2013年02月05日

2013年1月読書ノート

2013年1月の読書ノートです。



編著などで人の論文を修正したり、自分の原稿を校正したりするときに、なんとなくパターンがありそうな気がしていました。

本書はその日本語の気をつけるべきものを整理して、例文とともに修正例を示しています。例文も実際にあったものを使っているようで、説得力があります。

英語にはofやtheなどの使い方、英語の文章の書き方で注意する点など、英語文章の書き方に関する良書は数多く存在します。日本語の書き方でこれほど具体的な本は初めて読みました。改めて、「てにをは」の使い方、「する」「なる」の区別などが勉強になりました。

<経済>

猪木武徳(2012)『経済学に何ができるか - 文明社会の制度的枠組み (中公新書)』中公新書 経済学ができるのは論理を用いて説得が可能な価値選択以前の段階までであり、それ以降は政治的選択に任せるよりほかはない。賢い人弱い人がいる中では制度や政策が重要になる。

若田部昌澄(2012)『もうダマされないための経済学講義 (光文社新書)』光文社新書 人々のインセンティブを無視して政策はうまくいかない、トレードオフを無視して年金制度を維持出来ない。トレードの発展が人類の経済発展をもたらした。マネーでも金融緩和を渋った日本では停滞が続く。

飯田泰之・雨宮処凛(2012)『脱貧困の経済学』ちくま文庫 日本は自由競争は嫌がるし、貧しい人を面倒見るのもおかしいと考える社会。世間に後ろ指さされない生き方をしている人は守るべきだかそうでない人は自己責任。この空気が問題。2%成長と年100万のベーカムは可能か。

小島寛之(2012)『ゼロからわかる 経済学の思考法 (講談社現代新書)』講談社現代新書 市場は身勝手な個人が自由にアクセスする場。彼らの欲望を調和させるための仕組みが需要・供給の原理。一方、市場を個人たちの交渉と話し合いの場と捉え、誰も離脱しないような提携を達成するプロセスであるという捉え方も可能。

ノルベルト・へーリング、オラフ・シュトルベック(熊谷淳子)(2012)『人はお金だけでは動かない―経済学で学ぶビジネスと人生』NTT出版 人は利己的ではない部分があり信頼や社会規範が重要である。しかし研究成果を無条件で信じるのも問題だ。最新経済学成果をジャーナリストが紹介。

トーマス・カリアー(小坂恵理)(2012)『ノーベル経済学賞の40年(上)』筑摩書房 ノーベル賞で評価されたアイデアの一部は重要だが、アイデアは現実に生かされてこそ真価が認められる。自由主義、ミクロ経済学、株式市場、行動主義、ケインジアンのテーマ別。

トーマス・カリアー(小坂恵理)(2012)『ノーベル経済学賞の40年(下)』筑摩書房 古典派の復活、モデルの発明者、ゲーム、一般均衡、世界経済、数字、歴史と制度のテーマで。ノーベル賞受賞者のみならず優れた経済学者は世の中に対する私たちの見方を変えてくれる。

<中国>

馮文猛(2009)『中国の人口移動と社会的現実』東信堂 出稼ぎ労働者の調査。差別は、職種、社会保障、雇用契約の理解不足などに現れている。子弟教育は改善しつつあるが、高校、大学進学は難しい。社会階層の上昇もあるが出稼ぎ労働者内部での差異もある。

園田茂人・新保敦子(2010)『教育は不平等を克服できるか (叢書 中国的問題群 第8冊)』岩波書店 改革開放以降、科挙制度を髣髴とさせる猛烈な受験競争が復活。コネよりも平等と考えられているために競争に対する強い肯定感があり、能力主義的価値観が高まっている。教育報酬率も増加。一方都市農村間の教育格差は大きい。

王名、李妍焱、岡室美恵子(2002)『中国のNPO──いま、社会改革の扉が開く』第一書林 中国の非営利セクターを「政府でもない,営利企業でもない社会的活動部門」と定義。民間による自発的な組織活動「結社」から社会団体へ。環境,家族計画,教育,社区のNPOについて。

李妍焱編著(2008)『台頭する中国の草の根NGO』恒星社厚生閣 官製ではなく自発的にできた草の根NGOに焦点,発展を支えたカリスマリーダー(知識分子),資金集め,メディア戦略,国際NGOとの関係など。国は民間組織の管理から規制緩和へ。

古賀章一(2010)『中国都市社会と草の根NGO』御茶の水書房 国有企業が担っていた社会サービスを社区に。政府方針がうまくいかず,社区建設の基層社会管理と公共サービスの提供に草の根NGOが活躍。政府と草の根NGOの関係がその場凌ぎからガバナンスへ移行へ。

李妍焱(2012)『中国の市民社会――動き出す草の根NGO (岩波新書)』岩波新書 党・政府が公共問題のイニシアティブを握る中国で、異なる視点、異なる立場から公共問題に携わる「参加の仕組み」を創り上げるNGO。第二世代NGO、ソーシャルビジネスが表れ、市民による社会変革の動きが出てきた。

<社会関連>

平田哲(2005)『NPO・NGOとは何か』中央経済社 NGOは国連憲章で定められ地球・国際的な活動に関連した団体。日本のNPOは阪神大震災の市民ボランティアを基盤に市民参加型ボランティア活動の団体。共通なものも多く、主要なテーマは貧困、人権、環境に関わり、教育、福祉なども。

タイラー・コーエン(池村千秋)(2011)『大停滞』NTT出版 経済成長は停滞し所得格差が増大。政府、医療、教育部門はGDPに算入、成長が過大評価される。インターネットの恩恵は知的能力の高さに応じて得られるが、収入を生み出すものではない。豊かだという勘違いが金融危機をもたらした。

リチャード・フロリダ(仙名紀)(2011)『グレート・リセット-新しい経済と社会は大不況から生まれる』早川書房 19世紀末の不況から工業大都市が生み出され、1920年代の大恐慌から郊外住宅開発が進む。2008年の金融危機は第三次リセットの時である。新しいイノベーションが起こるか。

カーメン・M・ラインハート、ケネス・S・ロゴフ(村井章子)(2011)『国家は破綻する-金融危機の800年』日経BP社 銀行危機が政府の財政支出増加、税収の落ち込みをもたらし、政府の債務を増大。GNP比債務率は減少することはなく、デフォルトは世界中、歴史上頻繁に起きている。

ラグラム・ラジャン(伏見威蕃月沢李歌子)(2011)『フォールト・ラインズ-「大断層」が金融危機を再び招く』新潮社 アメリカの格差や社会保障の不備が政府をして持ち家や消費を奨励。金融部門は政府の衝動に乗ってリスク増大融資に走り、政府が債務保証などの介入で、金融部門を歪める。

<その他>

本川裕(2010)『統計データはおもしろい!-相関図でわかる経済、文化、世相、社会情勢のウラ側』技術評論社 所得水準と出生率、貧富の格差、BMI、平均寿命などを相関図、散布図で示す。相関の違い、片相関、意味のある無相関、散布図によるグルーピングなど使い方のヒントも。

山本ケイイチ(2008)『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』幻冬舎新書 「自らの意思で、自らに辛いことを課す」これは精神にも筋肉にも共通する普遍の成長原理。動機と目的を明確にして、続ける仕組みをつくる。トレーニングとビジネスには共通点が多い。

ディヴィッド・エマーソン、エリザベス・ホッパー(伊藤久子)(2011)『トラウマをヨーガで克服する』紀伊国屋書店 トラウマ解消には暴露、認知療法などがあるが、問題があるケースも。ヨーガの呼吸やポーズによって、自分が選択している、コントロールしているという感覚はトラウマ解消に有効。

ジョン・J・レイティ(野中香方子)(2009)『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』NHK出版 学習機能、不安、ADHD、老化、ホルモン、依存性などと脳の関係を研究成果、臨床事例により明らかに。有酸素運動は神経伝達物質を増加させ脳内バランスを改善。

川島直子・福田素子(2012)『「世界基準の授業」をつくれ―奇跡を生んだ創価大学経済学部IP』時事通信社 低迷している経済学部を改善するために英語で経済学の授業をやるIPを立ち上げる。ネイティブ教員による立ち上げ,海外研修,インターンを導入。職員、教員、学生の苦闘とその成果。

清水亮・橋本勝・松本美奈編(2009)『学生と変える大学教育-FDを楽しむという発想』ナカニシヤ出版 使えるFDとして、チーム編成、エントリ、発表をする橋本メソッド、ディベート大会、グループ研究を入れる木野茂、「全員先生」方式大門正幸、クイズとクリッカーを活用する鈴木久男など。

ジル.B.テイラー(竹内薫)(2012)『奇跡の脳-脳科学者の脳が壊れたとき』新潮文庫 脳神経学者のジルが脳卒中で体験し、ひらめいたこと。右脳の意識の中核には静かで豊かな感覚、平和、愛、歓びがある。左脳は時間や言語を司っている。右脳マインドの重要性を強調。

大津秀一(2009)『死ぬときに後悔すること25』致知出版社 終末期患者の緩和ケアを専門とする医者の臨床から見えてくる人の後悔の共通点。自分のやりたいことをやらなかったこと,夢を叶えられなかったこと,他人に優しくしなかったこと,愛する人にありがとうと言えなかったこと,など。

ジェイムズ・D・スタイン(熊谷田沢松井)(2012)『不可能,不確定,不完全-「できない」を証明する数学の力』早川書房 解決できない問題は手段がないか,情報がないか,ないものねだりをしているか,複数の正解があるケースに分けられる。行き詰まった場合,最後の頼みの綱は近似解である。

イーヴァル・エクランド(南條郁子)(2009)『数学は最善世界の夢を見るか?――最小作用の原理から最適化理論へ』みすず書房 自然は最も小さい作用でできているという最小作用の原理は最適化理論として発展。数学・物理学・生物学・経済学からも「可能な中での最善世界」が見つからない。

阿部紘久(2009)『文章力の基本』日本実業出版社 文章を正しく意味が伝わるように書くための本。間違いの事例から改善例を示す。「〜することで」の「ことで」は不要、「〜していきたい」よりは「〜する」で不要な「いく」「くる」は省く、など豊富な具体例が日本語に対する感性を研ぎ澄ます。

近藤勝重(2011)『書くことが思いつかない人のための文章教室』幻冬舎新書 憶えていること、思ったことを分けて記憶を呼び起こす。記憶を視覚的に描写し、説明は少なく。描写では全体→部分→細部に。独自の視点は社会の既成概念から追い払うことから。納得、共感、驚きが見方・視点を養う。

古賀史健(2012)『20歳の自分に受けさせたい文章講義』星海社新書 いい文章とは思いを「翻訳」し読者に伝えられるもの。視覚的リズム(句読点、改行など)、主張理由事実があるのが論理的、特定の人を読者にする、書かないことをを考える、サンクコストに引きずられずに文章を切り刻む、等。
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2013年01月08日

2012年12月読書ノート

2012年12月の読書ノートです。

今回の紹介は、中国本の2冊です。



これは、久しぶりに読み返したのですが、中国や中国人の行動を理解するのに今でも有効であることを感じました。歴史書を使いながら、「幇」の中と外で行動原理が違うことを示しています。

絶版にならずに今でも入手可能というところにもびっくりしました。



これもいい本でした。存在は知っていたものの、池上さんは中国専門家ではないので、手に取ることがためらわれていました。なかなかどうして、専門家でない分、中国を理解するのに必要な歴史や現状をわかりやすくまとめられています。偏りが少ない分、授業での副読本として薦められるとおもいます。

本は読む前に偏見もっちゃダメですねあせあせ(飛び散る汗)

<経済学>

高橋孝明(2012)『都市経済学 (有斐閣ブックス)』有斐閣ブックス 都市規模の決定とランクサイズ・ルールで都市システムを確認。生産者の意思決定の結果、一部地域への集積が始まり、消費者の意思決定として都市内構造(土地利用)が決定。都市の土地、住宅、交通をミクロ経済学の基礎から解説。

日本地域学会編(2012)『地域科学50年の歩みと展望』日本地域学会 学会創設から50年の歩みをキーパーソンの貢献と座談会で。地域経済、環境、都市・地域分析、交通、産業集積、財政、計量経済、情報通信、国土・地域政策などの分野別の学会誌『地域学研究』をメインにした研究サーベイ。

ロジャー・L・ミラー、ダニエル・K・ベンジャミン(高瀬光夫)(2010)『マクロイシューの経済学-実例で学ぶマクロ経済政策』ピアソン桐原 経済成長に財産を守る法律制度は重要、アウトソーシングは貿易の結果、貿易赤字は長期的に輸出入はバランスする、など。

スティーブン・J・ブラムス(川越敏司)(2006)『旧約聖書のゲーム理論-ゲーム・プレーヤーとしての神』東洋経済新報社 神は力に満ちた存在であるが人間が自由意志を持っているために神の望み通りにならない。ゲームのプレーヤーとしての神と人間による天地創造,制約,誘惑ゲームなど。

川越敏司(2007)『実験経済学』東京大学出版会 実験経済学の方法論的特徴は被験者の選好を実験的に統制する点。実験室内に再現された環境の中で経済理論やゲーム理論の仮説を実験的に検証。実験経済学は小規模経済の短期的性質を,計量経済学は大規模経済の長期的性質を明らかにし,相互補完。

川越敏司(2012)『はじめてのゲーム理論』ブルーバックス 相手の出方を予想し自分の最善策を考えた結果のナッシュ均衡、無駄がないというパレート効率性。パレート効率的でない結果におちいる(ナッシュ均衡)ゲームに対して,それを改善するのがマーケット・デザインという分野。

<中国>

小室直樹(1996)『小室直樹の中国原論』徳間書店 中国では個人の間の人間関係によって行動規範、契約の重要性が変わる。知人→関係→情誼→幇になるに従って関係が深くなる。知人程度だと事情変更の原則がよく採用される。法律は統治者のためにあるのであり、個人の権利を保護するためではない。

内田樹(2011)『増補版 街場の中国論』ミシマ社 中国が実効的に統治されているのは世界的にベネフィットをもたらす。リスクとして、経済成長の失速、中産階級の動き、党のガバナンスの弱体化、を指摘。政権交代ではなく、政体瓦解のリスクを抑える。自民族主義としての中華思想、など。

林毅夫(劉徳強)(2012)『北京大学 中国経済講義』東洋経済新報社 要素賦存状況を無視した重工業戦略は失敗した。競争的市場では企業は自国の要素賦存に合致した技術を選択する。比較優位を生かした超越戦略を実行するためには、資本蓄積と要素賦存構造の高度化が必要。

中兼和津次(2012)『開発経済学と現代中国』名古屋大学出版会 開発経済学の枠組みで中国経済を説明。従来の開発論でうまく説明できない中国経済の特性は、人口規模、郷鎮企業、外資、政府の役割、そして市場を含む制度の創成と発展のダイナミクスである。これらが新たな開発経済学を生み出すか。

平川幸子(2012)『「二つの中国」と日本方式 (現代中国地域研究叢書)』勁草書房 一つの中国を求める中台政府。二つの中国のジレンマを解決するための枠組みが日本方式(承認中国との外交関係+不承認中国とも実質関係を維持)であった。日中LT貿易を起源に、日本方式が広がる。

濱本良一(2012)『「経済大国」中国はなぜ強硬路線に転じたか-2010〜2011年-』ミネルヴァ書房 対外方針の「韜光養晦、有所作為」が09年7月の胡錦濤演説で「積極有所作為」に変更。12月のCOP15、10年3月の全人代頃から南シナ海が「核心的利益」と、強面外交へと転換した。

宇田川敬介(2012)『2014年、中国は崩壊する』扶桑社新書 中国の長期ビジョンは憲法前文から社会主義化に向けた闘争。少数民族、領土問題に進出し、短期的には下層社会を満足させるための経済成長が必要。習近平体制発足から一年後バブル経済が崩壊、下層民衆による内乱がおこる。

小原雅博(2012)『チャイナ・ジレンマ-習近平時代の中国といかに向き合うか』ディスカヴァー携書 経済チャンスと政治安全保障リスクのチャイナ・ジレンマ。共産党の危機感、政治体制改革、中国外交を追いつつ、ウィンウィンが両国にとっての国益。人的チャンネルの拡大と国民感情の改善を提案。

池上彰(2010)『そうだったのか! 中国 (そうだったのか! シリーズ) (集英社文庫)』集英社 毛沢東の共産党・国家建設、大躍進と文化大革命の中身。チベットと国民党・台湾。日中国交回復の流れとケ小平の国家立て直し。一人っ子政策が開始され、天安門事件を経て、香港の回収へ。江沢民から胡錦濤へ移り、格差と軍備、今後の中国を展望。

