軽油不足に陥り、多くのスタンドは販売制限などの対策を取り始めた。トラックを使えなくなったため、営業中止に追い込まれた運輸会社も少なくないという。
 大手石油企業、中国石油化工の幹部は中国メディアの取材に対し、「各地方政府が工場への電力供給を制限したことにより、企業が軽油を燃料とする自家用発電機を使用するようなったことが原因」と分析している。
 今年は、環境保護対策を含む第11次5カ年計画(2006〜10)の最後の年に当たる。電気使用量を中央政府が規定した目標以内に抑えなければ、地方指導者は管理責任を問われることもあることから、年末が近づくにつれ、各地方政府は電力供給量を極端に減らすようになった。



1.インフレの原因

インフレとは物価が持続的に上昇することであり,デフレは物価が下落することです。このような物価の上昇下落はどのような要因によって発生するのでしょうか。物価は二つの要因によって決まります。一つは貨幣的要因,もう一つは需給要因です。

(1)貨幣的要因

経済学では貨幣に関する方程式があります。これを貨幣方程式といいますが,以下のように定義されます。

MV=PT

Mは貨幣供給量,Vは流通速度(取引回数),Pは物価,Tは財の量です。この式は社会に流通する財と物価は,流通する貨幣とその流通速度で決まるということを意味しています。

具体的にみてみると,パンが365日分(一日一個)あるとし,一個100円で販売されると考えます。この場合,貨幣としては100円札が365回消費者から生産者に渡されます。この渡される貨幣の回数を流通速度といいます。一般的に財(ここではパン)の生産が急に増えないとします。一方で中央銀行が貨幣の供給量,例えば100円札を2倍供給するようになったとしましょう。流通速度は安定していると考えられるので,物価もちょうど2倍になります。

貨幣方程式によれば,物価は貨幣供給量によって決められるということになります。

(2)需要と供給の構造変化

物価の決定は経済の需要と供給によっても決まります。もっともこの物価決定メカニズムが一般的であると言っていいでしょう。需要が供給より大きい場合多くのお金を出しても買いたいという人が多いので,物価は上昇します。供給が需要より大きい場合売れ残りが発生するので,物価が下落します。

この需要や供給が何かの要因によって変化すると需要曲線や供給曲線が移動するので,それにしたがって新たな物価が決定されます。買い手側要因としては「人の予想」が大きな役割を示します。財が不足するかもと思うと買い占めたい衝動にかられます。現実にはモノ不足は発生していないのに,「トイレットペーパーがなくなるよ」という情報によって多くの消費者がトイレットペーパーの買い占めに走る場合,需要が急拡大します。需要曲線が上方シフトするために物価が上昇します。

また供給側の要因としてコストが挙げられます。労働者が賃上げ要求をし,それが認められるとなると人件費が上昇しているので,いずれそれが価格に反映されます。またエネルギー価格や原材料価格も上昇すると財の価格に反映されます。これらはすべて供給曲線を上方シフトさせ,物価を上昇させる動きとなります。

2.中国政府の対策

それでは政府はどのような対策をとればいいのでしょうか。

ニュース記事にもありましたように,まず

利上げなどにより出回っている貨幣を吸収する(貨幣供給量を減らす。)

という方法です。GDPが順調に増加していく経済では,社会に出回る財の生産量も増加していっています。この場合,その成長率に合わせた形で貨幣供給量を増加させるとよいわけです。ところが物価の番人たる中央銀行は貨幣供給量を生産量にあわせてきっちりと決められるわけではないので,つねに利子率等で微調整します。ちなみに利子率をあげると企業はお金を借りるのを控え,家計は貯金を増やそうと考えられるので出回る貨幣の量が減少すると考えられます。

次の対策は

需要,供給曲線がシフトする要因を取り除くようにする

ということです。ニュース記事にもありましたように,食料品の価格上昇は天候不順などが問題だったので,秋冬期の作物収穫を増やしたり作付けを増やすようにしています。また価格をつりあげようとする悪質なデマに対しても取り締まりを強化することを述べています。

中国の特徴は元計画経済体制の国だったということです。計画経済時代,物価は政府によって決められていました。今でもこの名残があり,政府は積極的に物価に関わろうとします。

物価安定のための究極の政策(市場経済ではある意味核兵器なみの最終手段です。)は

政府が物価を統制する

です。実際,国家発展改革委員会が制定した「国務院物価安定のための16カ条」(通称は「国16条」)が発表されました。基本は国が価格を統制しうる態度を示したものと理解していいでしょう。Kinbricks Nowのニュースでは,以下のように整理しています。

・貧しい人への補助金支給
・政府備蓄品の放出
・(ガソリン、電気、ガスなど)政府統制価格の値上げ禁止(または慎重にせよ)
・政府による各種名目雑費の廃止・減額呼びかけ
・価格つり上げ行為の禁止


3.物価は資源配分を効率的にするシグナル

さて,市場経済化が進む中国ですが,物価に関してはやや計画経済の名残があります。それが上で示した国16条です。ここを掘り下げて考えてみます。

そもそも物価(実質価格)は資源配分を効率的にするシグナルです。そのシグナルを無視して国が強制介入して物価に上限を設けたりするのはあまり望ましいとは言えません。

均衡価格より低い水準で価格を統制する(上限を設ける)ことは一般に以下の影響があるとされます。

@超過需要が発生しているので,行列ができるということです。これは軽油不足でガソリンスタンドの行列という形として現れました。

A供給側にとって儲けにならないので,質の悪い財が市場に出回る,あるいは闇市場で販売されるということになります。

市場メカニズムに政府が介入することによって悪影響が出ています。つまり政府の失敗を招きかねないと思われます。

それでも,今回のインフレでは投機マネーの存在が指摘されており,政府介入の根拠とされています。

たとえ,投機であっても市場が健全であればそれは効率的な資源配分を達成します。現在の中国はお金が有り余っているので,投機マネーが農産物を投機対象として価格を釣り上げているといわれます。(とくに今年の前半はにんにくの価格が急上昇した。)短期的には卸売小売物価を釣り上げ,消費者を困らせるというように市場を荒らしているようですが,長期的には市場にとっていい影響を与えています。

まず投機屋さんは将来的に農産物価格が上昇するという「期待」を持っています。その将来的な期待をリスクとして農民から高いお金で買い取ります。農民は高いお金が入りますので,将来的な財不足を予想し,生産を増加させようとします。

実際に時間がたって将来の時点になったとします。農民は農産物の生産を増加させているので,市場としては価格の下落圧力になっているので価格が下落して均衡する可能性が高まります。投機屋さんの行動が株式の先物市場と同じ働きをして,農民からリスクを買い取って将来的な市場安定に貢献します。

また投機屋さんは、農産物を抱えてもしょうがないのでいつかは市場に売り出さして現金化しなければなりません。一挙に売りさばこうとすると価格が崩壊するので安定的に供給せざるを得ないということになり,価格は下落して均衡する可能性が高まります。転売目的であったとしても売りつける相手がいないときには,倒産して市場から退出しなければなりません。この場合も市場均衡に役立つことになります。

結局,投機屋さんは先物と現物の裁定取引に関わっていると考えていいでしょう。将来の需給均衡を図る,あるいは将来的な価格安定を目指して,現在行動していると捉えることができます。

むしろ投機屋さんは,穀物市場などで政府介入により市場がうまく動いていませんよ,という政府の失敗を知らせているといえるでしょう。


4.今後の展望

中国政府は価格に対しては敏感です。それは社会不安につながるからです。社会科学院の調査によっても都市住民の主要関心事は物価です。(NY Times 12月17日)そして元計画経済体制の国として価格統制は経験済みです。一般住民の政府への不満が高まらないよう価格上昇には積極的に介入します。

中国が価格メカニズムに積極的に介入するのは,経済的動機よりも政治的な動機によって行われているといえるでしょう。

物価の変動は需給要因で決まるシグナルであり,物価が上昇しているということは何かしら構造的な問題により市場が機能していないとみて問題ありません。この時に市場に影響を与えている政府政策を見直すということが必要になります。

この価格という部分は,中国政府がもっとも市場経済化しにくい部分かもしれません。

<参考文献>
ヘンリー・ハズリット (村井章子訳) (2010)『世界一シンプルな経済学 (日経BPクラシックス)』日経BP社
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2010年12月18日

農民の土地強制収用問題<岡本式中国経済論13>

中国では,急速な経済発展に伴い,都市化が進み,都市部近郊の農村開発が進んでいます。

以前は農村だったという土地も多いのですが,開発されて多くのマンションが立ち始めています。北京オリンピックのメーン会場である「鳥の巣」などは私が北京にいた1997年−2000年は農村でした。

都市化が進み,企業や住民が増加し始め,経営する場所や住む場所が必要になってきます。そこで発生するのが農民からの土地収用問題です。多くの土地収用が強引に行われているようで,最近また報道が増えてきました。

報道を見てみましょう。

MSNニュース

雲南で土地収用めぐり農民ら200人が抗議 警察隊と衝突し23人負傷、安徽省でも
2010.11.5 21:33
 5日付の中国紙、東方早報などによると、雲南省昭通市で2日、道路工事に伴う土地強制収用で補償に不満を抱いた農民ら約200人が道路を封鎖するなどの騒動となり、出動した警察隊と衝突した。この騒動で警官14人を含む23人が負傷し、車両など48台が大破した。
 香港からの情報によると安徽省池州市でも3日、立ち退きの補償に不満を持つ住民数千人が道路や橋をふさぎ、出動した武装警察部隊と衝突した。住民ら30人あまりが負傷し、警察車両2台が壊された。中国では10月以降、四川省都江堰市、広西チワン族自治区梧州市でも農民と地元当局などとの大規模な衝突が発生している。(上海 河崎真澄)

Record China

農民の抗議運動が相次ぐ背景とは=中国各地で農村の土地収用が拡大―中国紙
Record China 11月4日(木)7時11分配信

2010年11月2日、新京報は、全国20省・市以上で農村での土地収用が拡大していると報じた。

農村での土地収用が広がっている背景には、2004年に公布された国務院の通知「改革の深化に関する土地管理の決定」があるという。中国は食料確保のため、耕地18億ムー(約1億2000万ヘクタール)確保の目標を掲げている。そのため農地から住宅地、工業地、商業地への転換する面積は厳しく規制されてきた。

2004年の通知により、新規開拓農地面積を別の場所での農地転用面積に充当することが認められた。ある村の住宅地を農地に転用すれば、別の村の農地を商業地などに転用できるという寸法だ。

この規定は一部の認可された試行地域にのみ適用されるものだが、大々的な都市開発が可能になるとして乱用されるケースが目立つ。広がりを見える中国地方政府による「エンクロージャー(土地囲い込み運動)」。我が家を奪われる農民たちには反発が広がり、各地で抗議活動が相次いでいる。(翻訳・編集/KT)


(1)中国の土地制度

中国は社会主義国なので土地は私有制ではありません。所有権はあくまでも国家にあります。この国家の所有権というのは国有企業改革でもそうですが,実際には曖昧な概念です。誰が持っているかはっきりしないことが多く,実際上は政府の役人のものとして取り扱われることが多いです。

都市と農村で土地制度が違います。都市の土地所有権は国ですが、使用権を売買したり,使用権を担保にしてお金を借りたりすることが可能です。しかも使用権は70年認められるので,ほぼ所有権と同じように経済学的な取引が可能になっています。

農村では土地は集団所有になっています。農村の基層政府(県や郷鎮)が所有している形になっており,農民には農業をするための請負権が分配されています。請負期間は30年となっています。(1978年の改革開放時に請負制度が導入され,最初は15年でした。1993年に大部分の農村で請負期間が30年に変更されています。)

問題は,経済的に取引が不自由な点です。請負権は売買したり,お金を借りるときの抵当にすることはできません。ただし出稼ぎすることになって土地を使用しない場合,使用権は農業や農家の宅地に限定して移転は可能となっています。ただ実際の土地は不足しているので請負権を各農民に分配出来ていないのが現状のようです。土地は農地としての条件で他の農家や企業に貸出すことは可能となっていますが、公共目的のために政府が農村の土地を収容することも可能です。ただし農民の自主的な意思に基づくことを確認して、適正な額の補償金を払って収用することになっています。

基層政府が農村の土地を非農業用地として使用する場合,国有化の手続きを取らなければなりません。つまり建前は中央政府の国策以外での開発はないことになっています。地方の基層政府が勝手に開発できないのですが,実際は地方政府が農民から土地を取り上げて、住宅開発を行い,それを「小産権」物件として、安く販売していることが普遍的になってきています。

*「小産権」とは,非合法的に農民から土地を取り上げて,開発した物件。市価より2−3割安いとされる。

記事にもあるように,2004年の国務院『土地管理を深化、改革、厳格化するための決定』が地方での土地収用に拍車をかけたようです。この「決定」では,開発計画に符号するならば、村や鎮の所有する土地の使用権を移転して良い、ことになっており,事実上国有地への転換をすることなく,勝手に住宅地,工業地へ転換できることになりました。

また2006年の国土資源部『合法的に土地を管理、節約、集約し、社会主義新農村建設を指示するための通知』も地方の基層政府による土地収用を増やしました。社会主義新農村建設という建前で都市建設用地を増やし、集団の非農業用地の使用権移転の試行を行うことが可能となったのです。実際には試行が試行でなくなり,後戻りできないほどの本格実施になってしまいました。

(2)需要独占

土地収用の問題は,その村の基層政府のみが農民の土地の需要者であるという政府の需要独占になっていることです。となり村の基層政府が収用することはできませんし,中央政府が入ってくることはできません(普通,基層政府は中央から行政を請け負っている立場です。)。土地という生産要素は移動させることができないので,集団所有という制度である以上はその土地の集団に要素の利用権があることになります。

土地(請負権)供給者は農民です。多くの農民が土地(請負権:以下は普通に土地とします。)を自由に販売できるとなると,農民としては価格が上がれば土地をより供給しようとするので右上がりの供給曲線になります。一方,土地を買いたいという業者が完全競争的であるとすると,土地価格が高いときにはあまり需要せず,価格が下がるに連れて多くの土地を買おうという気になります。この意味で土地需要の曲線は右下がりになります。

このような土地供給者や土地需要者が多数存在し,完全競争的であるとするならば,需要と供給が均衡するところで価格が決定します。このときどちらも満足する状態です(いわゆるパレート最適状態)。

ところが中国農村では,その土地の基層政府のみが需要を独占する状態です。しかも農民よりも強い立場にありますので,価格とは関係なく需要量を決めます。(需要曲線が垂直になります。)図でも示されるように需要独占の需要曲線と供給曲線の均衡点は完全競争の均衡点よりも左下にあります。つまり価格は低く抑えられ,土地取引量は過少になります。


図 需要独占の状況
DemandMonopoly.jpg

しかも価格(土地の補償額)を低くして取り上げることによって基層政府は独占利潤を得ることになります。完全競争と比べて明らかに非効率な状態となっています。

(3)今後の土地収用問題

今後中国が経済発展を続けていく上で開発用地の取得は大きな課題です。土地に対する需要は潜在的に大きいです。一方で社会保障制度の恵まれていない農民にとっても土地は食べていくための重要な生産手段であり,生活手段でもあります。土地から得られる収穫物はもちろんのこととして土地自体にも自由な処分をする権利を農民に与える必要があります。

コースの定理というのがあります。その定理によれば,所有権を設定することによって自由に販売でき,土地などの要素が市場メカニズムによって最適に分配されることを保証しています。

上の分析でも明らかなように,問題点は(1)土地を需要できるのがその土地の政府しかないこと,(2)農民には請負権しかなく土地の最終処分権が曖昧なこと,にあります。土地という生産要素の取引市場を設定することが,農民の利益を守ることになるといえるでしょう。その意味で土地の市場経済化という改革が今後の中国の大きな課題になってくるように思われます。

とはいえ,農業というのは食糧供給の大元ですので,国家の安全保障にもかかわる部分です。農民に自由に土地を売らせるようにすると農業生産高の急激な低下を招くことにもなりかねません。安定的な農業生産を確保しながら,農地の自由取引をどこまで認めるか,市場経済国も含めて現代経済社会の大きな課題でもあります。



<参考文献リスト>
阿古智子(2009)『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』新潮社
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2010年12月04日

一人っ子政策<岡本式中国経済論12>

中国では人口抑制政策が採用されています。一人っ子政策(One Child Policy)として有名な政策です。政府が人口を抑制,増加に関わるということは,各個人の家族計画に関わることであり,倫理的な問題も指摘されます。

実際,中国の一人っ子政策は以下のように海外から批判されます。

中国の一人っ子政策は「忌まわしい」 米国務長官が批判
2010.3.31 09:43
 クリントン米国務長官は30日、人工妊娠中絶などによる個人の家族計画に政府がかかわるべきではないと述べ、1夫婦の子を1人に制限する中国の「一人っ子政策」を「忌まわしい」と強く批判した。
 カナダでの主要国(G8)外相会合後の共同記者会見で、母子の健康へのG8の取り組みに関する質問に答えた。米閣僚が国際会議の場で中国の人口政策への不快感をあらわにした格好で、中国の反発が予想される。
 長官は、中絶などをするかどうかは、良心や宗教観に基づく個人の判断だと指摘。中国の一人っ子政策は「強制的な中絶により実施されており、忌まわしい」と訴えた。
 またルーマニアのチャウシェスク大統領が1989年に処刑されるまで極端な人口増加策を推し進めた事例も挙げ、いかなる政府も女性の家族計画の権利を奪うべきではないと強調した。(共同)

