このテーマは国際的な移民問題と非常に似通っていると感じたので,『移民の経済学』からちょっと備忘録として記録しておく。
1)移民受入国(都市)への影響
一般的に「移民が移民受入国での賃金と就業機会にどのような影響を与えているか」が問題になるが,実証的な研究によると,賃金を下げる効果は小さいかあるいはゼロ(あるいは一時的)、移民が受入国住民の雇用に及ぼす効果は小さい,という。
中国でも大量の農民工の流入は賃金の下落,都市住民の就業機会の喪失が心配されるが,大量に流入している場合はどうなるどうか。想像するに,現時点では戸籍で区分されているので,労働市場が統一されておらず,都市住民の就業機会は守られているといえる。もし戸籍関係なく就業できるとしても,教育水準の違い等で大きな影響はないかもしれない。
2)移民送出国(農村)の影響
一般的に,移民送出国からは優秀な人材がなくなると思われている(いわゆる頭脳流出)。ただ実証研究によると,頭脳流出は、移民送出国で人的資本の粗投資が増大(勉強して移民したいという欲求を満たすため)するために,移民にならない人たちにも便益がある。
また,移民と送金は正の関係、移民受入国との貿易拡大につながるし,国外移住者の増大は送出国での制度改革(民主化等)を促進する(ティボーによる足の投票)傾向があるという。
中国では,農村の教育水準は低いために,都市への出稼ぎ工への技術訓練などが行なわれる(四川などの現地調査)。これらの職業訓練を考えると,移民送出国と同じように農村の人的資本引き上げになるかも知れない。
四川省,湖南省等は出稼ぎ送出省である。四川省の経済発展は,沿海各省とのつながりが大きいからという可能性もあろう。
3)財政
一般的に,移民の受け入れは生活保護等などの支出が増えると考えられ,受入国への財政に悪影響を与えると考えられるが,実証的には(モデル、仮定にもよるが)移民の影響は小さいかほぼゼロに等しい、GDPの1%を超えるようなことはない,らしい。
中国は農村の社会保障が充実しておらず,農民工を都市住民にするということは社会保障費の支出増大につながる可能性があるし,多くの論者がそれを指摘している。
4)同化
移民がその国に同化するかどうかについては,例えば言語のレベルは以前の移民よりも高い水準、同化の時間は短くなっているという。また移民はアメリカの文化や政治的自由に賛同していることが多いので、アメリカ文化や制度にもたらす脅威は小さいらしい。
農民が都市住民として同化することは,言語的な壁はないものの,都市住民の習慣に慣れるには時間がかかるであろう。それでも農村都市化が進めば同化のスピードも速まると考えられる。
5)ビザ政策
結局,移民をどうコントロールするかである。一般に,
需要主導システム、雇用主が労働者の書類を提出 (短期)
供給主導システム、能力ベースのポイントベース (移民を受け入れているよと周知して、長期)
があるという。
中国の場合,社会保障への貢献,居住年数などが関係してくるので,供給主導システムであるといえるかもしれない。
6)結論
経済学では比較優位の原則が示すように,移民は受入国の経済便益をもたらす,と考えられている。クレメンスは,移民制限を完全に撤廃すると世界のGDPは現在の水準の50%から150%増加するという(ベンジャミン・パウエル2016,16、299)。富を増加させるなら比較優位の原則に逆らうことは難しく、労働移動を妨げる政策的障壁は取り除けという政策的提言になる。
中国の大都市の人口コントロール(農民工の受け入れ抑制)は,移民の研究から考えると,成長機会などの経済便益を失っている可能性さえあることになる。
以上,仮説を考える上でとても勉強になった。
<参考文献>
ベンジャミン・パウエル(藪下史郎監訳)(2016)『移民の経済学』東洋経済新報社