浅野亮・川井悟(2012)『概説 近現代中国政治史』ミネルヴァ書房 中国社会は統合と分裂に向う要因を内包し、人と外的環境との相互作用の中で国家が形成されたという枠組みで歴史を分析。統合の制度として、国家意思、交通、法制度、シンボル空間、伝統思想・外来思想の変容と受容を論じる。



<自己啓発>

野口嘉則(2012)『人生は「引き算」で輝く 本当の自分に目覚める話』サンマーク出版 一度手にいれたものはいつまでも自分のものであるはずはない。今一時的に預かっているだけ。人生においてやってくる引き算に対し、辛い感情を感じながら手にいれたものに対する依存状態から自分を解放し、自由になる。

ルー・タイス(苫米地英人監修)(2011)『アファーメーション』フォレスト出版 今までの経験や思考が自己イメージを形成する。ねばならない、から、したい、へ向き合い、肯定的なセルフトークを。人は自分の考えているものに向かい、考えている人物になる。

本田健(2011)『40代にしておきたい17のこと』だいわ文庫 これまでの人生を振り返り自分史を作成,自分の得意なもの不得意なもの,好きなこと,20代にやりたかったことを確認。大事なのは時間と健康。世界に残せるものは何か,家族や人とのつながりを振り返り,新たなスタートを。

<社会問題>

中村正志編(2012)『東南アジアの比較政治学 (アジ研選書)』アジア経済研究所 東南アジア五カ国(タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン)の政治制度(体制、執政・立法、司法、政党、選挙など)に焦点をあて、何が制度の違いを生み、その違いがどのような政治的帰結をもたらすかを示す。

ニコラス・ウェイド(依田卓巳)(2011)『宗教を生みだす本能 ―進化論からみたヒトと信仰』NTT出版 宗教は道徳的本能から生まれ、高揚した状態で集団社会の結束を高め、社会として生き残りを可能にする。宗教は社会的道徳観を具体化したもの。世俗社会が国家として成熟すると宗教離れになる。

佐藤郁哉、芳賀学、山田真茂留(2011)『本を生みだす力』新曜社 文化生産における選別、何を出版するかを決めるゲートキーパーとしての出版社。刊行に関わる意思決定は,文化と商業のバランス,組織のアイデンティティと複合ポートフォリオ戦略に依存する。

佐藤郁哉、山田真茂留(2004)『制度と文化 組織を動かす見えない力』日経新聞社 組織は文化を持つ、組織は他と比較しながらアイデンティティを形成、などの議論を整理し、文化の中にあるとする新制度派組織論を検討。個人・組織の戦略が、文化と制度に与える複合戦略モデルを提案。

安田洋祐・菅原琢・井出草平・大野更紗・古屋翔太・荻上チキ+SYNODOS編『日本の難題をかたづけよう』光文社新書 マーケットデザインで制度を作る、データで政治現象を、ひきこもりから社会学を、自然エネルギーの導入例、障害の社会モデルへの移行など、新しい社会を作るための知恵を議論。

アルバート=ラズロ・バラバシ(青木薫)(2012)『バースト! 人間行動を支配するパターン』NHK出版 人間行動には驚くほど普遍的なパターン、バースト(短時間に集中的に行われ、長い時間沈黙がある)がある。ランダムではなくベキ法則にしたがっているためバーストの出現が予測される。

レン・フィッシャー(松浦俊輔)(2012)『群れはなぜ同じ方向を目指すのか?』白揚社 日常生活の問題を解決するために、集団の知恵(集団の多様性を利用)や群知能(集団内の一部の相互作用から創発する現象)を利用するといい意思決定ができる。


<その他>

サイモン・シン、エツァート・エルンスト(青木薫)(2010)『代替医療のトリック』新潮社 主流派の医師の大半が受け入れていない代替医療。科学的な臨床試験の研究成果からは、鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ薬などには、効果がないことが証明されているものが多い。

藤木久志(2005)『新版 雑兵たちの戦場-中世の傭兵と奴隷狩り』朝日選書 身分の低い兵卒は中世の戦乱の最中、乱暴狼藉を行う。戦争は食うための手段であった。中世の終わりに秀吉が天下統一するにいたって戦場が封鎖。雑兵たちの食うための戦争は朝鮮半島に展開される。

友岡雅弥(2001)『ブッダは歩む ブッダは語る』第三文明社 ブッダの主張はサンカーラ(慣習的行動)を砕破すること。社会が認めたものを善とし、それを全員が目指すという習慣や理想を捨て去り、社会に妥当する普遍的な理想へと変換させていった。

細川貂々(2006)『ツレがうつになりまして。』幻冬舎 ストレスで疲れすぎ、仕事が嫌になり、失敗ばかりするようになり、眠れなくなる。うつ病と診断されたスーパーサラリーマン夫との日常生活。ゴロゴロ過ごしながら、突然襲う落ち込み、一人でいられなかったり、などうつの症状を楽しく。

細川貂々(2007)『その後のツレがうつになりまして。』幻冬舎 会社をやめずに安定した生活を続ける、日記を書くことは認知療法に繋がる、障害者自立支援法を使うと薬代が安くなる、などの情報。うつのツレの後ろ向きの言葉への対応法など、細川家のノウハウを楽しく紹介。
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2013年01月03日

『開発経済学と現代中国』

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、2013年最初のエントリは、中兼先生の著作を紹介したいと思います。



中兼中国経済論の集大成です。中兼先生が一橋大学,東京大学,青山学院大学と38年にわたって教鞭をとってきた中国経済論をまとめたものといえます。

視点は「開発経済学から現代中国を読み解こう」としています。開発経済学を勉強するにも,中国経済を知るにも双方どっちにもお得です。

主張をまとめてみます。

経済発展の実績で「中国モデル」が注目されるようになったが,そのようなモデルが存在するのか?中国の経済発展とその変化をとらえるために開発経済学における枠組み,例えば,「後進性の優位」仮説(ガーシェクロン),ハロッド=ドーマー・モデルなどを現代中国理解の準拠枠として,利用する。

ソロー型成長モデル,ルイス・モデル,ペティ=クラークの法則,グズネッツの逆U字仮説,比較優位論的貿易モデル,雁行形態論,人口転換や人口ボーナス,人的資本論などは,中国を理解する上で,有益な枠組みである。

ただし,従来の開発論の枠組みからはうまく説明できない,中国の特性を強く繁栄しているものは,(1)人口規模の有用性(人口ダイナミクス),(2)農村工業化論を超えた郷鎮企業の発展,(3)超雁行形態論を形成している外資の役割,(4)新たな開発独裁としての政府の役割,そして(5)制度の創生・発展,である。

とくに中国の経済発展における市場創生のダイナミズム,この点が開発経済学への最大の貢献であろう。


以下,本書の各章で用いられてきた開発経済学の枠組みとそこから得られた結論を簡単にまとめてみます。なお,これは備忘録程度のまとめですので,詳細は本書をみてください。

第1章 初期条件と歴史的文化的特性

ガーシェクロンの「後進性の優位」仮説,ノースの経路依存性,速水の誘発的制度革新,ウェーバーの文化論
→経済発展を促す政策と制度が比較的有利な環境条件の下で,適切に作用した。

第2章 成長モデルと構造変化

ハロッド=ドーマー・モデル,ロストウの発展段階論,重工業化モデル(マハラノビス・モデルとフェリトマン=ドーマー・モデル),成長会計,チェネリーの標準パターン論,ペティ=クラークやホフマン法則,ビッグ・プッシュ,均整・不均整成長論,内生的成長論
→中国の高貯蓄,高投資は当てはまるが,毛沢東時代と改革開放以降では意味が違う。

第3章 ルイス・モデルと中国の転換点

ルイス,ラニス=フェィ・モデル,過剰労働論,ハリス=トダロ・モデル
→中国の特殊な都市農村分断,郷鎮企業の存在などがあるが,市場化によって人々の行動様式が「合理的に」。

第4章 外向型発展モデルと中国

プレビッシュ=シンガー命題,貿易と外資
→外資と成長には複雑で多様な相互促進関係があるが,自立した経済成長が可能かという議論がある。

第5章 雁行形態論・キャッチアップ型工業化論とその限界

雁行形態論,比較優位,輸入代替・輸出志向
→中国の特殊性により典型的な雁行形態型発展パターンから乖離することがある。キャッチアップ型工業化論の意味がなくなってきている。

第6章 人口転換と人口ボーナス

マルサスの罠,人口ボーナス
→人口規模と経済発展をみると,マルサスの逆説ともいうべき新しい論点が。

第7章 分配と貧困

クズネッツ逆U字仮説
→クズネッツ仮説の妥当性は低い,分配の不平等化が進み,政治的緊張などへの問題が。

第8章 人的資本と教育

シュルツ,ベッカーの人的資本論,教育収益率
→中国は国際的一般パターンと類似。

第9章 環境クズネッツ曲線と中国の環境問題

環境クズネッツ曲線
→地域によっても,汚染物質によっても結果は変わる。

第10章 開発独裁モデル

開発独裁,東アジアモデル
→党組織が社会の隅々にまである,民主化と経済成長に強い相関はなさそうである。

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2012年12月18日

林毅夫『北京大学中国経済講義』

北京大学中国経済研究センターから世銀のチーフエコノミストになった林毅夫。彼の中国経済論講義が日本語訳で出版されました。



林毅夫の考え方については,新構造主義経済学(ここ)でも触れましたが,彼の経済学の基本的なフレームワークを本書からまとめてみたいと思います。

本書の主張は

要素賦存の状況が経済の比較優位産業を決める。自生能力のない企業は,適切な技術(労働集約であったり資本集約であったり)を採用することができないので,政府が介入する必要がある。

というものです。

彼の経済発展論の特徴は比較優位を説くものでした。労働が多いのか,資本が多いのかという生産要素の賦存状況を無視した経済発展は不可能と考えます。計画経済時代の重工業化の失敗がその事例です。重工業化を行うには,長期的に資本を得るために低利子でないといけません。機械を輸入するためには自国通貨を外国通貨より高めに評価しておかないといけません。そして企業が利潤を高く維持することが可能な環境(二重価格のような)が必要です。

労働が相対的に多い中国において,政府よる強引な重工業化は要素賦存,比較優位の原則から離れていたものであったため,不可能であったとします。要素賦存は労働が多い状態であったにも関わらず,キャッチアップ(超越戦略)のため産業構造を変えようとしたために高コスト・低効率になったといいます。

比較優位を発揮するには,自生能力のもつ企業の存在が重要だといいます。

自生能力をもつ企業とは,開放的で自由な競争的市場のもとで,正常な経営が行われて,正常な利潤が獲得できる企業のことです。このような企業には外的環境からの支援や保護はありません。

自生能力をもつ企業は,どのような生産技術を採用するかは,開放的市場における価格をシグナルをとします。要素賦存状況で労働が多いとすると,労働が相対的に安くなるので,労働集約的な技術を採用します。要素賦存状況が要素の価格を変化させ,そして企業が採用する技術が変化していきます。

移行経済国,とくに中国は価格が歪んでおり,国家が経営に介入し,そして資源配分にも政府が関与していました。このような市場が健全でない状況では,企業は自生能力を持ちません。そのために政府が外的環境を変えるとともに,企業の自生能力を回復させるように補助金や優遇政策が必要だと主張します。これが林毅夫経済学の特徴で,政府の積極的関与が結論付けられます。

現在の中国経済では,要素賦存が徐々に労働から資本に移動している過程だと捉えられます。しかし,金融市場では,中小企業のための融資が進まないなどの歪みが存在するために,金融市場の改革が必要だと言っています。

以上のように,林毅夫経済学の特徴は,要素賦存,比較優位,自生能力という3つがキーワードで,産業構造を変化させるには政府の関与が必要と説くところです。
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2012年12月04日

2012年11月読書ノート

2012年11月の読書ノートです。



今回の紹介は,ちょっとやわらかい本を。昔から話題になっていたこの本を読みました。基本は,初期投資を惜しまず,自分で料理をするのが基本です。生活面で真似できるものはありませんでしたが(笑),考え方に共感できるところは多かったです。

その中でも

「お金なんていらないと言えばやせ我慢といわれ、成功に興味ないと言えば、負け犬の遠吠えと思われる世の中」になっていることを嘆き,

老子の一節「金と体のどちらが大切か。何かを得ることと失うことのどちらが困るか。金品にこだわれば浪費をまねき、あまりに多くを持てば失うことにつながる。ほどほどの満足があれば辱めを受けることもなく、ほどほどのところを知れば長く安らかていられる」を紹介しながら,コンパクトな生き方を説き,

「社会の常識や価値観は利用するもの、縛られたり踊らされたりするものではない」として,自らの生き方に胸をはります。

節約本によくある「この節約法,すごいだろ」というドヤ顔がなく,淡々と述べる筆者の文体に好感が持てます。

<経済学>

サイモン・クーパー、ステファン・シマンスキー(2010)『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』NHK出版 代表チームの成績は、人口、1人あたり所得、サッカーの経験と強い相関がある。クローバル化、特に西ヨーロッパのサッカーを取り入れることは重要だ。

若田部昌澄・栗原裕一郎(2012)『本当の経済の話をしよう (ちくま新書)』ちくま新書 経済学を知るために、インセンティブ、トレードオフ、トレード、マネーの4つで語る。人の行動はインセンティブに反応し、希少性のためにトレード・オフに直面。トレードは有益、マネーと日銀の政策など。

佐伯啓思(2012)『経済学の犯罪 稀少性の経済から過剰性の経済へ (講談社現代新書)』講談社現代新書 産業型発展モデルは終わりを告げ、モノやサービスは過剰となった。過剰生産は将来の消費をあてこんだ投資によって処理される。欲望は貨幣に向かい金融での利益追求になる。過剰な生産はデフレを生み出す。


<中国>

任晢(2012)『中国の土地政治: 中央の政策と地方政府 (現代中国地域研究叢書)』勁草書房 中国の政府行政を中央、省、基層政府に分け、土地不動産をめぐる取引から中央・地方関係に迫る。利益、政治参加に農民は不利であり、企業は利益配分と政策決定に関与。基層政府は徴地衝動を持っており、中央政策が浸透しない。

磯部靖(2008)『現代中国の中央・地方関係-広東省における地方分権と省指導者』慶應義塾大学出版会 広東省の省指導者は地方主義のために中央と対立したのではない。広東省への優遇措置という地方分権は中央の決定であり、地方への権限の限定委任。中央の縦割り行政が地方での利害衝突を生む。

加茂具樹(2006)『現代中国政治と人民代表大会―人代の機能改革と「領導・被領導」関係の変化』慶應義塾大学出版会 党が国家を領導する正当性を調達するためには国家権力機関である全人代が党の領導を受け入れている構図が必要。しかし人代代表の無条件な幅広い支持を取り付けることは,危機に直面。

于建エ(徐一睿)(2012)『移行期における中国郷村政治構造の変遷―岳村政治』日本僑報社 新中国成立期に、国家が土地改革を通じて集権的郷村動員体制を構築、伝統的コミュニティは破壊。改革開放期には公社が解体され郷鎮政府に移行。郷政は国家の権力を表し、村治はコミュニティ権威となる。

白石隆、ハウ・カロライン(2012)『中国は東アジアをどう変えるか』中公新書 東アジアは通商システムと安全保障システムが緊張している。中国が経済成長の政治をする限り台頭は緊張をもたらさないが、近年特殊利益の台頭とともに周辺諸国は中国台頭のリスクを意識する。

遠藤誉(2008)『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす (NB online books)』日経BP社 日本動漫が海賊版であったために大衆文化として定着。その文化は民主化への土壌となった。中国はトップダウンで文化の生成を図り、愛国教育を実施。中国の若者は反日と日本動漫が好きというダブルスタンダードを抱くにいたる。

矢板明夫(2012)『習近平 共産中国最弱の帝王』文藝春秋 指導者は各派閥の実力者たちが密室で決める。指導者の素質で重要なのは目立たないこと、嫌われないこと。政策主張は重要ではなく、総書記任期の途中で見えてくる。権力闘争、習近平の履歴、強硬外交、少数民族、言論統制の今後を展望。

<自己啓発>

山崎寿人(2011)『年収100万円の豊かな節約生活』文藝春秋 豊かさと節約の微妙なバランスをとるために、手間暇、初期投資を惜しまない。心と体は生活を豊かに過ごす基本。健康管理にも気を使う。予定外の大出費に備えて大口支出プール金も確保。ネットポイントは『特別会計』として。

マーク・ボイル(吉田奈緒子)(2011)『ぼくはお金を使わずに生きることにした」紀伊國屋書店 お金をなしにすると、人との与え合いが必要となる。必要なことは自給自足のスキルではなく、健康、自制心、配慮と礼節、そして与え分かち合う力である。