このような政策をとろうとする背景には貧しさと人口の関係があります。なぜなら人口は経済発展と密接な関わりがあるからです。ここでは倫理的側面は脇においておいて,人口と経済発展について考えてみたいと思います。

同じくMSN産経ニュースから以下の二つのニュースを見てみましょう。

中国の人口、13億3千万人に 高齢化、都市化も進行
2010.2.25 18:32
 中国国家統計局が25日発表した2009年の統計公報によると、09年末の中国の人口は、前年末と比べて672万人増加し、13億3474万人となった。
 中国では一人っ子政策の影響などで高齢化が進んでおり、65歳以上が1億1309万人と、1億1千万人を突破。全体の8.5%を占めた。
 また、都市人口が6億2186万人に増加。農村人口は7億1288万で、都市人口比率が46.6%と半数に迫り、都市化が進行していることも示された。(共同)

一人っ子政策の見直しを求める動き 中国社会不安要素に
2009.4.11 19:57
 【北京=矢板明夫】中国で1970年代末から実施されている「一人っ子政策」の撤廃を求める動きが、顕著になりつつある。3月の全国人民代表大会(全人代=国会)では人民大学学長の紀宝成代表が、第2子までの承認を盛り込んだ「生育政策の早期調整に関する提案」を提出し話題を集めた。多くの学者が賛成を表明し世論調査では圧倒的支持を集めている。
 紀氏は広東紙「南方周末」に対し、一人っ子政策が人口抑制で一定の役割を果たしたことを認める一方、「早く撤廃しなければ人口のバランスが大きく崩れ、近い将来、後悔することになる」と語っている。
 同政策の実施で中国の人口高齢化は加速し、労働力は不足しつつある。紀氏によれば、10年後には20〜24歳の人口は半減し、年金などの制度が未整備の現状では、大きな社会不安要素を抱えることになるという。
また、農村部では男尊女卑が現存しており、女子の堕胎は後を絶たず、新生児の男女比は120対100を超えている。紀氏は昨年の四川大地震で、多くの家庭が唯一の子供を失ったことにも触れ、「私たちは家庭という社会を構成する基本単位を非常に脆弱(ぜいじやく)なものにしている」と強調している。
 北京大学の穆光宗教授ら学者の多くは、紀氏の主張への支持を表明。各サイトの世論調査では75%以上の市民が「2人以上の子供を産みたい」と答えている。
 中国政府が「基本的国策」と位置づける一人っ子政策を全人代代表が正面から批判することは珍しい。今回の提案を受け、市民の間では政策改正への期待が確実に高まっている。


(1)人口のジレンマ

生産には労働力が必要です。労働力が多いと生産が増加します。

一方で人が多いということは食べさせることも必要になります。人が多ければ多いほど生産で得たものを多くの人で分けるので一人分が少なくなってしまいます。

人口にはジレンマが存在します。人が多いと生産は増えて豊かになる可能性はありますが,食べる量が増えて一人分は変わらないということがあります。途上国や中国の農村では多くの子供を持ちたいという願望があります。それは子供たちが労働力になって農業を手伝ってくれれば生産が増加するので豊かになることができます。でも子供が多いと彼らに食べさせることも必要なので収穫された農産物はすべて家族の中で消費してしまうことになるかもしれません。

簡単な数式で表すと,

Y=AL

ここでYは生産量,Aは定数,Lは労働(人口)です。人口が増えれば増えるほど生産量は増加します。でも一人当たりの生産量(豊かさ)は両辺をLで割って

Y/L=A

となります。一人当たりでみると生活水準は一定になってしまうということです。人口を増やすと規模という意味での経済力は拡大します。でも発展水準という意味での一人当たりの所得は変化しない,あるいは減少することさえあるということです。

一人当たり所得が減少する可能性とは,労働自体増加していってもその限界的な生産力は逓減していくために発生します。農地に一人,二人投入していっている間は生産は増加します。でも10人から11人に,20人から21人に増やしたとしても最初の一人とあとの方に追加された一人とでは生産性が違います。あとの方に追加された人の生産性が低いために,人が増加していっても所得は減少するという結果になります。

人口が増加すれば生産は増える。でも限界的に増えた人口は生産性が低いので一人当たりでみた生産は減少する。

これが人口と経済のジレンマです。ちなみに一人当たりの生産が減少し,最終的には最低生存費の水準で均衡する,とされるのがマルサスの罠と呼ばれる現象です。

これを防ぐには二つの方法しかありません。

一つは人口を適正規模に保つこと,もう一つは一人当たりの生産性を上昇させることです。Aは経済成長論で全要素生産性TFP(技術進歩のようなもの)と言われますが,このAという定数自体を上昇させることが必要です。

少し話はずれますが,新古典派成長論では,一人当たり所得の成長率は技術進歩率に等しくなります。(Y=f(A,L,K)とすると,Δy=ΔA+Δkになります。y=Y/L,k=K/Lで,kで示される資本労働比率は一定になります。)

(2)一人っ子政策

新中国が成立した当時の人口は5億人ほどでした。それが30年ほどで約10億人ほどに急激に増加しました。増加の原因は毛沢東の生めや増やせやという出産奨励政策です。もともと中国人は子供をたくさん持ちたいという文化でしたし,急速な社会主義化を行うにあたって資本のない中国では労働は貴重でした。人口を増加させ,働き手を確保し,その労働力を動員してダムや道路などの社会資本を蓄積する。つまり労働蓄積による経済発展方式を採用したのでした。

ところがさすがに急速な人口増加は中国人の生活水準を改善することはできませんでした。むしろ農業が天候で不作になった時に中国では食糧不足がたびたび起こりました。

そこで始まったのが,一人っ子政策です。基本は一家族の中で一人の子供しか持てないという政策でした。1979年に本格的に施行され現在までで約30年になります。

ちなみに最近「80後」という言葉が流行しています。80年代に出生し,一人っ子で成長した子供たちが社会の中心になり,文化や社会消費に大きな影響を与えるようになってきています。

1979年は改革開放政策が始動した年です。その後の人口増加に比べ,中国は高い経済成長率を達成することができました。

この意味では,一人っ子政策という人口抑制政策は経済発展に部分的に貢献したと言えるかもしれません。あるいは貧しい人たちが国外に流出するようなこともなかったので,一人っ子政策は中国の経済発展に,そして社会の安定に寄与したとも言えそうです。

(3)やはりジレンマ

人口が増加すれば経済は発展するけど,一人当たりの水準は減少する,これが人口と経済のジレンマでした。

中国が採用した一人っ子政策はすでに30年が経ち,たしかに発展や安定に寄与したとはいえ,今度は別の問題も発生しています。

一つは性比の問題。もう一つは高齢化の問題です。(社会的には戸籍のない闇っ子(黒孩子)も問題ですがここでは取り上げません。)

多くの途上国でもそうですが,中国農村にとっても男子が労働力として重宝されます。したがって,女子の間引きが行われ,性比のバランスが崩れます。いわゆる結婚できない男性が多く発生し,将来的には人口減少の大きなきっかけになる可能性があります。

MSNニュース
中国の男女比率、依然深刻
2010.6.4 00:41
 新華社電によると、中国国家人口計画出産委員会の李斌主任は3日、2009年の男女の出生比率は女100に対し男が119・45だったと明らかにした。08年より差は縮まったとしているが、100対103〜107が正常範囲とされており、不均衡は依然として深刻。
 李主任は「医学上必要のない男女の産み分けや中絶の方法が多様化している」と指摘、出生比率の不均衡解消は非常に困難との見方を示した。
 中国では農村部を中心に男児を求める傾向が強く、一人っ子政策の影響で1980年代以降、男女の出生比率の差が拡大していた。(共同)

もう一つの問題は高齢化社会です。人口の急速な抑制は,子供の数が少ないということですから,急速な高齢化を招くということです。

人口は働き手として生産に大きな影響を与えますが,それでも老人は生産に貢献することは難しいです。むしろ生産したものを消費する側になるので,経済社会全体としてみれば生産したものが食いつぶされる可能性が出てきているわけです。

この議論は人口ボーナスとオーナスとして有名になってきています。

人口ボーナスとは,生産年齢人口が増加していることを示します。経済の生産活動に参加し,そして消費をする人口が増えていますので,供給面(生産)でも需要面(消費)でも拡大していきます。つまり経済成長をもたらします。

一方,従属年齢人口が増加している時を人口オーナスといいます。従属人口は一般的に15歳未満の子供,65歳以上の老人のことを示します。従属人口は生産活動に参加しませんし,高齢化していくと今までの貯金を切り崩していきます。投資の源泉である貯蓄が減少し,次世代の生産拡大につながらず今までの発展の成果を食いつぶしていく経済となります。こうなると経済は成長せず,長期的な停滞もしくは衰退となってきます。

中国では人口増加が生産年齢人口の拡大をもたらし経済成長をしてきました。ところが30年間の一人っ子政策で働き手である若者は確実に減ってきます。

中国の輸出を支えてきたのは出稼ぎの農民工です。農村では第一子が女子ならば第二子を産んでもよいことになっていますが,農村でも高齢化の波は迫っています。近い将来出稼ぎに出かける農民工も減少して,賃金は上昇するかもしれません。そうなると中国の経済成長のエンジンである輸出にも大きな影響を与えてきます。

最近の報道では,社会科学院が2017年に生産年齢人口が減少するという予測もしています。

人口は,増えても減っても長期的な経済動向に大きな影響を与える要素なのです。

<参考文献リスト>
藻谷浩介(2010)『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)』角川oneテーマ21
小峰隆夫(2010)『人口負荷社会(日経プレミアシリーズ)』日経プレミアシリーズ
大泉 啓一郎(2007)『老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)』中公新書
神永正博(2009)『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』ディスカバー21

<補足>

津上さんのブログによれば,中国の出生率は日本よりも低い可能性を指摘しており,2012年から中国の人口が急減少する可能性もあるとか。あわせてお読みください。おすすめです。

津上俊哉ブログ「2012年、中国の人口危機が爆発する!?」
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2010年11月20日

味千ラーメンと意思決定<岡本式中国経済論11>

日本では,多くのラーメンチェーン店が競争をしています。有名なところでは,幸楽苑と日高屋でしょうか。最近うちの近所にはラーメン山岡家というチェーン店ができました。

さて,中国で今有名な日本のラーメン店は味千ラーメンです。最初は香港に展開していたのですが,ここ数年大陸で急激に店舗が広がっています。

azisenramen.jpg
(出所)味千ラーメンHPより

上海に現地研修に参加した学生さんなども一度は体験する中国での日本ラーメンです。

今回の岡本式中国経済論は,味千ラーメンを事例に経済学の基礎である,意思決定について考えてみたいと思います。

MSN産経ニュースから

【すごいぞ日本】ファイルVII 食は和にあり(6)
2008.9.3 02:24
このニュースのトピックス:すごいぞ日本

 ■未来開く希望のジャンル
 熊本の市街地から少し離れた工業団地に本部を構える「味千ラーメン」は、世界で最も有名なラーメンチェーンである。店舗数は6月現在で国内106店、海外275店。店内に世界地図が張られ、「熊本から世界へ」の文字が躍る。年内には欧州初となるオランダにも出店し、5大陸進出を果たす予定だという。
 文字通り世界展開ではあるが、店舗の数は主に現地との合同出資方式で営業する中国の231店舗が突出して多い。日本国内の総店舗数と比べても倍以上。上海では歴史的建造物が並ぶ繁華街・南京東路に行列をつくる店として有名だ。
 ラーメンの本場は、日本? 中国? ちょっと混乱してくる。
 湯気のたつどんぶり。とんこつの白濁スープに黒い油が浮いている。伝統的熊本ラーメンだ。重光克昭社長(39)は「発展している国は新しいものを容易に受け入れてくれる」と語る。
 台湾に出店し、海外初進出を果たした1994年当時は、客の要望に合わせて味を変えた。だが、かえって人気が落ち、閉店に追い込まれた苦い経験がある。その失敗の体験を糧に「以後、世界で同じ味にすることを目指している」と重光社長はいう。
 「水準を保っているのかどうか。確認するためには抜き打ち訪問もします」
 中国では数百種のサイドメニューをそろえ、多様なニーズにも応えようとしているが、それでも大半の客はラーメンを注文する。

サーチナニュースから

中国で躍進する味千ラーメン 5年以内に1000店めざす

【経済ニュース】 2010/04/12(月) 17:44

  日本のラーメンチェーン「味千ラーメン(あじせんラーメン)」がこのほど、中国料理協会が選出した「中国ファーストフード企業トップ50」の第4位にランクインした。中国経済網が伝えた。

  ランキングの第1位は中国でもっとも人気のあるファーストフード店と言われるケンタッキーフライドチキンを展開するヤム・ブランズ(米国)だった。

  第2位にはマクドナルド(米国)、第3位にはDicos(台湾)、第4位が味千ラーメン(日本)となった。第5位には真功夫が入り、中国資本として唯一トップ5にランクインした。なお、第6位には日本の牛丼チェーン吉野家もランクインしている。

  日本国内で約100店、海外で約400店を展開する味千ラーメンは1995年に中国初進出、2010年3月31日時点で中国70都市で398店舗を展開している。

  2009年度の味千ラーメンの中国における売上高は前年同期比18.7%増の19.86億香港ドル(約238億円)、売上総利益は13.85億香港ドル(約166億円)だった。2010年度、味千ラーメンは中国で新たに120店を新規出店する予定であるほか、今後5年以内に総店舗数1000店を目指す。(編集担当:及川源十郎)



日系企業が中国進出するのは,労働コストが安いという面,中国市場が発展しており市場としての魅力があるなどと語られます。直接投資の理論では,輸出企業が現地に販売網を築き,順調にいくと現地の市場開拓のために輸送コストを減少させるために現地に工場を設立します。また中国の場合は優秀な労働が低コストで雇用でき,また経済特区などでは税金があまりかからないためコストを最小にするために企業が進出すると語られます。


経済学は意思決定と相互依存の学問です。経済主体がどのように意思決定するか,そしてその意思決定は他の経済主体に影響を与えます。

ここでは,「意思決定」という観点で日系企業の中国進出を経済学してみたいと思います。Diamond onlineの特集Biz.CHINA中国ビジネス最前線で取り上げられていた味千ラーメンの重光社長へのインタビュー記事(ここ)から考えていきたいと思います。



(1)意志決定の仕方

歩いて6分程度のところにあるちょっと遠めのセブンイレブンと近く(歩いて3分程度)のローソンがあるとします。どちらのおでんも同じくらいの好みである場合,どちらを購入するでしょうか。

どちらも価格が同じだとすると,人は近いローソンのおでんを買うという選択をします。味と価格が同じだとしているので,ここでの比較対象は場所が近いかどうかということになっています。遠いセブンイレブンを捨てて近くのローソンをとるという意思決定が行われています。

この事例で意思決定を左右したものは近いか遠いかということです。このような意思決定を左右するものを経済学ではインセンティブ(誘因)といいます。

次にセブンイレブンがおでん全品70円均一セールを行ったとしましょう。ふだんセブンイレブンに行くのを面倒くさいと思っていた人も,ローソンよりもセブンイレブンが得なんじゃないかという気がしてきます。そこで心のなかで無意識に「歩くの面倒くさい」という気持ちと「お得なおでん」を比較した結果,セブンイレブンのおでんを買うという意思決定を行ったとします。ここでセブンイレブンに行くインセンティブ(誘因)となったのはおでんの価格です。

ローソンよりセブンイレブンを選ぶことで余分に歩く3分の労力を費用と呼び,セブンイレブンを選択した結果得られたお得感を便益と呼びます。心理的にはセブンイレブンまでの歩く労力という費用よりも,セブンイレブンで安いおでんを体に入れるいう便益が勝ったので,この人はセブンイレブンまで歩いて行っておでんを購入したということになります。

このように経済的な活動の意思決定は,お金というインセンティブと目に見えない(正確に測れない)費用と便益を比較衡量して決めています。

人の意思決定には,何かを捨てて何かを得るということが起きます。セブンイレブンのおでんを諦めるからローソンのおでんが手に入ります。あるいはセブンイレブンのおでんを手に入れるためにはローソンのおでんをあきらめなければなりません。

バイトと遊びで考えると,毎晩バイトするという意思決定をした場合,夜遊ぶという選択を諦めたことになります。毎晩遊ぶという意思決定をした場合,バイトする時間がないのでバイトという選択を諦めたことになります。

セブンイレブンのおでんとローソンのおでん,バイトと遊びといった関係をトレードオフ(二律背反)の関係といいます。トレードオフの関係が発生するために,人は心理的に費用と便益の比較検討を行って意思決定を行っています。

意思決定にトレードオフが存在すると,どちらを選択することになるのでしょうか?