リンダ・グラットン(池村千秋)(2012)『ワーク・シフト-孤独と貧困から自由になる働き方の未来図2025』プレジデント社 高度な専門知識と技能を習得し続けること、少数の友人と自分とはタイプの違う人たちとつながること、質の高い経験を大切にする働き方に転換すること、を提案。

<社会問題>

寺西重郎・福田慎一・奥田英信・三重野文春(2007)『アジアの経済発展と金融システム(東北アジア編)』東洋経済新報社 途上国では政府が金融システムに開発目的で介入する金融抑制が見られる。資金の供給源は財閥、大家族経営,外資に依存。経済発展には長期資金の供給メカニズムが必要。

小川英治・財務省財務総合政策研究所(2006)『中国の台頭と東アジアの金融市場』日本評論社 ドルとのリンクは外貨建て資金調達が可能になるが、債務が増加する。市場開放の高まりは固定相場制の確率を高め、所得水準の上昇や国内金融市場の発展は変動相場制の確率を高める。 など。

宿輪純一(2006)『アジア金融システムの経済学』日経新聞社 東アジアの経済発展は連携と統合によって加速。しかし金融システムがそれに追いついていない。とくに東アジア全体で可能な共通決済システムを金融インフラとして整備しなければならない。

桜井英治(2011)『贈与の歴史学-儀礼と経済のあいだ』中公新書 贈与には贈る、受け取る、返礼する、神に贈る義務が存在。神への贈与は税に変わり、民間の贈与はルーティン化、形式化していく。贈与は物資の調達、商品の交換、贈与の再利用へと変わり、商品経済に近づく。

スディール・ヴェンカティシュ(望月衛)(2009)『ヤバい社会学』東洋経済新報社 社会のコミュニティの人たちと一緒に暮らして観察するエスノグラファー(民族誌学者)。エスノグラファーとしての、黒人コミュニティとギャングの生活の調査ノートから彼らの生活を臨場感たっぷりに語る。

小出裕章(2011)『原発のウソ』扶桑社新書 福島第一原発の処理には大量の人員が必要であり、人と工事車両や機械が放射能で汚れる。今でも放射能は漏れ続けている。原発はウランを燃やした後の死の灰を生み出しながら、発電コストも安くない。高速増殖炉のもんじゅも危険だけで行き詰まっている。


<その他>

浅見雅一・安廷苑(2012)『韓国とキリスト教 (中公新書)』中公新書 韓国のキリスト教は北京から伝播し、最初はヨーロッパの学問(西学)として受容され、次いで「西教」として伝播。儒教社会で成立した東学=天道教がキリスト教理解の下地になった。教会の大型化と個別教会主義が弊害。

笠井奈津子(2011)『甘い物は脳に悪い-すぐに成果が出る食の新常識』幻冬舎新書 食べ過ぎ食べないのも体に良くない。朝食を取り、ウツには良質のタンパクを、ストレスには野菜果物のビタミンCを。朝の果物は投資効果が高い、糖分の取りすぎは感情の起伏が激しくなる。

姫野友美(2011)『成功する人は缶コーヒーを飲まない』講談社+α文庫 糖質の取り過ぎにより低血糖症に。血糖調整を乱さないように糖質(特に精製された砂糖)を避け、タンパク質を取る。実験によると砂糖は依存性が確認。メタボ、糖尿、うつには糖質を減らす食事が有効。

谷川流(2003)『涼宮ハルヒの憂鬱』角川文庫 世界の不思議や宇宙人、未来人、超能力が気になる涼宮ハルヒ。世界の単調さに飽きていた主人公は不思議な涼宮ハルヒとSOS団というクラブを結成。不思議な出来事に出会うのは涼宮ハルヒの無意識な期待だったのか?

飯田一史(2012)『ベストセラー・ライトノベルのしくみ-キャラクター小説の競争戦略』青土社 ライトノベルは文学からレベルの低いものと見られてきたが、商業的価値は高い。顧客を10代オタクに絞り、楽しい、ネタになる、刺さる、差別化要因を提供している。

竹中均(2012)『精神分析の自閉症-フロイトからヴィトゲンシュタインへ』講談社 無邪気な子供が抱いた欲望は他者や社会に禁止され社会的規範を内面化する。自閉症の社会理解の困難と定型の違い、部分と全体の認知の違い、ライトノベルとの共通なセカイ観、社会の構造化など。

マーサ・スタウト(喜須海理子)(2001)『おかしい人を見分ける心理学-PTSD、うそつき、多重人格-あなたの身近な人の心の闇をのぞく』はまの出版 恐怖や嫌な出来事に対して意識や感情を切り離す解離。現実に対応する能力だが、自分を偽ることにもなる。過去のトラウマに向き合う必要も。

チャールズ・V・フォード(森英明)(2002)『うそつき―うそと自己欺まんの心理学』草思社 自分にとって不都合な外の世界の出来事は、自負心を調整するために、自己欺まん、弁明が行われ、内的世界に書き換えられる。自己欺瞞を調整する能力を失うと病的なうそつきとなる。

百田尚樹(2012)『影法師』講談社文庫 身分の低い勘一は父を切られた。匿ってくれた家の彦四郎と出会い、藩校では共に友となるも勘一は彦四郎にかなわない。勘一は、順調に出世し国の財政を支える干拓事業に成功し国家老に。しかしその裏には彦四郎の影が。

百田尚樹(2009)『風の中のマリア』講談社 オオスズメバチの帝国の女王・アストリッド。この働きバチとして仕事を全うするマリア。オオスズメバチの巣の一生と新たな巣の始まりを交尾のできないマリアの目線から。

百田尚樹(2008)『ボックス!』太田出版 電車で絡まれた燿子を助けてくれたのは自分の高校のボクシング部の生徒だった。ガサツな鏑矢と文武両道の木樽、ボクシング部を支えたマネージャー・丸野。高校ボクシングの爽やかな青春。
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2012年11月13日

集合知

集団での意思決定について面白い本を3冊読んだので,まとめて紹介。

まず以下の本(ミラー2010)からミツバチの情況について紹介しています。



ミツバチは,次の巣箱を見つけて集団で移動するときに,偵察バチを数百匹飛ばします。さまざまな候補地を見てきた偵察バチは現在の巣箱に戻ってきて仲間に自分が見てきた候補地がいいことを知らせます。この知らせ方は八の字に飛ぶことによって相手に伝えます。八の字の回転の回数や速さによって候補地の良さを強調したりしているようです。

各偵察バチは自分の候補地の良さをアピールすることによって競争します。その後,他の偵察バチは他者の八の字ダンスをみて,もしかしたら別のハチが見つけてきた候補地がいいかもしれないと思います。するとその候補地を見に行って納得すると,ともに一緒に八の字ダンスを踊るようになります。つまり投票することになります。各偵察バチが自分の見つけた候補地がいいよと主張し,それに賛同するハチを増やす(投票),そうすることによってある程度の数の仲間が増えると,集団的意思決定がなされます。多くの偵察バチが選んだ候補地に全体のハチが移動することになります。

この選択は個人で行うよりも合理的です。一匹のハチがすべての候補地をみて,どれがいいかを決めるのは非常に難しいです。

この意味で,ハチのように皆で決定するほうが個人で決定するよりもよりより結果が導かれます。

このミツバチから学ぶことは,知識の多様性(多くの偵察バチ)を活用,友好的なアイデア競争を促し,選択肢を狭めるための有効なメカニズムが集団的意思決定をよりよいものにするということです。


ペイジ(2009)は数学的モデルを作って,多様な意見が存在する集団の意思決定は,優秀な個人の意思決定よりも結果がよくなることを説明しています。



ただ気をつけなければならないのは,多様な認知の仕方をもっている集団がいいということです。好みのような価値観が多様であるのは集団として意思決定しにくくなります。

多様な認知の仕方とは,さまざまな見方をもつ人たちという意味です。好き嫌いは価値観につながります。文化や生活習慣が違うと価値観が違うためにたとえ認知も違っていても,受け入れがたい,合意がしづらいという問題があります。

それでも言えることは,多様な集団の結論は能力の高い個人よりもいい結果になる,ということです。


最後に,スロウィッキー(2009)の話です。



賢い集団には4つの要件が必要といいます。それは

独立性(他者に左右されない)、分散性(身近な情報に特化)、集約性(個々人の判断を集約するメカニズムの存在)

です。あくまで自分の認知は独立していて,人に左右されず,自分の見たままを情報としてもっておくことが重要です。

もし多様な人が少なく,小さな集団の場合はどうなるでしょうか。

小さな集団は判断を大きく誤らせるといいます。また集団極性化にふれる可能性も高いです。それは相手の意見を聞いたあと自分の意見が左右され,そして人に合わせるという名目のもと安易な妥協が行われるからです。

歴史的にも,日本の軍部の集団的意思決定が間違えていたことはこの事例といえるでしょう。

また集団的意思決定についてスロウィッキー(2009)はこのようにいいます。

「集合的な意思決定は合意形成と一緒ではない。集団の知恵を活用する上で合意は本来的に必要ない。合意形成を主眼に置くと誰かを刺激することもない代わりに誰の感情も害さないような、どうでもいい最大公約数的なソリューションになりやすい。合意志向のグループは慣れ親しんだ意見ばかり大事にして、挑発的な意見を叩き潰すからだ(p.256)。」

組織の意思決定について彼はいいます。

「成功が保証されている意思決定システムはない。複雑で不確実な現実に直面する一人の個人に大きな権限を与えれば与えるほど、まずい判断をしやすくなる。」

となるとやはり多様性のある集団による意思決定がいいということになります。

認知の多様性を確保し,組織の意思決定の参考にするためには,多くの人間による予測市場を設けることがいいといいます。多様な人間が参加して、どの製品が売れるか、リスクを持つか、というのを投票すると,個人よりも確実にいい結果になるといいます。(この辺は,株式市場でインデックスの方がいい成績を残すのとよく似ています。いわゆる市場効率化仮説。)

小集団の中では派閥争い,追従やへつらいが起こり,安易な妥協が起こり,意思決定はまずいものになります。また組織内の立場が高ければ知識や情報も豊富でいい決断できるという思い込みは弊害だと切り捨てています。

市場経済や公共選択(民主主義的意思決定)の意味を考える上で,非常に参考になりました。


<参考文献>(オススメ順)
ジェームズ・スロウィッキー(小高尚子)(2009)『「みんなの意見」は案外正しい」角川文庫
ピーター・ミラー(土方奈美)(2010)『群れのルール』東洋経済新報新報社
スコット・ペイジ(2009)『「多様な意見」はなぜ正しいのか』日経BP社
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2012年11月06日

2012年10月読書ノート

2012年10月読書ノートです。

今回のオススメはこれです。



正直言って,今までの中で最高の金融の教科書です。金融を知らない人でも貨幣の成り立ち,銀行の仕組み,中央銀行,金融のグローバル化等々が理解できます。金融知識を持っていない人に平易に易しく説明しており,世の中の金融システムを理解することができます。

タイトルも刺激的です。今の金融システムを批判しているところも参考になります。授業の副読本にもオススメです。


<経済学>

マウリツィオ・ラッツァラート(杉村昌昭)(2012)『〈借金人間〉製造工場-負債の政治経済学』作品社 負債は債務者の行動を規律付け債権者の期待する行動を取るように強いる。経済的権力を行使するために人を負債に追い込む。新自由主義政策は債権者/債務者の権力関係を構築。

ピーター・ストーカー(北村京子)(2012)『なぜ、1%が金持ちで、99%が貧乏になるのか?――《グローバル金融》批判入門』作品社 支配者(中央銀行)がもつ通貨発行権、預金を貸出する銀行。金融機関は新たな預金と貸付の方法を多様化させ、その差額を銀行の懐に。多様化金融商品が危機を生む。

マリー・ラヴィーニュ(栖原学)(2001)『移行の経済学-社会主義経済から市場経済へ』日本評論社 ソ連、東欧に現存した社会主義経済の歴史、実績、改革を振り返り、体制移行のための政策、民営化、西側経済との統合を論じ、市場社会主義に迫る。

ヨラム・バウマン(山形浩生)(2012)『この世で一番おもしろいマクロ経済学――みんながもっと豊かになれるかもしれない16講』ダイヤモンド社 マクロの二大目標は経済成長と経済崩壊を説明すること、古典派はマクロ経済は円満な家庭と、ケインジアンは崩壊家庭とみる。貿易、人権、保護主義、貧困、外国為替、温暖化、高齢化まで。


<中国>

高橋伸夫(2006)『党と農民-中国農民革命の再検討』研文出版 農村に入った共産党は孤立した革命拠点で共産主義化を行った。党組織としては散漫であったし,農民は従順に共産主義を受け入れたのではなく,「勝手に」包摂した。マルクス路と名付けた裏では纏足など普通の農村があった。

鈴木隆(2012)『中国共産党の支配と権力-党と新興の社会経済エリート』慶應義塾大学出版会 2001年7.1講話より新社会層(私営企業家、外資企業の管理職、弁護士・会計士など)への共産党への取り込みを開始。彼らをリクルート、公職への登用など意見の表出場を提供。党の支配手法分析。

浦田秀次郎・栗田匡相(2012)『アジア地域経済統合 (アジア地域統合講座テキストブック)』勁草書房 市場誘導から制度誘導型の地域統合へ、空間経済学、CGE、重力方程式の基本を抑えて、アジアの通貨統合、債券市場、環境・エネルギー、貧困と格差など統合に関わるトピックスを幅広くカバー。13章中国は私も執筆w


<自己啓発>

梅原大吾(2012)『勝ち続ける意志力』小学館101文庫 日本で最初のプロゲーマー・ウメハラが語るトップでい続けるための考え。常に変化していくこと、変化しているかどうかは失敗があるかどうか。継続の中に小さな変化で成長を感じ、満足する自分でありたい、と。

原田隆史(2008)『カリスマ教師の心づくり塾』日経プレミアシリーズ 挨拶、時間厳守、すさみの除去、肯定的ストロークで態度教育を行う。なぜやるのか意味付けを行い、長期目標を設定する、心をきれいにする価値観教育を。目標目標到達のため期日目標とルーティン行動をチェックする職能教育も。

原田隆史(2005)『成功の教科書-熱血!原田塾のすべて』小学館 「成功とは、自分にとって価値のあるものを未来に向かって目標として設定し、決められた期限までに達成すること』。成功すると決めて、小さな成功を積み重ねる。書くこことでイメージを膨らまし、期日目標とルーティン目標を設定。

キャシー・バーカー(浜口道成)(2004)『アット・ザ・ヘルム-自分のラボをもつ日のために』メディカル・サイエンス・インターナショナル 自分の研究室を持った段階でどのように研究室を運営するか、リーダーとして、仲間との仕事,予算管理、実験、論文の書き方など研究室運営マニュアル。

山本佳世子(2012)『研究費が増やせるメディア活用術』丸善出版 役に立つか面白いか、遅れない情報か先をいく情報か、価値とオリジナリティ、どちらか一方は必ず必要。研究成果の要旨をまとめる時には、誰が何をして、特徴は何か、効果「従来の◯倍」の三項目を。

<社会>

水島宏明(2007)『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』日本テレビ ネットカフェ難民から見る日本の貧困。派遣が増え働く場が劣化し、存在意義が持てない。雇用保険や労災保険を負担しない企業が増加し、利益を追求するのみ。社会が劣化し日本の活力を回復させるためにセーフティネットを。

神門善久(2006)『日本の食と農-危機の本質』NTT出版 優良農地を持っている農家ほど転用による土地販売を期待するため農地の有効利用や生産効率に目はいかない。転用機会を伺って補助金を得続ける。転用・遊休地防止の運用が恣意的で新規参入には慎重。

海老原嗣生・倉部史記・諸星裕・山内太地ほか(2012)『危ない大学』洋泉社新書y SNSでバカ学生をスクーリング、数年後には薬学部はピンチ、教授会は既得権益を守るだけ、大学中退の現状、面倒見のいい大学、マッチングする大学の選び方など。

山内太地(2012)『22歳負け組の恐怖』中経出版 大学の就職力は金融業でわかる、コミュニケーション能力を高めてくれる大学に、異文化を知り他者を理解する気持ちを、専任教員一人当たりの学生数が少ない大学を、大学の施設を使い倒す、など若者への熱いメッセージ。

中澤俊輔(2012)『治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)』中公新書 日ソ国交樹立,共産主義思想の「結社」取り締まりから1925年に治安維持法が成立。政党の力が弱くなるなかで「宣伝」を含むように。共産党,宗教団体,植民地までにも拡大。

荻野富士夫(2012)『特高警察 (岩波新書)』岩波新書 特高警察とは「戦前日本における自由・平等・平和への志向を抑圧統制し,総力戦体制の遂行を保障した警察機構・機能」である。特高警察の新たな取り締まり対象を求めて自己増殖していく過程を明らかに。