経済学では便益(メリット)と費用(コスト)で考えます。しかも限界という概念が働きながら人は意思決定をします。

限界概念を説明しましょう。限界とは「端(はし)」という意味です。例えばセブンイレブンのおでん価格が100円だとします。100円のおでん価格がほんの少し変化した場合に行動がどのように変化するかを考えます。100円からほんの少し,例えば1円変化すると考えるとしましょう。この変化が限界的変化を意味します。100円の端(はし)が少し変化したときに何がどう変わるかを考えるのが限界概念です。

おそらく多くの人は100円が1円安くなって99円になったとしてもすぐには遠くのセブンイレブンに行こうとはしないでしょう。でも最初の1円変化は敏感です。お,セブンイレブンが安売りを始めたというふうに反応します。これが2円,3円安くなっていくと最初の1円ほどではありませんが,便益は全体としては増加していますが,増加分としては少し減少していきます。これが限界便益が減少している状況です。(価格が下がると限界便益は減少する。)

反対に,100円が99円,98円,97円と下がっていくにしたがって,セブンイレブンに行く労力を厭わなくなります。遠くだけど歩いて行ってもいいかなという気持ちになります。お金の小さな限界的変化が費用を変化させていきます。価格が下がると限界費用は増加します。

私たちの頭脳では限界的に計算をしています。この限界便益と限界費用を頭の中で無意識に計算した結果

限界便益>限界費用

になると,ローソンおでんをやめてセブンイレブンおでんを選択することになります。

1円割引ぐらいでは便益はあまりないと考えるならば

限界便益<限界費用

になります。この場合,やはりいつものローソンでおでんを購入するという意思決定がなされます。

現実には世の中は1円ずつの割引が行われるわけではありません。実際には10円引きだったりするわけですが,頭の仮想的計算では,セブンイレブンが100円から90円に値下げした場合,セブンイレブンに行く便益と費用はどれくらいだろう,また90円から80円に下がった場合は便益と費用はどう変わるだろう,ということが無意識で計算されています。70円まで値下げしている時には,セブンイレブンでおでんを買う便益がセブンイレブンに行くまでの費用を上回っているために,セブンイレブンでおでんを買うという意思決定がなされます。

意思決定にはインセンティブが大きな役割を果たしています。そしてその決定にはトレードオフが存在します。その中でひとつの決定を下すには便益費用が計算されているというのが経済学的な考え方です。


さて,いよいよ味千ラーメンの中国進出意思決定を考えてみましょう。

味千ラーメンの社長の話よれば,「国内をメインにしながら、海外からのオファーに対応するというスタンス」で海外進出を考えていたようです。つまり「「国内がダメだから中国に活路を!」という考え方」ではなかったわけです。

国内市場か中国市場かというトレードオフの関係でとらえると,中国市場を狙うことによって日本市場を捨てるということですし,反対に日本市場をつかんで中国市場には目を向けないということを意味します。この場合重光産業にとって,ひとつの市場を捨てるという機会費用は捨てないという機会費用よりも高かったということです。となると,片方の市場を捨ててもうひとつの市場をとるという費用よりも両方の市場をとるという便益がまさっていたと考えられます。結果,国内をメインにして海外オファーに対応するという意思決定につながったと考えられます。

インタビュー記事にはありませんが,多くの企業の意思決定には,便益と費用の計算がなされています。進出した時の期待される収益はいくら(便益),その場合どれくらいの費用が見込まれるか(費用),双方を比較衡量して決定されます。


(2)中国市場急拡大はインセンティブ


味千ラーメン海外展開の主戦場は中国でした。中国市場での急拡大の秘密はフランチャイズの方式にあるようです。重光社長の話を引用してみます。

以下引用

―フランチャイズを行なう企業であれば、通常収入の核となるのが、ロイヤリティだ。しかし、味千ラーメンは日本では月額1万5000円、中国はそれより高いとはいえ、3500元(5万円程度)に設定している。なぜロイヤリティをこれほど安く設定しているのか。

 現在、味千ラーメンの本部である重光産業は、中国の味千ラーメンを運営する中国味千ホールディングスとフランチャイズ契約を結んでおり、食材の供給、中国味千の店舗展開のバックアップ、支援を行なう関係にあります。そして、味の指導や品質管理、商品提案などを行なっています。そうしたなかで、主に食材の販売とロイヤリティなどによって収入を得ている状況です。

 ロイヤリティに関しては、売上に対する歩合で決めると管理も大変ですので、固定にしています。多くのお金をいただかないのは、「先代である創業社長のお店で頑張っているオーナーにお金が残るようにしないといけない」という思いがあるからです。我々はメーカーとして食材の販売ができるわけですから、あとはお店で働いている人たちが幸せになれるように、と。

 それに、我々が何でも吸い取ってしまうと仲も悪くなるだろうし、高かったら彼らは払いたくなくなるでしょ? そうすると、店舗を守る努力をせずに、「いかにごまかしてロイヤリティを少なく済ませようか」ということに腐心する可能性もあります。そんなことに力を注いでもらうのではなく、店をどんどん出したり、発展させることに力を注いでくれたほうが、数も増えて我々にメリットがあるのです。

以上引用


中国の人が味千ラーメンのフランチャイズに参加したいかどうか,意思決定にはインセンティブが働きます。

とある中国の起業家が味千ラーメンをやるかどうか,やると他の飲食店をすることはできません。味千ラーメンをやるということは,味千ラーメンと他のフランチャイズ飲食店のトレードオフになります。味千ラーメンをやることによって得られる便益とかかる費用(やることによって他の事業をやったときに得られるであろう仮想的利益=機会費用)を比較します。

その比較によって便益が費用を上回った場合,多くの中国人起業家が味千ラーメンのフランチャイズに参加します。

この時に重要なのがインセンティブであるロイヤリティの金額です。日本ではラーメンは薄利多売の商売なので安く設定せざるを得ないのでしょう。毎月1万5000円と言われています。一方中国で日本のラーメンはちょっとした高級料理です。(そこまで言わないまでも非日常食であることには変わりません。)そのためにロイヤリティが高めに設定されているようです。

それでもこのロイヤリティの特徴は「固定」されているということです。つまり売上を伸ばせば伸ばすほ中国人起業家の手元に残るお金は増えます。つまり店舗の雰囲気や一部メニューの独自化など自分の裁量努力によってお金が得られるわけです。これが大きなインセンティブになっているといえます。(最近不景気でも売上が伸びている餃子の王将も同じだったような気がします。)

このように企業進出の意思決定にはインセンティブ,トレードオフ,便益と費用が大きく関わっています。


<参考文献リスト>
グレゴリ・マンキュー(足立等訳)(2005)『マンキュー経済学〈1〉ミクロ編』東洋経済新報社
「熊本の小さな飲食店「味千ラーメン」はなぜ中国で一番有名な日本の外食チェーンになれたのか―重光産業 代表取締役社長 重光克昭氏に聞く“成功のかくし味”」『中国フロンティア開拓使』http://diamond.jp/articles/-/9737,2010年11月5日)
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2010年11月06日

日中関係<岡本式中国経済論10>

2010年9月7日,尖閣諸島沖で漁船が海上保安庁の船に衝突し,日本が中国人船長を拘束して以来,中国側が日中間の交流行事を中止,フジタの社員を拘束しました。その後,日本側が船長を保釈して以降も,中国側は謝罪と賠償金を要求し,日本側はそれに反発,日中間で対立が続いています。そしてこの対立は反中反日デモへと波及しています。

この対立をゲーム理論の角度から見てみましょう。

まず新聞報道から。

MSN産経ニュース
【尖閣衝突事件】外相が中国大使呼び、拘束邦人安全確保申し入れ 中国は丹羽大使面会を拒否
2010.9.27 22:41
このニュースのトピックス:外交
 前原誠司外相は27日、外務省に程永華駐日中国大使を呼び、中国河北省石家荘市で拘束されている準大手ゼネコン「フジタ」(東京都渋谷区)の日本人社員4人の安全確保などを要求した。23日に身柄拘束が判明して以来、大使を呼びつけたのは初めて。
 前原氏は、沖縄・尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突事件で、逮捕された中国人船長を釈放した後も、中国側が謝罪や賠償要求をするなど対応に変化がみられないため、程大使への「直談判」で事態打開を図ったとみられる。

その他,尖閣諸島沖漁船衝突事件により日中間の対立の様相を報道した記事のタイトルは以下の通りです。

【尖閣衝突事件】中国国家観光局幹部、国交相主催のレセプション欠席 APEC観光相会合
【尖閣衝突事件】拘束中の船長の即時釈放を要求 温家宝首相
【尖閣衝突事件】「日中知事交流」も延期、中国側が通告
【尖閣衝突事件】日本食品フェスも中止 反日感情に配慮か
【尖閣衝突事件】上海万博日本館の警備も強化 

朝鮮日報(2010/10/18付け記事)

反日・反中デモが拡大、対立が民間に飛び火(上)
 中国と日本では16日、それぞれ大規模な反日、反中デモが起き、尖閣諸島(中国名・釣魚台)をめぐる領土紛争は民間の衝突に発展している。右翼団体を中心とする日本の反中デモとは異なり、中国の反日デモは20−30代の若い大学生や会社員が主導し、デモ隊が日系の百貨店や商店を攻撃するなど、政府の統制が利かなくなる場面も見られた。両国政府は今月末、ベトナムで首脳会談を行い、関係改善に向けた具体的な措置で合意する計画だったが、デモが拡大すれば、大きな負担となる見通しだ。日本では日中間の対立が構造的に固定化するのではないか、と懸念する声が一部で出ている。

反日・反中デモが拡大、対立が民間に飛び火(下)
 同日のデモは、日本の右翼勢力による反中デモや在日中国大使館に実弾が届いたといったニュースを伝え聞いた大学生がインターネットで連絡を取り合って起こしたものだ。それに一般市民が加わり、デモの規模は雪だるま式に拡大した。北京駐在の外交消息筋は「2005年の反日デモは政府が支援した官製デモの性格が強かったが、今回は地方の若者の間で自発的に起きた」と指摘した。

■日本、反中デモより反日デモに関心

 日本では16日、東京都心で大規模な反中集会が開かれた。田母神俊雄前航空幕僚長ら極右陣営の約2000人が青山公園に集まり、「中国が日本や他のアジア国家を侵略するのを放置しない」と叫び、デモを展開した。デモ隊はその後、在日中国大使館まで行進した。

 日本のメディアは、国内の反中デモよりも中国の反日デモに焦点を合わせた報道を行った。NHKなどは、成都、西安などにある日本人経営の商店、飲食店のガラスが割られる模様を繰り返し伝えた。北京在住の日本企業関係者は「今回の反日デモは経済成長に伴い高まった中国国内の民族主義感情、社会的不満などが結び付いたものだ」と分析した。

■中国外務省、自制を呼び掛け

 両国政府は事態収拾に苦悩している。中国外務省の馬朝旭報道局長は「意思表示は法律に従い、理性的に行われるべきだ」と自制を呼び掛けた。また、日本政府も在中日本大使館を通じ、日本人の安全確保を中国政府に要求するとともに、政府レベルでの対話を通じた解決を図っていく方針だ。

東京=辛貞録(シン・ジョンロク)特派員

北京=崔有植(チェ・ユシク)特派員

以上,朝鮮日報/朝鮮日報日本語版からの引用でした。


(1)逐次ゲームの展開

ゲーム理論は,自分の意志決定によって相手がどんな意志決定を行い,結果双方はどのようになるかを分析する理論です。寡占企業がライバル社に対してどのような意志決定を下し,その戦略に対して他社はどのような行動をとるか,企業行動の意志決定に分析されるのが経済学では一般的です。

国の意志決定,国際政治の場面でもゲーム理論は応用可能です。そもそもゲーム理論の創始者フォンノイマンは米ソの緊張関係の中でゲーム理論を発展させてきました。

日中間の事件を整理してみましょう。

@日本が尖閣諸島沖で,巡視船にぶつかってきた中国籍の漁船を拿捕した。
A中国は船長と乗組員の解放を要求。
B日本は地検の判断で釈放。
C中国は謝罪と賠償金を要求。
D日本国内では反発の声。
E中国国内では反日デモ。

どちらかといえば,日本はハト派的な戦略を採用し,中国は強硬的なタカ派的戦略を採用しているといえそうです。

そこで,ここではゲームの木で双方の戦略とその行動をみてみましょう。どちらも得られる利得があるために,その戦略を採用していると思われるからです。

CJgametree.JPG

日本が中国籍漁船の船長と乗組員を逮捕しました。ここで中国側がとるべき戦略は,和平的に事を荒立てずに日本側と交渉するハト派的戦略か日中間の往来を強制的にストップさせるタカ派的戦略です。

図にもあるように中国がタカ派的戦略を採用した理由は,中国が損をして日本が得するからです。それが日本の利得2,中国の利得−1として示されています。実際,中国はハト派的戦略をとることによって中国国内で弱腰を批判される恐れがありました。日本側は尖閣諸島の行為を正当化できるので,中国がハト派的戦略をとると日本が得することになります。

次の時点にすすみ,今度は日本側が戦略を考える番になります。日本側としては強硬的なタカ派戦略を採用すると,日中関係が悪化し,経済にも悪影響を及ぼすと考えます。また日中関係の悪化は中国にとってもあまり得策ではありません。これが中国の利得-2,日本の利得-2として示されています。一方,日本が和平的にハト派戦略として船長の釈放を行うとすると,中国側のメンツは立ち,日中関係がぎりぎり保たれるので日本も船長拿捕は法律問題としてすませられると考えたと思われます。これが中国の利得2,日本の利得0として示されています。

ところが話はここで済みませんでした。中国はさらなる強硬な外交態度を取り,タカ派戦略を堅持しています。

(2)様相はチキンゲームのように

環境問題のところで,囚人のジレンマを紹介しました。上記の利得を表にするとチキンゲームになります(なお以下の利得表は極東ブログから使わせていただいています。また説明も参考になりますので、是非どうぞ)。

             日本
         タカ派(q) ハト派(1-q)
中国 タカ派(p)  (-2,-2) (2,0)
   ハト派(1-p)  (0,2) (1,1)

囚人のジレンマとちょっと違うジレンマに陥っています。中国も日本も相手がハト派戦略をとることによって利得が得られます。とくにどちらにとっても自分がタカ派戦略を採用して相手国がハト派戦略になると満足のいく結果になります。そのため双方ともにタカ派戦略を採用しようとしてどちらも最悪な結果(日中関係の究極的な対立,例えば開戦など)につながる可能性があるわけです。

この表は,日中ともに友好的態度で付き合うのがいいのですが,自分が強硬的態度で外交に臨み,相手は譲歩すると政権が強固なるなどの利得があるために,どちらも一歩もひけず対立してしまう構図を示しています。

これをチキンゲームと呼びます。チキンゲーム(英:chicken game)とは、別々の車に乗った2人のプレイヤーが互いの車に向かって一直線に走行するゲームです。衝突を避けるために先にハンドルを切ったプレイヤーはチキン(臆病者)と称され、屈辱を味わう結果になります。どちらか一方のプレイヤーが引き下がることが効用を最大化することのため,あとに引けず最悪の場合は双方ともに激突します。一番いいのはこのチキンゲームをやらないことなのですが,参加する方が自分は強いことを示すことができるので,とくに「観客」がいる場合,ゲームは行われるということになります。

中国がタカ派戦略をとり,日本がハト派戦略をとるという均衡になるのは観客(ここでは国民)の状況に依存しそうです。

(3)混合戦略

以上でも十分今回の日中間の「もめごと」を説明できているのですが,中国がタカ派,日本がハト派になるのを厳密に導いてみたいと思います。
(以下は中学以上の算数知識が必要なので,興味がある人だけおつきあいください。)

実際の国際政治の世界では,あるときはハト派的戦略をあるときはハト派的戦略を採用するといったようにランダムに戦略を選択していきます。このように採用するのが一つの戦略でない場合を混合戦略と呼びます。(反対は純粋戦略)

上記の利得表では,どこが均衡になるかは「わからない」という結果になります。つまり算数的には解がない状況です。

そこで中国がタカ派の戦略を採用する確率をp(したがってハト派戦略の確率は1−p),日本がタカ派戦略を採用する確率をq(したがってハト派戦略の確率は1−q)とします。中国にとってこのゲームから得られる期待値は以下のように計算されます。
(利得表の左側の数値と各国の確率をかけ算して足していきます。)

中国の期待値=−2pq+2p(1−q)+(1−p)(1−q)
      =(1−3q)p+(1−q)

q>1/3のとき期待値をpの関数としてみた場合減少関数なので,p=0のとき期待値1−qが最大となります。
q<1/3のとき期待値をpの関数としてみた場合減少関数なので,p=1のとき期待値2−4qが最大となります。
q=1/3のとき期待値はpが0から1までの任意の確率となります。

つまりナッシュ均衡は(2/3,1/3)となります。日本がタカ派戦略の確率が1/3の場合,中国は2/3の確率でタカ派になるのいいということになります。

現在の日中経済はこのような環境になっているといえるかもしれません。日本がタカ派になるのは3回に1回だと中国側が考えていれば,中国は3回に2回はタカ派の戦略を採用するのが合理的ということになります。