鶴見済(2012)『脱資本主義宣言-グローバル経済が蝕む暮らし』新潮社 資本主義がもたらした金儲け主義。消費を増長させる企業の戦略、消費者の大量消費が海外の資源を浪費し、底辺の労働者を搾取している。生産から消費は生から死への流れであり、我々が重視すべきは再生だ。

吉田典史(2012)『震災死 生き証人たちの真実の告白』ダイヤモンド社 被災者は防災無線が聞こえない、市の対応が問題などと答えるが、遺族は津波をなめていた、油断していたなど自分を責める。津波の恐ろしさを捜索側、検死医師の証言などで震災に迫る良書。亡くなられた方に合掌。

中村雅彦(2012)『あと少しの支援があれば 東日本大震災 障がい者の被災と避難の記録』ジーアス教育新社 様々な障がいを持つ人々の被災記録、福祉施設の奮闘など。発達障害者は人の多い避難所は生活困難、身体障害者には介助の設備が必要など、福祉避難所ができないものか。


<その他>

ピーター・ミラー(土方奈美)(2010)『群れのルール 群衆の叡智を賢く活用する方法』東洋経済新報新報社 仲間との単純な相互作用でアリは自己組織化、ミツバチは多様な選択から投票などで優れた結論を導く、シロアリは個体が仲間の努力を引き継ぐ間接的協業、ムクドリは群れの仲間に従う適応的模倣によって賢い群れになる。

ジェームズ・スロウィッキー(小高尚子)(2009)『「みんなの意見」は案外正しい (角川文庫)」角川文庫 優れた意思決定には認知的多様性が不可欠。ソリューションの選択肢を増やし、問題を新しい視点から検証できるようになるのが多様性の効果。均質な小集団は内部への依存度が増し、外部の意見から隔絶。

スコット・ペイジ(水谷淳)(2009)『「多様な意見」はなぜ正しいのか』日経BP社 認識の多様性は恩恵をもたらし、基本的な好み(価値観)の多様性が問題を生む(公共財の供給を減らし人々の仲が悪くなる)。多様な集団の結論は能力の高い個人よりもいい結果になる。

村上靖彦(2008)『自閉症の現象学』勁草書房 自閉症児の発達の特徴は、定型発達児が自然に成立させる経験の構造を、後から意識的に作り上げていく点である。新たな経験構造を獲得する、自分の持っている資源を活用して自分を作り上げていく「脱構造化」の療育は可能か。

百田尚樹(2009)『永遠の0 (講談社文庫)』講談社文庫 祖父から実の祖父は特攻隊で死んだことを聞かされた健太郎と慶子。祖父を知る人から話を聞き、祖父が優秀なパイロットであり、祖母のために生きて帰ると約束していたことを知る。それなのになぜ特攻隊に行ったのか。真実は。。。

熊谷早智子(2011)『母を棄ててもいいですか?支配する母親、縛られる娘』講談社 モラ母は正しさや自己犠牲精神を子に押しつける。子は正しさに応えられず、母の自己犠牲精神に申し訳なく思う。母に応えなけれは、支えなければという使命感が重荷になり,自分が生きられなくなる。

ダン・ニューハース(玉置悟)(2012)『不幸にする親 人生を奪われる子供 (講談社プラスアルファ文庫)』講談社+α文庫 不健康な親のコントロールを受けると,子は親よりも幸せに生きることに罪悪感を感じる。自分が被害者であることを認識し,親との境界をもつこと。心の傷をリアルに感じることが自分を解放する。

Dr.タツコ・マーティン(2012)『母の呪縛から解放される方法』大和書房 娘を傷付ける10のタイプの母親(コントロール,被害者,完璧,劣等感,建前,欲求不満,未熟など)とその問題。母からのパターンを切るために自分の考え方を変える。母の呪縛から逃れるためのレッスンも。

松生恒夫(2011)『腸は第二の脳-整腸とメンタルヘルス』河出ブックス 腸管神経は高度に組織化され,腸管機能の自律性、適応性を維持している。脳と同じくセロトニンが重要な働きをするため、腸はセカンドブレインと呼ばれる。大腸がんの予防には野菜、果物、豆、精製度の低い穀物主体の食事で。

伊藤裕(2011)『腸!いい話』朝日新書 人は血管で生きており、血液の配分は30%が消化器官、20%が腎臓、15%が脳と骨格筋。腸は消化器官の代表格。食べる量を減らすことで長寿と腸に好影響。満腹を食べる目標にせず、空腹を楽しむ。
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2012年11月01日

古畑康雄『網民』

古畑さんよりいただきました。



「網民」とはNetizenの中国訳です。ネットを用いて政治的・社会的に積極的に行動,主張する人々を指します。(普通のネットユーザーは「網友」です。)

簡単に内容をまとめると

ネット時代の到来で、自らの意見や身の回りの不正を訴える手段を手に入れた「網民」たち。その手段の代表が微博。政府は微博を交流の場ではなく世論の陣地として見ており、「五毛党」で支配、管理しようとしている。「網民」は当局の規制を巧みにかわすためにパロディ、隠語を発明。ネット用語から中国社会の変化を見る。

というものです。

政治的な自由がない中国で,自由な意見を発言する場というのは貴重です。その意味で,中国のインターネット環境は日本やアメリカとは違うものとなります。

中国のネット空間は世論を形成する重要な場所になっています。ネットを見ることで民間世論と政府の世論誘導のせめぎあいを理解することができます。

インターネットによって中国の民主化につながるのではないかという見方もありますが,筆者は,そうみるのではなく,「草の根レベルで広がりつつある,漸進的な社会変革のプロセスに注目するべき」と主張します。

本書では,ネット用語やその背景を理解することが可能です。その意味でもオススメですが,私は五毛党がどのような形で世論を誘導しているか,政府お抱えのネットユーザーへのインタビューがオススメです。(私も参考にさせていただいた関連エントリはこちら

また県幹部への批判を込めて網民によって作成されたアイコラに対し,県政府もユーモアあふれた回答を寄せることによって世論の流れが変わったところは,「網絡問政」(ネットの意見を政治に反映させる)につながる現象とも言えます。

網民と政府(とくに県政府)がどこまで協調し,どこまで反目しあうのか,これが中国社会の趨勢を占うといえるかもしれません。

おもしろい本でした。ありがとうございました。
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2012年10月09日

2012年9月読書ノート

2012年9月読書ノート

今回は中国工場の現状がよくわかる以下をオススメ。



アメリカのヘルスケア商品を扱う輸入業者が中国の陳姐の工場に生産委託。新しい製品であってもすぐにサンプルを作るとともに,価格交渉でも工場側が強くなっていく様子をルポ形式で語っています。

この本とともに以下も一緒に読むことをおすすめします。世界の工場・中国で起きていることが非常によくわかります。




<経済学>

安富歩(2010)『経済学の船出-創発の海へ』NTT出版 現代資本主義は貨幣的利潤を生む「関所」によって成立している。この社会では情報が過剰になりコミュニケーションが不足している。そうすると人々の暗黙知が作動せず,創造性が発揮されない。

安富歩(2008)『生きるための経済学』日本放送出版協会 現代経済学は相対性理論,熱力学第二法則,因果律という物理学の根本法則を否定している。経済学が守ろうとしている「選択の自由」は,実際には行使不能な自由である。

ポーラ・シューマン,ジェニー・アンダーソン(永井二菜)(2012)『夫婦仲の経済学』阪急コミュニケーションズ 毎日夫婦仲良く笑って暮らせるか。家事、子育て、セックスに自分の時間や労力を配分するという経済学観点から、夫婦が幸せになるための方法を実例をあげ、経済学的回答を与える。

レン・フィッシャー(松浦俊輔)(2010)『日常生活に潜むゲーム理論』日経BP社 私たちの生活には、全体にとって最善の結果を生むのは協調なのに、個々人は自分の理を図る論理によって、協調に対してズルをしてしまう。日常のジレンマから抜け出すための協調するためのヒントを紹介。

宿輪純一(2010)『通貨経済学入門』日経新聞社 為替レートは安定いていた方がよい。調整結果としての安定した変動為替制度、そして究極的には世界単一通貨(通貨同盟)の方向へ。SDR(特別引出権)や東アジア共通通貨構想、通貨の電子化はその方向。

小長谷一之・前川友史(2002)『経済効果入門: 地域活性化・企画立案・政策評価のツール』日本評論社 産業連関分析の基本を移輸入に着目して説明し、波及分析に必要な市町村表の推計、産業格付けの手法も公開。都市開発、イベント、景観文化環境の経済効果事例も。

<中国>

デイヴィッド・ツェ,古田茂美(2011)『関係(GUANXI)-中国人との関係のつくりかた』ディスカヴァー・トゥエンティワン 未整備な法やシステムに代わって資源配分を行う関係(グワンシ)。リスク軽減といったメリット,社会的な資源を個人のものにしてしまう腐敗,という問題もある。

王曙光(2002)『海爾(ハイアール)集団-世界に挑戦する中国家電王者』東洋経済新報社 品質の悪い製品はハンマーで叩き潰す,パフォーマンスで有名になった中国の総合家電メーカー・ハイアールを,起業,張瑞敏,品質,サービス,技術面,社内競争,人事管理制度から明らかにし,世界進出まで。

ポール・ミドラー(サチコ・スミス)(2012)『だまされて。―涙のメイド・イン・チャイナ』東洋経済新報社 ヘルスケア商品を扱うアメリカの会社が中国広東の陳姉さんに生産を委託。輸入業者はサンプルを持ち込み,生産可能とみると生産を委託。製造元は技術力をもち,ニセモノ生産や価格交渉で巧みに輸入業者を翻弄する。

毛里和子・松戸庸子編(2012)『陳情―中国社会の底辺から』東方書店 陳情は国家制度であるが、権利救済機能に特化し、解決率は極端に低く、陳情者が処罰される陳情狩り、などの問題あり。中央に対する期待、他の代替メカニズムがなく、陳情が社会全領域に浸透しているため陳情ラッシュを生む。

王瑾(松浦良隆)(2011)『現代中国の消費文化-ブランディング・広告・メディア』岩波書店 中国消費者はマスではなく多様。贈り物文化と面子消費と共に安全性訴求が中国消費者。ブランディングの開始は90年代。中国のメディアでは依然テレビは重要。中国のメディア政策と広告についても。

王曙光(2004)『現代中国の経済 (現代中国叢書)』明石書店 78前の実務派の復帰、生産請負制や経済特区の設立、84からの放権讓利、89年の挫折、92年から外資ラッシュと国有企業改革、96年からの外資は地域傾斜から産業傾斜へ、01WTO加盟とグローバル化、西部開発へ。コンパクトな中国経済史。

周牧之(2007)『中国経済論―高度成長のメカニズムと課題』日本経済評論社 IT産業のモジュール化により中国経済はグローバルネットワークに組み込まれ世界の工場に。中国経済を牽引するのは京津冀、長江デルタ、珠江デルタというメガロポリス。地域間競争が中国の高度経済成長を牽引。

フランソワ・ジュリアン(興膳宏小関武史)(1997)『無味礼讚-中国とヨーロッパの哲学的対話』平凡社 思弁を重んじるヘーゲル的視点からは、中国思想、美術、諸芸術は味がないものである。しかし、無味は私たちの知覚可能な経験の領域に留まり、最も味の深いものになる。


<自己啓発>

高橋政史(2011)『すべての仕事を紙1枚にまとめてしまう整理術』クロスメディア・パブリッシング 整理の基本は見通し・仮説を立て、分けて、重み付けを行い、不必要なものを削り捨てること。問題のポイントを明確にするSの付箋、資料作りの16分割メモなど紙一枚でまとめる具体的ノウハウ。

内田和成(2008)『スパークする思考-右脳発想の独創力』角川oneテーマ21 情報は整理せずに頭の中でインデックス化(レ点をつける)していく。思い出せない情報は重要でないとの割り切りも必要。情報は無理して集めず,頭の中で放っておく。好奇心や問題意識がアイデアをスパークさせる。

中島孝志(2006)『あなたの「言い分」はなぜ通らないか』講談社+α新書 相手を気分よくさせる、聞き役に回る、間接的に褒める。切り返しには責めるのではなく、最終的な目的を意識して。基本は言葉を心に届けることができるかどうかである。

呉真由美(2009)『呉真由美流脳を活性化する速読メソッド-情報処理速度100倍アップ』PHP研究所 速読は脳を活性化させるための理想的な入口。情報処理が速くなり、視野が広がる。速読トレーニングでは過去の固定感覚を捨てて新しい感覚を獲得することが大事。

山本佳世子(2012)『研究費が増やせるメディア活用術』丸善出版 役に立つか面白いか、遅れない情報か先をいく情報か、価値とオリジナリティ、どちらか一方は必ず必要。研究成果の要旨をまとめる時には、誰が何をして、特徴は何か、効果「従来の◯倍」の三項目を。

<社会>

坂爪真吾(2012)『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱 (小学館101新書)』小学館101新書 障害者への射精介助をという福祉活動を始めたNPO法人ホワイトハンズ。行政、警察との軋轢、社会からの批判から見えてくるセックスリテラシーの問題を明らかにする。良書。

ダンカン・ワッツ(青木創)(2012)『偶然の科学』早川書房 私たちは物事を理解していると思いながらも実際は最もらしい物語でごまかしているだけ。常識にとらわれないで、もてるアプローチで人々の行動、世界の仕組みに迫るしかない。

橘木俊詔・八木匡(2009)『教育と格差―なぜ人はブランド校を目指すのか』日本評論社 上級学校進学率は高まるだろうが卒業学校のレベルは昇進にあまり関係なくなってきている。教育の機会格差とは公的部門の教育費支出が少ない中各家庭がどれだけ教育費負担ができるかということである。


<その他>

クリスティーヌ・ローソン(遠藤公美恵)(2007)『母に心を引き裂かれて-娘を苦しめる境界性人格障害の母親』とびら社 感情の起伏が激しく見棄てられ不安をもつ境界性人格障害をもった女性が母親になった時、娘は罪悪感、怒り、自己憐憫に陥る。母との関係で作られた仮の自分から本当の自分に。

クラウディア・ブラック(水澤都加佐監訳)(2003)『子どもを生きればおとなになれる-「インナーアダルト」の育て方』アスク・ヒューマン・ケア 否認や孤立、恥辱感など子供の頃に「喪失」したものの結果、その痛みに対する抑圧された感情や行動の反応が今の自分の問題をもたらす。

信田さよ子(2008)『母が重くてたまらない-墓守娘の嘆き』春秋社 同志として騎手としての母性は、子の結果を自分の成果とする。子は母への感謝を強要する。殉教者や自己犠牲の母性は空虚ゆえに子に憑依する。憑依された子は母を犠牲にしたのは自分と思う。

東ちずる・長谷川博一(2002)『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか』マガジンハウス 母の期待に応えるために自分を殺し、自分らしく生きている実感が持てなかった東ちずるさん。自分と母のカウンセリングで母も同じように自分のために生きていないことがわかる。母娘のカウンセリング記録。

長谷川博一(2005)『お母さんはしつけをしないで』草思社 しつけが支配と従属の関係を学ぶ機会に変わりやすい。叱りはさらに叱られる行動を産む。子の失敗に干渉しないことによって子は失敗を受容し、自分の力でできるように。おねしょが治らない子におねしょしていいと「反対のことば」は有効。

芹沢俊介(2005)母という暴力]』春秋社 自分を表出する「わがまま」とそれを認めて受け入れる母性と自分の思い通りにしたいという母の「暴力」。母性は暴力と無縁であるという神話を解体することによって、母という存在を暴力から解放する。

斎藤学(1998)『インナーマザーは支配する-侵入する「お母さん」は危ない』新講社 母に愛されたい子は母の態度に左右される。愛されないのは自分のせいと自己呵責、罪悪感を持ち、自分に対する苛酷な批判者(インナーマザー)となる。心の中に作り上げた母像と自分は別であることに気づく。

佐治晴夫(2012)『14歳のための時間論』春秋社 物理学の基礎,時間をわかりやすい言葉で解明。時間は空間を伴い、人それぞれが違う時間の流れにある。人生を生きることが時間であり、未来も過去も存在しない。あるのは今のみ。これからどう生きるかがこれまでどう生きて来たかを今が決める。

砂田利一、長岡亮介、野家啓一(2011)『数学者の哲学+哲学者の数学-歴史を通じ現代を生きる思索』東京図書 古代・中世の哲学の中心にあった存在論、デカルト以降の認識論、ここまで数学と哲学は密接であった。20世紀の存在論、ハイデガーあたりになると哲学と数学との距離が広がる。
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2012年10月02日

『中国経済論-高度成長のメカニズムと課題』

中国経済論って,タイトルからして総花的なイメージがわきますが,今日紹介するのはいい意味でタイトルに裏切られた一冊,



です。電子機器産業のモジュール化と都市化についてうまくまとめています。そこにハイライトをあてて紹介。

まとめてみると

IT産業生産のモジュール化により中国経済はグローバルネットワークに組み込まれ世界の工場になった。中でも中国経済を牽引するのは京津冀、長江デルタ、珠江デルタというメガロポリスである。メガロポリスの地域間競争が中国の高度経済成長を牽引した。

です。

先進国の経済発展をふり返ってみると,少品種大量生産というのが基本でした。この生産方式は規模の経済性が働くので,大量に生産すればするほど安価につくることが可能になります。この結果,経済の利益は大量生産を可能としたフォード・テイラー式生産を採用したアメリカを中心とする先進国でした。

ところが,情報革命により状況が変わります。電子製品はモジュール化され,物流の発達も加わって,最適な場所での生産,最適な場所での調達が可能となりました。この革命はグローバルなサプライチェーンを形成させ,またサプライチェーンが拡大することとなります。サプライチェーンの拡大とともに基幹部品のモジュール化により途上国の工業化も容易になったと筆者は指摘します。

このような世界経済の流れの中で,中国はインフラ整備が進み,世界の華人社会のネットワークと融合し,3大メガロポリスが形成されるようになります。

とくに長江デルタは江蘇や浙江に集積した郷鎮企業や外資系企業のセンター機能をもつハブとしての役割を果たすようになりました。珠江デルタでは多種多様な電子電機産業が集積し,グローバルサプライチェーンの一部に組み込まれることとなります。

しかし,課題もあります。

メガロポリス形成は地域経済が主体です。地方財政は自給自足が原則であったために,各地方は土地開発に夢中になっています。(土地バブルの発生。)

構造的な問題もあります。戸籍制度は基本的にはアンチ都市化の役割を果たしているために順調な都市化が進めにくいこととなります。移動した農村戸籍の人々は構造的に格差が固定されることとなります。

また都市化自体の問題もあります。ヒートアイランド現象の発生,渋滞,居住環境の悪化などです。メガロポリスとしてどのようにあるべきか,そのありようが問われるようになっています。

中国の経済発展を都市や地域の発展からみるいい本でした。
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2012年09月11日

2012年8月読書ノート

2012年8月読書ノート



今月は,『学び合い』の本です。現在,小中学校を中心に一部の先生が『学び合い』を導入しています。これは,生徒自らが課題を解決するという主体的な学びを模索するものです。小中高を対象として『学び合い』の導入についてさまざまなヒントが書かれています。

私もチュートリアルなどに導入して,学生自らが学ぶ主体性の授業に取り組んでいます。

<経済学>

山下一仁(2010)『農業ビッグバンの経済学』日経新聞出版社 減反を廃止して米価を下げれば、兼業農家は生産から退出し、農地を貸し出す。一定規模以上の主業農家に直接支払いを交付、地代支払いを補強すれば、主業農家の規模拡大・コスト減少をもたらすことができる。

A.M.フェルドマン、R.セラーノ(飯島川島福住)(2009)『厚生経済学と社会選択論[原著第2版]』シーエーピー出版 厚生経済学は市場でパレート最適の解の組を示すが、社会的にどれが望ましいかは投票や多数決を扱う社会選択論である。


<中国>

城山智子(2011)『大恐慌下の中国-市場・国家・世界経済』名古屋大学出版会 大恐慌下において南京国民政府は、為替レートの安定性と通貨の兌換性を維持することを選んだ。自国経済が世界経済と結びついているとき、経済政策形成の自律性を検討するのに大恐慌下の中国は現在にも通じる。

胡鞍鋼(王京濱)(2007)『国情報告 経済大国中国の課題』岩波書店 世界に貿易、GDPなどで影響を与える中国。環境に配慮し、人間開発やソーシャルガバナンスにも目を配りつつ、「全面的小康社会の構築」と「社会主義的な調和のとれた社会」を目指す。

呉軍華(2008)『中国 静かなる革命』日経新聞出版社 官製資本主義の中国は、腐敗や所得格差という問題に直面し現行体制を改めようという圧力が存在。政治改革は既得権益層にとっても有利であり、2022年までに共産党一党支配の現体制から民主主義的な政治体制に移行する。

清水美和(2002)『中国農民の反乱 ――隠された反日の温床 (講談社+α文庫)』講談社 地元の企業を思うままに管理する村の党幹部が土皇帝化し、それに反抗する農民の代表、農民領袖。第三の農村革命と言われた2001年からの農民負担軽減。村の選挙,都市の出稼ぎ農民の二等公民的状況など、現場からのルポ。

唐亮(2012)『現代中国の政治――「開発独裁」とそのゆくえ (岩波新書)』岩波新書 中国の近代化戦略を開発独裁路線と位置づけ、党組織と全人代の仕組みを説明し、上からの政治改革と下からの民主化要求を検討。国力、公共サービスの充実、格差の縮小、中間層の成長など初期条件が整うと民主化の軟着陸が可能。

倉田徹(2009)『中国返還後の香港』名古屋大学出版会 中港関係が良好だったのは、中央ー地方関係の確立、繁栄と安定という共通目標、中華ナショナリズムが求心力として働く。一国二制度は防壁効果があり、香港の独自性が維持されることとなった。

川上桃子(2012)『圧縮された産業発展 -台湾ノートパソコン企業の成長メカニズム-』名古屋大学出版会 台湾ノート型PC受託生産企業は、学習者として顧客情報を取り込み急速な成長を遂げ、2000年代初頭を境目に顧客からの情報を提案するようになり、世界一の生産企業群を輩出した。

小島朋之(2008)『和諧めざす中国』芦書房 和諧社会の構築を目指す胡錦濤政権。党勢の拡大と腐敗への対処、三農問題の解決、群体性事件の頻発、2007年の県区郷鎮全人代の選挙、反日運動と対日外交のバランスなど、2005年から2007年までの中国動向の記録。(小島先生の遺作)

<自己啓発>

成毛眞(2008)『本は10冊同時に読め!』知的生き方文庫 場所ごとに読む本を変え、一日に何冊もの本を目を通す超並列読書術。ジャンルがバラバラの本を自分に必要な情報以外は読み捨てていく。たくさんの多様な分野の本を同時に読むことによって新たなアイデアにつながる。

大前研一(2008)『私はこうして発想する』文春文庫 新しいアイデアに至る過程は、先入観を疑う、ネットワークから考える、他にないものを目指す、歴史から教訓を引き出す、敵の立場で読む、討論する、である。BBT大学院大学の設立を事例に。

山崎将志(2010)『残念な人の思考法』日経プレミアシリーズ 仕事の成果はプライオリティの正否と適否と能力、やる気で決まる。正否とは状況にかかわらずその時の選択は正しいこと、適否とは条件次第で優劣順位が変わる。残念な人はプライオリティの正否と適否を考えないことである。

加藤昌治(2003)『考具』TBSブリタニカ 日常を意識するだけでいろいろな情報が手に入る。ビジネスで実行可能な企画は何を、どうする、という2つの要素がある。マンダラアートを中心にポストイット、マインドマップで手書きで浮かんだものを拡げて書く。5W1Hで具体的な企画書にする。

中島孝志(2004)『仕事の道具箱』青春出版社トヨタ流のムダ取りで一日を改善、10分というニッチタイムを活用、ポストイットは最強のメモツール、カードを作り分類、新たなキーワードカードを出すKJ法、やりたくない、そうなってほしくないものを書き出す、などの仕事術。

池上彰(2007)『伝える力』PHPビジネス新書 物事を深く理解していないとわかりやすく説明できない。自分が知らないことを知る姿勢が重要。叱るのは一対一、褒めるのはみんなの前。カタカナ語や?性、〜的は本当に理解してるか、そして、それから、ところで、いずれにしても、は使わない。

池上彰(2012)『伝える力2』PHPビジネス新書 共通の因数を()でまとめる因数分解。複数の事柄を伝える時は事柄に共通する内容から話す、因数分解法が有効。長い文を短くすることで主述の対応が明確になる。興味をもったことを調べて学び、誰かに伝え興味を持ってもらう、という知の循環を。

M.J.アドラー、C.V.ドーレン(外山滋比古槇未知子)(1997)『本を読む本』講談社学術文庫 積極的な読書には、何に関する本か、何が詳しく述べられているか、などを問いかける。組織的な拾い読みをする点検読書、徹底的に読む分析読書、同じ主題の本を何冊も読むシントピカル読書、など。

リチャード・カールソン(小沢瑞穂)(1998)『小さいことにくよくよするな!』サンマーク出版 何かが期待通りにいかないとき、憤慨したり悩んだりする。期待を捨てて人生をあるがままに受け入れると、自由になる。なにかにしがみつけばきまじめになり、緊張する。なにかを手放せば軽くなる。

<社会>

臼杵陽(2011)『アラブ革命の衝撃-世界でいま何が起きているのか』青土社 中東、アラブとイスラームの違い、アメリカ主導の民主化では、選挙で勝つイスラーム政党は反米になる矛盾などがある。オスマン帝国が解体される中で民族、宗教問題が発生し、これらは「東方問題」と呼ばれた。

高山マミ(2012)『黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在――シカゴの黒人ファミリーと生きて』亜紀書房 黒人コミュニティではドラッグ、社会福祉に依存し、シングルマザーを生む。黒人の強い被差別意識はファミリーやコミュニティで増幅、貧困やコミュニティからの脱却は白人になったとしてコミュニティの憎悪を生む。


<その他>

足立恒雄(2002)『無限の果てに何があるか-現代数学への招待』光文社知恵の森文庫 数学の基礎として整数から虚数へ,代数を支える幾何学は非ユークリッド幾何学へ,数学の基礎は集合論であることが示される。しかし自分の正しさは自分では証明できない(ゲーデルの不完全性定理)。

春日真人(2011)『100年の難問はなぜ解けたのか-天才数学者の光と影』新潮文庫 四次元宇宙(空間)の表面の形を特定することにも関連するポアンカレ予想。宇宙は8種類の形からなるとするサーストンの幾何化予想。ペレリマンは2002年に問題を解く。

西川純(2012)『クラスがうまくいく!『学び合い』ステップアップ』学陽書房 子供同士をつなげ,遊んでいる子,わかっているふりをする子,孤立する子をなくしていくのは,教師の一貫した語り。教師の求めているものがはっきりわかる課題設定。子どもを信じられると教師の行動も変わる。

常見陽平(2010)『就活難民にならないための大学生活30のルール』主婦の友社 第一志望であってもなくても一度は大学に失望する。大学生活を充実させれば就活もその後の仕事も楽しめる。名物講義をとる、すごい人がいるサークルに入る、夢を意識してアルバイトを選ぶ、など経験を深めるコツ。

玄侑宗久(2003)『禅的生活 (ちくま新書)』ちくま新書 好きなようにするのが自由だと思うかもしれないが、好き嫌いという感情で正確な判断ができないのを禅は不自由と考える。世界は感情や価値判断が作り上げているので、それを転換すると世界は変わる。「一切唯心造」『華厳経』である。

山田史生(2012)『絶望しそうになったら道元を読め!『正法眼蔵』の「現成公案」だけを熟読する』光文社新書 道元の『正法眼蔵』のエッセンスが詰まる「現成公案」。私は今ここにわれとして生きる。仏法に根拠づけられたわれとして生きる時主客未分となり、現実をありのままに受け容れられる。

ネルケ無方(2011)『迷える者の禅修行-ドイツ人住職が見た日本仏教』新潮社新書 人生問題の解決を坐禅に求めたドイツ人僧侶の修行人生。厳しい修行の中で「安泰寺はお前が創る」という師匠の一言、「師匠を創る」のは弟子を大藪先生から学ぶ。生き方を問うのではなく,生き方が問われている。

津村俊充・山口真人編(2005)『人間関係トレーニング[第2版]』ナカニシヤ出版 体験学習とは、私たちの日常生活の体験から意識せずに学んでいる学び方を教育方法として構造化したもの。個と集団がともに体験し、ふりかえることによって個と集団が成長する。

諏訪茂樹(2000)『人と組織を育てるコミュニケーション・トレーニング』日経連出版部 コミュニケーションは人を喜ばせ、悲しませたりする。またコミュニケーションは集団組織での問題にも影響する。参加者同士が自らコミュニケーションに参加し、個人と組織の変化をもたらすトレーニング集。

山口真弘(2011)『「自炊」のすすめ 電子書籍「自炊」完全マニュアル』インプレスジャパン 書籍を分解して電子化する自炊。個人の本を個人で電子データで使うのは問題なし。書籍を減らせる自炊のやり方、必要機材、裁断のコツ、スキャンの設定、データ管理、アプリと電子ブックリーダーの解説まで。
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2012年08月14日

『圧縮された産業発展』

この間,東芝のウルトラブックを買いましたが,台湾のASUSとどっちにしようか迷いました。それほど現在のノートPCでは台湾製の存在は大きいです。

台湾PC産業の成長および中国大陸での展開を理解するのにいい本を読みました。



本書の主張は

台湾ノート型PC産業の発展過程は「プロセス圧縮型」であったこと,2000年代初頭までは台湾企業がブランド企業の受託生産を通じてキャッチアップする過程であったが,2000年代初頭以降,プラットフォームリーダー(インテル)のコア技術が半製品化されることによって,ブランド企業の役割は低下し,台湾企業は顧客の声にそった新たな製品の提案を行い,独自企業として成長していった。

というものです。

PC産業内での台湾PC企業の成長過程を分析しつつ,企業の能力形成のメカニズムを明らかにしようと試みています。能力というとらえどころのないものを,大量のインタビューで肉薄し言語化しようとしています。

PC産業を分析するにあたって,プラットフォームリーダー,ブランド企業,台湾の受託生産企業の3つのアクターを設定しています。プラットフォームリーダーとは,プラットフォームという他社が製品を作るのに必要な基盤製品を開発し提供する企業のことです。PC業界ではインテルがその位置づけにあります。とくにノート型PCの生産においては,CPUとLANを内蔵する基盤製品が重要で,これを元に各社がオリジナリティを加えつつ製品を開発していきます。

「ノート型PCは米国で誕生したPCの基本的な技術構造のうえに,日本企業が可搬性という新たな価値を付加することで生み出された製品」(p.24)です。そのために産業内分業を行うにあたって例えば台湾企業のような新興国企業にとっては下請け生産として組み込まれます。

台湾企業は受託生産からスタートして生産に関するノウハウを学習し,自社製品の開発へとキャッチアップしていきます。川上はこれを「「情報の受け手」としての能力構築」(第4章)として論じています。2002
-3年ごろまでに,台湾企業は「製品設計・量産からロジスティクス対応までを幅広く効率的にこなすための「能力パッケージ」を獲得し,従来のノート型PC生産の主役であった日本企業によるものづくりのレベルへのキャッチアップをほぼ果たし」(p.134)ました。

また「能力パッケージ」の形成にあたってはブランド企業から顧客へとつながる情報の流れをつかむことが重要であることが意識されてきました。それが2002-3年以降新たな発展段階へと入っていきます。

2003年に発売されたインテルの「セントリーノ」というノート型PC用のプラットフォームを発売しました。これによりインテルブランドがより注目されるとともにPCメーカーとしてのブランド企業のブランドは相対的に低下していきます。またPC自体がコモディティ化していきます。これによりブランド企業の役割が「埋没」していきました。台湾企業は受託生産を拡大させながら2001年のノート型PCの対中投資の解禁措置とあいまって,中国での生産量が拡大していきます。

台湾企業は顧客からの情報,そしてインテルからの情報を取り込みながら,新製品に対する「価値ある提案能力」が形成されていきます。上位の台湾PC企業はインテルの新製品に関して早い時期から情報を共有し,チップ開発や検証などで協働していきました。これにより更なる台湾PC企業の発展がもたらされました。

本書は,ノート型PCの発展を台湾企業に当てはめながら論じています。プラットフォームリーダーなどの話を読みながら,中国携帯産業の「山塞革命」(前のエントリ)を思い起こしました。重要な基幹部品を一つの基盤として製品化することにより,多くのメーカーが低い技術水準で携帯メーカーとして市場参入を可能にしています。ただの山塞メーカーで終わるのか,山塞から自社プランドを確立する企業が表れるのか,中国の携帯産業やIT産業の発展を理解する上で非常に興味深い分析視角を与えてくれる本でした。
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2012年08月07日

2012年7月読書ノート

中国の輸出第一位は電気電子製品です。ということで以下を紹介。



ちょっと古いとはいえ,この間のアジ研夏期公開講座(前々回のエントリ8月2日)に通じるものがあります。

例えば,PC。1996年にコンパックが低価格パソコンを発表しましたが,その低価格化を支えるたのは鴻海(ホンハイ)精密工業が開発したベアボーンです。ベアボーンとはパソコンケースにマザーボード、電源、CDなどを組み込んだパソコン半製品のことで,この規格化によりカスタマイズが安価に行うことができるようになりました。またこれにより「兼容機」(携帯でいう山塞)の参入も盛んになります。