<参考文献リスト>
ウィリアム・パウンドストーン(1995)『囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論』青土社
「極東ブログ」(http://finalvent.cocolog-nifty.com/fareastblog/2010/10/post-6562.html,2010年10月26日アクセス)

<補論>
なお,上記ゲームにおけるナッシュ均衡は(中国,日本)で(1/3,2/3)という組み合わせもあります。

確認してみましょう。

日本の期待値は,
(利得表の右側の数値と各国の確率をかけ算してから足していきます。)

日本の期待値=−2pq+2q(1−p)+(1−p)(1−q)
      =(1−3p)q+(1−p)

p>1/3のとき期待値をqの関数としてみた場合減少関数なので,q=0のとき期待値1−pが最大となります。
p<1/3のとき期待値をqの関数としてみた場合減少関数なので,q=1のとき期待値2−4pが最大となります。
p=1/3のとき期待値はqが0から1までの任意の確率となります。

以上の自国の期待値関数を曲線として示したのが最適反応曲線です。日本と中国の最適反応曲線を図に示すと以下のようになります。

CJreactioncurb.JPG

その交点がナッシュ均衡となります。このゲームの結果は,中国が2/3の確率でタカ派になり(日本は1/3の確率でハト派に),その裏返しで,日本が2/3の確率でタカ派になる(中国は1/3の確率でハト派)ことを示しています。この中で現実は中国タカ派,日本がハト派になっています。これは他の要因(国内情勢や国際情勢など)が働いているといえそうです。
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2010年10月30日

灰色収入(岡本式中国経済論9)

中国には「灰色収入」というものがあります。非合法な経済活動によって得られる収入を「黒色収入」,そして合法的であるし世間にも公開できるものを「白色収入」と呼んでいます。「灰色収入」は黒色収入と白色収入の間として定義されます。

弁護士の発言によれば,非合法的な活動による収入ではないが,公民としての納税の義務を果たしていない収入であるとも指摘されています。(百度百科

ただし,一般の人々が「灰色収入」というと公務員の目に見えざる収入を指しているようで,そのために「灰色収入」はなくすべきだという議論が出てきます。


MSN産経ニュース

「灰色収入」はタブー? 中国、政府報告から削除
2010.3.16 00:29
このニュースのトピックス:中国
 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は14日の政府活動報告の最終承認で、原案に収入格差是正の一環として明記していた「灰色収入についてルールを定める」との文言を削除した。活動報告全文が15日公表され、判明した。
 中国で灰色収入は合法収入と違法収入の間にある「グレーゾーン」の収入を指すが、灰色収入を得ている「既得権層」の収入透明化に対する抵抗感もうかがえる。
 5日に温家宝首相が原案を読み上げた後、代表(議員)から「本来存在するべきではない灰色収入について、どうルール化するのか」といった反発が出ていた。
 「灰色収入」の実態は極めて不透明で、政府や国有企業が非公式に支給している闇給与も膨大な額に上る。(共同)


年収100万円でも車が買える中国人の秘密=統計には表れない「隠れた収入」100兆円―中国紙
Record China 8月13日(金)22時13分配信

12日、北京晩報は記事「中国社会の『隠れた収入』は9兆元=最も裕福な人間が最も多い金をつかみとっていく」を掲載した。収入階層ごとの「隠れた収入」の分布図。最高収入層が大半を得ていることが分かる。
2010年8月12日、北京晩報は記事「中国社会の『隠れた収入』は9兆元=最も裕福な人間が最も多い金をつかみとっていく」を掲載した。

中国経済体制改革基金会国民経済研究所の王小魯(ワン・シャオルー)副所長率いる研究チームは、公的統計で把握されない「隠れた収入」の研究を続けている。以前発表した05年度に続き、このたび08年度の「隠れた収入」推計値を公表した。3年間の間になんと91%もの急拡大を遂げていたという。

「隠れた収入」があるため、中国人は公的統計で想像された以上に裕福だという。その象徴が自動車保有台数。マイカー購入には年2万元(約25万4000円)のコストがかかり、通常年収20万元(約254万円)以上の世帯でなければ購入できないと言われている。ところが世帯収入上位20%の可処分所得は平均8万9000元(約113万円)。この数値で見れば、中国はまだまだマイカーが普及する段階にはないが、08年のマイカー保有台数は2814万台に達している。

この不可思議な現象は「隠れた収入」を加味して考えることで解決される。「隠れた収入」を加算した都市部世帯収入上位20%の平均年収は24万元(約304万円)。愛車を購入する能力を十分に備えている。

「隠れた収入」の総額は9兆2600億元(約117兆円)とGDPの30%に相当する。では「隠れた収入」とは何か。その過半は、権力と地位、独占権益を利用して得た「灰色収入」(付け届けなど合法と非合法の間に位置するグレーゾーンの収入)が占め、その80%以上は収入上位20%の富裕層が得ているという。ゆえに格差はさらに広がり、深刻な社会問題となっている。(翻訳・編集/KT)

さて,この「灰色収入」について考えてみましょう。

1.灰色収入とは

『百度百科』によれば「灰色収入」の特性として,@出所は公金であること,A権力に付随しているもの,B集団化されているもの,C正当化されるもの,があげられています。

同じく『百度百科』によれば,その出所として5つをあげています。
@財政資金。投資プロジェクトの1/3が漏れている。
A金融腐敗。中小企業などがお金を借りたあと,金融機関といい関係を得たいがために,支払う費用。借入金の9%にも上る。
B行政許認可。許認可をスムーズにしてもらうために必要な費用。世銀の推計に寄れば企業の売上高の0.7%から2.3%
C土地収入。開発用の土地を入札ではない方法で販売した費用の着服。
D独占企業の収入。電力,電信,石油などの産業では,全国工員数の8%程度にしか満たないのに,給料と給料外収入の合計が全工員給与額の55%を占める。

ちなみに日本の地下経済をみてみると(「日本の地下経済(アングラマネー)の実態」『WEB金融新聞』),その規模は21.9兆円にも上るそうです。約3/4は自営業者の脱税部分で,次に暴力団がらみの非合法取引(麻薬,違法賭博など),性産業がらみ,と続きます。その他の項目に含まれるもので「医師への謝礼金」があり,これが中国の灰色収入に近い概念のようです。

2.何が問題か。

ところで賄賂というものは,公務員などに不正行為(あるいは不法行為)を働いてもらって,特別な便宜供与をはかってもらう見返りとして支払うお金のことです。この「不正」という行為が法律上グレーであれば,そのような行為に関わる金銭の授受が「灰色」になってしまいます。

私の経験から具体的に見てみましょう。

とある日系企業が日本食品を取り扱うお店を開店したいと考えていました。日本食品を取り扱うためには,日本から食材を輸入し,中国の法律に従って表示義務を課せられたラベルをはって,店頭に並べます。

日系企業は,輸入する品目について税関,工商局,食品衛生局など関連部局からの許可や指導を受け入れなければなりません。普通に申請するとビジネスチャンスを逃すほどの時間がかかるようで,ある程度迅速に対応してもらいたいと思ったそうです。パートナーの中国人の方とともに,関連部局の上の人と食事をする機会を設けてもらい,顔を覚えてもらい,いわゆる「関係」を築いていったそうです。そしてそれから中秋節,国慶節,春節などの季節のお祝い事の時には,上から下まで全員に「付け届け」(換金できる商品券のようなもの)を配るようです。

また日系料理店の話です。営業や治安等その地域を管轄する工商局や公安などの方が見回りと称して,食事に来ます。公務員の方は支払いをしようとする訳ですが,当然店側は支払いを受け取るわけにはいきません。ご苦労様ですということで無料で飲食を提供することになります。店としては関連部局のポジションが高い方とのつきあいはあるのですが,現場の方々との関係はないので,食事提供という形になっているそうです。(ありえないような高額な料理を頼むことはないとのことでした。)

これらは企業側が「はっきりした」便宜供与を依頼しているわけではありません。行政側も「明確な」便宜を図ることはないわけです。ただし行政サービスを受ける側も与える側も「慣習」として行われているというのが特徴なわけで,一種の潤滑油的な位置づけとして双方受け取っています。(このような慣習に直面した日系企業は最初戸惑うわけです。)

あとは,行政側のトップから末端まで全員に行き渡っているので,ねたみがおきず,受け取る側も悪いという意識はなく,行政サービスに対する一般社会からの「労務費」「慰労費」程度にとらえているのが現状です。


3.完全競争的な収賄市場とネットワーク

私たちの感覚からすると「ありえない」話ですが,中国の場合,収賄が完全競争的になっているので,行政サービスが効率的に提供されていると言えるかもしれません。

収賄の完全競争とは,行政サービスを受ける側が多数存在し,受けたい行政サービスを「値付け」して呈示しており,それが完全競争的に行われているということです。企業側は行政に「いくら」付け届けすればいいかわからないことが多く,同業他社へのヒアリングやアドバイザーの話を聞いて,大体の相場を得ます。そして急いで行政サービスを得たい場合には少し大目の付け届けを行うでしょう。普段の急ぎではない関係を保つための「維持費」として付け届けする場合は,あまり大目に支払うことはありません。

このように企業側は行政サービスについて値段を呈示しているわけです。それが価格シグナルになって行政側もどの程度の行政サービスを提供すればいいかわかるということになります。

ここでは,行政サービスが提供する側の私的所有という側面が見られます。行政サービスは公共財であり,その特徴は非排他性であり,「誰でも」受けられるはずのものです。しかし中国では行政サービスは公務員の提供する私的は財の側面を持っているわけです。(これが程度を越えると国有資産の私有化につながり,大きな社会問題になる原因を含んでいます。)コースの定理にもありますが,所有権をはっきりさせると公共財も効率的に配分されます。(前のエントリ「腐敗が起こるシステム」のダフ屋に相当します。)

行政サービスが必要な人に提供され,また行政サービスの所有権が行政側にあるので,資源配分の観点からみると効率的であるとも考えられるというのが中国の収賄市場の特徴です。

公務員全体が社会の中で収賄を行っていることがその収入の「灰色」化を促進しています。進出した日系企業もおかしいと思いながらも灰色社会に加入していきます。これは「ネットワーク」理論からも説明できそうです。

この理論は,例えばパソコンのOSソフトやアプリケーションソフトの市場を説明するのに使われます。自分以外の人がMicrosoftのOfficeを使っているために,自分もそれを使うというのはネットワークに加入することによって互換性というメリットを得ています。ネットワークに加入することによって得られるメリットのことをネットワーク外部性といいます。

公務員でも同僚がみな受け取っているのだから,自分も受け取らないと損なわけです。また日系企業がとまどいながらもこの「付け届け」の習慣に組み込まれるのも,費用と便益から考えると有利なビジネス環境を得るための必要経費(ネットワークへの加入代)と割り切ることも可能なようです。

受け取る側は公務員全般なわけですが,だれもネットワークから抜け出す(灰色収入をなくす)メリットがありません。ネットワークを抜ける費用よりも留まる便益が高いということになります。

したがって,改革しようとしても改革しにくい公務員の既得権益ということになりそうです。


<参考文献リスト>
クルーグマン・ウェルス(大山他訳)(2007)『クルーグマン ミクロ経済学』東洋経済新報社
黒崎卓・山形辰史(2003)『開発経済学―貧困削減へのアプローチ』日本評論社
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2010年10月16日

お腹を出すおじさん「膀爺」(岡本式中国経済論G)

中国では夏になると,中年のおじさまたちがシャツをめくりあげお腹を出し始めます。あるいは上半身裸になって歩き始めます。

このようなおじさまたちを中国語では(親しみを込めて)「膀爺(バン・イエ)」あるいは「板儿爺(バンアルイエ)」(←これは北京だけ)と呼ばれます。

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とこのような人たちです。これに関するレコードチャイナのニュースをみてみましょう。

Record China 
北京の街に今年も出ました!夏の風物詩「上半身裸」の男たち―米紙

2010年8月23日、米紙ロサンゼルス・タイムズは、北京の夏の風物詩ともなっている上半身裸の男性、「膀爺」(バンイエ)たちを写真入りで紹介した。環球網が伝えた。以下はその内容。

北京では近年、市民のマナー向上に並々ならぬ努力が払われている。しかし、今年の夏も街のあちこちに「膀爺」と呼ばれる上半身裸の男たちが出現した。彼らは慣れた手付きで上着を目いっぱいまくり上げると、様々な形状の「腹」を露わにする。大抵の場合、その「腹」がへこんでいることはない。

「膀爺」は北京以外の街にも出現する。中国では農村から北京のような大都市に至るまで、どこでも「膀爺」を見ることができる。彼らは年齢も職業もバラバラ。暑い最中とはいえ、公衆の面前で肌を露出することが不適切だとは思っていないようだ。

公園のベンチで上着をめくり上げてパタパタあおいでいた男性は「自分が涼しくなりたいだけ。笑われているとは感じていない」。また、別の男性は「暑いから周りからどう思われるかなんて気にしていられない」と言う。だが、一部の若者は「恥ずべき行為」だと思っているようで、21歳の男性は「国際都市・北京の品格を落としている。上半身裸で歩いて良いのは家の中だけだと思う」と話していた。

北京では08年の五輪開催を前に、ところ構わずタンを吐く、列に並ばないなどの行為は首都の市民に相応しくないとして、一掃するためのマナー向上キャンペーンが行われた。「膀爺」たちにも真新しいTシャツが配られるなどして、名目上は一掃されたはずだったのだが…。(翻訳・編集/NN)

以上,全文引用させていただきました。

この行為は日本からみると「はしたない」というように見られるようです。現地研修で中国に行くと,多くの学生さんがこの光景に釘付けになります。

中国人自身もこのような行為は恥ずべきだとして北京オリンピックでは禁じられましたが,また再開しているというのが上の記事です。

なぜ,お腹を出すのでしょうか。

それは彼らにいわせると

暑いから

です。お腹を出すことによって温度を下げるという考えなのです。

あるいは漢方の考えでは熱いときにお腹を出すのは健康にもいいという「都市伝説」がまかり通っています。(漢方側はそれを否定しているらしい。ブログ「山寨前列腺」)

もしかしたら,そうなのかもしれません。私自身もお風呂上がりはパンツ一枚でうろうろするので,暑いと服を着るのもいやになります。ですから私も気持ちはわかるわけですたらーっ(汗)

問題は

なぜ,公共の場でお腹を出すのか

ということです。つまり公共マナー(あるいは社会規範)としてどうかという問題があります。この裏には文化的な違いがありそうです。

おもしろい仮説があります(ブログ「山寨前列腺」)。それは,マナーの良い行為は文化大革命時代に小資本家階級的ふるまいとして批判されていたようです。つまりマナーが悪ければ悪いほど共産主義に沿っていることになったわけです。外国の要人と会見する国家指導者もそのような傾向がありました。毛沢東は人前で体のどの部分でもかゆいところをボリボリかいていたようですし,ケ小平も相手にかまわず痰を痰壺にはいていたようです。文化大革命を経験した年代のおじさんは,体から“共産主義的行動”が身についているのかもしれません。

つまりマナーが悪いことは,共産主義国家的には正しいことだとブログ「山寨前列腺」では暗に語っているわけです。

この仮説は,半分は政治的なブラックジョークだと思います。それはさておき,なぜ公共の場でお腹を出すことが受け入れられるのか,まともな仮説としては以下のようなものが考えられます。

越川(2010)は,さまざまな先行研究から,集団を優先する日本人,個人を優先する中国人として,中国人と日本人の文化的な違いを整理しました。そこでは,日本人は個人よりも集団の論理が優先します。ムラ意識が高く,世間の目を気にするゆえの「恥」文化でもあります。したがって人前でお腹を出すようなことはない,と言えそうです。

一方,中国人は厳しい自然との闘いの中で環境よりも人間(自分)が大切になってきました。また中華思想に代表されるように「私が中心」という考えもあります。つまり中国人は周りの環境を気にすることがないということが言えます。ですから,人がどう思おうが関係なく,暑ければ上半身裸になるしお腹も出すということになります。

文化面からお腹をだす,上半身裸になるおじさんの話しをしてきましたが,これで終わると「岡本式中国経済論」にはなりません(笑)。さてここから本題です。

経済学は個人の意志決定を分析する学問でもあります。各個人が意志決定を行い,それが何度も繰り返されて社会的な習慣が作られていきます。

経済学ではそのような社会的な規範のかたまりを制度ということがあります。経済学は制度が国によって違うのをゲーム理論で説明します(松尾2008)。

日本ではお腹を出さず,中国でお腹を出す,このような習慣の違いがどのようにしてできたのか,以下のゲーム論で説明してみましょう。

         おじさんAの戦略
         裸    着衣
おじさんB 裸 (4,2) (1,1)
の戦略   着衣(1,1) (3,3)

おじさんAは少し恥ずかしがり屋です。裸になるよりは着衣を選びたいのですが,相手が裸であれば自分も裸になることによって涼しさを感じることができます。

おじさんBは脱ぎたがりの人です。着衣のままでいるよりは裸になりたいのですが,相手が着衣のままであれば,恥ずかしさが出るので着衣の方がましと思っています。

おじさんAにとって
 おじさんBが裸になるなら,裸>着衣
 おじさんBが着衣するなら,着衣>裸

おじさんBにとって
 おじさんAが裸になるなら,裸>着衣
 おじさんAが着衣するなら,着衣>裸

となります。つまりこの場合の均衡点(ナッシュ均衡:相手が戦略を変更しない限り,こちらも戦略を変更する必要がない状態)は,二人とも着衣か二人とも裸という結果になります。

人の意志決定による行動が繰り返され,その行動が規範化され,文化や社会的制度に成長していきます。どのような制度や文化が形成されるかは,上のゲーム理論によれば偶然に決まってしまうことになります。私たちの世界では,夏でも裸にならない文化と裸になる文化が同時に存在するという二つの均衡がありえるということになります。つまり私たちの東アジア地域では,たまたま日本では裸にならない文化が形成され,中国では裸になる文化が形成されたと考えられるわけです。

どの制度がいいとか悪いとかはわかりません。おじさんたちが夏に裸になる習慣が蔓延したのは,たまたま中国になっただけともいえそうです。もしかしたら日本に夏に裸になるおじさんが繁栄する可能性も捨てきれません(笑い)。

今,中国の「膀爺」がニュースになり注目されるのは,中国以外の多くの国が「着衣・着衣」の文化になったため,「裸・裸」の文化が少数になっているということになりそうです。

ソニーのビデオ規格βが衰退したのも,電話のPHSが衰退したのも,多数が少数を飲み込んだからとも言えるからです。世界の多くの国での習慣が,夏に裸にならないということになると,中国自身もその習慣を受け入れる可能性があります。

そのうち,数十年経つとこの「膀爺」文化もなくなってしまうのかもしれません。私にとってそれはちょっと寂しい気がします。(中国らしさがまた消えてしまうもうやだ〜(悲しい顔)

ちなみに,大阪のエスカレーターでは右側に人が立ち,東京のエスカレーターでは左側に人が立つという違いを説明するにも上の複数均衡の考えは使えます。

<参考文献>
ブログ「山寨前列腺」(http://www.bullogger.com/blogs/fakegland/archives/366011.aspx,2010/10/6アクセス)
越川愛美(2010)『あなたは中国人を理解できない?!』大東文化大学国際関係学部平成21年度卒業論文
松尾匡(2008)『「はだかの王様」の経済学』東洋経済新報社
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2010年09月11日

食の安全問題(岡本式中国経済論F)

食の安全は日本でも重要なテーマです。

雪印乳業,ミートホープ,白い恋人,赤福,汚染米の混入などなど消費者の食生活に関する安全は私たちの普段の生活に大きく関わっています。

食の安全が守られないのは企業の道徳観念の低下や儲けるという商業至上主義が原因だと言われたりします。つまり資本主義の原則である利益追求が私たちの食生活を脅かしていることになります。

利益のみ追求する企業を監視せよ,この声に基づいてできたのが消費者庁という新しい役所です。消費者生活に関わる商取引において,消費者を守ろうとする趣旨で設立されています。(8月末でちょうど1年を迎えました。)関わる法律は,食品表示に関するものでは,原産地などのJAS法,添加物などの食品衛生法,栄養成分などの健康増進法です。また,取引での消費者トラブルを防ぐ特定商取引法や旅行業法,製品の安全を確保する消費生活用製品安全法なども所管しています。

経済学的に見れば,「今食が危ない」というテーマに関して言うと,企業は儲けることを目的にしているので自由な取引をさせていたら,消費者の安全が危ない,という市場の失敗を示しているようです。そのために政府が出動してその失敗を補おうとしているのが,日本の食品偽装問題の解決方法だと言えます。(政府の役割)

ただ単純に政府が管理や監視をすることでいいのでしょうか。

中国でも同じ問題が出ていますので,それを参考に考えてみましょう。

MSN産経ニュースから

粉ミルク汚染で工場長拘束 中国
2010.7.9 23:33
このニュースのトピックス:食の安全
 9日の新華社によると、中国甘粛省で有害物質メラミンが混入した粉ミルクが見つかった事件で、青海省の警察当局は粉ミルクを製造した同省の「東垣乳品工場」の工場長ら責任者3人を拘束した。
 問題となった粉ミルクの原料を同工場に供給した中国人の男も拘束された。青海省は特別調査班を置いて事実関係を調査している。

汚染ミルク10万トンが再流通の可能性 中国紙報道
2010.2.5 13:50
このニュースのトピックス:中国製品
 5日付の中国紙、環球時報(英語版)は、中国で有害物質メラミンが混入した乳製品が再び販売されているのが見つかった問題について「少なくとも10万トンが廃棄されずに再販された可能性がある」との業界関係者の話を伝えた。
 中国では2008年、メラミンで汚染された粉ミルクを飲んだ多数の乳幼児が腎臓結石などにかかり、死者も出て社会問題化。汚染粉ミルクは回収された。

中国で食品安全法施行 官民癒着に無認可企業…実効性に疑問
2009.5.31 18:55
このニュースのトピックス:中国製ギョーザ中毒事件
 【北京=矢板明夫】中国国内における食品生産の監督システム強化などを盛り込んだ「食品安全法」が1日から施行される。全国人民代表大会(全人代=国会)で5年間審議し、ようやく可決した法律だ。ギョーザ中毒事件や汚染粉ミルク事件などを受け、国内外で高まる中国製食品への不信感を払拭したいとの狙いがあるが、「中国の問題は法律の不備が原因ではなく、現場で法律が執行されないことだ」と新法の実効性を疑問視する声が早くも出ている。
 法律では、これまで複数の官庁が持っていた食品生産への監督権限を新設された国家食品安全委員会に集約させて効率化を図る。添加物の使用規制を厳しくし、違反者に対する罰則も重くする。また、虚偽の広告への取り締まりを強化、芸能人やスポーツ選手など有名人が出演した広告の食品に問題が発生した場合、その連帯責任を負わなければならないと明記した。これについては一部の芸能関係者から「やりすぎだ」との批判があがっており、食品安全問題に詳しい中国人弁護士も「世界基準から見ても厳しい」と話している。
 しかし、中国には1995年に成立した「食品衛生法」がすでにあり、これまでに衛生省などが制定した食の安全に関する規定は100以上、衛生基準は500以上にものぼる。この分野で法律の空白があったわけではなく、きちんと執行されていなかったことが一連の不祥事が発生した原因だと指摘される。
 例えば、昨年9月に発覚した汚染粉ミルク事件。有害物質メラミンの大量混入が半ば公然と行われていたにも関わらず、問題企業は毎年のように生産過程を監督する政府機関から表彰を受けていた。「官業の癒着構造により、法律が機能していないことが、悲劇をもたらした原因だ」と、中国メディアも事件後に強く批判した。
 法律はまた、「問題が発生した場合、速やかな情報公開」を企業に求めているが、報道の自由のない中国でどこまで徹底されるのか疑問だ。さらに、中国には少なくとも数十万の無認可の小規模な食品企業があるとされ、地方の監督当局がすべてをカバーすることなどとても不可能との指摘もされている。


1.レモンの原理(逆淘汰)

ノーベル経済学賞受賞者,アカロフは,中古車市場ではレモン(欠陥品)が出回ることを見事に説明しました。

中古車販売のディーラーは売る中古車がどのような状態か,わかっています。事故車であるとか,走行距離をごまかしているとかしていても売り手は自分が優位に立とうとするためにそのような情報を隠します。一方買い手も負けていません。中古車を買おうと思っている人は,売り手がレモンのような欠陥車を売りつける可能性について考えています。実際売り手にあれこれ質問することによってレモンであるかどうかを見極めようとします。買い手は中古車の価格を低く見積もっているので,売り手が呈示した価格についてもまけてもらおうとします。つまり買い手は,中古車がレモンであった場合のことを考えて,売っている中古車を低めに評価しているわけです。

売り手は,中にはいい中古車もあるのですが,買い手が低く評価し値引きを要求していることがわかっています。売り手が思っている以上に買い手が値引きを要求した場合,売り手にとっていい中古車を販売することは利益が出ない可能性があります。そこで売り手は買い手の行動を考えるといい中古車は扱わないということが起きます。

これは買い手,売り手にとってどちらも得ではありません。どちらも騙しているだろう的な疑心暗鬼に陥っている場合には,市場にはいい物が出回らないということになります。良い中古車の取引は双方にとって有益であるにも関わらず,中古車市場ではいい中古車が出回らない,また取引自体が成立しないことになります。

これは「悪貨が良貨を駆逐する」のと同じ状態で,市場には悪い製品しか出回りません。これを経済学では逆淘汰といいます。つまり売り手は買い手よりも売るモノの情報を持っています。したがって売り手はモノの質は最低なものを売って儲けようとします。いい製品が市場から逆に淘汰されてしまうということです。(淘汰は悪いモノがなくなることを意味します。)

食品の安全問題はまさにこの逆淘汰の問題になっています。食品を作る側がその食品の善し悪しを把握しており,消費者はそれが安全かどうかを知るよしがありません。餃子の農薬混入事件があったように,中国の食品に対する疑念があがっています。また中国産と偽って日本で商品を販売する業者もおり,中国ということでイメージが急落しています。


2.解決策

それではこのような逆淘汰の問題,身近に言えば食品安全の問題は解決できないのでしょうか?これは一方に情報があって,もう一方に情報がないというのが問題です。これを情報の非対称性といいます。これを解決するために以下の方法が考えられます。

スクリーニング

買い手が商品に対して情報がないとき,買い手は商品に対して信頼を置くことはできません。

町中で露天商があなたに声をかけ,iPadを3万円で売りますと話かけてきたとします。あなたは信用できません。つまり売り手がどんなiPadをもって売りに来ているのかわからないので,そのiPadはニセモノではないかと疑います。売る側も疑われるを承知の上です。ですのでやっぱりニセモノを売っていたりします。

でも売り手が例えば有名なショッピングセンター・イオンでお店を構えている業者だったらどうでしょう。そうです,イオンに入ることができる業者だから,他のお店と同様信頼できるのではないかと考えます。今までイオンの買い物で満足している買い手であれば,イオンに入っている業者はいい物を売っているはずだと類推することができます。これをスクリーニングといいます。いい業者と悪い業者の違いを,どこに入っている業者かで判断し,選んでいくということです。

中国国内でも消費者はどのスーパー,どの百貨店が扱っているか,常にチェックしています。買い手が観察できる情報(どこで売っているか)を利用して私的情報(売り手の信頼度)を推測することで,ニセモノや品質の悪いものの流通が防げるというわけです。

中国では食品は市場(いちば)という露天商が集まった場所で売買がなされていました。今では食品の安全が心配なため多くの消費者がスーパーで買うようになってきています。それも普通のスーパーよりは高級なスーパーに信頼を置いています。スーパーのグレードで,扱っている商品の善し悪しを類推しているといえるでしょう。これはまったく日本と同じ状況ではないでしょうか。

シグナリング

買い手に情報がないことを利用するのではなく,情報を買い手に提供することによって安心してもらうという方法もあります。これがシグナリングです。売り手側から買い手が欲しいであろう情報を売り手が提供するわけです。

食品であればまず産地が重要です。どこでとれたか産地を買い手に教えます。加工食品であればどのような添加物が入っているか,どのような原材料を使用しているか,表示することによって買い手が知りたい情報を提供することができます。こうすると買い手は売り手の情報を得ることができるので,質の悪いモノを手にする確率は減少します。

中国もまったく同じように産地,成分など表示するようになっています。電気製品であれば保証書がつきます。このように品質を保証するというシグナルを出すことによって質の悪い品物を淘汰することができます。


評判を確立する

あとは評判です。売り手にとって評判は非常に大きな役割を持ちます。短期的に一発でもうけようとするならまだしも長期的に企業を成長させようとするならば,人の評判は非常に大事になってきます。

食品会社であれば一度問題を起こすと信頼はがた落ちになります。消費者と長期的に取引したいと思っている会社であれば普通は悪い製品を市場に流通させることはしないでしょう。

この意味では広告が重要な役割を果たします。自ら広告費を払って宣伝する会社は間違いなく長期的に経営をしたいと考えている会社です。このような会社は評判を重んじるので質の悪いモノを扱う確率は減少します。

3.今後の課題

以上のように,食品の安全問題は,売り手と買い手に情報の差があること,その情報の差を埋めることができれば解決できそうです。そこで中国でもニュースにあったように政府が法律を作り,成分表示を義務づけたりします。また情報を公開するよう政府が企業に迫ったりします。

売り手に情報提供を義務づける,買い手は売り手に関する必要な情報が簡単に手に入る,このようなシステムを政府がつくるようにしています。また買い手側も政府にそれを求めます。

ただ必ずしも政府に頼ればいいかというとそうでもないようです。政府と企業の癒着が起きれば,法律やシステムは有形無実になりますし,この食品をつくっていいのはこの企業だけ,と許認可権を政府がもったりすると,食品が安全かどうかということよりも政府に忠実かどうか(あるいは政府に賄賂を渡す)といった安全とは関係ないところで企業が選定されたりします。

また独占的になれば消費者から利潤が吸い上げれれてしまいます。この企業だけしかこの食品を売れないというようにするとその企業の独占になってしまいます。独占では普段より高い価格で販売することになるので,買えない消費者が出たりします。

つまり政府ばかりにも頼っても政府に裏切られることは多々あります。(日本でも汚染米は農水省の怠慢と言われました。)

もっとも重要なのは,企業は評判を落とせばその市場から退出(倒産)し,いい商品をつくる企業はいつでもその市場に参入できるようにするのがいいでしょう。企業の自由な参入退出を促すだけで,逆淘汰の問題はずいぶんと解決します。

政府が食品安全について企業を管理する力を強めれば,安全でない商品を作った企業でも退出しづらいし,政府の規制によってあらたに参入するという企業もで出ないことになりかねません。

この意味で最終的な解決のヒントは政府でもなく市場機能を発揮させるということのような気がします。とくにハーシュマンが指摘したボイス(声)が重要かもしれません。消費者が企業や政府を監視する,そしてちょっとでも質の悪い製品が出回っていたら消費者が「声をあげる」ということが重要になってくるでしょう。自由な言論が封じられているとはいえ,食に関する意見は自由であるので,中国でも消費者パワーが強くなってくれば,企業や政府の監視が可能になってくるように思います。

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2010年08月14日

腐敗が起こるシステム(岡本式中国経済論E)

腐敗の経済学(8/15日に修正しました。コメントをくださった方々に感謝します。)

腐敗とは何でしょうか。

広辞苑には「有機物,特にタンパク質が最近によって分解され,有害な物質と悪臭ある気体を生じる変化。くさること」とあります。もう一つの意味は私たちが社会現象によく使う腐敗です。それは「精神が堕落して,弊害が生じる状態になること。」です。

政治や経済でいう腐敗とは,政府が公共のためではなく自分のために私腹を肥やすことにあります。政府は誰にも肩入れせず国民の生活向上に貢献すべきと考えられていますが,もし公のためではなく私自身のために行動するようになったときに腐敗が発生します。人のためといいながら自分の懐をあたためようとするからです。このように「私的利益のためになされる公務員・公的機関による権力の誤用」(中兼2003)が一般的な腐敗の定義になっています。


中国は共産党が三権(立法,行政,司法)を指導することになっています。共産党のトップが国家主席となり,序列が下がるにしたがって三権の長を兼ねていきます。もう少し党内での立場が下になると,政府の各部(省庁)の部長(大臣)となっていきます。当然,政府で働く官僚と言われる人たちは,党員です。党員=官僚ではありませんが,官僚=党員です。行政権(政府)が他の2権よりも優先されているので(立法を通さない政府通達が多い),政府で働く大臣をはじめ国家官僚はすべて党員であり,彼らが私的利益を着服することが腐敗や汚職になります。

ですので,中国の場合官僚や政治家の腐敗は党の腐敗であると言って過言ではありません。

腐敗にかかわるニュースを見てみましょう。

MSNニュース

官僚の資産報告導入へ 中国・広東、腐敗防止で
2010.3.26 20:37
このニュースのトピックス:中国
 中国広東省の共産党と政府機関の幹部に個人資産を申告させる制度が今年中に始まることになったと、新華社が26日、報じた。不正蓄財や汚職などで批判が絶えない官僚の規律向上が目的。
 黄華華省長がこのほど語ったところでは、持ち家や婚姻状況、海外在住の子供の有無なども報告させる。中国には汚職発覚前に海外に送金し、逃亡を図る悪質な官僚もおり、新制度では海外に子供がいる幹部は特に厳しく調べるという。


全人代閉幕 国内矛盾、封印のまま 地方と格差、腐敗、人権… (2/2ページ)
2010.3.14 20:37

全人代が閉幕、国歌を斉唱する胡錦濤国家主席(左下)と温家宝首相(右下)ら中国の指導者=14日、北京の人民大会堂(共同)
 積極財政と金融緩和で促された不動産開発によって、大都市部の住宅価格は高騰を続け、資産バブルの危険が迫ってもいる。消費者物価指数は上昇に転じ、国民は生活への不安を抱き、官僚の腐敗への怒りを募らせている。
 全人代は、有効な腐敗対策を今年も打ち出せなかった。数年来の懸案である官僚の資産公開法は見送られ、監視機能の強化も言葉だけに終わりそうだ。司法の首脳や監視機関幹部が摘発される深刻な事態にもかかわらず、資産公開には官僚の抵抗が根強いといわれている。

さてこの腐敗を経済学から考えてみましょう。

(1)政府は何者だ?