中国企業はアセンブラー(システムインテグレーター)として,コア技術を購入(垂直分裂)して成長してきたことがよくわかる一冊です。


<経済学>

デヴィッド・G・マイヤーズ(岡本浩一)(2012)『直観を科学する―その見えざるメカニズム』麗澤大学出版会 私たちの生活は直感的な思考に導かれていること、直感は迅速で効率的だが、間違った記憶を構築したり、後知恵で自分は知っていたと推測したり、過大な自己評価したり、間違いも犯す。

ジョージ・エインズリー(山形浩生)(2006)『誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか』NTT出版 将来の出来事を期待される待ち時間に反比例して評価する双曲割引曲線。劣った早期の選択肢が目の前にくると一時的に魅力的に見えてしまい、自己破壊的な選択につながる。

ポール・クルーグマン(1995)『経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)』日経新聞社 1980年代のレーガン・ブッシュ政権では保守派の経済政策は成長を促進することはなかった。保守派経済学が象牙の塔にこもると、戦略的貿易論のような貿易相手国を仮想敵としてみなすような経済政策が政権に入り込む。

松原望(2009)『社会を読み解く数学』ベレ出版 政治は利益を分配する人類の営み。民が自分たちのことを自分で決める民主主義は、コンドルセの投票のパラドックスがあり、パレート最適であっても不公平は残る。そしてアローによって民主主義が不可能であると証明された。

神戸伸輔・寳田康弘・濱田弘潤(2006)『ミクロ経済学をつかむ』有斐閣 情報が完全、取引費用ゼロ、価格所与の完全競争市場に焦点。価格が需給を調整するワルラス調整、効用、利潤最大化の結果としての需給曲線、比較静学と余剰分析。

神戸伸輔(2004)『入門 ゲーム理論と情報の経済学』日本評論社 多数の取引主体が存在せず、少数の企業や人々が取引を行う時はゲーム的状態になる。少数の主体的な取引には情報を持っている主体と持っていない主体との駆け引きとなる。

梶井厚志・松井彰彦(2000)『ミクロ経済学-戦略的アプローチ』日本評論社 2人の経済主体の取引を基本としてゲームの基礎を導入。交渉ゲームとオークションを経て余剰分析と市場取引を分析。情報の存在が戦略に影響を与える。

B.ネイルバフ・A.ディキシット(嶋津祐一菅野隆)(2010)『戦略的思考をどう実践するか-エール大学式ゲーム理論の活用法』阪急コミュニケーションズ 意思決定に直面する相手の出方。相互の関係を踏まえて戦略的に選択する。ゲーム理論の基礎とゲームの性格をどのように変化させるか。

<中国>

毛里和子(2012)『現代中国政治[第3版] -グローバル・パワーの肖像-』名古屋大学出版会 毛沢東、ケ小平、ポストケ小平の政治プロセス、国家、党、幹部、軍の機能と政策形成メカニズム、エリート化する党、陳情政治、民主、中国モデルなど最近の議論も。不動の中国政治論。

遠藤誉(2012)『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』朝日新聞出版 集団指導体制の実質は中共中央政治局常務委員会の9人。先富の江沢民から共富の胡錦濤へ。政治体制改革を訴える温家宝、次期主席候補の習近平。2022年の次々期政権を見据えた「9人」をめぐる駆け引き。

佐藤一郎(2007)『新しい中国 古い大国』文春新書 中国の歴史は革命の歴史。革命は有徳の君主によって指導されなければならない。この原則は古代から現代まで一貫しており、中国における理想の政治である。『易経』に変革肯定の思想と賢君を政権の中心に据える伝統が垣間見える。

加藤隆則(2011)『中国社会の見えない掟-潜規則とは何か』講談社現代新書 潜規則とは、明文化されていないが、集団内で広範に認知され、明文規定以上に実生活を支配するルール。中国式法治、庶民と官僚、漢族と少数民族、中国人と外国人、などに潜むルールを明らかに。

王曙光(2002)『中国製品なしで生活できますか』東洋経済新報社 ユニクロ、パソコンなどメイド・イン・チャイナが世界市場を席巻。生産拠点を移す外資系企業、EMSに強い台湾系、国産化にこだわらない中国国内家電メーカー、低賃金、部品調達、生産調整しやすい体制などか強み。

<自己啓発>

亀田潤一郎(2010)『稼ぐ人はなぜ、長財布を使うのか?』サンマーク出版 お金は夢を最短距離で手に入れるための材料。今手元にあるお金は未来を形作る夢の一片。その一片をパズルのピースを当てはまるように使う。お金に執着するのではなくお金に気持ちを向ける。

多田文明(2012)『崖っぷち「自己啓発修行」突撃記 - ビジネス書、ぜんぶ私が試します! (中公新書ラクレ)』中公新書ラクレ 仕事が減った悪徳商法専門のルポライターが自己啓発書を試しながら、自分の仕事を増やして行くルポ。一年の自己啓発修行の結果「去年とは比べものにならやぬほど仕事に対してアグレッシブな気持ち」になった、と。

トマス・J・スタンリー、ウィリアム・D・ダンコ(斎藤聖美)(1997)『となりの億万長者-成功を生む7つの法則』早川書房 蓄財劣等生は所得の多さ、ステイタスを誇示する品物を自慢し、蓄財優等生は自分たちの成し遂げてきたことの話をする。金持ちは収入ではなく資産が基準,など。

石井裕之(2009)『コールドリーディング入門』フォレスト出版 相手が無口の時は、雑談風に自分の個人的なことを切り出す。相手はフラストレーションから自分の話題にしたくなる。誰にでも当てはまるストックスピールを持っていると、相手のことがわかっていると思われる話ができる。

池田貴将(2011)『未来記憶』サンマーク出版 私たちができないのは過去と現在の記憶で現実を意味づけるから。これをしたらどうなるか、未来の記憶を多くすることによって目標実現に向かう。感情が動く未来記憶は人を行動に駆り立てる。


<社会問題>

マルコム・グラッドウェル(高橋啓)(2007)『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則(ソフトバンク文庫)』ソフトバンク文庫 些細なことから大きな結果が生まれることがある。少数者に粘り強く働きかけ、背景の力を利用すると一挙に物事が動き出す。

マルコム・グラッドウェル(勝間和代)(2010)『採用は2秒で決まる!-直感はどこまでアテになるか?』講談社 天才は概念型であり目標からアプローチ、大器晩成は実験型で試行錯誤で成し遂げていく。公立学校の最下位6?10%の教師を平均的教師と交代させるだけで学校間の差は縮まる,など。

マルコム・グラッドウェル(勝間和代)(2010)『失敗の技術-人生が思惑通りにいかない理由』講談社 問題に対してパズルを解くのではなくミステリーとして解く方が重要に。多くの問題は一部の問題(べき乗則)なのでそこに集中する。詳細な情報は必ずしも正しい判断を生まない、など。

マルコム・グラッドウェル(勝間和代)(2010)『ケチャップの謎-世界をかえたちょっとした発想』講談社 実演販売人はエンターテイナーであると同時にビジネスマンとしてお金を払わさせる方法を知らなければならない。

マルコム・グラッドウェル(勝間和代)(2009)『天才! 成功する人々の法則』講談社 成功は、もって生まれたものだけでもなく、自分の蓄積される優位点だけでもない。生まれの月、場所、親の仕事、どんな環境で育ったか、そして祖先から受け継いだ伝統や態度からも影響する。



<その他>

フワリ(2012)『アスペルガーの心1-わたしもパズルのひとかけら』偕成社(絵本)突然注意されるとパニックになるので先に注意するよと紙に書いて教えてくれるとうれしい。おしゃべりもうれしいな。

フワリ(2012)『アスペルガーの心2-パニックダイジテン』偕成社(絵本)ダメ出しされる、忘れ物する、自分の意見が通らない、わからない時などにパニックになっちゃう。自分の決定は変更しづらいんだ。むりやりはやめて。

ヨースタイン・ゴルデル(1995)『ソフィーの世界―哲学者からの不思議な手紙』NHK出版 この世界は何なのかという問い。自然の物質から、感覚や経験が、或いは理性が世界を認識するというヨーロッパ哲学の基礎から、現代哲学もまた古いことと新しいことが混ぜ合わされている。

長谷川宏(2007)『高校生のための哲学入門』ちくま新書 思春期になって世界とは異質な自分を意識するようになり、自分という存在を問う。社会の目に従って生きる、或いは抗って生きるようになるが、後者は近代社会における個人の確立となる。自然の大きさを畏怖し超現実を信じる宗教との関係。

熊野純彦(2006)『西洋哲学史-古代から中世へ』岩波新書 世界と自然はどこから来たのか、万物の起源や調和を問い、自己の存在に迫る。存在を超えた神と人間の関係を問い、神は全知ならば人の思考は何か、古代の哲学者の思考の歴史。

熊野純彦(2006)『西洋哲学史-近代から現代へ』岩波新書 デカルトは懐疑論から真理を追求、経験に一切の知が獲得されると説くロックの経験論。カントは、知りうるものと知らないものの境界を問い、シェリングは自我に実在性をみた。ウィトゲンシュタインは思考の限界、言語の限界を語る。

熊野純彦編(2009)『日本哲学小史-近代100年の20篇』岩波新書 フランシスコ・ザビエルが西洋哲学もたらした。明治維新前後に儒学的思考が批判され、西洋哲学が受容。井上哲次郎東大アカデミズムの中で西田幾太郎は京都に職を得て、『善の研究』にて我が国初の体系的な哲学書を刊行した。

熊野純彦編(2009)『現代哲学の名著-世紀の20冊』岩波新書 数学者でもあったフレーゲの『算術の基礎』から数と論理を語り、フッサール『イデーンI』から現象学を、ベルクソン『時間と自由』から自由を時間から論じる。共にあることが世界としたレーヴィットなど、テーマ別名著紹介。

熊野純彦編(2011)『近代哲学の名著-デカルトからマルクスまでの24冊』岩波新書 「私」への問いからデカルト『方法序説』、知識を問うロック『人間知性論』、形而上学を成立させたデカルト『省察』、共同性の倫理学を問うスミス『道徳感情論』、マルクス『経済学批判要綱』など。
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2012年07月10日

2012年6月の読書ノート

2012年6月の読書ノートです。

今月の紹介は2冊。





です。『裸の経済学』は経済学の副読本としてよくまとまっていますし,市場メカニズムの理解や政府の役割,そして貿易や開発など経済学の基本がわかりやすく書かれています。ティム・ハーフォード『まっとうな経済学』,ミラー,ベンジャミン,ノース『経済学で現代社会を読む』とともに経済学副読本シリーズの鉄板です。

佐藤百合さんの『経済大国・インドネシア』は現在のインドネシアの等身大をあますところなく示しています。とくに民主化が進んだこと,資源だけでなくさまざまな産業発展を目指していること,人口ボーナスが期待されることなど,インドネシアの現在と将来を見通す上で基本的な文献になること間違いなしです。

<経済学>

チャールズ・ウィーラン(青木榮一)(2003)『裸の経済学』日経新聞社 市場経済は我々の生活をより良くする力であるが、超道徳的。人は動機が重要だが、公共政策を複雑にする。政府は法律や公園造成に役立っているが、軍隊であっても民間を活用すべき。他、生産性、貿易、開発など。良書。

ジョセフ・スティグリッツ,アンドリュー・チャールトン(浦田監訳高遠訳)(2007)『フェアトレード‐格差を生まない経済システム』日経新聞社 ドーハラウンドでは、農業や食品の市場アクセス、未熟練サービスの開放、が取り上げられ、知財、競争政策、投資協定は交渉に含めるべきではない。

木村邦博(2002)『大集団のジレンマ―集合行為と集団規模の数理 (MINERVA社会学叢書)』ミネルヴァ書房 集団規模が大きいほど、その集団目標の実現が困難になりやすいのはなぜか。集団規模と集団目標の実現可能性を利得構造と意思決定の変化、その結果として集団目標が達成可能か、数理モデルで明らかにする。

ジョージ・アカロフ、レイチェル・クラントン(山形浩生守岡桜)(2011)『アイデンティティ経済学』東洋経済新報社 自分の社会におけるアイデンティティやレッテルは重要。労働者、教員・生徒が自分を所属組織のインサイダーであると認めれば、必要な奨励金は減り、教育の質も上がる。

E.F.シューマッハー(小島慶三・酒井つとむ)(1986)『スモール・イズ・ビューティフル-人間中心の経済学』講談社学術文庫 科学・技術の発達に夢中になって資源を使い自然を壊す生産体制。人間の背丈に合わせる方向への転換を。現代文明の物質至上主義と科学技術の巨大信仰を批判。

ジェームス・C・スコット(高橋彰)(1999)『モーラル・エコノミー-東南アジアの農民叛乱と生存維持』勁草書房 東南アジアの農民層は生態環境などにより生存維持危機に直面。危機を避けるための互酬性などの生存維持倫理がモラール・エコノミー。地主や国家による取り立て水準が叛乱に影響。

時政勗(2001)『環境・資源経済学』中央経済社 外部性としての環境問題解決のためにピグー税とコースの定理を、異時点間配分としての資源問題は、枯渇資源を何年で消費すべきか、再生可能資源をどれくらい利用すべきかを解説。

時政勗・薮田雅弘・今泉博国・有吉範敏編(2007)『環境と資源の経済学 (現代経済学のコア)』勁草書房 経済活動に利用する資源は同じエネルギー量の廃棄物を生み、100%再利用することはありえない。外部不経済には適切な課税で利用を抑え、本来誰のものでもない資源・環境を効率・最適に利用する手法を考える。

山下東子(2009)『魚の経済学 第2版: 市場メカニズムの活用で資源を護る』日本評論社 水産資源の管理のために漁獲可能量が設定されている。理想的には漁場の独占的利用権を認めるのがいいが実際には個別割当、中でも譲渡可能な個別割当にしていくことが水産資源の適切な管理に有効。

天野明弘(2009)『排出取引―環境と発展を守る経済システムとは (中公新書)』中公新書 排出取引の特徴。汚染物質の排出総量を決め排出承認証を発行するので排出総量が減少、自由売買できるので排出削減が少ない費用で可能、承認証の配分はオークション方式と過去の実績に基づく配分がある。

伊藤秀史(2012)『ひたすら読むエコノミクス』有斐閣 意思決定、駆け引き(ゲーム)、多数参加の市場で市場の成功と失敗を。市場の問題を情報に絞り、モラルハザード、逆選択の問題を取り上げ、最後にマーケットと組織のデザインを考える。

<中国関連>

王文亮(2011)『「仮面の大国」中国の真実』PHP研究所 農村人口がほとんど減らず、一人当たりGDPは世界第105位、後発性の利益を得ながらも国産の自動車は避ける国民、高騰する不動産なと実際は史上最も貧しい世界第2位の経済大国である。一人っ子政策、大学教育の歪み、官僚の腐敗も。

浦田秀次郎・小島眞・日本経済研究センター編(2012)『インドvs.中国―二大新興国の実力比較』日経新聞社 インフラ、地方政府の積極性、外資逆差別の中国、貧困を抱え、中国より労働問題に敏感であるインド。インドには労働力と自動車産業の集積が有利。


<自己啓発>

丸谷才一(1999)『思考のレッスン』文藝春秋 孤立した一冊ではなく多くの本の世界に向かい合う、言葉の使い方に注意する、索引を見る、本を破って読む、良い問いかけをもつ、比較と分析で書く、仮説は大胆に、詰まったら書いたものを読み返す、文章は最後まで読ませて及第点、など。

前田忠志(2012)『脳と言葉を上手に使うNLPの教科書』実務教育出版 NLPの前提。人は現実を変えるより、現実を体験するプロセスを変化させる能力にたけている。コミュニケーションは受け取る側の反応。変化を起こすリソースは自分の中にある。など。

木暮太一(2012)『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)』星海社新書 私たちが生きる資本主義社会では給料は明日も同じ仕事をするための必要経費にすぎない。満足感から必要経費を引いた自己内利益を考え、自分の資産を増やす生き方を。

トルステン・ハーフェナー(福原美穂子)(2011)『心を上手に透視する方法』サンマーク出版 人は自分にとって重要だと思うことしか耳を傾けない。相手が何を重要と思っているか、話題をふり、身体や態度の変化から推し量る。相手に何かをいう時は相手が自分をどう見ているかを考える。


<社会問題>

佐藤百合(2011)『経済大国インドネシア』中公新書 2004年に民主主義を確立し政治体制が安定、そして人口ボーナスが期待されるインドネシア。直接選挙で選ばれたユノヨド政権は援助依存から訣別、資源輸出が柱ながらも製造業以外の農業、サービス業にも配慮したフルセット型産業を目指す。

堀江邦夫(2011)『原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録』現代書館 原発労働者ルポ。炭坑夫たちが合理化の名の下に下請け労働力として再編されたのと同じように、近代科学の原発は日雇いの下請け労働者によって支えられる。相違点は原発が吐き出す棄民は被爆者であること。

鎌田慧(1973)『自動車絶望工事-ある季節工の日記』徳間書店 トヨタでの季節工ルポ。「労働者に負担だけを押しつける合理化と非人間的な労務管理が冷たいコンベアとなってすべてを支配し、抵抗するものは弾き飛ばして来た。」

河上肇(大内兵衛解題)(1947)『貧乏物語』岩波文庫 統計から英国の大多数が貧乏線以下にいる。貧乏の問題は、生活必要品が満たされず、長寿でないこと。貧乏が生まれる原因は富者の奢侈品消費とその生産。英国で貧乏があるのは海外未開地の新事業に投資する方が儲かるからである。

本田良一(2010)『ルポ 生活保護―貧困をなくす新たな取り組み (中公新書)』中公新書 雇用保険や年金制度に漏れがあると生活保護が最後のセーフティネット。地方財政に負担があるので福祉事務所の裁量を生む。貧困は親から連鎖するものであり、個人責任に帰する問題でもなく社会問題。経済的自立のみではなく社会参加の仕組みづくりも。

大山典宏(2008)『生活保護VSワーキングプア』PHP新書 働けない若者は自己責任として片付けられ、生活保護は受けられない。働けないは本当に自己責任か?家庭環境に問題があったのでは?生活保護と自立支援を組み合わせ、虐待や家族間調整や多重債務の解決など生活支援も同時に必要。

竹内洋(2011)『学歴貴族の栄光と挫折』講談社学術文庫 旧制高校は中産階級以上が進学し、エリートを輩出していた。差別化のために西欧の知識を身につける教養主義が広がった。大正、昭和と大学が増加し、学歴はインフレを起こし、学歴貴族と教養主義は姿を消す。

パコ・アンダーヒル(鈴木主税)(2001)『なぜこの店で買ってしまうのか-ショッピングの科学』早川書房 手は二つしかないのでカゴをあちこちに置く、入口から中への移行ゾーンには重要なものを持ってこない、大きなメッセージを入り口にそして奥に向かって小出しにする、など。


<その他>

村上由美(2012)『アスペルガーの館』講談社 普通にと厳しく療育して来た母、自分の想像がつかないことには全く注意を払わない旦那との生活、言語聴覚士となってコミュニケーションを客観的に見つめながら、アスペルガー当事者の自伝。

橋爪大五郎・大澤真幸(2011)『ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)』講談社現代新書 ユダヤ教とキリスト教は同じ神ヤハウェであるが,キリストをどのようにとらえるかで変わる。ユダヤ教やイスラム教は律法が充実しているが,キリスト教はこれがない。法律が自由に作れるのが近代社会形成に有利であった。

江村洋(1990)『ハプスブルク家』講談社現代新書 カール5世が神聖ローマ帝国の最高位につき、カトリックを擁護、スペイン王ともなった。マリア・テレジアはプロイセン、ハンガリー、フランスと対立しながらも国家の再建に改革を断行。

中野京子(2008)『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』光文社新書 カトリックの権威と古代ローマ帝国の継承を結合した神聖ローマ帝国。この皇帝位をハプスブルク家のルドルフ一世が継ぐ。ハプスブルク王朝の拡大と神聖ローマ帝国の皇帝の座を世襲としていった。

菊池良生(2008)『図解雑学ハプスブルク家』ナツメ社 ハプスブルク家がドイツ王、イタリア王を兼ね、政略結婚でスペイン王国を獲得。フランス王と対立。オスマン・トルコの勃興、異教徒迫害と重なる戦費で国力が疲弊。フランス革命とナポレオンの登場により斜陽へ。
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2012年06月28日

『つきあい方の科学』


今日の面白本紹介は,古いけど社会学の古典というかゲーム理論の応用などでもよく引用される本です。



まず囚人のジレンマです。囚人のジレンマでは,二人の人が存在し,「協調」「裏切り」の2つの戦略をもっています。相手がどう出ようと,裏切りの方が利得が高いので,二人とも裏切りという行為を選択します。残念ながら,二人が協調するときよりも全体の利得は低くなるので,これをジレンマといいます。

囚人のジレンマの数字的特徴は,裏切る誘惑がもっとも大きく裏切られると損がもっとも大きいということになっています。また協調しあうときの利得は,裏切る誘惑と裏切られる損の大きさの平均以上になっています。これは五分五分の確率で,裏切られる利得が協調するときよりも小さくなることを意味します。ですからジレンマから抜け出せないことになります。

結局,本書は

自分勝手に生きている人間を前提としても,相手に裏切られたら裏切る,協調態度で来られたら協調するという「しっぺ返し」戦略がもっともよい。中央権力がなくても,お互いが協調関係になることは可能である。

ことを示しています。

アクセルロッドは,ゲームの実験を通じて,私たちの人間関係が協調関係となっていくには以下の3段階を経るとしています。

第1段階
最初は,まわりが無条件に裏切りを繰り返している中で,協調関係を誰かがはじめる。協調関係派が少数であっても,互いに内輪でつきあう機会に恵まれれば,協調関係は進化する。

第2段階
互恵主義にもとづく戦略は,他の多くの戦略に競り勝って栄えることができる。

第3段階
協調関係がひとたび足場を築いてしまうと,協調的ではない戦略の侵入を阻止できる。この社会の歯車にはラチェット(逆光止めの爪)がついている。

実験にもとづいて,アクセルロッドは人とどのように付き合えばいいかを示唆しています。

@目先の相手を羨まないこと
A自分の方から先に裏切らないこと
B相手の出方が協調であれ裏切りであれ,その通り相手にお返しをすること
C策に溺れないこと

@は,チェスのようなゲームはゼロサムゲームであるが,囚人のジレンマのように人間関係では非ゼロサムゲームであるので,誰かが得するからといって羨むということはしない方がよい,といっています。人を羨望することは自分の戦略に迷いがでることになります。

A,Bはそのままです。Cは「しっぺ返し」戦略は単純であるので,深く考えて別の策を使おうとは考えないことです。相手の協調がこっちの利得につながるので,積極的に相手をおだてて協調させる方が得策です。ただおだてるときに策に走りすぎるとあまりいい結果にはなりません。

彼の研究の貢献は,人が裏切るというような信頼のない社会においても時間がたてば,ともに協調するいい社会を築くことが可能,ということを示しました。

社会学でもこの研究は盛んなようで,関連研究として以下も進めておきます。


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2012年06月21日

海賊の経済学

海賊を経済学の分析対象にするという珍しい本を読みました。



今日は、その中でも3つについて紹介しておこうと思います。

まず海賊基礎知識です。@海賊はリーダーを投票で決めるとともに,物事の決定に際しては全員一致を原則としていたということ,A無政府状態であるはずの海賊では海賊条項を中心に法の支配が成立していたこと,B海賊の方が黒人を奴隷と扱うことは少ないという平等主義であったということ,が紹介されます。これらは私たちの想像とは違うものですが,このような海賊組織を経済学で分析しようとします。

結論は,海賊はある特定の環境の下で利潤最大化という合理的な行動をとった結果,このような海賊社会が形成されたとしています。

それではこの本を参考にしながら3つの問題を解いていきましょう。

1.海賊は民主主義で物事を決定していたのはなぜか?

海賊たちは自分たちの船長(リーダー)を投票で選んでいました。誰でも一人一票の権利があり,その投票によって船長が決まりました。また戦利品などについて分け方など海賊にとっての重要な事項の決定には全員一致の原則が取られました。

一方で,一般の商船では船長が船の上での独裁者でした。船長の気分によって船員の権利が踏みにじられたのです。

海賊たちが民主主義であり,商船では独裁制であったのはどういうことでしょうか?本書では,プリンシパル=エージェント問題としてこの現象を説明しています。

プリンシパル=エージェント問題(略してPA問題)とは,持ち主が雇われ経営者の行動を監視することができないために発生する裏切りを回避するためにどうするかという問題です。例えば,商船の場合陸地に船主がいます。船長には船主の意向にそって行動するかどうかはわかりません。船長は海の上にいるので船主の監視下にいないからです。船長は船主を裏切って適当な仕事をして,船主から報酬をもらおうとします。これがPA問題です。

船主は,PA問題を解決するために,船長に船の区分所有権を渡します。つまり船を船主と共同のものとするわけです。そうすると船主と船長の利害は一致するので,船長が船主を裏切るという問題は発生しません。船長は船主の意向にそって船員が怠けないかどうかしっかり監視し,船を経営していきます。これが独裁制につながります。

ところが海賊にはこのPA問題が発生しません。そもそも船主はいませんし,船自体を皆で奪ったものであることが多く,その時点で船は船長と船員の共同所有になります。共同で船を運用して経営する(略奪する)「船出する株式会社」だったのです。したがって海賊では民主主義が発生したわけです。


2.海賊では統治(ガバナンス)がうまくいったのはなぜか?

無法者が集まる海賊船では,実は非常に秩序だった船の経営が出来ていたようです。海賊船には政府がいないにもかかわらず,私的な統治(ガバナンス)が出来ていました。私的統治を可能にしたのが海賊条項です。海賊条項は統治を可能にする三条件が満たされていたのです。

その三条件とは

@紛争を防ぐルールが出来ていたこと。そしてそのルールが他者を強制的に従わせることができていた。

A負の外部性を規制することが出来ていたこと。甲板でタバコを吸ったりすると火事になります。タバコという行為が他者に外部効果を与えます。この外部性を抑えるための規制が海賊条項にはありました。

B公共財を供給し,フリーライダーを防いでいたこと。海賊条項では,戦争などで足を失ったりした場合には就業保証が与えられていました(公共財の供給)。またフリーライダーを防ぐために,戦闘で貢献した海賊にはボーナスが用意されているなど,自分だけが怠けて得をしようという輩を排除するシステムが条項に入っていました。

これは海賊船の収益力アップに欠かせないものだったのです。海賊の掟は利潤最大化の賜物でした。

ちなみに意思決定は一人(独裁者)から二人,三人と増えていくにしたがって合意を得る時間が必要になるため意思決定費用は増加します。一方で意思決定者が一人の時は,いやいや従う場面も多いため,外部費用は高いです。意思決定に参加する人が多くなればなるほど(多数決から全員一致まで),自分の意に反することに従う可能性は少なくなってくるので,外部費用が低下します。

別の章では,当時商船に載っていた船乗りたちは失業したりすると海賊になりたがる人たちも多かったといいます。海賊は強制的に船員を徴用していたのではなく,それぞれが本人の意思で望んで海賊になっていたようです。これは商船が独裁的で船長に理不尽な仕打ちを受けたりすることがある一方,(捕まったら一巻の終わりというハイリスクではありますが)海賊稼業は民主的でしかもリターンも多かったようです。


3.海賊が黒人を奴隷ではなく同じ船員として扱うのはなぜか?

最後に平等であった理由です。

データによれば,一般の商船よりも海賊船での黒人船員は多かったようです。黒人が奴隷貿易の商品として使われている時に非常に珍しい現象でした。海賊が博愛主義者であったわけでも奴隷解放運動のはしりを行なっていたわけではありません。これも経済学的な意味があったのです。

本書では,海賊が平等であった理由を,「便益拡散,費用集中」で説明しています。海賊が船を奪い,黒人奴隷を得るとしましょう。奴隷を使うことによって略奪品が増えたとします。その増加した戦利品はみんなで分けますので一人あたりの便益は小さくなります。ところが奴隷が逃げ出したりして海賊の捕獲に関する情報を当局に提供したりすると海賊は滅びてしまいます。つまり奴隷を得て稼ぐ便益よりも奴隷として扱うことによって被る費用が多いので,奴隷ではなく船員として扱ったと考えられます。これは海賊が仲間を強制徴収したのではなく志願兵で出来ていたこととも関係します。船員を強制徴収して海賊にしても裏切った途端に海賊は稼業を失ってしまいます。そこで海賊は志願しているものだけで海賊船の運営を行うのです。

一方商船は,黒人奴隷を船員として扱うことは少なかったようです。海賊と違い「便益集中,費用拡散」で,奴隷を売って得られる便益は船長と船主に集中しているからです。


というふうに海賊の知らない側面を明らかにしながら,なぜそのような社会を形成したのか,経済学的に解明するという楽しい本です。

でも,読み物としては面白くても,本書は一体何に貢献しているのでしょうか?

一つは,海賊を事例に社会ができるメカニズムを経済学で説明したということ,もう一つは無法者の集まりと思っていた海賊が民主的かついいガバナンスを達成していたということを利己心で説明できたということでしょう。

「規則や規制は社会が機能するためには不可欠だ。そうした規則を決めるのが政府にせよ、私的な統治にせよ、強欲さが協力を潰さずに促進するためには、個人は何らかの規制の枠組みを必要とする。利己性を協力への奉仕活動にむけて、協力潰しになる活動から遠ざけるようにするわけだ。」(p.235)と述べています。人の欲望を協力につなげることによって統治がうまくいくといえるでしょう。

最後に,訳者の山形浩生氏による本書の評価を紹介しておきます。

「本書は、世間的に望ましいとされている道徳性や倫理や制度ー平等や福祉や民主主義、紛争仲裁や分権制ーが、利己性や強欲さを抑えた結果などではないことを示す。むしろそれは、そうした利己的な強欲の結果でしかなかった。そして個々のエージェントがごうつくばりの犯罪者であっても、かれらの改心などまったく必要とせずにそうした望ましい制度が自発的に生まれる、ということを示している。」(訳者あとがき、p.270)
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2012年06月12日

2012年5月の読書ノート

2012年5月の読書ノートです。

今月は2冊をオススメ。





どちらも開発経済学の大御所です。バナジーとデュフロはMIT,コリア-はオックスフォードです。

『貧乏人の経済学』は,デュフロは貧困の人の意思決定は必ずしも豊かな国の人と同じではないという観点からランダム化比較実験で貧困問題に取り組んだ有名な開発学者です。彼らの意思決定を無視した援助はうまくいかないのは当たり前で,さまざまな面白い結果を報告しています。穀物を提供すれば飢えがなくなるかというとそうではなく,人は楽しいことがあればそちらを選択してしまうということ,安い予防接種を提供しても行わないのは,公的医療を信頼していない,あるいは先送りをする傾向がある,など援助実行者が当たり前と思っていたことは当たり前でないことが示されます。

『収奪の星』は,本来誰のものでもない資源をどのように利用するかということがテーマです。ホテリングが国債の利子率と資源価格の上昇率に等しくなるように資源を利用することがもっともよいということを明らかにしました。それだけではなく,コリアーは資源の呪い(短期的に資源は国を豊かにするが長期的には国を滅ぼす傾向)を詳細に説明するとともに,あとの世代にどれだけ今の環境や資源を残すことができるかについても議論されています。

開発経済学,途上国経済に興味がある人は必読です。


<経済学>

小野善康(2012)『成熟社会の経済学-長期不況をどう克服するか』岩波新書 成熟社会では不況を長期的な現象、不況の原因は生産性と低さではなく需要不足。財政を高齢者介護、子どもの保育などに公共事業・サービスに向ける。雇用を増やしてデフレと雇用不安を取り除き消費を刺激する。

J.M.ケインズ(要約山形浩生)(2011)『要約ケインズ雇用と利子とお金の一般理論』ポット出版 古典派がどんなに言おうが失業は存在する。有効需要が雇用を決める。有効需要は消費性向と利子に左右される投資で決まる。すべては消費性向、投資の限界効率スケジュール、金利で決まる。

スレイマン・イブラヒム・コーヘン(溝端岩ア雲徳永監訳)(2012)『国際比較の経済学-グローバル経済の構造と多様性』NTT出版 経済システムを家計本位システムHIM、企業本位システムFIM、国家本位システムSIMに分類。米国がFIM、南アがHIM、ロシアがSIMの典型。

ピーター・T・リーソン(山形浩生)(2011)『海賊の経済学 ―見えざるフックの秘密』NTT出版 海賊たちが民主主義を採用し、囚人を拷問し、黒人船員の一部を平等に扱ったのは利潤最大化を目指しただけである。宝を奪う潜在費用を下げるために、残虐さと狂気のブランド名を発達させた。

アビジット・V・バナジー、エスター・デュフロ(山形浩生)(2012)『貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える』みすず書房 貧困な人々が貧困の罠にいるのはどのような状況かを考えるのが重要。政策や援助がうまくいかなかったのは政策立案者のイデオロギー、無知、惰性が原因。