そもそも政府というのは何なんでしょうか?歴史からみると,武力をもった人間がその地域を支配し,生活上の経済活動に影響を及ぼす存在になるのが政府です。武力支配の動機は,富の収奪です。過去の歴史が示すように不毛の土地に武力支配してもしょうがないので人が集まるところに財物ありでそこを支配しようとします。

武力支配をして,住んでいる人の富を取り上げる,これが今の途上国で現実に起きている状況です。そのような国々では警察が腐敗していたりするのは当たり前ですし,何かにつけて罰金といったようにお金を庶民から巻き上げたりします。

このような状況を説明するのに,政府盗賊理論(オルソン)というのがあります。この理論は政府がある地域を支配すると短期的には富の大部分を吸い取ります。富を奪えるだけ奪ってペンペン草も残らないくらいになります。彼らは富を奪ったあと次の場所に移ればいいだけで,そこの場所の庶民が食べるものがなくなろうがどうかは関係ないからです。

政府がその土地を気に入って長期的に支配したくなるとどうなるでしょう。富の収奪は最低限にしておかないといけません。国民が飢えるほどの農作物を取り上げたりすると,時間が立つと支配層もその場所で暮らせなくなります。そこで国民が最低限暮らせるだけの富や農産物は残しておいて,それ以外の富は支配層が取り上げるという形をとるのが一般的です。武力政権が豊かになって一般の国民が貧しい状態というのはこの政府盗賊理論で説明することができます。(北朝鮮が典型的かもしれません。)

さて武力をもって支配していた政府が,その地域の治安が安定してきて庶民の生活も安定してくると,経済発展に興味をもつことがあります。つまり国民の富を収奪するだけでなく,その富を用いて投資をするということです。中国のような一党独裁の政府が,貧しさからの脱却を目指す発展を志向したのはその例といえるでしょう。ただし他の途上国では,吸い上げた富を再投資することなく支配層の消費に消えてしまうことがあります(フィリピンやインドネシアなど)。

本筋からずれますが,なぜ中国の政府は収奪した富を再投資を選択したのに他の途上国政府は消費(あるいは浪費)しているのか,その違いは何か,これは大きな研究テーマになるかもしれません。

中国史や三国志に興味がある人はおわかりのように,中国の歴代王朝は武力で倒され,新たな王朝が成立するという繰り返しでした。中国を統一するまでは,地方の富を略奪し続け,軍隊を養いつつ,中原(中国の中心地域)を目指すということが繰り返されました。

中国共産党も国民党との合作と内戦を繰り返しながら,そして時には日本軍を相手にしながら,各地の農村を占領し(ただし農村では略奪がなかったとされていますが),最終的に国民党を台湾に押しやって,1949年に中国共産党を支配政党とする新中国が建国されました。

建国後,中国共産党は収奪を開始します。共産主義というイデオロギーの影響もあったわけですが,それにしても1953年頃から急速な社会主義化を実行します。都市部では国民党時代の官弁企業,外資系の企業,個人企業を接収して国有企業化していきました。農村では農民の土地を集団化し,農民からの農産物を収奪できる人民公社システムを構築するようになったのです。

収奪された農村からの富は重工業化に強制的に配分されました。どの企業にどれくらい配分されるか,それは国家によって決められていたので,そのときに腐敗が働いた可能性もあります。

その後中国共産党は,労働蓄積という手段で,多くの労働を動員しダムや橋,道路建設など社会資本建設を行います。これも富の収奪ならぬ労働という生産要素の収奪でした。大躍進や文化大革命により政府の経済的関与は極大化し,一般国民の生活は非常に厳しいものになりました。

このように,中国の特徴は富を政府が浪費していたというよりも重工業や社会資本建設に使われていたというのが事実です。ただし効率という面では問題があったので,全国民が党員や官僚も含めて貧しかったというが実際のところかもしれません。

新中国成立以降,イデオロギーの善し悪しは棚にあげても,中国共産党は政府盗賊理論のように結果的には収奪に近い行動をとっていたといえるでしょう。ただ党が豊かになれなかったというのが中国共産党の特徴かもしれません。それがゆえに党幹部が大きく腐敗することがなかったのかもしれません。(でも党が貧しかったゆえに党も改革開放を選ばざるを得なかったという側面もあるかもしれません。)

(2)移行経済と政府の「ダフ屋」化

1978年より中国は改革開放の時代を迎えます。計画経済から市場経済への移行が開始します。この移行経済の進展の中で多くの官僚腐敗や共産党リーダーの腐敗が指摘されるとともに,共産党政権もその対応に苦慮するようになってきました。

移行経済とは,財や労働などの経済資源を国家が強制的に配分する仕組みから,市場の価格メカニズムによって資源を配分する仕組みに変える試みです。

例えば,Tシャツを生産している国有企業があったとします。計画経済時代は国が生産,販売,人事,投資などすべてを管理していました。どこに売るとかどれだけ売るとか価格をどれくらいにするとか,すべて国によって決められていたのです。このような状況で,各種決定権を企業に譲り,政府が退出して,市場の取引にまかせようというのが移行経済でした。

計画経済期には往々にして供給不足が起こります。社会に出回る財やサービスが常に稀少的な存在になっています。ですから移行経済で市場経済化すると,価格が上昇しやすい状況になっています。

また財がどれだけ販売できるかといった情報は政府が持っています。実際には十分供給可能だとしても,情報の非対称性を利用して,財の価格をつり上げることが可能になります。

具体的にみてみましょう。私が学生時代に中国旅行をするための鉄道切符は非常に入手しにくいものでした。もともと供給が不足していたこともあったのですが,外国人用窓口には売っていたりしたものです。そのような外国人用にとっておいた切符を扱う人(公務員=党員)がダフ屋に横流しする,あるいは自ら「君のためになんとかしてみよう。その際の手数料を先に払ってくれないか」などと持ちかけるのです。

この例は中国のみならず,発展途上国ではよく発生します。鉄道切符が市場化されたら,供給不足のために上昇するか,客の情報不足を利用して価格をつり上げるかということが行われます。とくに後者は後楽園球場のダフ屋による巨人戦チケットの販売に通じるものがあります。それがダフ屋ではなく,官僚(党員)がダフ屋化するところに,移行経済期の特徴があるといえるでしょう。


(3)レントシーキングと最近の腐敗の構造

腐敗は,一般に制度的な独占状態が形成されていて,人為的に希少性が生まれ,独占利潤が発生しているときに政府がその利潤(レント)を求める(シーキング)ことによって起こります。独占の問題は,供給者が一社であるため競争が起こらず価格が高止まりします。独占利潤が発生しているとその利潤を政府が(公の権力が)自分の懐に入れてしまおうとするわけです。

中国の場合,ちょっと前までは国有資産の売買,最近では土地の売買で不正のニュースをよく聞きます。国有企業改革は,不採算の企業を民営化,破産などの方法で売却し,政府が国有の資源から手を引くことを意味します。他の経済主体が国有資産を所有しているわけではないので,政府の独占状態で国有資産が販売されるといえます。このとき国有資産の価格付けにおいて,販売担当者の裁量がはたらきます。国有資産の適正な価格というのも市場が整っていない間は(今は産権市場が整備されてきましたが)価格が正常に機能しません。そこで安い価格で親戚に販売して利潤を得るという方法があります。あるいは資産によってはマージンを取って高い価格で販売するという方法もあります。いずれにせよ国有資産が流出する現象です。

農村の土地収用と住宅地開発も似た状況が発生しています。農村の土地を購入して,開発業者に販売するというのは政府の買い手独占,売り手独占です。競争相手がいないので政府のレントシーキングが非常によく働く状態になっています。農民からは農地の使用権を安く買い上げて,他に転売することによって政府は利益を得ることができます。あるいは転売時に業者からリベートをもらって転売するともっと利潤が最大化するかもしれません。

このように腐敗というのは,盗賊のように政府がやってきて富の配分に強く関わってくると発生しやすくなります。市場経済化が進み始めても経済資源(土地や国有企業など)は国家が独占できていたので独占利潤があり,競争相手もいないので利潤(いわゆるもうけ)が発生しているのを利用して,「ダフ屋化」して,懐を潤すという行為につながってきたわけです。

現在の中国共産党の腐敗は,まさにこの国家がビジネスするという独占形態あるいは制度が腐敗の温床になっているといえるでしょう。

腐敗は市場メカニズムがきちんと機能していないときに多く発生します。中国も計画経済から市場経済を導入している段階ですので,つねに市場メカニズムが機能する環境が整っているというわけでもありません。他の途上国においても事情は似ています。市場という制度を今後整備していく必要があるわけです。

それではこの腐敗をなくすにはどうしたらいいのでしょうか?これも市場メカニズムを機能させるということにつきます。国家独占をやめる,情報が市場にいきわたるようにする,などの整備が必要ですが,それがなかなか難しいのが現状です。そこで手っ取り早いのが民主主義という民衆監視システムだということがいえるわけです。

今の私たちの世界で言えば,民主主義がもっとも適当な監視システムだとされています。政権をとった与党が国民の支持を得ることができなくなると野党にならざるを得ません。つまり次回の選挙で勝つためには腐敗していないことが大事になってくるので,腐敗をしにくくなるということにつながります。

皮肉ですが,政府は盗賊だと割り切るのも一つかもしれません(笑)政府が公のために動いていると仮定するので,腐敗となりますが,企業や家計と同じ利潤や効用最大化をしながら動いているとみるとまた違った見方もできるかもしれません(笑)。

<参考文献リスト>
中兼和津次(2003)「開発と移行過程における腐敗の経済学」『アジア経済』第44巻第5,6号
posted by okmtnbhr at 08:00| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 岡本式中国経済論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月31日

中国の一党独裁体制は悪か?(岡本式中国経済論D)

中国の共産党一党独裁について経済学から考えてみたいと思います。

経済学では資源配分は市場メカニズムにまかせろ的なところがありますが,情報,外部性,独占などの時に政府が口を挟み,資源配分に参加することがあります。中国では共産党が政府を指導しており,政権交代という政治システムのない中国では中国共産党=政府と考えていいでしょう。

まず重要な点を一つ。

経済学では政府のイデオロギーを問わないということです。共産主義を標榜しようが,自由主義を標榜しようがどうでもよく,むしろ政府が経済の中の資源配分にどのようにからむかということが重要です。その意味では共産主義で計画経済を実行しようとする政府も,国家資本主義で国家が多くの産業を管理する政府も資源配分への関与の仕方は非常に似ています。主義が違えでも政府の役割という面では似ているわけです。

さて,一党独裁について報道をみてみましょう。

建国60年へ どうなる中国の2009年 (2/3ページ)
2009.1.4 13:00

 中国筋によると、政府内には「金融危機は国民生活に深刻な影響をあたえており、この時期の大規模なイベントを控えるべきだ」との反対意見もあったが、主流になっていないという。胡政権はこの時期に、盛大な軍事パレードの実施を決断する背景には、国民の愛国心を高揚させ、共産党政権の求心力を向上させたい狙いがあるとみられる。
 2008年は表面的には中国の国威発揚の1年であったようにみえるが、しかし同時に、南中国の雪害(1月)、チベット騒乱(3月)、四川大地震(5月)、汚染粉ミルク事件(9月)など天災と人災が連続して起き、危機管理をはじめとする中国の政治、経済、社会システムのもろさが露呈した1年でもあった。
 とくに秋以後、金融危機の直撃を受けた上海市、広東省周辺では、工場倒産が相次ぎ、失業者による暴動、デモが多発し、中国が30年来続けてきた外需中心の経済成長モデルが行き詰まり、社会の不安が一気現れた。さらに12月、「共産党の一党独裁体制の廃止」を求める知識人らによる「08憲章」が発表され、民主化を求める動きも顕著となった。
 くしくも2009年は世界を震撼(しんかん)させた天安門事件の20周年にあたる。1989年6月、民主化を求めて解放軍によって弾圧されたのはほとんど大学生だった。現在の中国は当時に比べて、貧富格差が拡大し官僚汚職の数も規模も進み、共産党政権に対する国民の不満はずっと高くなっている。その中で、大学生を中心とした若者たちが20年前と同じように立ちあがれば、国民の支持を受け、民主化運動は一気に全国に広がる可能性もあり、政権の存亡の危機ににつながりかねない。中国政府にとって何よりも悪夢であるといえる。

【日々是世界 国際情勢分析】劉氏への判決 中国、言論自由化への道遠し (1/2ページ)
2010.2.23 07:46
 中国共産党の一党独裁体制の変革を求める、「08憲章」を起草した著名な反体制派作家、劉暁波氏に対して、国家政権転覆扇動罪による懲役11年の実刑が確定した。これは予想外の重刑であり、「言論規制強化が止まらない中国」と、米誌タイムは指摘している。

以上の報道を見てみると,一党独裁は悪のように報道されています。その根拠は一党独裁は民意を反映しない,言論統制がなされるなどです。

しかしながら一党独裁はある時期において経済学的には正当化されうる可能性があります。その可能性について紹介していきたいと思います。

(1)貧困からの脱出

国全体が貧しい状態の場合,とくに食べるものが満足にない,着るものも不足しがちといった状態ですと,国民全体の目標は「豊かになること」で一致しやすいです。

中国では建国以来改革開放までの約30年間,大躍進や文化大革命等の政治運動により経済活動が停滞しました。このため農業生産が伸び悩み,多くの農民を含め都市住民までもがおなかいっぱい食べられるかどうか,といった水準でした。

中国政府は,改革開放初期の経済目標を「温飽」(衣食がかろうじて満足できる状態)に設定しました。また1987年にケ小平は温飽,小康,富裕を目的にしました。つまり中国政府も国民も経済成長をもっともプライオリティの高い目標で一致していたと考えられます。


このような状況では,一党独裁は経済発展に大きく貢献できます。つまり経済政策における重点を発展に置き,国家財政をはじめとして,国の資源を発展が期待できる産業や地域(軽工業や経済特区など)に配分することが可能となります。そして経済発展による毎年の資源(付加価値)が増大していけば,増大分をさらに発展分野に再投資することが可能となります。しかも発展を期待されていない分野の人々にとって負担を強いることはありません。あくまで付加価値の増えた分だけがさらに発展効率のいい分野に投入され,その発展の恩恵を多くの人々が受け取ることができることになります。

このように経済成長は増分をみんなで受け取りながら,しかも一部は重点産業や地域に配分することによって,次期にもっと増分を受け取ることができます。しかもその政府の役割として一党独裁は効率がいいということがいえます。

そして中国は2000年に一人あたりGDP850元に達し「小康」状態(衣食で満足できる状態)に達したとされます。つまり衣食に頭を悩まされることがなく,しかも都市住民は多くの生活家電を手に入れた状態になりました。

(2)発展したあと・・

経済学の生産に関する理論では,投入する資本に対して得られる生産の増分は減少していきます。最初機械を入れることによって商品の生産は大量に作れるようになって生産効率は上昇しますが,この機械が10台,20台,100台と増加することによって得られる商品の生産量は相対的に減少してきます。これが限界生産力低減の法則と言われるものです。

中国は改革開放以来約30年ずっと二桁レベルの経済成長を続けてきました。これがずっと続くかといえばそんなことはあり得ないと思われます。いずれは限界生産力低減の法則が働きはじめ,成長率が低下していくと思われるわけです。

この時,一党独裁体制はどうなるでしょうか?