ポール・コリアー(村井章子)(2012)『収奪の星―― 天然資源と貧困削減の経済学』みすず書房 最底辺の10億人の国々に存在する枯渇性資源の大半は国家の発展のために使われない。将来世代は略奪された自然を受け継ぐ。資源を活用して貧困から脱出するという一度限りのチャンスが失われている。

<中国>

南亮進・牧野文夫(2012)『中国経済入門第3版』日本評論社 中国の発展と改革、農業、企業改革と産業、労働と金融・資本市場、対外開放と国際関係、環境や格差などの課題を明らかに。不動の中国経済入門書。

王文亮(2009)『格差大国 中国』旬報社 社会システムが格差を生む。独裁による汚職、優遇される解放軍、個人所得税の機能不全、農村での生活保護制度の導入、高騰する不動産、急がれる高齢者福祉、医薬の未分離と農村医療の不足、超過出産貴族、扶養義務化など社会保障面の問題点。

阿甘(徐航明永井麻生子)(2011)『中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる「山寨革命」の衝撃』日経BP社 通信という許可証などの参入障壁から小企業の請負生産が始まり、デザインハウスが作られ、参入競争の激しい山寨携帯が作られてきた。消費者の心をつかむ製品の生産に成功。

遠藤誉(2011)『ネット大国中国-言論をめぐる攻防』岩波新書 2010年のGoogle撤退から中国における言論の自由統制を考える。4.5億人の網民が意見を表明するようになり、2006年頃からネット評論員(五毛党)を育成。2007年には胡錦濤自らネット世論の管理を言明。

浜矩子(2012)『中国経済 あやうい本質』集英社新書 中国からグローバル時代を読み取る。成長と競争と分配のバランスがとれているのが理想の経済だとすれば中国は成長だけの「一輪車経済」。成長が止まると倒れる。

北村稔(2005)『中国は社会主義で幸せになったのか (PHP新書)』PHP新書 中華人民共和国の出現は社会主義の衣を着た封建王朝であった。性急に外来の社会主義イデオロギーを導入し、咀嚼せずに社会に適用した結果、伝統の変革もならず、社会主義の実現もならなかった。

與那覇潤(2011)『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』文藝春秋 グローバルスタンダードと思われていた政治理念と専制的指導者が結びつく政治と自由な市場競争経済は「中国化」であった。日本の歴史は中国化と反中国化をさまようが、中国化は必然である。

陳放(1998)『天怒―天の怒り〈上〉(上・下)』リベロ 大都市の何副市長が自殺と見せかけられた。市常務委員会は自殺で終わらせようとするが、汚職局の陳虎が謎を追う中で、発見する高級幹部たちの予算外資金の流用。焦総書記は関与しているのか。公金流用と腐敗幹部の錬金術がわかる。

李昌平(吉田富夫監訳)(2004)『中国農村崩壊-農民が田を捨てるとき』NHK出版 湖北省監利県から三農問題の提起。農民の過重負担金によって耕作放棄がおき、人頭税による負担増加が出稼ぎを生む。最終的には高利貸しに手を出す。発展優先の中で幹部は無駄使いし、農村と農民の負債増加。

リチャード・マクレガー(小谷まさ代)(2011)『中国共産党-支配者たちの秘密の世界』草思社 中国共産党が中国を統括できたのは、共産主義のスタイルである独裁的な政権と政治制度を維持しながら、イデオロギーを脱ぎ去ったから。エリートや企業家との人脈が持てるというのも党員を惹きつける。

<自己啓発>

加藤秀俊(1978)『独学のすすめ』文春文庫 「「教育」というものの基本的な目的と意味は、ひとりひとりの個人に、人生に対する意欲をつちかうことにある。」主体的に学ぶ意欲がないと学校教育が充実したものにならない。独学とは主体的に学ぼうとする姿勢のこと。

中野博・細谷覚(2010)『モテるお父さんになる!-父親力をアップさせる3つの法則』現代書林 モテるお父さんになるためにはまず奥さんを味方につけるべく、いたわり愛すること。多くの本を読んで教養をつける。子どもと旅に出て父の価値観を話す。

上原春男(2004)『夢をかなえる心の法則―ある科学者の伝記』致知出版社 海洋温度差発電の第一人者、上原教授の伝記と人生論。師に学ぶ、己の境遇を受け入れる、本を読み人と交わる、大きな目標持ち小さな計画を立てる、グローバルに考えとらわれずに動く、困難・挫折が創造性を花開かせる。

<社会問題>

鈴木基史(2000)『国際関係(社会科学の理論とモデル2)』東京大学出版会 リアリズムは国際関係の行為主体を国民国家におき、リベラリズムは国際関係は相互依存のもとで自主的に協調し、人間の進歩によって変化するととらえる。協力と対立をゲーム理論を中心にして数理モデルで分析。

天野郁夫(2009)『大学の誕生(上)帝国大学の時代』中公新書 旧幕府の昌平坂学問所、開成学校、医学校を中心に西欧の言語で学ぶ東京大学が唯一の帝国大学として発足。帝大に入る予科として高等中学があり、医師、弁護士、教員を促成するために公立私立の専門学校が出来てきた。

天野郁夫(2009)『大学の誕生(下)帝大学への挑戦』中公新書 帝大が京都,東北、北海道にも設立されるようになっても、人材の教育は東大が圧倒的であった。専門学校令は専門学校と大学の間を曖昧にし、専門学校が帝大に挑戦して,大学の原型が出来上がった。

金子元久(2007)『大学の教育力-何を教え、学ぶか』ちくま新書 教員も学生も自主的に研究と教育が行われるべきというフンボルト理念に縛られている大学。大学の教育力を学生に与えるインパクトと定義し、授業への主体的参加、深い体験や学習など、学習枠、授業内容と方法、などの改革を提案。

重松清編(2004)『教育とはなんだ-学校の見方が変わる18のヒント』筑摩書房 地方分権が遅れている教育行政、養護教諭の立場、給食は強制か、学童保育は福祉か教育か、明治から同じ校舎設計、現役学生1/3の採用試験合格率は低いのか、など現場に関わる人へのインタビュー。

小林哲夫(2012)『高校紛争 1969-1970』中公新書 60年安保闘争は最も多くの国民が参加した運動。高校生も反安保、ベトナム戦争反対などの闘争に参加。左翼系団体の影響下、69年の卒業式闘争が革命運動の始まり。封鎖、スト、集会を行った学年が卒業した70年に運動は収束。

石渡嶺司・山内太地(2012)『アホ大学のバカ学生-グローバル人材と就活迷子の間』光文社新書 宿題を放り投げて遊びに行くタイプが就活で成功、理事長や学長の話などのパンフは意味なし,定員割れ大学には@ターゲット設定・卒業後の目標、A教職員の熱意、B学外への宣伝、が不足、など。

<その他>

鷲田小彌太(2001)『新 大学教授になる法』ダイヤモンド社 無給自費での修行期間が長い、休日にこそ本格仕事時間が待っている。資格はいらないが研究歴と研究業績が必要。毎日サラリーマン以上にコツコツ積み上げる作業をしよう。

鷲田小彌太(2004)『学者の値打ち』ちくま新書 学者は自分の専門の著作がある。文系学者の必要条件は著作(著書と論文)があること、そしてその著作は引用があること、仲間うちの引用だけにしないこと、先行研究を無視してわれ発見せり、という著作はレベルが低い。

菊池誠・松永和紀・伊勢田哲治など編(2011)『もうダマされないための「科学」講義』光文社新書 科学は今ある手法の中から最も信頼できる手法で情報を生産する知的営み(伊勢田)である。脳科学、ゼロリスク信仰、マイナスイオン、ゲーム脳などニセ科学にダマされないためには疫学的思考が重要。

坂本真紀(武藤崇監修)(2011)『学校を「より楽しく」するための応用行動分析-「見本合わせ」から考える特別支援教育』ミネルヴァ書房 先生が手がかりを示し、子どもが反応して、それを誉めるというABCを、見本を見せて、子どもが見本に合う行動を選択、強化の枠組みに入れる。

ティム・サンダース(池村千秋)(2010)『責任革命-あなたの仕事が世界を変える』NTT出版 消費者は企業を低価格、高品質ではなく環境に優しい社会的責任を果たしているかどうかを見ている。どのように社会をよくするか、豊富の精神と互恵の法則で身の回りから社内から行動を起こそう。
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2012年05月17日

『危うい超大国』

中国の国際関係を考える上で、参考になる本を読みました。スーザン・シャークの『中国 危うい超大国』です。訳者の解説によれば「合理的選択」という手法による政治、外交の分析で、内容と主張がわかりやすくて非常にためになりました。



主張をまとめてみます。

中国の指導者は国内における権力基盤の安定性に不安を覚えている。そのため強くなった国力を矛盾した二つの方向で使う。一つは平和的に紛争をさけるように振る舞い、もう一つは危険な行動をとったりする。

彼女のスタンスは、中国の行動を理解するには中国の意図を分析することが重要だという立場をとっており、そのため自らが外交の現場に身をおいた経験やさまざまな文献から中国の意図を明らかにしようとしています。

まず、中国指導部の権力基盤を「支配カルテル」で説明します。それは解放軍や武装警察(銃口)、中央組織部や中央宣伝部(ペン)によって政権がなりなっていること、そして指導部では一枚岩ではなく意見は対立しているが、それは外にわからないようにしていることが述べられます。

中国指導部の権力基盤を守るために、ナショナリズムを利用します。ナショナリズムを制御できれば社会の不安定を防ぐことができるとともに、共産党への支持拡大につながります。

でもこのナショナリズムは両刃の剣です。もしナショナリズムを背景に外国との対抗がうまくいかず、国民から弱腰として見られれば、自らの権力基盤を転覆される可能性まで出てきます。

例えば、中国の経済発展にとって中米関係の安定は必要不可欠です。しかし対米交渉において一般世論が現政権を弱腰ととらえると、共産党にとって不利になります。このような時には一般的な民衆の不満を対日関係に向かわせるということがおきます。つまり中国の対日関係は中米外交のはけ口として使われる側面があります。

しかし、このようなナショナリズムを利用して権力基盤を強化しながら、対外行動を決定することには危険も伴います。共産党指導部が外国を威嚇することによって国民の支持を得るようになると、威嚇が引っ込められなくなり、最悪は軍事行動に迫られることになります。しかし指導部にとって国内経済の安定は共産党権力基盤の中でももっとも重要なものでもあります。ここナショナリズム外交の大きな矛盾点があるようです。

ところで、中国の外交を分析するしているものに佐藤賢(2011)があります(これも非常にためになりました。)

そこでは、外交政策の最高決定機関は,政治局常務会議下の中央外事工作領導小組であることが述べられています。ところがシャークはこれに触れていません。中央外事工作領導小組の取材などがあれば,もっと中国の外交がわかりそうです。この辺は他書を参考にする必要があります。

<参考文献>
佐藤賢(2011)『習近平時代の中国』日経新聞社
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2012年05月15日

今のマクロ経済学がわかる良書『成長信仰の桎梏』(齊藤誠著)

最近のマクロ経済学は難しいとずっと思っていたのですが,とてもわかりやすく,しかも日本経済に応用して説明しているいい本に出会いました。

齊藤誠先生の『成長信仰の桎梏-消費重視のマクロ経済学』です。もともとは梶谷さんの紹介(ここ)だったのですが,ラムゼイモデルがよく理解できました。



この本から学んだことをまとめます。

まず,GDPを政策基準にするのは間違えていること,IS-LM分析やニューケインジアンもGDPを増加させることを前提にしているが,そもそもは消費者の効用を経済厚生の基準として考えるのが適当である,と述べられます。GDPを増加させることが至上命題になっているのは間違いのもとということです。

ラムゼイモデルから簡単なマクロモデルが導入されます。

Y=C+I

GDPは消費と投資で決定される簡単なモデルです。動学的環境においては,消費者は利子率を参考にして働いて得た所得を貯蓄に回したり,消費に使ったりを決定します。企業は利子率を参考にして家計の貯蓄から借入して投資を決定します。来期の投資は利子率が影響してくるため動学的になります。

このY=C+Iが安定する条件は,@設備投資が将来の消費と等しくなること,あるいはA現在の消費1単位が将来の設備投資1単位と等しくなることです。つまりこのマクロモデルが均衡しているあるいは均衡に近いときのみ,GDPを大きくすることと消費を大きくすることは同義になってきます。

皮肉なことに,総需要と総供給が不均衡なので,総需要を拡大するのがいいとするIS-LM分析やニューケインジアンのモデルは,不均衡を前提にしているにも関わらず,実際はラムゼイモデルの均衡に近いところを前提としていることになります。

このモデルの均衡条件は,

消費者の時間選好率=企業の投資の生産性

であり,どちらも利子率に等しくなります。消費者の時間選好率というのは,将来の消費のためには現在の消費を我慢する比率です。消費者は現在の消費効用が高いので,消費を我慢して貯金するにはいくばくかの利子がつかないと我慢できません。この我慢度は利子率と等しくなります。

企業の投資の生産性とは,お金を借りて設備投資をしますが,その設備投資によって稼げるお金のことです。そして稼いだお金で借りたお金を返済していくわけで,利子率と生産性は等しくなってきます。利子率よりも投資の生産性が高いと思えば,お金を借りて設備投資を実行します。投資の生産性が低いと設備投資は実行されません。

以上の簡単なマクロモデルから,本書では日本経済の分析が行われます。以下簡単にまとめてみます。

日本経済は,90年代に投資の生産性が減少したにも関わらず,低金利政策によって,収益率の低い投資プロジェクトが実行されるようになりました。日本経済に過剰な資本蓄積が行われ,生産能力が過剰な状態が続いたわけです。本来ならば,投資の生産性が低下すると,投資機会のない消費者は消費を増大させていきます。そ消費拡大による生産増加は設備を摩耗させていきます。設備投資を食いつぶすようになってから,投資の生産性は回復していきます。そうすると,家計は消費を押さえて貯蓄(投資)に向かうようになっていきます。

ところが,低金利政策は過剰流動性をもたらし,企業は設備投資を拡大させ続けました。収益が少ないにも関わらず,見かけの株価上昇(バブル)で人々の消費は増大せず,投資に向かっていきました。

このような状態になったのは,金融市場が日本では機能していないこと,金融市場はいい投資プロジェクトを発掘するものにならないといけないことが述べられます。

ラムゼイモデルを日本経済の説明に使うことによって,私自身もこのモデルの意味がよくわかりました。

マクロ経済学をIS-LMで学んだ人にとっては,新しいマクロ経済学を理解するための必読文献だと思います。

齊藤先生の以下もご一緒にどうぞ。

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2012年05月10日

『民主主義がアフリカ経済を殺す』

中国では中国モデルという一党独裁による経済運営を正統化する論調がある中,それにもまさる刺激的な本を読みました。

ポール・コリアー『民主主義がアフリカ経済を殺す』です。




有名な経済学者コリアーによる研究成果にもとづいた分析結果を用いてわかりやすく論じています。

早速要旨をまとめてみます。

アフリカの最底辺の10億人はは政治的暴力(銃や戦争,クーデター)にさらされている。一国の規模は,協調するには難しいほどの多様性を抱えており,一方で安全保障を公共財として供給できるほどの規模はもっていない。

選挙がアフリカに導入されているが,政治的暴力は減少していない。むしろ低所得国(一人あたり年間2700ドル以下)では,民主主義が脅迫や不正選挙を招き,政治的暴力の原因となっており,実際の民主化や経済発展を遅らせている。

民族間の権力闘争は,安全保障をもたらしていない。権力闘争が落ち着いて調停したとしても,低所得国で選挙を導入した民主主義の国は紛争に戻るリスクは非常に高い。独裁制の国でも平和維持軍が展開されると紛争に戻るリスクは低減する。また援助が軍事費に流用されている事実があり,これがまた政治的暴力を低減できていない。

これらの研究成果にもとづいて,最底辺の10億人が住む国々には,国際社会が安全保障を提供し,政権のアカウンタビリティ(正当性の説明責任)を保証する必要がある,つまり最低限の国際介入が必要なのである。



実際,タイトルほどの衝撃はないのですが,欧米人にとって(?)あるいは民主主義が一番だと考えている人たちにとってはとっても刺激的であることに間違いはありません。

ただ逆を言えば,独裁体制にある中国が安定した安全保障,そして共産党支配の正統性(アカウンタビリティー)という公共財を供給しているという現状を考えると,これがそのまま中国にあてはまるわけではありません。一人当たりGDPが低いとはいえ,アフリカ最貧国に比べれば十分豊かであることを考えると,中国に民主主義圧力がかかるのはある意味自然の流れともいます。

広東省では烏坎村での選挙が世界的にも注目されましたし,この間の全人代での温家宝首相の政治改革の強調は中国にも民主主義が必要になってきているということかもしれません。
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