貧しい時代は多くの国民も,一党独裁による発展分野への強制的な資源配分に賛同します。それにより経済成長を実現し,少なくとも自分の所得が増大するからです。

ただし国民は衣食住に満足しはじめる,つまり社会的な中産階級層が増加していくと,一次的欲求ではない高次な欲求,自由に意見をいいたい欲求,自分を社会で実現できる欲求を叶えたくなります。例えば,成長路線ではなく社会保障を整備しろ,橋を作るのはやめろ,などという意見が出てきます。そうすると一党独裁体制は他の意見,ここでは重点的に資源を発展分野に投入するという政策以外の意見を抑圧するようになります。

これが民主化要求とその抑圧になります。

衣食住を満たした後は国民の欲求が多様化し,意見も多様化するために国としての意志決定も多様化が必要になってきます。身近なアジアでも韓国や台湾でも一党独裁体制から多党制に移行しました。日本も自民党の一党支配が90年代からゆらぎはじめました。経済成長が一段落したあとの国民の多様な欲求をどのように意志決定に反映させるかが重要な政治テーマになるのは歴史的趨勢なのかもしれません。

小康状態を達成した中国も国民の多様な意見をどのように政治的に反映していくかが重要なテーマになってきているのは事実でしょう。

しかし,経済成長したから一党独裁体制は必要ではないと言い切れません。政府として意志決定する上で,多種多様な意見を反映させて同時に多種多様な政策を実行することは非常に難しいです。一般にいう二兎を追う者は一兎をも得ずということになります。

政治経済学の分野では中位投票者の定理があります。さまざまな意見を持っている人々がいても投票を通じて意見はもっとも中位に存在する投票者の選好に沿ったものになるというものです。多様な意見ももっとも真ん中にありそうな意見が政治に反映されやすいということです。したがって民主化したからといってさまざまな意見が反映されて,政治が行われるかというとそうでもなく無難な(笑)政策が実行されるということになります。

発展のあとで問題なのは,増大する付加価値が存在しないということです。つまり政府は成長によって増えた所得をどこかに配分するということが不可能になってきます。誰かの所得を取り上げて誰かに配分する,経済成長している地域や産業から資源を取り上げて,その資源を他の地域や産業に配分するということが行われます。これが所得の再分配政策で,成長が終わったあとはこの分配が大きな政治テーマになってきます。

この再分配政策には,さまざまな意見がでます。多党制になれば,政治的に多くの意見が反映されるのは事実ですが,実際の政策実行にはさまざまな反対がでます。つまり再分配政策には既得権益層が存在するので,あちらをたてればこちらがたたずという状況に陥ります。(インドの多党制が機能しないのは,その例かもしれません。)

ところが再分配政策でも一党独裁であると実行しやすいことになります。一部の既得権益層を押さえて,強権的な資源の再配分政策が可能となります。

しかし共産党の腐敗はどうなるんだという意見もあります。腐敗はまた今度述べてみたいと思いますが,たしかに再分配政策は既得権益層の間で資源配分競争が起きますので,腐敗や汚職が行われる可能性が増大します。これは既得権益層と政府の癒着が起きやすくなるという意味ですので,一党独裁であろうと多党制であろうと共産党であろうと関係なく発生しやすくなります。

あと一党独裁のメリットは,選挙というコストがかからないこと,現在の中国では総書記が10年務められるので,アメリカと同じく長期的な政策が実行されるということでしょうか。

それでは今後この一党独裁はどうなるでしょうか。

現実的な意味では共産主義は無視されていますが,共産主義を標榜するために労働者の代表である共産党が政治を実行しないといけないので,共産党がなくなることはありえないと思います。

中産階級化した多くの国民の意見を反映させるために,共産党の中での派閥政治が中心となって派閥の主流非主流が交代し(今までもその傾向がありますし,自民党がそうでした),国民の多様な意見を反映させるというのが現実的なように思います。

これまで一党独裁を経済学的に考えてきましたが,もちろんすべて万歳というわけではありません。政府はどこに資源配分すれば経済にとってももっともよいか(最適化)がわかりませんので,資源配分が無駄になる可能性があります。これが政府の失敗と言われるものです。また資源の再分配政策においても,自分の党(共産党)に不利な再分配政策は実行されにくいという問題もあります。この意味では,常に政府がやる経済政策が有効というわけではありません。

いえることは経済学的には一党独裁はすべて悪いとはいえないということです。日本の場合は共産アレルギーがあるので中国共産党体制へ批判的報道があるのかもしれません。
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2010年07月17日

中国農民工の問題(岡本式中国経済論C)

農民工の問題

中国では,計画経済時代に社会安定のため農民の都市移動を抑制してきました。その制度が農村戸籍と都市戸籍という二種類の戸籍制度です。また農民は人民公社所属,都市部では国有企業所属という形の「単位」に所属しており,一つの国で二種類の生活が存在していました。そのため農村と都市という二層の社会構造が形成されています。

改革開放後,人民公社は解体され,余剰労働力が顕在化した農村からは,多くの農民が改革開放で経済成長を謳歌する都市部へ移動していきました。それを追認する形で戸籍制度の改革が行われてきました。

戸籍制度が緩和され,移動が可能となった今でも農民工は社会保障の枠外におかれ,教育水準の低さからいわゆる3Kという職についています。低い賃金と劣悪な職環境,これらが中国経済に与える影響は無視できません。例えば,下記にみるように,中国製ギョーザの農薬混入事件でも,逮捕された容疑者には,低賃金による憂さ晴らし的な犯罪という見方も存在します。

さて,農民工の低賃金,所得格差の問題を経済学的に考えてみましょう。そして最後に将来を展望してみたいと思います。

まずは農民工に関連する報道から。

MSNニュース(2010.3.27)
殺虫剤「メタミドホス」が混入された中国製ギョーザ中毒事件で、拘束された容疑者は27日までの当局の調べに対し、犯行動機について「給与や待遇」への不満があったと供述したとされる。中国では貧富の格差拡大や就職難の深刻化を背景に近年「憂さ晴らし型」事件が増えている。

MSNニュース(2008.1.14) 【五輪の中国】低賃金・蔑視・・・あえぐ「農民工」
趙さんのような農村部からの出稼ぎ労働者「農民工」は、全国で約1億2000万人。北京ではざっと100万人を数え、このうち3万人が、急ピッチで進む五輪施設の建設を支えている。
 農民工の月収は全国平均で約1000元ほどだ。高度成長下の中国にあって、重労働と低賃金にあえいでいる。労災、医療保険などもほとんどない。しかも、犯罪検挙者の7割が地方出身者とされ、蔑視(べっし)の眼で見られている。不満は鬱積(うっせき)するばかりである。
 こうした農民工の存在は社会不安の種で、政府も、賃金の引き上げなど待遇改善策を打ち出してはいる。だが、賃金の未払いなど問題は山積し、期日に賃金が払われるのはわずかに45%というデータすらある。

MSNニュース(2010.6.16)
【北京=川越一】中国各地で賃上げを求めるストライキが発生する中、温家宝首相は、北京市内の地下鉄工事現場を慰問し、農民工(出稼ぎ労働者)約50人と座談会を開いた。過酷な労働条件や低賃金に不満をくすぶらせる全国の農民工に向けて生活改善を約束することで、労働争議の飛び火を防ぐ狙いがうかがえる。
 中国国営新華社通信などによると、温首相は16日の端午節を2日後に控えた14日、北京市内の児童福祉施設や市場などを慰問した足で、休日返上で働く農民工との座談会に臨んだ。
 出席したのは建築業や製造業、サービス業に従事する若い世代の農民工。温首相は、農民工を中国の産業の「主力軍」「社会の財産」と持ち上げ、都市にとけ込み、社会から尊重されるべきだと主張した。
28歳の農民工が「会社が用意する住居や飲食などの生活条件は悪くないが、仕事はきつく、生活は単調だ。だから、きれいな服を着て、ゆったりと暮らす都市の人々がうらやましい」と訴えると、温首相は農民工の生活改善に賛同。企業に余暇の充実を求め、農民工には読書や技術の習得にいそしむよう助言した。
 そのうえで、「政府や社会の各界はわが子に接するように若い農民工に接するべきだ」と述べ、次世代の主要な労働力となる若年層に、特別な配慮を示した。
 中国の人口統計学者の推定では、2050年には中国国民の4人に1人が65歳以上となる見通しで、労働人口の老齢化や労働力不足が懸念されている。
 賃上げを求める労働争議の拡大は、安価な労働力に頼ってきた「世界の工場」の屋台骨を揺るがしかねない。若年労働者の不満に理解の姿勢を示すことで、事態の沈静化を図った形だ。

(1)なぜ賃金に差が存在するのか。

職種によって賃金に差が生ずるのはなぜでしょう。当たり前のようで当たり前でなかったりするものですが,ここでは経済学が説明する二つの概念を紹介します。一つは補償原理と呼ばれるもの,そしてもう一つは人的資本という考えです。

補償格差

仕事なのに賃金が違うのに納得する説明は,仕事の内容が違うということです。例えば,炭坑労働者の賃金が普通の仕事よりも高いのは危険度という要素が加味しているからと考えられます。夜勤の人の給料は昼間勤務している人よりも高かったりします。つまり労働の「辛さ」や「負担」が考慮されて賃金に差が出ているという状況です。(日本では現場によって高収入と言われている大学教員よりも高い!)

楽な仕事で求人広告を出すと人は集まりやすいですが,危険で辛い3Kのような仕事は人が集まりにくかったりします。そこで雇い主は高い賃金を提示することが多いという結果になります。

人的資本

労働を資本としてみたてる考えで,人間が教育や訓練を受けることによって,仕事する能力を身につけて生産効率が上昇した資本と見る考え方です。大学教育を受けることによって,さまざまな仕事がこなせるであろうということから,大卒の方が高卒よりも一般に賃金は高くなります。また,仕事をするようになり会社での勤続年数が高くなるにつれて,仕事を覚えてこなせる能力が高くなってきます。つまり熟練度が上昇するということになります。

熟練度が高い人は,それだけ生産に貢献する度合いは高いと考えられるので,高い賃金が支払われるということになります。

(2)中国独自の問題

さて,中国での農民工の低賃金はどのように説明できるでしょうか。都市部で出稼ぎで働く農民工は,教育水準が低いと考えられます。また雇用機会も都市部にくらべてバラエティ(種類)が少ないので,経験も低いと言えるでしょう。したがって,農民工は都市住民に比べて人的資本の程度が低く,そのため低賃金に甘んじるということになります。

一方,職種を見てみると,農民工は建築現場や労働時間の長い飲食店などのサービス業での従事者が多いです。いわゆる普通のオフィス労働よりはきつい環境です。となると賃金が高くなってもいいのですが,実はここが中国の大きな特徴なのですが,労働供給が多いので賃金が上昇しないということになっています。つまり農民工は大量に農村に存在しているので,雇う側からすれば低い賃金を提示して,それでもいいという人間だけを雇うことができます。農民工も貧しさからの脱出のために,仕事がないよりは低賃金でもある方がいいということになりますので,低い賃金で働くということになります。

ところがこのような大量の労働供給にもかげりが見えてきました。沿海部の輸出産業を支えてきた低賃金の農民工労働者の供給量に限界が見え始めています。一つは2000年から動き始めてきた各種の内陸開発政策です。西部大開発や東北振興などにより内陸部のインフラ建設により農民工の労働需要が増加しています。もう一つは急速な高齢化です。農村でも高齢化が進みつつあり,輸出産業ではたらく若い労働者が今後減少するだろうという見通しが,沿海部の輸出産業工場の賃金上昇圧力になっています。

また都市部に出稼ぎにきた農民工たちが,都市住民の暮らしぶりをみて,自分との格差に唖然とし,その格差を埋めたいという欲求も出て来ています。それが近年の工場ストの背景といわれています。

そもそも中国での農民工の問題は,差別にあります。同じ学歴,職歴をもっていたとしても都市住民と同じ仕事につけないという問題があります。これは都市住民の農民工に対する偏見であったりするわけですが,農民工は中国でも二等国民扱いされているのが現状です。

さて,差別はなくなるのでしょうか?アメリカでも黒人や女性の賃金の低さが指摘され,差別の存在が言われてきたわけですが,実は突き詰めて言えば,教育の差(黒人の方が学歴が低い),熟練度の差(女性は出産で一時的にリタイアする)で説明されるとする研究成果が多いようです。

一方で都市部の企業雇用主の気持ちの中で,農民工には安い賃金でいいだろうといった偏見や嗜好によって差別的賃金を提示しているとしたら,どうなるでしょうか?そのような偏見はなくなるのでしょうか?

経済学の教科書には,市場経済化が進むことを前提にして,そのような差別的な雇用主は市場から退出せざるを得ないと言われています。つまり,雇用する都市住民が農民工よりも劣っており,そのような都市住民に高い賃金を支払っている企業が市場で競争すると,優秀で低賃金で働いている農民工のいる企業に負ける可能性が高まります。差別的偏見をもつ雇用主は市場競争を通じて淘汰されることになり,偏見をもつ雇用主は減っていくと考えられるわけです。市場メカニズムには差別をなくす働きをもっているといえるわけです。

もちろんこれは都市住民が就職する職種と農民工の職種に違いがなくどちらも流動的になってはじめて可能になることです。すなわち労働市場の分断がなくなることが前提となります。ところが現実には都市住民と農民工の労働市場が分断されていることに問題があります。

それでも中国で現在進められている社会主義市場経済の改革が進み,労働市場のより一層の市場化がすすめば農民工の差別や低賃金は解決する可能性があるといえそうです。したがって健全な労働市場の育成に政府が取り組むことが求められるといえるでしょう。
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2010年07月03日

中国の地域間格差(岡本式中国経済論B)

今回は,地域格差です。経済成長の速い国では,成長を牽引する地域と成長から取り残される地域に分かれてきます。経済が成熟してくると,所得の再分配がすすむので,地域間の格差は減少するのが一般的です。

格差には都市と農村の格差などもありますが,ここでは地域の間に発生する地域間格差に注目したいと思います。

MSN 熱烈大陸訪中記2007(下)桜井紀雄
2007/11/21
上海の1人当たりのGDPは昨年、5万7000元(約85万円)。湖北省の4倍を超す。上海などの都市と内陸の貧しい農村の実質的な稼ぎとなると、格差が50倍を超すとの推計もある。内陸からの出稼ぎの希望と失望を吸い込んで、上海は膨らみ続けている。

MSNニュース
内陸部に「経済特区」設置か、中国政府、民族問題など安定化狙い
2010.2.17 19:23
 中国政府は春節(旧正月)連休開けの20日以降、国家プロジェクト「西部大開発」に関する会議を開き、新疆ウイグル自治区など民族問題で揺れる地区を含む内陸部12省・自治区の経済発展に向けた「西部大開発新10年計画」をまとめる。中国経済誌「財経」最新号が関係者の話として伝えた。
 昨年の新疆ウイグル自治区での暴動発生を受け、中国政府は少数民族地区での経済格差解消が社会安定につながると判断しており、同自治区などに経済特区と同じような優遇政策を導入することを検討している。寧夏回族自治区では「内陸開放型経済区」の設置が見込まれている。
 沿岸部との格差解消をめざして進められてきた西部大開発の中期計画は2010年に終了する。新計画では上海など沿海部から内陸部への産業移転などの政策も検討されている。(上海 河崎真澄)


(1)遅れている地域も追いつく!?

地域格差はさまざまな要因で発生すると言われます。歴史的な初期条件,気候や地形などの環境条件,政策や制度の影響,さまざまです。

経済学では,生産は労働と資本によって生み出されると教えています。どの地域であってもモノの生産には人と機械が必要なので,究極的にはこの二つの要素によって生産力が決定するとされています。

生産をY,労働をL,資本をKとすると,以下の一般的な関数関係が経済の生産を示します。

Y=f(L,K)

これが示すのは,働く人,Lの量が違うと生産力が違ってきます。実際日本よりもアメリカの経済力が強いのは,日本よりもアメリカの人口が2倍あるからともいえます。

また資本の量も経済の生産力の違いに影響を与えます。がたがたの古いミシンを使うより先進的なミシンを使う方が,Tシャツの生産には有利です。

この生産と労働,資本の関係を生産関数といいますが,一般に「限界的に労働が増えると生産量の増加分は減少していく」という法則があります(限界生産力逓減の法則)。

たとえば,餃子を作る工場があったとします。最初は従業員一人だったのですが,今日からもう一人雇って二人になりました。そうすると生産力は2倍近くなるはずです。この工場が大きくなって,1000人の人が働く工場になりました。1000人から一人従業員が増えて1001人になったとしても生産力に大きな変化が出るとはいえません。これが限界生産力逓減の法則と言われるものです。

地域の経済成長にこの限界生産力逓減の法則がどのように働くのでしょうか?

ここから経済成長の初期の段階では成長率が高く,経済が成長するにしたがって成長率が低くなるということが言えます。途上国の経済成長率は高いですが,先進国の経済成長率は低いです。これは労働や資本がたんまり増えた先進国の限界生産力が小さいからということがいえるからです。

となると,経済発展が遅れている地域の経済成長は速くなりがちで,発展している地域は成長率が低いので,最終的に遅れている地域の経済力がすすんでいる地域の経済力に追いつくのではないかと考えられます。これがキャッチアップ仮説といわれるものです。結果,地域間の格差は縮小していくのではないかと考えられます。

アメリカの各州,日本の各都道府県,EUの各国では,格差は縮小してきました。したがって中国の地域格差も縮小するのではないかと期待されるわけです。

とはいえ,中国の地域格差は大きく,それが本当に縮小するのか,遅れている貴州がすすんでいる上海に追いつくのか,注目されています。中国の地域格差を研究する報告をみると,上記のような純粋なキャッチアップは発生しないことがわかっています。

なぜなんでしょうか?

中国の各地域の経済は,労働と資本以外に政府の制度や政策,広大な国土による環境の違いなども大きな影響を与えているようです。つまり生産関数は

Y=f(L,K, その他条件)

によって決まっているといえるようです。つまり労働と資本以外の周りの条件が中国の地域格差を生み出しているといえそうです。

実際に,その他の条件を一定にして,労働と資本だけで生産が決まると考えて,キャッチアップがすすでいるかどうかを考える研究もあります。その成果では,中国でもキャッチアップがすすんでいるということが導き出されています。つまり,中国の地域格差が残るのは,政策,制度,環境などの別要因が強く働いていると言えるわけです。

(2)その他の条件って?

さきほどの生産関数を以下のように両辺を割り算します。

Y/L=f(K/L)

となりますので,一人あたりの生産量は一人あたりの資本量で決まるということになります。つまり経済水準を表す一人あたりのGDPは,労働者一人あたりどれくらいの資本を装備しているかによります。

イメージでいうと,教育を受けていない農民の子供が鉛筆を買うことができたとします。都市部の子供がすばらしい環境でパソコンが使えます。つまり都市部の一人あたりの資本(パソコン)が装備されているので,都市部の経済は発展していると言えるわけです。

そもそも資本はどのように集めればいいのでしょうか?普通の経済発展過程(今までの先進国)では農業で自分の食べる分以外が貯金に回され,銀行を通じて,工業に投資されて,工業化が進んできました。

中国の場合,文化大革命で国内が疲弊していたので,国内に工業に投資できるような資本(お金)が残っていません。そこで考え出されたのが,経済特区や沿海地域を開放して,外国資本に投資してもらうという方法です。外国から資本をいただいて工場を建てます。その後できた製品は中国以外で買ってもらうわけですから,中国にお金が貯まります(外貨準備高)。そのお金がまた工業に回されて,外国企業の集まっている地域は経済成長していきます。

つまり中国の地域格差がキャッチアップしにくいのは,地域の“場所”によって外国資本が集まりやすい集まりにくいというのが自然発生的に影響したと考えられます。沿海部が経済発展して,内陸部が取り残される,この構図はまさに外国資本という活躍の場所に影響したと言えそうです。実際,外国資本の量と経済成長には正の相関があることが報告されています。

地域格差はずっと拡大していくかというとそうではありません。外国資本が沿海に集中したとしても,賃金が上昇したり,ホンダの事件にもあったように労働争議が続いたりすると,外国資本はいやがって内陸に移ったりします。(外部不経済の影響ともいいます。)

あるいは中国政府が重視している和諧社会の建設にとって,地域格差は解消すべき重要な政策課題です。そこで各地方から集めた国家財政を,内陸部に重点的に配分して,一人あたりの資本量を増やそうとします。これが2000年からの西部大開発,2002年からの東北振興,2006年からの中部崛起の政策につながっています。つまり政府による地域間の所得再配分政策です。

これにより2001年より統計上,地域間格差は縮小してきています。したがって中国の地域格差は縮小していくことが期待されているといっていいでしょう。
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2010年06月12日

中国の環境問題<岡本式中国経済論A>

一時期,中国の農村では汚染された水で農業を行い,その農産物を食べている農民のがんの発生率が高いというニュースが報道され,中国の「がんの村」がとして有名になりました。

北京オリンピック前には北京の大気汚染がマラソンランナーに影響を与えると報道されたこともあります。

日本も経済発展時には水俣病など公害病が大きな課題になりました。急速な経済発展と環境問題はどの国も避けて通れないものなのかもしれません。

今回は,中国の環境問題について考えてみたいと思います。

最近の報道から

水問題
2010/3/24MSN産経ニュース
 北は松花江から南は珠江まで、中国には7つの大河が流れている。流域住民が「母なる河」と呼ぶそれらの河川はすべて、生活排水や工業廃水などによる汚染に見舞われている。
 特に降雨量が少なく、汚染物質が滞留しやすい北部の遼河、海河の状況は劣悪で、中国国家環境保護総局の統計によると、遼河の32・5%は、生活用水として不的確なだけでなく、工業用水や農業用水にも使えないほど汚濁している。海河に至っては、流域の約半分が何にも使用できない「劣V類」に分類される。

大気汚染
2009.12.9 MSN産経ニュース
 【ロンドン=木村正人】気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)の議長国デンマークが京都議定書に続く地球温暖化対策の柱として作成した「コペンハーゲン合意」の草案が9日、明らかになった。同国が米英など一部の先進国と非公式に協議してとりまとめた。京都議定書とは異なり、途上国にも温室効果ガスの排出抑制を求める内容になっており、中国やインドは独自に新興国案を作成するなど反発している。

2009.11.26 19:59
 【北京=矢板明夫】26日付の中国国営新華社電によると、北京で開かれた国務院(政府)常務会議で、中国は2020年まで二酸化炭素(CO2)排出量を、GDP(国内総生産)比で05年水準より40〜45%削減する行動目標を決定した。温室効果ガス排出量が世界一の中国が、CO 2排出削減の具体的な数値目標を打ち出したのは初めて。温家宝首相が出席する12月の国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15、コペンハーゲン)の成功に弾みをつけ、中国の発言力を高める狙いがあるとみられる。

これらのニュースを経済学の観点から読み解いてみましょう。

(1)経済と環境の相性

私たちの経済生活を支えている市場メカニズムは環境問題の解決方法を含んでいないメカニズムです。

市場メカニズムは,稀少な資源を大事に使うという意味では非常にいいメカニズムですが,環境資源を大事に使うのが難しいものになっています。

例えば石油を考えてみると,石油価格が上昇します。となると石油の消費を押さえようとします。石油価格の上昇は,石油が今の世の中稀少なものになりつつありますよ!というシグナルになります。そこで消費者側は高いので買えるのを控えようということになります。あまりに高い価格になると別の企業が石油以外のエネルギーで儲けることができるのではと考えます。そこで新しい代替エネルギーが開発されることになります。(例えばトウモロコシから作られるエタノール原料とか)つまり価格が高いものは,稀少ですよ,大事に使いましょうというシグナルを発しており,実際高いので私たちも節約して使おう(買おう)ということになります。反対に価格が低いときは,豊富ですよ,この製品はお値打ちでお買い得ですよ,というシグナルを発しており,結果私たちも安いので遠慮なく使おう(買おう)ということなります。

このように市場メカニズムは稀少な資源を大事に使うように自動的に私たちを導いています。市場メカニズムも「エコ」なシステムといえるでしょう。

ところが市場メカニズムでも環境という資源に対してはこの稀少ですよ的シグナルを発することができません。それは環境が誰のものでもなく(公共性),他の人の利用を排除することができない(非排除性)という二つの性格をもっているからです。

まず環境は誰のものでもないという所有権のはっきりしないものです。つまりみんなのものです。そしてお前使うなよ〜というように他人が利用しようとするのをやめさせることはできません。このような事例を経済学では「共有地の悲劇」として説明しています。

とある牧草地があり,そこの牧草を食べると,乳牛はいいミルクを生産し,肉牛はいい霜降り肉がつくとします。あなたが農家だとどうしますか。自分の牛をその牧草地に放牧させてたっぷり草を食べさせ,自分の牛の市場価値を高めようとするでしょう。それが農家にとっての利潤最大化の戦略です。他の農家をみてみると同じことを考えます。他の農家も自分ちの牛の市場価値を高めようとするために,おなじ牧草地に牛をはなち,そこの牧草を食べさせます。そうして我も我もと多くの農家がそこの牧草地に牛を放牧する結果,牧草地のいい牧草がなくなってしまうという結果になります。これが「共有地の悲劇」と呼ばれるものです。

中国の水問題,大気汚染の問題はまさにこの共有地の悲劇が現在起こっていると言うことになります。これを解決するにはどうしたらいいでしょうか?

規制というのは一つの解決方法ですが,実はあまり有効ではありません。規制を有効にするためには監視(モニタリング)が必要だからです。中国では環境問題を非常に重要視しており,環境規制や環境の法律体系も日本よりすすんでいると言われるくらいです。でもそれがうまくいかないのは監視のためのコストが高く有効に機能していないのが現状です。中国は大変広いです。そして大変多くの企業が存在します。これらの企業が規制を守っているのかどうかを監視するのは大変なコストがかかります。監視がなければ,うちの企業ぐらいいいだろうというモラルハザード(道徳的瑕疵,ほんとうは保険用語の心理的危険ですが。)が発生するからです。

この解決方法として中国で試行錯誤されているのが水利権(水を使う権利)や排出権(汚水や排煙を排出する権利)の市場取引です。自分のところで排出する汚水が少ないととするとその権利を他社に売ることができます。あるいはどうしても排出量が削減出来ない場合は他社から排出権を購入しなければなりません。つまり汚水や煤煙の排出にはコストがかかるようします。そうすると汚染の排出を削減しようとするインセンティブがわくわけです。

(2)国際社会における中国のふるまい

水問題は,河川から海に流れ込むので他の国にも影響を与えますが,むしろ大気汚染の方が他国への影響大です。黄砂にもみられるように私たちの生活にも中国の大気汚染は人ごとではありません。

地球全体で環境問題を考えると,各国が協力してCO2を減少させる方が長期的に各国得をするように思います。とくに大気汚染に大きな影響を与えているアメリカと中国がなかなか協力できません。アメリカでは産業界の反対があり,中国は現在の大気汚染の責任は先進国にあり,途上国として発展の権利を主張しています。

二つの大国が協力できないのは,囚人のジレンマで説明できると思います。大気汚染の対策(ここではCO2排出削減に協力するしないの二つの戦略がこの二カ国に与える影響を以下のマトリックスで与えられるとします。)

         アメリカの戦略
        協力    非協力
中国の 協力 (5,5) (2,7)
戦略  非協力(7,2) (2,2)

左の数字が中国,右の数字がアメリカのお得度を示す。(利得マトリックスという)

この図が示すのは以下のような状況です。

中国とアメリカが協力してCO2排出削減を協力することにしたとします。そうすると二カ国ともに5の利得があります。ところが中国が協力を表明して,アメリカが非協力を表明したとすると,中国はCO2排出削減義務のために経済発展に負担が増えることになりお得度が減ります(ここでは2)。一方アメリカはCO2排出大国である中国がCO2の排出を控えるようになるので,より一層環境問題対策を考えずに経済発展を考えることができます。そのためここでは利得が7になっています。反対にアメリカがCO2削減に世界に協力を表明して,中国が表明しない場合その逆が発生します。このような環境で中国とアメリカはCO2削減の国際会議でどのような戦略をとるのが有利となるでしょうか。それは「どちらも協力しない」という選択肢が二カ国のもっとも合理的な戦略となります。(経済学では相手が戦略を変えない限りこちらも変える必要がない状況をナッシュ均衡といいます。)

最後に,以上の分析から何が言えるでしょうか。

中国国内の環境問題では規制以外の市場メカニズムによる環境保護政策が大きく発展する余地があります。日本の場合,規制が比較的よく守られます。これは環境技術の発展によってCO2削減や水の浄化機械の導入コストが減少しているということもありますが,相互監視や評判ということに目がいくためか規制の効果は高いように思われます。一方中国ではモニタリングの問題から規制順守の姿勢が経済主体(企業,家計,政府)にあまり見られないように思われます。この意味で中国では環境保護のために規制ではない新たな市場メカニズムの発展が期待できます。

国際的な環境会議でも日本は中国アメリカの間で上記の利得マトリックスを変更させる外交戦略が展開できるかもしれません。日本は中国もアメリカも環境国際会議に協力することで得られるメリットを提案できるかもしれません。その分野はものづくりが得意な日本にとってやはり環境技術製品の導入コスト低減などが考えられると思います。

中国の環境問題は,あらたな環境ビジネスの可能性があるのみならず,あらたな経済発展モデルが生まれる可能性があるともいえます。


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2010年05月29日

中国の知的財産権<岡本式中国経済論@>

たまに中国のニセモノ問題がマスコミ各紙をにぎわすことがあります。最近のトピックでいえば,上海万博でのテーマソングが「岡本真夜」の曲のパクリじゃないか,というパクリ疑惑が報道されました。報道姿勢もさることながら,一般に中国ではニセモノ天国じゃないかというイメージがつきつつあるように思います。(一中国研究者として行き過ぎの報道は心配していますが。)

中国が「パクリ天国」「ニセモノ天国」だと決めて悪い印象をもつよりも,もう少し冷静的にこの問題を考えてみて,私たちの生活や日本国内でのさまざまな社会問題の解決に役立てないかと思っています。

岡本真夜さんの楽曲については,作曲家個人の資質の可能性があるので,日中うんたらと述べるのは過度の一般化のきらいがあります。ですので,ニセモノが出回っているということをちょっと考えてみたいと思います。

最近の報道から。

2009/10/19MSN産経ニュース
米マイクロソフトが22日に発売する新しい基本ソフト(OS)「ウィンドウズ7(セブン)」の海賊版が中国で早くも氾濫(はんらん)している。上海市内の店頭には海賊版が堂々と並べられており、価格はディスク1枚がわずか5元(約65円)からと驚く安さだ。

2007/9/17MSN産経ニュース
北京市当局はこのほど、市内で販売されている有料飲料水の半分が偽物と指摘された問題への対応策として、有料飲料水のボトルに識別番号を記載し、コンピューター管理することを決めた。京華時報など中国各紙が16日伝えた。


2007/5/12
ミッキーマウスそっくり人形やディズニー風アトラクションなどで“北京のディズニーランド”と人気を集めていた国営遊園地「石景山遊楽園」が12日までに、大あわてで模様替えを行った。米ウォルト・ディズニー社が北京市版権(著作権)局に「著作権侵害だ」と通報、同市版権局の指導を受けたからだ。
 同園は「ディズニーは遠すぎる、石景山遊楽園においで!」を宣伝文句にミッキーマウスや白雪姫などディズニー・キャラクターからドラえもん、ハローキティまで国際的人気キャラクターを勝手に使用したパレードなどで人気を呼び、年間入場者数は150万〜200万人に達した。

さて,ニセモノについて少し経済学的考えてみましょう。

(1)参入しやすく,退出しにくいニセモノ市場

経済学的には完全競争を前提とすると限界費用と価格が等しくなるとされています。簡単にいえば,一個当たり追加生産するときの費用と価格が一致するということです。ところがブランド品は同じ製品でもブランドという差別化が行われており,一種の独占的競争状態です。このため完全競争時よりも利潤が発生しており,他企業の参入誘因がわきます。その上,ブランド品のニセモノ生産にはコストがあまりかかりません。とくに楽曲,キャラクターなどはまねするコストは非常に小さいです。生産コストが低ければ低いほど多くの企業が参入しやすいということになります。

具体的なブランドの製品についてみてみますと,ウィンドウズなどのソフト,人気キャラクター,ブランドバックなどなど生産する上で大きなコストはかかりません。しかも「ブランド」という知的財産はマーケティングの努力がなくても市場での認知度が高いので多く売れる可能性があります。

利潤=販売−費用

という式に示されるように,企業は費用を最小化して,利潤を最大化しようとします。ふつうの企業にとってブランドなどの知的財産権をもつ製品の生産コストは低いので売買市場に参入しやすいことに加え,利潤は高めに得られる期待があります。つまりお得感がある以上,多くの企業がニセモノをつくる動機が存在しやすいということになります。これがインセンティブです。

中国では農村企業(郷鎮企業)は所在地の農村政府(郷鎮政府)と密接な関係にあります。

とある農村で地元の郷鎮企業がニセモノ市場に参入してしまったとしましょう。郷鎮企業は低コストで多くの売上が期待できます。そしてニセモノ市場で利潤を得るようになると,税収や費用を地元の農村政府に納めるので,農村政府の監視がゆるくなるということが発生します。農村政府にとって,とくに共産党幹部にとって,地元経済のパフォーマンスは自分の出世に関わります。したがって「知らないふり」をし続けることになります。

またもう一つの特徴は,中国は人口が多く面積も広いので農村が大量に存在し,そして競争しています。ある意味地方自治体どうしの完全競争が起きています。ニセモノを作っているという評判が立てば自治体としての魅力は減るのですが,農村が大量に存在するので,自分の存在を小さく感じている可能性もあるかもしれません。

(2)過度の知的財産権保護は資源配分を歪める

知的財産権を保護する経済的意味は,開発者の製品開発のインセンティブを高めるという意味があります。新しい薬を開発する,製品を開発する,そしてそれを特許で保護し,多くの報酬を与えることによってさらなる開発を期待するわけです。

一方で,過度に保護すると製品の独占市場を形成し,独占会社が利潤をむさぼり,本当に必要とする人が高くて買えないということが発生する可能性があります。これが市場の資源配分を歪みとなります。

新薬などでは,ある期間特許を保護したあと,ジェネリック商品ということで独占市場から競争市場へ変換させるシステムが確立しています。

一方で,映画,本,などの著作権などは過度に保護され独占につながっている可能性があります。

最後に,ニセモノのいい面を考えてみましょう(アンダーソン2009)。最近中国では音楽ソフトを無料で提供するというビジネスが展開されつつあるようです。それによりグッズ販売,コンサート収入,DVDの販売などにつなげるビジネスモデルです。音楽楽曲がネット配信されるようになると音楽の販売コストが激減します。つまりコストが低下するので価格が下がりやすい状況,ひいては競争市場ではフリーになりやすいことなります。

またブランドのニセモノでも,本物の需要を喚起している側面も否定できません。

お金のないOLさんは上海や北京でニセモノを買うかもしれませんが,彼女たちの収入が向上すればまちがいなく本物を購入するようになるでしょう。ニセモノを買う人自身も,ニセモノと理解し,別のもの(廉価版)として認識しているようです。つまり別の市場での財といえるかもしれません。

インターネットの普及は著作権の保護を難しくしつつあります。中国は世界最大のネットユーザー数をもちますので,実は著作権や知的財産権の分野で,新たなビジネスモデルが中国から生まれる可能性も否定できないかもしれません。


<参考文献>
クリス・アンダーソン(2009)『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』日本放送出版協会
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